二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第19話 砂礫洞穴 ( No.26 )
日時: 2017/01/07 23:46
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「——泥棒!」

 甲高い声が聞こえた直後、二つの黒い影がフィアたちのすぐそばを横切った。
「え?」
「わわっ」
「え、なになにー? なんなの?」
 なにが起こったのか、いまいち把握できていない。先ほどの叫び声もあり、ぞろぞろと人が集まり、何事かと騒ぎ立てている。
 ざわめきから聞こえてくるのは、なんだなんだ、という動揺の声。
 そこから聞こえてきた一つの言葉——ポケモン泥棒。
「ポケモン泥棒……?」
「……行くよフィア君! さっきの連中を追いかけよう!」
「え? イ、イオン君!? ちょ——!」
「フロルちゃんは警察に連絡! よろしく!」
「ふぇ?」
 いきなりイオンに腕を引っ張られ、引きずるように連れ去れてしまう。フロルもなにを言われたのか、きちんと理解しているのか怪しいところだ。
 しかしイオンの疾駆は止まることなく、フィアはイオンの手によって、あっという間にその場から消え去った。



「イ、イオン君! 急にどうしたの?」
 途中でなんとか腕を振り払ったフィアは、イオンと並んで走っている。どこへ向かっていて、なんのために走っているのかは、自分でもよくわからない。
 確か、泥棒とか、追うとか、なんとか。そんな言葉だけが頭の中に残っている。
 それらを繋げて現状を整理すると、街中で盗みが発生し、その犯人を追いかけているということなのだろうが、
「流石に目の前で泥棒なんて見せつけられたら、追わないわけにはいかないじゃん?」
「そうかなぁ……」
 フィアの常識では、犯罪者は警察に一任すべきだと思うのだが、この世界では違うのだろうか。
 それとも、イオンの考えでは、そうなっているのか。
「……それに、こーゆーのって、ちょっと許せないんだよね」
「……? イオン君……?」
「とにかくだ」
 一瞬、どこかイオンの雰囲気が変わったように感じたが、見ればイオンはいつもの彼だ。
「もっと急いだ方がいいかもね」
「ところで、どこに向かってるの? 泥棒の姿は見えないけど……」
「姿は見えなくても、考えればどこに行くかは推測できるよ」
 イオンは言った。
「チラッと見えたけど、あの泥棒たちはたぶん、グリモワールだ」
「ぐりも……? って、なに?」
「グリモワール。オレも詳しいことはよくわかんないけど、なんか最近、犯罪者を刑務所から解放して回ってるって噂の、犯罪者集団だよ。今も各地で色々悪さしてるって話」
「なんだか、危なそうな人たちだね……」
 犯罪者集団。その言葉だけで恐ろしい。
 フィアが元いた世界では、そうそう聞くことのない言葉だけに、この世界とのギャップを今更ながら感じる。
「そーゆー連中がポケモンを盗む理由は、売りさばくか、自分たちで使うかってところだと思うんだよね。あの場での盗みだったらほとんどひったくりだし、そうなると、この近くに一時的な隠れ家を用意していると考えられるよね」
「う、うん……そうかもしれないね」
 推理としては筋が通っている。ここまで数分とない時間で、そこまで考えていたのか。ずっとパニックになっていたフィアとは大違いだ。
 バトルが強いだけでなく、イオンは観察眼に優れ、頭の回転も早いのかもしれない。
「そのまま走っていった方向から、大雑把に向かった方角はわかる。んで、この方向にある隠れられそうな場所と言えば——」
 そこで一旦、言葉を止めるイオン。
 同時に、足も止めた。つられてフィアも立ち止まる。
 そして、息を飲んだ。目の前に広がっている、“それ”に。

「——ここ、砂礫の穴しかないっしょ」

 そこには、深淵まで続く巨大な洞穴が、開かれていた——



 砂礫の穴、というらしい。
 その名の通り、穴——洞窟の中は土ではなく大量の砂や礫が地面を覆っている。
 こんな場所はすぐに崩れてしまうのではないかとフィアは思ったが、イオンが言うには、この穴は元々ポケモンが巣穴で、壁が崩れないようポケモンが岩などで硬くコーティングし、それが長い年月を経て固まったため、今のような地形になったという。
 分かったような分からないような説明だが、フィアの常識ではこの世界は測れないようなので、無理やり納得した。
「オレも特訓するために何度かこの穴に入ったけど、かなり広くて奥まで行けなかったんだよねー。だからこそ、逃げ込むならここと思ったわけ」
「でもそれ、どっちにしても探すの大変じゃない……?」
 取り逃がすよりはマシだろうが、それだけ広いなら探すのも難しいだろう。
 そう思っていたら、前方から話し声が聞こえてきた。
「なぁ、さっきここを走ってった二人、なんだったんだ?」
「さーな。なんかモンスターボール持ってたし、どっかで戦力補給でもしてたんじゃねーの?」
「え? でも確か強奪しての戦力補給って、非推奨行為じゃ……」
「バーカ、そんなの律儀に守ってる奴なんざいるわけねーだろ。その辺で捕まえた野生のポケモンより、トレーナーが育てたポケモンの方が強いんだから、他のトレーナーからぶんどるのが効率いいに決まってんだろ。推奨はされてないが、禁止にもされてないしな」
「はぁん、そんなもんか」
 下っ端と思しき二人組の会話。その内容から、この奥にポケモンを奪ったというグリモワールがいることはほぼ当確だ。
「イオン君、あれがグリモワール?」
「たぶんねー」
 ボールを取り出し、イオンはフィアに目配せする。このまま進んでもあの二人に止められるので、無理やり突破するつもりのようだ。
 回復は、ジム戦後にイチジクらの厚意で済ませている。フィアもボールを握り、イオンと共に飛び出した。
「っ、誰だ!」
「止まれ!」
 こちらの存在に気付いた下っ端たちは、慌ててボールを取り出しながらこちらに向かって叫ぶ。
「行くよ、サンダース!」
「出て来て、イーブイ!」
 イオンとフィアは同時にサンダースとイーブイを繰り出した。それに合わせて、下っ端もボールを放り投げた。
「よく分からんが、ここは通すなと言われているんだ! 行け、メグロコ!」
「出て来い、スコルピ!」
 下っ端が繰り出したのは、黒い縞模様のあるの鰐のようなポケモンと、薄紫色の蠍のようなポケモンだ。

『Information
 メグロコ 砂漠鰐ポケモン
 砂漠に生息するポケモン。
 体温を低下させないために
 日中は砂の中に潜って生活する。』

『Information
 スコルピ ポケモン
 長い期間、なにも食べなくても
 生きていけるため、砂漠などの
 乾いた土地にも生息している。』

「地面イプのメグロコに、虫タイプのスコルピか」
 スコルピはともかく、メグロコは電気技が通じず、逆に地面技で弱点を突かれてしまうため、相性では不利だ。
 だがイオンの表情に焦りは見えない。むしろ余裕の笑みを浮かべていた。
「フィア君、援護をお願い」
「う、うん、分かった。イーブイ、手助け」
 イオンの言葉で彼の言わんとしてることを察し、フィアはイーブイに指示を出す。
 イーブイは淡い光を発し、それをサンダースに纏わせる。やがて光は消えていったが、サンダースは見るからに力に満ちていた。
「よし、じゃあ速攻で決めようか。サンダース、二度蹴り!」
 サンダースは持ち前のスピードでメグロコに急接近し、一撃目の前蹴りで空中に蹴り上げ、二撃目で跳び上がりメグロコを蹴り落とした。
 たったそれだけの攻撃だが、手助けで強化し、弱点を突く連撃だ。二度蹴りだけでメグロコは戦闘不能になってしまう。
「な……っ!?」
「こいつ……!」
「イーブイ、僕らもやろう。目覚めるパワー!」
 イーブイも赤く燃える球体を発射し、スコルピを燃やす。炎タイプの目覚めるパワーは虫タイプのスコルピには効果抜群だ。
「とどめっ、サンダース、電光石火!」
 大きく削られたスコルピにサンダースの電光石火が直撃。スコルピは吹っ飛ばされ、戦闘不能となった。
「なっ、俺のメグロコが……!」
「まさか、こんなに早く……!」
 下っ端たちはあまりに早く倒されたためか、目を見開いて驚愕している。
「んじゃ、さっさと先に行こうか」
「あ、イオン君! 待って!」
 その隙に、イオンとフィアは下っ端の脇を通り過ぎて砂礫の穴の奥へと進んでいった。



あとがき。リメイク前と変わらない展開です。ポケモンシリーズ恒例の、悪の組織によるポケモン泥棒。これ、現実の世界にたとえたら、犬猫を盗むようなものなのか、それともひったくりとか置き引きみたいなものなのか、どう考えたらいいんでしょうね。ポケモンという存在が、ポケモンの世界観においてどのような位置づけになっているのか。それは現実の基準で測るのが難しいです。それはそれとして、下っ端の片割れの手持ちが、ツチニンからスコルピに変わっていたりしますが、あまり意味はありません。次回はグリモワール追跡の続きです。お楽しみに。