二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第15話 王子覚醒 ( No.21 )
日時: 2017/01/06 17:57
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「フロル、せっかくアチャモが新しい技を覚えたのに……!」
 二人のバトル。フロルのアチャモが焼き尽くすで、トウガキのシシコを圧倒したと思ったが、すぐに巻き返されてしまった。
「ま、仕方ないよねー。単純にもっと高火力の技を覚えてれば話は変わるけどさ、焼き尽くすは状況を選ぶ技だし」
「? どういうこと?」
 フィアが問うと、イオンは焼きつくという技について、説明してくれた。
「焼き尽くすはね、まず攻撃範囲が広いんだよ。一度にたくさんの相手を攻撃できるから、ダブル・トリプルバトルとか、群れで襲ってくる野生のポケモンには効果的な反面、こーゆートレーナーどうしのシングルバトルだと、微妙な技になっちゃうこともよくあるんだよねー」
 ダブル・トリプルバトルというのがどういうものかはよくわからないが、このジム戦で焼き尽くすという技が効果的でないことは理解できた。
「あと、追加効果ね。焼き尽くすは、相手の持ち物——木の実とか——を、文字通り焼き尽くす技。それはそれで強いんだけど、相手が木の実を持ってないと意味ないからねー」
「木の実……」
 焼き尽くすには、木の実などの一部の持ち物を焼く効果がある。
 それを聞き、ふと思いついた。
「……イオン君」
「ん? なーにー?」
「木の実ってさ、自然の中になってるものなんだよね?」
「まー、そうだねー。栽培してる人も多いけど、基本的には森とかに木の実のなる木があって、そこになってるよねー。それがどしたの?」
「いや、自然からの恩恵って、もしかして……!」
 バッと、フィアは振り返って視線を彷徨わせる。
 その先には、セットの木々。ただの舞台背景だと思っていたが、もしかすると——
「イオン君! ポケモンの状態に確か、眠り状態ってあったよね?」
「あるねー。眠らされるとまったく動けないから、困っちゃうよね」
「あと、ポケモンを回復させたり、状態異常を治す木の実もあるって」
「言った言った」
「じゃあ、眠りを治す木の実って、ある?」
 呑気に言葉を返していたイオンだが、流石にここで、フィアの言わんとしていることの意味を理解したようだ。
 へらへらとした笑顔をやめて、それなりに真面目な面持ちでフィアに向き合う。
「……もしかしてフィア君、木の実で王子様を目覚めさせる気?」
「あの森のセット、ただの背景とも思えないんだ……ただ、ポケモン用の木の実が、人間に効くかはわからないけど……」
「んー、や、効くかも。オレ、薬とかそーゆーのはよくわかんないけどさ、木の実の成分を抽出して、薬を作ることもあるって聞いたことがある。だから、もしかしたら効くかもしれないよ」
 少なくとも、試す価値はある。
 今はフロルがトウガキとのバトルで頑張っているのだ。自分たちが指をくわえてただ待っているだけというのは、具合が悪い。
 それに、制限時間も残り十分ほどだ。フロルがトウガキに勝てる保証もない。できる限り、可能性を広げておきたい。
(もしかして、バンガキの言ってた分岐ルートって、このこと……?)
 トウガキを倒して呪いを解く。もしくは、そのヒントを得る。
 しかし、トウガキを倒さずとも、目覚めさせる方法は他にもあるのかもしれない。また、その鍵を得るのに、必ずしもトウガキを倒すという過程を挟む必要もないのかもしれない。
 その一つのルートが、自分たちで眠気を覚ますもの——木の実を手に入れることだと、フィアは考えた。この考えが、シナリオを進めることのできるルートとなるかは、わからないが。
「鍵はあるから棺桶は開けられる。試してみよう! イオン君、眠り状態を治す木の実は?」
「カゴの実かラムの実だね。カゴの実は青いカサのついた木の実。青くて目立つし、そこそこデカいからすぐ見つかると思う。ラムの実は緑色で小さいから、すぐには見つからないかも」
「とりあえずどっちかを探してみよう」
 そうして、二人はセットの森へと入っていく。
 作りものかと思ったが、背は低いものの、どうやら本物の樹木のようだ。木の幹の質感、葉っぱの感触。どれも自然のものだ。
 やはりこれは、舞台背景ではなく、れっきとした舞台装置。このセットにも、存在する意味がある。
 そして、木にはいくつかの実がなっている。これがポケモン用の木の実なのだろう。
 二人は手分けして目的の木の実を探し、ガサゴソと漁る。そして、
「……ん、あった! カゴの実だ!」
 イオンが目的の木の実を見つけたようだ。
 彼の手には、青いカサの木の実が握られている。
「じゃあ、それを王子様に……」
 と、その時に。
 舞台手前。フロルとトウガキのバトルが視界に入る。
「シシコ、奮い立てる!」
「あぅ、これ以上強くなっちゃったら、耐えられないよ……」
 押されているアチャモ。苦しそうな表情のフロル。
「フロル……」
「……オレ、フロルちゃんとこ行くよ。あっちヤバそうだし」
「僕たちが参戦して、いいのかな……?」
「わっかんないけど、心配だし、一応ね。フィア君は王子様の方をよろしく!」
「あ……イオン君!」
 そう言って、イオンはフロルの下へと駆けていく。
 またしてもフィアは一人残されたが、今は棒立ちしている場合ではない。
 急いで棺桶まで駆け寄り、鍵穴に鍵を差し込む。そして、力を込めてぐるりと回す。
「開いた……!」
 ガチャリ、と手応えを感じた。そのまま観音開きの棺桶の蓋を開ける。
 トウガキが言っていたように、中には人がいた。この人物が王子——即ち、ジムリーダーだろう。
 王子とは言うからには男性なのだが、顔つきはどこか幼さを残しており、中性的だ。ピンク色の髪も相まって、フィアは一目見た時、女性と見間違えそうになった。
(でもよく考えたら、女性でも男の役はやるよね……)
 ジムリーダーの性別はともかく。
 なんにせよこの人物こそが王子役であることには変わりないはず。ならば、この人物を目覚めさせることが、ジム戦攻略の大きな一歩となる。
 フィアはイオンに渡されたカゴの実を握る。
「これ、食べさせればいいのかな……?」
 これが本来のシナリオ通りの動きなのかはわからないが、フロルやイオンがトウガキとのバトルにあたっている。なら自分は、自分が今できることをするしかない。
 フィアはカゴの実を、ゆっくりと王子の口元に近づける。反応はない。失礼を承知で、唇に触れさせてみると、ピクッ、と動いた。
「……ごめんなさい」
 先に謝りつつ、少しだけ力を込めて、木の実を捻じ込むように王子の口の中に入れると、カリッ、と小さく木の実をかじる音が聞こえた。
 その瞬間だ。
 パチッと、王子の目が見開く。
「んー……ふわぁ……あぁ、よく寝たなぁ……」
 王子は半身を起こし、グッと伸びをする。今まで本当に寝ていたのかと思わせる仕草だが、流石にジム戦と公演中にそんなことはないと思いたい。
「あ、あなたが、ジムリーダー……?」
「うん、そうだよぅ」
 緩やかな口振りで、王子は頷く。
 そのまま立ち上がり、棺桶から出て来る。背はあまり高くない。フィアと同じくらいだろうか。
 服装は如何にも王子といったもので、西洋風の豪奢な衣装だ。
「ぼくがシュンセイ王国の王子……シュンセイジムのジムリーダー、イチジクだよぅ」

『Information
 ジムリーダー イチジク
 専門:ノーマルタイプ
 異名:眠れる森の王子スリーピィプリンス
 趣味:昼寝、うたた寝、二度寝、演劇鑑賞』

 王子役であり、ジムリーダー——イチジクは、半開きの眠たげな眼でこちらを見据え、そう名乗った。
 なんというべきか。想像していたジムリーダーとは、かなり違う。
 リーダーというからには、もっとしっかりした人物なのだと思っていたが、目の前のイチジクは、とてもそうは見えない。しっかり者かどうかは見た目で判ずるものではないが、彼は非常に気の抜けた雰囲気を醸し出しており、少々間抜けっぽい。現に、棺桶で寝ていたせいか、髪はぼさぼさで寝癖が付いており、頭頂部からはピコンと一本だけ大きく髪が跳ねている。
 これなら、トウガキの方がよほどリーダーっぽいと感じるが、ジムリーダーとは一般的なリーダーとは違うのだろうか。
 しかし穏やかな人物ではありそうだ。怖い人が出てきたらどうしよう、というフィアが密かに抱いていた不安は払拭された。
「ぼくを目覚めさせてくれたのは……君、かなぁ?」
「は、はい。そうです……」
「そっかぁ、じゃあ——」
 イチジクの目が、スッと鋭くなる。

「——君がぼくらの敵だねぇ」

「え!?」
 吃驚に声を上げるフィア。敵、とはどういうことか。設定上、彼は国の王子で、自分たちは王子を助けに来たはずだ。
「言っただろう、“呪い”をかけたと」
 フィアの驚きに、トウガキが答える。見れば、彼のシシコの足元には、戦闘不能になったアチャモが転がっていた。
「私の呪いは王子を眠らせるもの——ではない。昏倒はあくまで副次的な作用にすぎない。私の呪いの本質は、王子の洗脳だ」
「せん、のう……?」
「要するに、今の王子は我々の配下だ。呪いを解きたくば、呪いを解く道具を使うか、私を倒すか、もしくは——」
 劇の流れになぞりつつ、攻略のヒントを提示するトウガキ。その最後の一つが、このシュンセイジムの本質、目的を、言い表していた。

「——王子自身を倒すことだな」

「王子を、倒す……?」
 王子、即ちジムリーダー。
 ジムとは、ジムリーダーと戦うことに意義がある。
 ここまでの劇のシナリオはすべて、その結果に誘導するためだったのだ。
「そういうわけだからぁ、覚悟してねぇ」
 イチジクは相変わらず間の抜けた声だ。とても洗脳されているようには見えない。
 もっとも洗脳というのも設定で、実際にはジムリーダーとして戦う、ということに他ならないのだろうが。
「さて、次は少年。貴様が相手か?」
「……フィア君、そっちのジムリーダーは、任せていい?」
「え?」
「いやねー、この状況じゃ、オレの相手はこっちの悪魔っぽいしさ。フィア君がそっちにいるなら、フィア君に任せるよ」
 フロルを倒したトウガキは、既に標的をイオンに定めている。ちょうど、イオンが客席側、イチジクが一番奥。その間にそれぞれトウガキとフィアが立ち、お互いの相手と向かい合っている構図だ。
 フィアがイチジクに背を向ければ、トウガキと戦うことができるが、イオンはトウガキが壁となり、トウガキを倒さなければ先に進めない状態となっている。
 確かにこの状況では、イオンとトウガキがバトルをして、残るフィアとイチジクでバトルするしかない。
「う、うん……わかったよ」
 正直、ジムリーダーとのバトルに自信はまるでないが、やるしかない。
 イオンもフロルも、ここまで戦ってきたのだ。自分だけ戦わないという選択肢は、あり得ない。
「よっし。んーじゃ、連戦できついけど、よろしくサンダース!」
「シシコ、こちらも続けて行くぞ!」
 舞台手前では、イオンとトウガキのバトルが始まる。
 そしてこちら、舞台奥。
 こちらには、ジムリーダーがいる。
「えぇと、君……フィア君だっけ?」
「あ、はい」
 急に呼びかけられる。相手が芝居がかっているように見えないので、つい素で答えてしまった。
 しかし、すぐに気を引き締める。
 なぜなら、、イチジクの手には、既にボールが握られていたから。
「ぼくらも、始めようかぁ」
「……はい」
 対するフィアも、腰にセットしたボールに触れる。
 これがフィアにとって初めてのジム戦。
 その緊張を感じながら、フィアはジムリーダー、イチジクと相対する。



あとがき。やっとジムリーダーが登場です。ジムリーダーはリメイク前と変わらずイチジク。ちょっと設定が追加されているのと、異名が眠れる森の王子になっています。元ネタは、たぶん誰もが知ってるだろう童話、茨姫です。スリーピー・ビューティーって言った方が伝わるかな? 劇中の設定が込みですが、次回こそは遂にジムリーダー、ノーマルタイプ使いのイチジク戦です。お楽しみに。