二次創作小説(映像)※倉庫ログ

1話 世界暗転 ( No.2 )
日時: 2017/01/02 20:54
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 彼女に教えられたことによると、ポケモンという生き物は、技と呼ばれる攻撃を四つまで覚えることができるようだ。さっきの犬のようなポケモン——デルビルというらしい——を倒したのは、チコリータのグラスミキサーという技。その技にも物理技や特殊技などがあり、ポケモンによって物理技が得意なポケモンや特殊技が得意なポケモンが存在しているらしい。
 他にもポケモンにはタイプと呼ばれる属性のようなものがあったり、特性と呼ばれる特殊な性質があったりと、色々教えられたが、あまり頭には入らなかった。それよりももっと重要なこと。訊きたいことがある。
「あの、部長」
「ん? なに?」
 草の竜巻、グラスミキサーで正面のポケモンたちを一掃する彼女は、気楽な調子で振り返った。何故こんな状況でそんな気楽なのかと言いたくなるが、ぐっと堪える。
「どうなっているんですか、これ。今、この街——この世界に何が起こっているんですか?」
 ポケモンなんて生物は寡聞して聞いた事がないし、そんなものが急に現れたのもおかしい。彼女はポケモンについて知識があるようだが、それならこの状況、今の世界がどうなっているのかも知っているかもしれない。そう思って尋ねると、彼女は人差し指を顎に当て、
「んー、この世界じゃあないな。変化してるのは、君の世界よ」
 と答えた。まったく答えになっていない。
「そんなことよりほら。君も少しは戦っておきなさい。部長命令よ」
 彼女は背中を押して前に出させた。目の前には団子状になった黄土色の体が繋がった、芋虫のようなポケモンがいた。頭には一本の針がある。
「毛虫ポケモン、ビードル。まあ腕試しにはちょうどいいんじゃない?」
「いや、毛生えてないですけど……」
 ともかく、自分はこのビードルというポケモンと戦わなければいけないようだ。
「イーブイの憶えてる技は、電光石火、噛みつく、目覚めるパワー、手助けの四つよ。じゃ、頑張って」
 投げやりとも取れる言動だが、彼女はこういう性格であることを自分は知っている。今更どうこう言うつもりはない。
 しかしいきなり戦えと言われてもどうすればいいのか分からない。とりあえず、さっきまで彼女がそうしていたように、技を指示してみる。
「えっと、じゃあイーブイ、電光石火」
 するとイーブイは目のも止まらぬスピードでビードルに突っ込んでいき、体をぶつけて吹っ飛ばした。
「凄い……!」
 イーブイのスピードに感嘆の溜息を吐くが、ビードルはまだやられていなかった。頭から無数の針を飛ばして来たのだ。
 イーブイはその針を避けられず、体に針が刺さってしまう。
「今のは毒針よ。ポケモンを毒状態することがある技で、毒状態になると体力が少しずつ減っていくわ。気を付けて」
「は、はい」
 思わず答えてしまう。うっかり順応しかけている自分に、少しだけ落ち込んだ。
 幸い、イーブイは毒状態にならなかったようだ。だが、ビードルはまた毒針を発射してきた。
「避けて!」
 イーブイは機敏な動きで毒針をかわす。軌道が直線的なので、避けるのは簡単だ。
「えっと、じゃあ次は……噛みつく!」
 指示を出すと、イーブイは駆け出し、ビードルの体に噛みついた。ビードルは小さく悲鳴を上げ、ぐったりと動かなくなる。彼女が言っていた、戦闘不能、瀕死状態というもう戦えない状態になったのだろう。ビードルは身体を力なく這わせて、いずこかへと行ってしまう。
「うん。まあ、最初のバトルにしてはまあまあね」
「え、えっと、ありがとうございます……」
 つい反射で礼を言うが、彼女はそんなことなど気にせず、すたすたと歩き出してしまう。自分も置いてかれまいと、慌ててその後に続いた。



 しばらく歩き、丘まであと少しというところで新たなポケモンが道を阻む。
「うーん、どうも邪魔なのよねぇ……」
 現れたのは、黒い平坦な体を持つ、一つの目のポケモン。一体ではなく、群れを成し、大量に浮いている。よく見れば、その形は一体一体違い、それぞれアルファベットに似ているような気がしなくもない。
「アンノーン、か。ぶっちゃけ雑魚だけど、この数は面倒ね……チコリータ、グラスミキサー」
 バジールは草を含む竜巻を発生させ、アンノーンをまとめて吹っ飛ばす——はずだった。
 結果、アンノーンは吹っ飛んだが、また次々と、どこからか湧い出て来る。
「倒しきれないわね。数が多すぎる……時間もないのに……」
 ぶつぶつと何かを呟きながら、彼女は辺りを見回す。が、アンノーンは襲い掛かってくる。
 アンノーンはエネルギーの塊を発射し、イーブイやチコリータを攻撃してきた。
「ぶ、部長! どうするんですか? こんなに数が多いんじゃ……」
「ちょっと待ってて、もう少しで何か閃きそうなのよねー……」
「そんなの待ってたらやられちゃいますよ!」
 アンノームは激しく攻めたてる。ポケモンたちが力尽きるのも、時間の問題だろう。
「確かにこれは急いだ方が……お?」
 彼女は何かを見つけたらしい。同じように自分も同じ方向を見ると、そこにはガスボンベを運搬する車が停車していた。
「よし、あれで行こうかしら。チコリータ、こっち」
 彼女はツタージャを近くに引き寄せる。何かを指示しているようだ。
「チコリータ、ちょっと力いるけど、頑張ってね。蔓のムチ!」
 チコリータは首周りから植物の蔓伸ばす。一体どんな原理なのか皆目見当がつかない、摩訶不思議な体構造に驚きを隠せなかった。
 それに、あの小さな体で、いくつものガスボンベをまとめて持ち上げている。凄い力だ。
「それじゃ、君も準備して」
「え? なにをですか?」
「私が合図したら、ボンベ目掛けて、イーブイに目覚めるパワーを指示するのよ。いい?」
「はっ、はい……」
「よろしい。それじゃあチコリータ、そっちはどう?」
 彼女が呼び掛けると、チコリータは鳴き声をあげた。大丈夫、と言っているのだろうか。
「それじゃあチコリータ! やっちゃって! グラスミキサー!」
 彼女の指示でチコリータはガスボンベを投げ飛ばすと、竜巻を発生させ、吹き飛ばした。その方向は、アンノーンのいる方向だ。
「今よ!」
「は、はいっ! イーブイ、目覚めるパワーだ!」
 イーブイは空中にばら撒かれたガスボンベに向けて、何発も小さな球体を発射する。何が起こるのかと期待半分でその後を眺めていると、突然、球体が発火した。
「……え?」
 唖然とする。ガスが大量に入った容器に火を点けたりすれば、発火して大爆発を引き起こしてしまうではないか。
「目覚めるパワーはタイプがいろいろあってね。あなたのイーブイは炎タイプよ」
「そういうのは先に言ってくださいよ!」
 それを先に言ってくれれば、決して目覚めるパワーなんて技を指示しなかっただろう。
 ともあれ、小さな球体はすべて炎が灯り、吹き飛ばされたガスボンベにほぼ全弾命中。そして、

ズッガアァァァァァァァァンッ!

「う、ぅ、うわ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 予想通り、大爆発を引き起こした。
 ガス爆発が生み出した凄まじい爆風は、アンノーンだけでなく、彼女や自分をも吹き飛ばした。
 初めて感じる宙を舞う感覚、浮遊感。そして視界に移るのは轟々と燃え盛る爆炎。そして、丘の頂上の、黒い瘴気——
(あれ……なんだろう。影が、近づいてる……?)
 丘に見える不気味な影。それが、自分たちに近づいているように思えた。いや、思えたではない。実際近づいているのだ、あの影は。
 影は大きくなり、渦巻いていく。その背後には、巨大な何かが見えたような気がした。自分たちは、渦の中に、巻き込まれて、行く——
「え……?」
 そこで、意識は途絶えた。



しばらくはそれなりのスピードを保ちたい。あとがきです。リメイク前はURL欄に煽り文とかを入れていたんですけど、なんだか今は、URL欄を弄るとエラーが出て投稿できないんですよね。なので仕方なく、今はURL欄未使用でやっていきます。今回も、リメイク前とほぼ同じなので、特に語ることはなく。楽しみになる要素が薄い気がしますが、次回もお楽しみに。