二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第22話 大会開催 ( No.29 )
日時: 2017/01/08 19:03
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 ホッポウ地方は三つの島と一つの諸島からなる地方。そのため各島には多くの港町が存在し、そこでは観光客のため、また旅するポケモントレーナーのため、定期的にバトル大会などの催し物が開かれている。
 そして今日もまた、シコタン島の北端に位置する港町、ハルサメタウンにてバトル大会が催されていた。
「使用ポケモンは各試合一体ずつで、三回勝てば優勝か……本当に小さい大会なんだね。トウガキさんの言ってた通りだ」
 フィアはP・ターミナルに送信された大会の要項を読み上げる。
 バトルのルールは、一対一のポケモンバトル。出場ポケモンの制限なし、など様々なことが書かれていたが、フィアには理解できない説明も多々あった。
 また、優勝賞品はポケモンのタマゴ。賞金は五万円らしい。
 ポケモンはどうやって繁殖するのだろうと思ったが、普通にタマゴが存在するらしい。
 要項を一通り読み終えると、P・ターミナルを閉じる。フィアとフロル、そしてイオンは既にエントリーを終えており、今は組み合わせの発表待ちだ。
「わたし、こういう大会に出たの初めてだよ。緊張するなぁ」
「それを行ったら僕もそうだよ。なんというか、こういうのの勝手がよく分からない……」
「ま、それで言ったら、オレも大会ってのは初めてだし、結局はポケモンバトルなんだから、気負いすぎない方がいいよー? へいじょーしんへいじょーしん」
「あはは……そうだね」
 イオンの気楽さが羨ましいと思いつつ、P・ターミナルにトーナメント表が送られてきた。
「お? トーナメント表、できたんだ。どれどれー?」
「僕はの相手は……ノニって人か。フロルとイオン君は——」
 表を指でなぞっていき、フロルとイオンの対戦相手の名前を見て、フィアは息を飲む。
「イオくん……」
「いきなりだねー、フロルちゃん。ま、よろしく」
 フロルとイオンは、初戦でお互いが対戦相手となっていた。
 小さい大会だから、三人がそれぞれ当たることもあるだろうと思っていたが、いきなりだ。
「えっと、二人とも、頑張ってね」
「う、うん。がんばる」
「フィア君もねー。対戦カード的に、フィア君が勝てば、オレかフロルちゃんのどっちかと当たるし」
「あ、本当だ……」
 決勝で戦うというありがちな展開は、最初から望めないようになっていた。
 なにはともあれ。
 ホッポウ地方港町恒例のバトル大会、ハルサメタウン大会。
 フィアにとって初めての大会戦が、始まる。



『さあ、いよいよ始まりました、ハルサメタウンバトル大会。今回は特別に、解説としてシュンセイシティのジムリーダー、イチジクさんに来ていただきました。イチジクさん、今日はよろしくお願いします』
『うん、よろしくねぇ』
 放送席では、アナウンサーと解説役として呼ばれたらしいイチジクが軽く挨拶を交わしていた。
 格好は公演中の時とは違う。黄色い三本線の入った寝巻のようなTシャツとジャージを着ており、その上からは、毛皮だろうか、少しくすんだ水色のコートを羽織っていた。
『それでは今大会の一回戦、第一試合、フィア選手とノニ選手の出場です』
 小さな町にしては立派なフィールドに立つフィア。観客も少なからずいるので、かなり緊張する。
 相手はフィアよりも幼いように見える、小柄な少年だ。ムスッとした顔で口をつぐんでボールを構えている。
「よ、よろしくお願いします……」
「……どうも、よろしく」
 少年——ノニはぶっきらぼうに返す。どこか機嫌が悪そうに見えるが、そういう性分なのかもしれない。
 フィアはノニと同じように、ボールを取り出し、構えた。
 それぞれボールを構えたのを確認すると、審判は旗を構える。
「両者ポケモンを出してください」
「は、はい。えと、まずはお願いね、ミズゴロウ!」
「出て来い、サンド!」
 フィアの初手はミズゴロウ。対するノニのポケモンは、昨日のグリモワールも使用していたポケモン、鼠ポケモンのサンドだ。
 ——と、思ったが、少し違う。
「……? 白い……? 色が違う?」
 そのサンドは、昨日見たサンドとは、明らかに違う体色だった。
 昨日のサンドは砂のような黄土色だったが、今目の前にいるサンドは、透き通るように白い。
 その白さは、まるで雪か、氷のような色だ。
『おっと、ノニ選手のサンド、色が違いますね。色違いの個体でしょうか?』
『んー……? ぼくはルベリちゃんと違って地面タイプの専門家じゃないし、よくわかんないけどぉ、なぁんか違う気がするねぇ』
 色違い。ポケモンにはそんな個体もあるのか、とフィアの知識がまた一つ増えた。
 フィアは今一度、図鑑でサンドを調べる。しかし出て来るのは、昨日のサンドばかり。白いサンドはどこにも載っていない。
 誰も見たことがない色のサンドに、会場もざわついている。やはり、珍しい個体なのだろうか。
 両者のポケモンがそれぞれフィールドに立ち、バトルの準備は完了した。
「それでは——始めっ!」
 審判の一声で、バトルが開始される。
 先に仕掛けたのは、フィアだった。
「ミズゴロウ、水鉄砲だ!」
 口から水流を発射するフィア。イオンに倣って、先手必勝の先制攻撃だが、
「サンド、高速スピン!」
 サンドはその場で丸まり、高速回転する。
 ミズゴロウが発射した水流はすべて、その回転で弾かれてしまった。
「! 水鉄砲が……!」
「今度はこっちからだ。メタルクロー!」
 サンドは両手の爪を振るい、ミズゴロウを引き裂く。鋼鉄のように硬い爪。ミズゴロウには効果いまひとつだが、パワーはなかなかだ。
「ミズゴロウ、負けないで! 岩砕き!」
「! かわせ!」
 メタルクローを耐え、ミズゴロウは岩をも砕く勢いで突撃するが、直線的な突撃は簡単に躱されてしまう。
 一度ミズゴロウから距離を取ったサンド。この距離なら、ミズゴロウの水鉄砲で有利な攻撃ができる。
 そう思って、水鉄砲の標準を定めようとしていると、
「氷柱針!」
「え!?」
 サンドは細く小さな、氷でできた氷柱のような針を無数に発射する。
 針はミズゴロウに突き刺さり、ミズゴロウは悲鳴を上げた。
「ミズゴロウ、大丈夫!?」
「もう一度、氷柱針!」
「水鉄砲だ! 撃ち落として!」
 再び放たれる氷柱針を、水鉄砲で撃ち落とそうとするミズゴロウだが、すべては落としきれず、何発か喰らってしまう。しかし効果いまひとつなこともあり、ダメージは小さい。
 それよりも、フィアは困惑していた。この不可解な技に。
「今の、氷タイプの技……?」
 サンドは本来、砂漠などの乾燥している土地を好む。
 氷は固体だが、元は水だ。その状態は不安定で、いつでも液体になり得る。
 そんなタイプの技を、地面タイプのサンドが覚えられるとは思えない。
 ひょっとすると、そう思っているのはフィアだけで、実はこれが普通なのかと思ったが、
『ノニ選手のサンド、なんと氷柱針を放った! 普通のサンドは氷柱針を覚えられないどころか、氷タイプは苦手なはずですが……これはどういうことでしょうか?』
 どうやら、そういうわけでもないようだ。
 アナウンサーや、観客までも疑念の声を上げている。
『……まさかねぇ』
 その中で、イチジクだけが、意味深に呟いていた。
「まだだ! 氷柱針!」
「っ、ミズゴロウ! 耐えて水鉄砲!」
 放たれる無数の氷の針。決して素早くないミズゴロウでは、あの数の攻撃を避けきることは難しい。
 ならばと、相手の攻撃をあえてすべて受け切り、反撃に出る。元々効果いまひとつなのだ。それに、来るとわかっている攻撃なら、耐えられる。
 反撃の水鉄砲もサンドに直撃。地面タイプに水タイプの技は効果抜群なので、大ダメージになるはず。
 だが、しかし、
「え!? き、効いてない……!?」
「いや、流石に効いたぞ。“おれが思ったよりも”、だけどな。高速スピン!」
 サンドは身体を丸めて高速回転。今度は、そのまま突っ込み、ミズゴロウを遠心力で撥ね飛ばした。
「ミズゴロウ!」
「手を休めるな! 乱れ引っかき!」
 回転を止めると、鋭い爪で何度もミズゴロウを引っかく。
 打たれ強いミズゴロウだが、こう何度も攻撃を喰らっていれば、体力的にも厳しい。
「反撃だよ、ミズゴロウ! 体当たり!」
「受け止めろ!」
 乱れ引っかきが止まったところで、ミズゴロウは全体重を乗せた体当たりを見舞うが、サンドに容易く受け止められてしまう。
「体当たりも効かないなんて……!」
「メタルクロー!」
 体当たりを受け切ったところで、サンドは鋼鉄の爪でミズゴロウを引き裂く。
 その一撃で、ミズゴロウはよろよろとよろめいてしまう。
「逃がすか! 乱れ引っかき!」
 サンドは攻撃の手を緩めない。追撃に爪による連続攻撃で、ミズゴロウを攻撃し続ける。
「ミ、ミズゴロウ……!」
 まずい。
 流石のミズゴロウでも、このままでは体力がもたない。
 それに、図鑑の情報と合致しない、相手のサンド。不可解な耐性と攻撃技。
 終始混乱してばかりだ。無知が動揺を生み、攪乱される。
 たたらを踏んでいれば、あっという間に落とされてしまう。
(……そういえば、シュンセイジム戦でも、こんなことあったな)
 あの時も、ミズゴロウだった。穴を掘るで攻撃を躱しながら攻撃するノコッチ。その攻略にも、ミズゴロウが頑張ってくれた。
 あの時はミズゴロウが自らの能力を駆使してくれたが、今回はミズゴロウの能力に頼ってばかりではいられない。
 自分で、考えなくてはならない。
(このバトルに勝つためにも、そして、僕自身のためにも……!)