二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第18話 行先確認 ( No.25 )
日時: 2017/01/08 14:10
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 イチジクからジムバッジを受け取ったフィア。
 これがフィアにとって初めての、一つ目のジムバッジとなる。
 それを手に入れたのはいいが、問題はその後だった。
「これ、どうすればいいんですか?」
 バッジを貰っても、どうすればいいのかわからない。一応ピンはついているようだが、どこかに付ければいいのだろうか。
「フィアさんは、バッジケースを持っていないのですか?」
「バッジケース……?」
「兄ちゃん。この様子だと、バッジケース自体知らないっぽいぜ」
「そっかぁ。まあ、バッジケースって言っても、ただの入れ物だからねぇ……でも、入れ物がないと、管理が大変なんだよねぇ」
 話を聞く限り、バッジは基本的に、バッジケースという入れ物に入れて保管するのが一般的らしい。
 しかしフィアは、そのバッジケースを持っていない。博士も、ジム巡りを勧めたものの、そんなものはくれなかった。
「入れ物を持ってないのなら、これを使うといいよぅ」
 と言って、イチジクはさっきまでバッジが入っていた小箱の底に敷いてある布を取り払って、フィアに手渡した。
「この箱、バッジケースだったのかー。知らなかったよ」
「バッジを保管するには最適だからねぇ。それに、実はリーグからたくさんもらってて、邪魔なんだよねぇ」
 サラリと不用品を押し付けられていた。
 とはいえ、それほどかさばる物でもなく、これに保管するのが最適というのであれば、ありがたく使わせてもらう。
「ところで、フィア君たちは、これからどうするのぉ?」
「このシコタン島には、シュンセイジム以外のジムはありません。観光名所や、ポケモンの生息地は多いですが……」
「でも、ジム巡りだろー。連絡船が来るタイミングも限られてるし、早く島を出た方がいいぜ」
 三人が口々に言う。正直、なにも考えていなかった。
 しかし、ひとまずの指針がジム巡り。そして、この島に他のジムがないのであれば、
「オレは次の島に行く予定だよ」
「じゃあ、僕らもそうしようかな……フロルはどう?」
「わたしも、それでいいと思うよ」
 彼らが言うように、イオンと同じように、他の島に移るべきだろう。
「次の連絡船って、いつ来るんですかー?」
「んー、次の連絡船はねぇ……えぇっとぉ……トウガキぃ」
「まったく、兄さんは……次の連絡船は明日の昼、イトゥルフ島行きの船が出港する予定です」
「港があるのは、ここから北に進んだところにある町、ハルサメタウンだぜ。ほとんど一本道だから、まず迷わず行けるだろ」
 一番早くに行ける島は、そのイトゥルフ島なのだろう。特にこの島に用があるわけでもなく、次の島はどこでも構わないフィアにとっては、次の目的地はそこでいいのだが、
「げ、イトゥルフ島か……」
「イオン君……?」
 なにやら渋い表情を見せるイオン。イトゥルフ島とやらに、なにがあるというのだろうか。
 また、その島の名前に渋さを表していたのは、イオンだけではなかった。
「うーん、イトゥルフ島かぁ……」
「イチジクさんも……その島に、なにかあるんですか?」
「まぁねぇ。ぼくもジムリーダーとして、他の島のジムリーダーの人たちとバトルしたり、顔を合わせたりする機会があるんだけどぉ……あの島のジムリーダーって、みぃんな個性的なんだよねぇ」
 あなたが言いますか、と心中でツッコむが、流石に口には出さないただ、両隣のトウガキとバンガキのじっとりとした視線が、兄に向けられている。件の兄はまるで気づいていないようだが。
「それに、すっごく強い。たぶん、今のフィア君じゃぁ太刀打ちできないんじゃないかなぁ?」
「…………」
 フィアは黙り込んだ。
 結果的にフィアはバッジを手に入れたものの、イチジクを倒したのはイオンだ。どころか、バンガキとトウガキの二人を倒したのもイオン。フロルやフィアが事前にポケモンの体力を削るなどをしていたとはいえ、今回のジム戦は、ほぼすべてイオンの力によって突破したようなものだ。
 フィア個人として、ジムリーダーに打ち勝ったわけではない。
 まだ自分は、弱いのだと実感する。
 イチジクを倒せないフィアが、彼が強いと言わしめるジムリーダーたちとのジム戦を突破できるはずもない。
「ど、どんな人たちなんですか? そのジムリーダーって……」
「イトゥルフには多くのジムがあるけどよ、その中でも四人。とりわけて強いのがいる」
「ホッポウ地方最大の軍隊を率いるムゲツシティのジムリーダー、トクサ。四天王ルフルの妹にしてツチフルシティのジムリーダー、ルベリ。死神という異名で恐れられるヨイヤミシティのジムリーダー、リンネ」
「んで極めつけは、あの男だな」
 列挙されていくジムリーダーたち。その断片的な情報だけではいまいちピンとこないが、最後の一人だけは、格が違った。

「現時点で公式戦記録無敗。彼がジムリーダーとして就任してから、いまだかつて誰も彼を倒すことはできていない。リッカシティのジムリーダー——ハッカ」

「誰も倒したことがない、ジムリーダー……!」
 まだこの世界に疎いフィアでも、それがどれほど凄いことであるかは、なんとなく想像がつく。
 今まで一度も負けたことがないという無敗記録。それはどのような世界であっても、そう簡単に打ち立てられるものではない。
「……話だけなら、ちょーっと聞いたことあるかな。リッカシティのジムリーダーは、規格外だって」
 イオンも穏やかでない表情だ。それほどに、ハッカというジムリーダーは、強いのだろうか。
「この四人は四天王候補筆頭って囁かれてるくらいには強いんだよねぇ。ぼくもバトルしたことあるけどさぁ」
「めちゃくちゃボコボコにされてたよな、兄ちゃん」
「ぼくも本気だったんだけどねぇ」
 まるであのジム戦では本気ではなかったかのように言い分だが、イチジクは終始余裕のある立ち振る舞いをしていたので、もしかしたらそうなのかもしれない。
「というわけだからぁ、イトゥルフ島はまだちょっとやめておいた方がいいんじゃないかなぁ?」
「そ、そうみたいですね……」
「オレもオレも。イトゥルフ島はやめとこやめとこ」
 話を聞くだけでも恐ろしい。ここは素直にイチジクの忠告を聞きいれることにした。
「幸い、明後日には同じ港から、クナシル島へと向かう船が来ます。それに乗っては如何でしょうか」
「それにぃ、明日はハルサメタウンでバトル大会があるからねぇ」
「バトル大会?」
「ポケモンバトルの大会だよぅ」
「いえ、それはわかるんですが……」
「この地方は、色々事情が特殊でしてね……比較的寒冷な気候や、新種のポケモンがいないなどの理由から、観光客にもあまり見向き去れないのです」
「だから俺たち劇団みたいな団体が色んなところで活動して、この地方の良さも一緒に触れ回ってんだ」
「その観光客を増やす取り組みの一環が、港で行われるバトル大会です。ジム巡りなどの旅をするトレーナーの交流や腕試し、レベルアップを図る催しでもあり、かなり活気のある大会ですよ」
「大会……でも、僕みたいなのが出ても、すぐ負けちゃうんじゃ……」
「敗北も経験ですよ、フィア君。失敗を恐れないでください」
「そーだぜ。それに、大会はバッジの個数——つまり、トレーナーのレベルに合わせてレギュレーションが分かれてるから、同じくらいのレベルのトレーナーとバトルできる。心配するこたぁねーよ」
 さらにハルサメタウンの大会は、比較的小規模。ジムが一つしかない島であるため、参加人数が少なく、駆け出しのトレーナーが多いらしい。
「ちなみにねぇ、その大会の解説にはぼくも呼ばれてるんだよねぇ」
「あ、だから大会のこと知ってたんですね」
「大会には優勝賞金、賞品も出るし、出る価値はあると思うよぅ」
 実利的な面でも、大会参加を勧めるイチジク。
 自分が解説として赴くからなのか、やけに推してくる。
「とはいえ、私たちに無理強いはできません。お節介な先人からのアドバイスと思ってください」
「はぁ……」
 トウガキがフォローを入れる。
 しかし、イチジクの言うことにも一理ある。
 フィアは結局、ジムリーダーに勝てていない。まだまだ未熟なのだ。
 もっとバトルをして、経験を積んで、フィア自身がレベルアップしなければ、この先のジムリーダーを倒すことはできない。
「……どうしよう」
「オレは出てもいいかな、バトル大会。優勝賞金とかはあんま興味ないけど、どーせ船が来るのは明後日で、明日はずっと暇だし? だったら大会に出て腕試しするのが有意義じゃん?」
「……フロルは?」
「んー、わたしも、出てみようかなって、思ってる」
 二人とも乗り気だ。
 うじうじと考えているのは自分だけだったようだ。二人に便乗するつもりはないが、二人も出るならどこか安心だ。
「じゃあ、僕も出ようかな……」
「やったぁ。いやぁ、大会参加者が少ないから、運営の人に呼びかけしてくださいって言われてたんだけどぉ、劇の練習ですっかり忘れちゃってたんだよねぇ。人数が足りなくて大会が中止になっちゃったら、ぼくのお仕事もなかったことになっちゃうしぃ、三人も集まったよぅ。いやぁ、よかったよかったぁ」
 それが本音か。
 抜けているようで、案外ちゃっかりしているイチジクだった。
 バッジは受け取り、今後の方針も決まった。三人は今一度礼を言ってから、ジムを出る。
「やー、大変だったけど、なんとかジムバッジゲットできたねー」
「ほとんどイオン君のお陰だけどね……」
「まーまー、フィア君たちも頑張ったよ。王子を目覚めさせるきっかけとか、トウガキさんとイチジクさんのポケモンを消耗させたりとかしてくれて、オレもすっげー戦いやすかったし」
 恐らく本音もあるのだろうが、フィアたちをフォローするイオン。
 彼も彼で、人の好い少年だ。
 さて、ジム戦も終わり、大会は明日。時間は昼過ぎ。
 まずはポケモンセンターに戻って昼食を摂り、それからどうしようかと思っていたところで、どこからか甲高い声が聞こえる。

「——泥棒!」



あとがき。我ながら、ジム戦後の雑談が長すぎないかと思います。こんなんで4000字ほど使っておりますよ。シナリオ自体に大きな変更はないんですけど、テンポは凄く悪くなっている気がします。ここでジムリーダーの名前が一気に明らかに。特に大きな意味はないというか、ほとんどハッカのための名前出しです。とにもかくにも、文章量は増えてもシナリオはあまり変わらず。次回もこのまま行きます。お楽しみに。