二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第17話 第一制覇 ( No.24 )
日時: 2017/01/07 06:16
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 ——ジムリーダー、イチジクの勝利です!——

 会場内に、そんなアナウンスが響き渡る。
 負けた。負けたのだ。
 フィアのジム戦は、これで終わってしまった。
 虚無感、というのだろうか。
 空っぽな空洞に、冷たいなにかが響いている。
 バトルが終わるや否や、イオンとフロルが、フィアの下へと駆け寄ってきた。
「フィアっ」
「フィア君!」
「ご、ごめん、フロル、イオン君……僕、負けちゃった……」
 自分でもわかるくらいに、声が震えている。
 このバトルは、自分一人のバトルではなかった。フィアと、フロルと、イオン。三人分の重みがあるジム戦だったのだ。
 それなのに、負けてしまった。
 重苦しいほどの責任感が、フィアを押し潰さんとばかりに、襲い掛かってくる。
「だいじょうぶだよ、フィア。わたしも、トウガキさんに負けちゃったし……」
「そうそう、いいっていいって。気にしない気にしなーい」
「でも、僕が負けたせいで、三人全員が負け——」
「なーに言ってんの」
 フィアの言葉を遮るイオン。
 彼の表情は、笑っていた。
 そして、告げる。

「まだジム戦は終わってないっしょ?」

「え?」
 素っ頓狂な声を上げるフィア。
 その意味を理解することができない。まだ終わっていない。どういうことだろうか。ジムリーダーとのバトルは、先ほど自分がまけて終わったはずでは——
「思い出して。このジム戦のルールは、時間内にジムリーダーを倒せなければ負け、っていうルールでしょ」
「う、うん。でも、僕はイチジクさんに負けて……」
「それはそうだけどさ。でも、一人勝った全員勝ちでも、“一人負けたら全員負け”ではないんだよ」
「!」
 確かに、敗北条件は制限時間しか設けられていなかった。
 それはつまり、
「時間内であれば、何度でもジムリーダーに挑戦できるはず。そうでしょ、トウガキさん」
「……確かに、公演時間はまだ残っているな。それまで幕は下りないし、王子の呪いもそのままだ」
 その言葉は肯定と同義だった。
 時間の続く限り、ジムリーダーに挑戦できる。フィアのポケモンはもう残っていないが、イオンとフロルには、まだ戦えるポケモンがいる。
 だが、問題もあった。
「時間はだいじょうぶなの……?」
「……あと三分しかない」
「よゆーよゆー。フィア君がジムリーダーのポケモン一体倒してくれたし、エースっぽいネッコアラも削ってくれた。超速攻で決めてくるから」
 ひらひらと手を振るイオン。彼の言うように余裕の表情だが、本当に大丈夫なのだろうか。
 そうしてイオンは、イチジクの前に立った。
「次の相手は……君かなぁ?」
「はい」
「そっかぁ。トウガキに勝つくらいだし、強いんだろうねぇ……二人のバトルはちゃんと見れなかったけど、どんな風に戦うのかなぁ」
「悪いけど、観察する暇もないくらいにちゃっちゃと決めちゃいますからね。友達が待ってるんで」

 ——それではこれより、ジムリーダー戦を開始します。使用ポケモンは二体。チャレンジャー、もしくはジムリーダー、どちらかのポケモンがすべて戦闘不能になった時点で、バトル終了です。また、ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められます——

 先ほどと同じアナウンスが流れる。
 使用ポケモンは二体だが、イチジクは既に一体ポケモンを失っているので、実質的に二対一だ。
「ネッコアラ、続けてお願いねぇ」
「サンダース、速攻で終わらせるよー!」
 イチジクはネッコアラ、イオンはサンダースを続投。どちらも連戦だが、サンダースの方がバンガキ、トウガキと続けて三連戦。かなり疲労も溜まっているはずだが、体毛を逆立ててバチバチと威嚇し、微塵も疲労を感じさせない。
「ネッコアラ、叩きつける」
「遅い遅い! 電光石火!」
 丸太を掴み、振りかざすネッコアラ。しかしそれを振り下ろす前に、サンダースが突撃していた。
「二度蹴りだ!」
 間髪入れずに連続で蹴りが放たれ、ネッコアラは倒れ込んでしまう。丸太で防御する隙すらない。
「おぉっとぉ……? 速いねぇ……」
「こっちも時間がないんで! ミサイル針!」
「枕木で防いでねぇ」
 射出される鋭い体毛を、ネッコアラは丸太で防ぐ。
 やはり並大抵の攻撃は、すべて丸太が受け切ってしまう。
「そのまま転がる攻撃だよぅ」
「躱して電気ショック!」
 丸太に刺さった針を振り落すと、丸太を抱きかかえるようにして丸まり、回転して突貫してくるネッコアラ。
 しかしネッコアラの攻撃はサンダースには当たらず、俊敏な動きで回避されると、すぐさま電撃を浴びせられてしまう。
「速すぎて捉えられないなぁ……叩きつける」
「二度蹴り!」
 丸太を振り上げるネッコアラに、サンダースは素早く蹴りを放った。
 一度目の蹴りで、動きを止める。そして、二度目の蹴りで、体勢を崩す。
「もう一発、二度蹴り! 邪魔な丸太を蹴り飛ばせ!」
 さらに三度目の蹴りで、ネッコアラの手から丸太を離させ、四度目の蹴りでその丸太を遠くまで蹴り飛ばした。
「うぁ……枕木がぁ……」
 ネッコアラは丸太がなくなったことで、攻撃のための武器と同時に、攻撃を防御する盾すらも失ってしまう。丸太がなくては丸まることもできないため、転がるも、丸くなるも封じられた。
 丸太がなければネッコアラはなにもできない。
 これでほぼ、勝負は決した。
「とどめだ! 電気ショック!」
 サンダースはネッコアラに電撃を浴びせる。
 丸太で防御することもできず、ネッコアラは電撃の直撃を喰らった。
 ゴロンと倒れ込み、目を回している。

 ——ネッコアラ戦闘不能! ジムリーダーの手持ち二体がすべて戦闘不能になったため、チャレンジャーの勝利です!——



 その後、王子の呪いは解け、国に戻り、物語はハッピーエンドを迎えた。それによって、劇は公演終了となり、同時にジム戦も終了した。
 緞帳が降ろされ、セットだけが残された舞台。照明だけが照らすこの舞台の上で、フィたち三人は、今回のキャストたちと向かい合っていた。
 トウガキ、バンガキ。そしてイチジク。シュンセイジムのキャスト三人。
 こうして向かい合っているのは、ジム戦が終わったことで、最後に慣例の儀礼があるそうだ。
 ただ、その時に少しばかり談笑したのだが、
「えぇ!? 三人は兄弟だったんですか!?」
「うん、そうだよぅ」
 トウガキとバンガキは、名前も容姿も似ているところがあるからそうだと思ったが、イチジクまで兄弟だとは思わなかった。
「私とバンガキが双子で、二人の間では私が兄にあたりますが」
「イチジク兄ちゃんが長男なんだぜ」
 かなり驚きだ。三人兄弟というのも驚きで、トウガキとバンガキが双子というのも驚きだが、長男がトウガキではなくイチジクということが一番の驚きだった。
「でも、イチジクさんってジムリーダーなのに、座長じゃないんですねー」
「ジムリーダーは、ポケモンリーグ連盟からスカウトされて引き受けただけだからねぇ。本職は劇団員なんだぁ……それにほら、ぼくっていろいろ抜けてるからさぁ。座長なんて人を取り仕切る大事な役職は、トウガキの方がしっかりやってくれるからねぇ」
「トウガキ兄ちゃんになら、劇団を任せられるからな!」
「二人とも、まったく……私にばかり頼ってないで、二人ももっとしっかりしてくれよ」
 呆れ半分、嬉しさ半分といった面持ちのトウガキ。
 イチジクも自分が抜けている自覚はあるらしい。それに、トウガキの方がまとめ役として優れていると、兄の立場からもしっかり評価している。
 確かに抜けているところはあるが、なんだかんだでいい兄なのかもしれない。
「兄さん。私たちについて語るのは構わないが、大事なことを忘れないでくれ」
「あぁ、そうだったねぇ。ごめんごめん……えーっと、じゃあバンガキ。あれ、持って来てくれたよねぇ」
「おう。これだろ」
 イチジクに促されてバンガキは、手にした三つの小箱を見せる。一つは自分で持ち、残り二つをそれぞれイチジク、トウガキに一つずつ渡した。
 三人は同時に箱を開ける。中には、小さな金属片が入っていた。
 材質はわからないが、金色だ。形も変わっていて、アルファベットのAと十字架が組み合わさったような形状をしている。
「これはポケモンリーグ公認のジムバッジ。そのジムでジムリーダーが、チャレンジャーの実力を認めた時に渡す証です」
「そん中でこれは、ここ、シュンセイジムを制覇した証だ。その名も——」
 トウガキ、バンガキと続き、最後にイチジクが一歩前に出る。
 フィアの前に立っている彼は、箱に入れられたそれを、こちらに差し出した。

「——アドベントバッジ、だよぅ。受け取ってねぇ」

 これが、フィアにとっての初めてのジム戦。
 そして、初めてのジムバッジとなるのだった。



あとがきになります。最後の方が流す感じになってしまったのは、文字数の関係です。元より、フィアとイチジクのバトルの方が大事なので。ケリをつけたのはイオンですけど。なんにせよ、どのような形にせよ、これでシュンセイジム戦は終了。フィアたちはジムバッジをゲットできました。バッジの名称は変わらずアドベントバッジです。形状も同じくそのまま。アドベントは、キリストの到来を待ち望む期間のことです。イチジクの名前や、演劇を絡めた設定は、聖書などその辺もちょっと関係していたり。やっと最初のジム戦が終わって、次回。なにをするかはあまり具体的には言えませんけど、リメイク前と大体同じシナリオになると思います。では、お楽しみに。