二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第21話 火炎進化 ( No.28 )
- 日時: 2017/01/08 13:21
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「っ、これは……!」
「なっ、なんだ!?」
「何が起こっている!」
驚きの表情を見せるイオンや下っ端たち。そんな中、イーブイは炎の石の力により、光の中でその姿を変化させていく。
「イーブイ……!」
光が収まると、そこにいたのはもうイーブイではなかった。
赤い体色に、頭部や首回り、尻尾を覆う体毛。その姿は、あたかも炎を纏っているかのようだ。
『Information
ブースター 炎ポケモン
炎袋で溜めた炎は900℃以上
にもなる。非常に力が強く、鉄骨
を軽々と吹き飛ばすパワーを持つ。』
「ブースター……イーブイの、進化系……?」
図鑑を開き、フィアはイチジクの言葉を思い出した。色々な進化の可能性を秘めているとは、こういうことだったのだ。
となると、このブースターが、フィアにとっての自分らしい進化の形なのだろうか。
「ブースター……」
ブースターはフィアを目を合わせ、すぐにサンドとサボネアに向き直る。そして刹那、炎が噴出し、ブースターを縛り付ける砂地獄を吹き飛ばしてしまった。
「す、凄い……! これが、進化したポケモンの力……!」
「フィア君!」
突然イオンが大声を上げ、フィアはビクッと体を震わせた。
「っ、イオン君……」
「ブースターの技を見るんだ。ポケモンは進化すると新しい技を覚えることが多い。もしかしたら、この場を切り抜ける技を覚えているかもしれない」
「そ、そうなんだ。わかった」
言われてフィアは、図鑑でブースターの技を調べる。確かにブースターの技はガラリと変わっていた。
「えーっと、まずは……これかな。ブースター!」
フィアは図鑑に表示された技名を指でなぞり、ブースターに指示を出す。
「ニトロチャージ!」
ブースターは全身に炎を纏い、駆け出す。そして勢いよくサボネアに突撃し、吹っ飛ばした。
「なっ!? サボネア!」
たった一撃でサボネアは目を回し、戦闘不能となってしまった。弱点を突いたとはいえ、その一撃でブースターの攻撃力はかなり高いことが分かる。
「強い、なんてパワーだ……!」
イーブイの時とは比べ物にならない圧倒的な攻撃力。その姿、そのバトルに、フィアは思わず見入っていた。
「くそっ! サンド、スピードスター!」
「! 火炎放射!」
サンドが放つ星形のエネルギー弾を、放射状の炎で焼き払う。
「ニトロチャージ!」
そして、即座に突貫。炎を纏ってサンドを突き飛ばす。
「速い……!」
「ニトロチャージは攻撃と同時に素早さを上げる技なんだ。サンド程度の素早さじゃ、もうブースターには追いつけないだろうね」
驚くフィアに、イオンが解説をする。ブースターはパワーだけでなく、スピードも手に入れたようだ。
「凄いよ、ブースター!」
フィアが称えると、ブースターは嬉しそうに鳴く。
そして、その称賛に応えようと、炎を吹き出して高まる気概を見せた。
「よし、行くよ。アイアンテール!」
「畜生が! 丸くなる!」
鋼鉄のように硬化させた尻尾が、サンドを打ち据える。サンドは丸くなるで防御力を上げるものの、ブースターのパワーの前ではダメージを殺しきれず、吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。
「今だブースター! 起死回生!」
そしてサンドが立ち上がったところで、全身全霊の力を込め、突撃する。
丸くなる隙も与えず、その一撃が叩き込まれ、サンドはバタリと倒れた。
「っ、サンド!」
サボネア同様、サンドは完全に目を回している。
戦闘不能だ。
「さーて、観念してもらおうかな?」
下っ端二人を撃破したフィアとイオン。下っ端たちはもうポケモンを持っていないらしく、唸りながら少しずつ後退していく。
「ま、まずいぞ……どうする?」
「どうするもこうするも、どうしようもないぞ、これは……」
焦る下っ端たち。フィアとイオンはポケモンと共にジリジリと下っ端に詰め寄っていき、圧力をかけていく。
その時だった。
「騒がしいな……何をしている?」
砂礫の穴のさらに奥から声が響く。
フィアたちが声のする方向に目を向けると、そこには大柄な一人の男がいた。
逆立った赤黒い髪。なにかに怒っているかのような、厳めしい眼光。
服装は、素肌の上から特攻服のように改造されたグリモワールの制服を直接羽織っており、フィアの第一印象は“不良”か“ヤンキ−”だった。
「サ、サタン様……!」
その男の姿を見るや否や、下っ端たちはビシッと姿勢を正す。どうやらこの男は下っ端の上司にあたる人間のようだ。
サタンと呼ばれた男は下っ端たち、フィアとイオン、そして盗まれたボールにそれぞれ目を向け、
「……成程な。何があったのかは大体察した。てめえらはいつもいつも、くだらねえことばっかしてんな」
ドスの利いた声で、サタンは下っ端たちを叱咤する。
「強くなりてえと思うことは悪かねえが、ほいほいポケモンを持ってきたところで強くなれるわけがねえだろうが。んな小手先で勝てるってんなら、世の中マモンみてえな泥棒まみれだっつう話だ。ちったあ考えやがれ馬鹿野郎どもが」
「し、しかしサタン様……」
「あぁん?」
「ひっ……」
サタンが凄むと、それだけで下っ端は黙り込んでしまった。
「それと、てめえらもだ」
サタンは今度はフィアたちの方を向き、睨むように目を向ける。
「大方、この馬鹿どもが馬鹿なことしたのを見てここまで来たんだろうが、場合が場合ならそれは無謀ってもんだ。ベルフェじゃねえが、てめえらとの戦闘は任務外だから今回は見逃してやる。だが、他の連中が相手なら、無事じゃ済まねえだろうよ」
言ってサタンはフィアたちの脇を通過し、
「あんまり俺たちみてえなのに首を突っ込まねえ方が身のためだ。覚えとけ、ガキ共」
それだけ言い残すと、出口へと歩いて行った。下っ端たちも急いでそれを追い、やがてこの場にはフィアとイオンだけになった。
「……?」
ふとフィアは振り返り、サタンの後姿を見る。すると彼の背に描かれた、グリモワールのシンボル——アルファベットのGを円形に記号化したもの——が目に入った。
それは今まで下っ端たちの制服にも描かれていたのだが、サタンの背にはそれだけでなく、シンボルマークに斜めの線が引かれていた。
「あれは……?」
その斜線は、まるでグリモワールという存在を、否定するかのようだった。
その後。
フロルが通報したことで警察が砂礫の穴までやってきて、グリモワールの捜索が行われたが、中にグリモワールは一人も残っていなかったという。
砂礫の穴は入口が複数あるので、フィアたちの侵入を機に、逃げ出してしまったのではないかと、警官の一人は推理していた。そのことには責任を感じるが、警察側は特に咎めるようなことはしない。なにより、盗まれたポケモンを取り返したということを讃えられた。
グリモワールがなぜこの穴にいたのか、なにが目的だったのかはわからない。ポケモン泥棒も下っ端の独断行動だったようで、連中がここにいた理由は闇の中だ。
「なーんか釈然としないねー」
「うん……」
一応、規則ということで警察からの取り調べを受けたフィアとイオンは、それらが終わり、ポケモンセンターに帰る途中だった。
グリモワール。下っ端たちを倒し、ポケモンも取り返した。それだけでフィアたちの目的は達したのだが。
サタンと呼ばれるあの男。その存在が、どこか引っかかる。
「ま、考えてもしゃーないかなー。それより今は、明日のことだね」
「明日……?」
「もー、忘れないでよフィア君。明日はバトル大会っしょ?」
「あ、そうだったね」
ジム戦にポケモン泥棒と、一日のうちに色々なことが起こりすぎたため、すっかり忘れていた。
「小さい大会みたいだし、フィア君と当たることもあるかもだけど、手は抜かないからねー」
「う、うん……」
思えば、イオンと初めて出会って、バトルしたのはつい昨日の出来事だ。
こんなにすぐに、リベンジの機会が訪れた。
次は勝ちたいと思う。勝てるかもしれないと、思える。
フィアの経験こそまだ浅いが、進化したブースターなら……
そんなことを考えながら、フィアは明日の大会に思いを馳せる——
あとがき。イーブイ進化の回です。作者はブラッキーやリーフィアみたいな受け気味のブイズが好きなんですが、ブースターもかなり好きな部類です。(リメイク前の)この作品を書き始めた時の方針も、唯一王の革命、と称してブースターを活躍させる予定でした。この地方でしか覚えない技云々という設定も、ブースターにフレアドライブを習得させて読者を驚かせるサプライズに持っていくつもりだったんですが……覚えちゃったんですよね、フレアドライブ。それ自体は嬉しいんですが、なんというか、そこはかとなくやられたという感があります。まあ、それはそれとして、なんとか書いていくつもりなので、よろしくお願いします。次回はハルサメタウン、バトル大会。シナリオはやはりリメイク前通りですが、次回もお楽しみに。