二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第20話 流砂捕縛 ( No.27 )
- 日時: 2017/01/08 08:43
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
砂礫の穴の奥には、下っ端と思われるグリモワールの団員が二人いた。二人とも走って来たために息を切らしているが、脇に抱えたモンスターボールの入った袋はしっかりと持っている。
「なぁ、今更ながら聞くが、誰か追って来てなかったか?」
「さあな。でも流石にここまで来れば大丈夫だろ」
「そうか、そうだな。いざとなればサタン様もいるし、大丈夫か」
「そうそう、大丈夫大丈夫、追っ手なんかここまで来たりは——」
と下っ端の一人が今さっき走ってきた穴を見ると、奥から二つの人影が飛び出した。
「見つけたっ、グリモワール!」
飛び出したのはフィアとイオンだ。足元にはイーブイとサンダースもいる。
「……おい、なにが大丈夫だ! いるじゃねぇか追っ手!」
二人の姿を確認するや否や、下っ端の一人がもう一人に向かって叫ぶ。もう片方の下っ端は冷や汗を垂らし、焦ったような表情を見せたが、すぐに気を取り直し、
「だ、大丈夫だ! 所詮は子供のトレーナー、二人がかりでやれば返り討ちにできるはずだ!」
と言い返す。
その言い分で下っ端二人は納得したようで、共にボールを構える。
「よし、じゃあ行くぞ! サンド!」
「こんなガキども、蹴散らしてしまえ! サボネア!」
下っ端が繰り出したのは、砂のような体色のポケモンと、全身が棘で覆われたサボテンのようなポケモンだ。
『Information
サンド 鼠ポケモン
乾燥した土地に好んで住みつく。
岩のように硬くなった皮膚は、
丸くなることでどんな攻撃も弾く。』
『Information
サボネア サボテンポケモン
雨が降らない砂漠を住処にする。
三十日間、水を飲まずに生きる
ことができ、過酷な環境にも屈しない。』
「連戦で相性も悪いけど、時間が惜しい。さっさと決めちゃうかー。フィア君!」
「うん、分かった。イーブイ、サンダースに手助けだ」
イーブイは淡い光を発し、サンダースに力を与える。そしてサンダースは一気にサンドへと接近し、
「先手必勝! 二度蹴り!」
勢いよく足を突き出し、強烈な前蹴りを繰り出したが、
「サンド、丸くなるだ!」
ガィンッ!
と、鈍い音が鳴り響く。
「い……っ?」
文字通り、サンドは身体を丸めて防御の体勢を取った。そこにサンダースの蹴りが炸裂したのだが、サンドは全く動じず、逆にサンダースの二度蹴りを弾き返してしまったのだ。
「かってー……丸くなるか。これは参ったなー……」
丸くなる。シュンセイジムでイチジクのネッコアラも使っていた技だ。
その効果はポケモンの防御力を上げるだけの基本的な技だが、サンドがこの技を使えば、硬い表皮で覆われた背中で相手の攻撃を防ぐ盾となる。
図鑑説明にもあるように、サンドの皮膚は岩のように硬い。生半可な物理攻撃では、突破はできない。
「電気ショックは効かないし、オレのポケモン、覚えてる技は物理技ばっかなんだよねー……こりゃまずい」
今まで余裕の表情だったイオンの顔に冷や汗が浮かぶ。浮かべている笑みも、苦笑いだ。
それを見て、下っ端たちは調子づく。
「これは、行けるんじゃねぇのか?」
「そうだな。サボネア、ミサイル針!」
「っ、躱して!」
サボネアが全身の棘を射出して攻撃。サンダースは大きくバックステップして、それらの攻撃をすべて回避する。
「うーん、サボネアが懸念ではあるけども、流石に相性悪すぎ。ここは交代だ。サンダース、戻——」
相性が悪いと見て、イオンはサンダースをボールに戻そうとするが、
「させるか! サンド、砂地獄!」
「うぇ!?」
次の瞬間、サンダースの足元に流砂が発生し、サンダースの動きを止めてしまう。さらにボールから発せられた光も、砂地獄は打ち消してしまった。
砂地獄は威力は低いが、相手に継続してダメージを与え、なおかつ交代を封じる技。今のサンダースには非常に厄介な技だ。
「こんなタイミングで砂地獄はきついよー……」
「イーブイ、サンダースを助けよう。サンドに目覚めるパワー!」
「させるか! サボネア、騙し討ち!」
イーブイは燃えるエネルギー弾を放ってサンドを攻撃しようとするが、いつの間にか接近していたサボネアに殴り飛ばされ、それも敵わない。
「サンダース、ミサイル針だ!」
「サボネア、こっちもミサイル針!」
サンダースとサボネア。両者のミサイル針が互いにぶつかり合い、相殺し合う。
いや、僅かにサボネアの方が威力も数も上回っている。サボネアのミサイル針が、サンダースに突き刺さった。
「連続切りだ!」
さらに、その隙に接近していたサンドが、鋭い爪でサンダースを切り裂き、
「ニードルアーム!」
今度はサボネアが太い腕を振り回し、サンダースに殴りつける。
下っ端たちはイオンとサンダースの方が強いと見てか、明らかにサンダースを狙い撃ちにしていた。
「まずい、このままじゃサンダースが……!」
サンダースは砂地獄のせいで、強みの機動力を失っている。おまけに交代もできず、いい的だ。
フィアとイーブイで、この状況をなんとかしたいところだが、
「サンド、スピードスター!」
星形のエネルギー弾がイーブイとサンダースに降り注ぐ。
「くっ……!」
「うわぁっ!」
イーブイ一体では、サンドとサボネアに太刀打ちできない。
(……また、負けるの……?)
シュンセイジムの時のように。
イチジクとバトルした時のように。
「サンダース、ミサイル針!」
「サボネア、こっちもミサイル針だ!」
「サンド、スピードスター!」
動けないサンダースが放てる技は、電気ショックとミサイル針のみ。電気ショックはほとんど効果がなく、ミサイル針もパワーで負ける。
相手のミサイル針のスピードスターの二重攻撃で、どんどんこちらの体力も削られているが、特にサンダースは砂地獄のダメージもある。消耗はイーブイよりもずっと激しい。
「こいつもくれてやる! サボネア、宿木の種!」
サボネアが、なにかの種子をサンダースに飛ばす。それ自体でサンダースがダメージを受けることはなかったが、種がサンダースに触れると、即座に割れ、中から急成長した蔓がサンダースに絡み付いた。
「宿木の種……そんな技まで……」
「これでじわじわ体力も奪い取ってやるぜ。サボネア、ミサイル針!」
「サンド、スピードスターだ!」
グリモワールの攻撃は止まらない。相手の攻撃に押され、イーブイも、サンダースも、なにもできない。
なにもできない、自分自身も。
(ジム戦は、負けても後があった……でも)
このバトルに、後はない。
負けたらどうなるかわからない。相手は、犯罪者の集団なのだ。
無事でいられる保証なんて、どこにもない。
「ニードルアーム!」
「砂地獄!」
「ぐぅ。ここはなんとか耐えて、サンダース……!」
次々と繰り出される攻撃を、必死で耐え凌ぐサンダース。足が奪われ、避けることもできないので、ひたすら耐える。
(……そうだ、負けられないんだ)
負けては、いけないのだ。
それに、
(ジム戦の時は、イオン君が助けてくれた。だから)
今度は、自分が助ける番だ。
そう、奮い立たせるが、
「イーブイ、電光石火!」
「! サンド、丸くなる!」
丸まったサンドの硬い皮膚は、イーブイの攻撃などものともしない。
そして、
「えぇい鬱陶しい! サボネア、ニードルアーム」
「イーブイ!」
サボネアの刺々しい腕が叩きつけられ、吹っ飛ばされる。
イーブイだけでは、やはりあの二体には勝てない。
(なにか、なにか手はないの……?)
辺りを見回す。だが、いくら見ても、そこにあるのは砂礫だけ。
(僕のイーブイは砂地獄を受けてないし、ミズゴロウに交代する? サンドなら倒せそうだし……でも、サボネアが……)
ミズゴロウはサンドに強いが、サボネアには非常に弱い。
(あ、ミズゴロウがダメでも、ダイケンキなら……いや、ダメだ。今は凄いピンチだし、あのダイケンキを出しても、博士は許してくれそうだけど……)
今手元にダイケンキはいない。ジム戦に際して、ポケモンセンターに置いて来たのだった。
戦えるのは、イーブイとミズゴロウだけ。ミズゴロウの交代には、不安が付きまとう。
しかしこのままではジリ貧。ならば一か八かとイーブイのボールを取り出したところで、
「サンド、砂地獄だ!」
「あ……っ」
イーブイも、砂地獄に囚われてしまった。
まずい、とフィアの焦りがさらに募る。
「スピードスター!」
サンドの追撃が伸び、焦燥が加速していく。
このままでは、本当にどちらもやられてしまう。
(イーブイは交代できないし、ダイケンキもいない……ん? ダイケンキ……)
なにか、引っかかった。
ダイケンキだけではない。確か、他にも大事なものがあったような——
——それと、そっちの石は炎の石っつーアイテムだ。そっちも、やべぇ時にイーブイに触れさせてみろ。まぁやばくない時でもいいが、使うかどうかはお前次第だ——
「!」
そうだ、と思い出した。
フィアがあの日、博士から受け取ったもの。それは、ポケモン図鑑という便利なアイテム。ミズゴロウという新しい仲間。ダイケンキという大事なポケモン。そして、
「炎の、石……!」
燃えるように熱い、この石だ。
この石がどのような意味を持つのか、フィアにはわからない。しかし、これがこの状況を打開するなにかになると、信じた。
それは祈り。ただの願望であったが。
もうこれしかないと、フィアは熱く燃え滾るその石を握る。
「イーブイ!」
フィアは叫び、手にした炎の石を放物線を描くように投げつける。イーブイは砂地獄に囚われつつも、振り返って放られた石を見据える。
イーブイは精一杯、身体を伸ばす。投げられた石は吸い寄せられるようにイーブイへと向かっていく。
そして——
——イーブイは、光に包まれた。
あとがきになります。今回はグリモワール下っ端戦その2。下っ端でもたまに強い。モブトレーナーだって、たまに強いのがいるように、下っ端だってたまには強い奴もいるんです。ちなみに下っ端の手持ちは、リメイク前と変わってます。非公式のコゴボーは当然として、モグリューが変わっているのは、ちょっとばかし意味があります。コゴボーがなんでサボネアなんだよ、というのは……まあ、特に深い理由はないです。ただ、乾燥地に住むポケモンで固めたら面白いんじゃないかと思っただけです。前話のスコルピも大体そんな理由。どうでもいいですけど、こいつらの図鑑説明を見ると、乾燥しているところに住む、という説明がやたら多くてびっくり。では次回。リメイク前にこの作品を書き始めたきっかけが登場です。お楽しみに。