二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第2話 暗黒遺跡 ( No.3 )
日時: 2017/01/05 13:47
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「……ここは?」
 目覚めた時、我が目を疑った。そこはさっきまでポケモンがはびこっていた街ではなく、薄暗い石造りの建物だった。
 所々ボロボロで、地面は抉れ、壁は崩れ、柱は折れているが、どこか神秘的な雰囲気がある。
「僕はさっきまで街にいたはずじゃ……いや、それよりも。部長! どこにいるんですか!?」
 叫んでみるが、虚しくこだまするだけだった。彼女の声はどこからも聞こえてこない。
「まさかあの爆発で……いや、そんなことは……っ!?」
 その時、何かを踏んだ。慌てて足をどけると、そこには茶色くて毛むくじゃらの生き物が——
「って、イーブイか」
 爆発に巻き込まれ、一緒にここまで来たようだ。イーブイは尻尾を踏まれて怒ったような顔をしている。
「ご、ごめん。暗くて、よく見えなかったんだ」
 慌てて弁明するが、イーブイはそっぽを向いてしまう。
「ほ、本当にごめん……」
 平謝りしつつ、イーブイを抱きかかえる。薄暗い神殿は肌寒く、イーブイの温もりがあるだけで体温だけでなく心も安らぐ。
「とにかく、部長を探さないと」
 辺りを見回すが、前も後ろも闇がひしめいており、先が見えない。不安が押し寄せてくるが、イーブイを抱きしめつつ、歩んでいく。



 どれくらい歩いただろうか。ずっと一本道の通路を歩き続けていると、不安感も増してくる。もしかしたらこのまま、ここから出られないのではないか。彼女も見つけられないのではないか。そう思えてしまう。
 しかしその時、少し先の通路の脇に入口らしき穴が見えた。そこからは、微かだが光が漏れている。
「……もしかしたら、部長かも。行ってみよう、イーブイ」
 そうして小走りに通路を抜け、穴を通過する。
 穴の先は広間のようだった。先が見えないほど広く、どこまで続くのかわからないほど高い高い天井。その中央には誰か人がいるようで、パチパチと火を焚いている。
「あれは……部長じゃない、かな……?」
 見たところ男性のようだ。
 彼女でないのは残念だが、それでも人と出会えたのは幸運だ。とりあえず話を聞いてみようと足を踏み出すが、崩れた石の破片を踏みつけ、滑って転んでしまった。
 ドテッ、と間抜けた音が部屋の中に響く。
「! 誰だ!」
「わっ! い、いや、別に怪しい者じゃ……」
 転んだ音に反応して男性は立ち上がり、こちらへと駆け寄って来る。
 近付いて分かったが、かなり若い。男性というより青年といった方がしっくりくる。
 青年はこちらの存在に気付くと、表情を緩める。利発そうな顔立ちだ。今度は不思議そうな顔で疑問符を浮かべる。
「君はどうしてここに? 普通のトレーナーはここには来れないはずだけど」
「と、とれーなー?」
 聞かない言葉だった。いや、聞いた事はあるが、こんな状況で使う言葉だったかと疑問に思う。
 それを察してか、青年は手招きして焚火の側へと誘導した。落ち着けということだろうか。
 とりあえず誘導されるままに焚火の側に腰を下ろし、青年と向かい合った。
「まず名前を聞こうか。君、名前は?」
「あ、えっと……フィア、です」
 促されるままに、自分の名前——祖国のものから外れたその名前を、名乗る。
 青年は名前を聞くや否や、考え込むように顎に手を当てた。
「フィア? うーん……?」
「あ、あの、変な名前ですよね! これは母親が外国人でこうなったものでして……」
「いや、別に普通だよ。この世界ではね。それよりフィア君は、トレーナーを知らないのかい?」
 青年はそんな問いかけをする。フィアは自分が知るトレーナーの知識を語ったのだが、青年の反応は芳しくなかった。
「うーん、なんだろう。僕らと違う文化なのかな? 流石にポケモンは知ってるよね。イーブイ連れてるし」
「あ、はい。いやでも、まだ知らないことだらけですけど……」
 とりあえず、フィアは今までの経緯を説明した。突然自分たちの街にポケモンという生き物が現れたこと。黒い影のようなものに飲み込まれたこと。フィアが部長と呼ぶ彼女を探していること。
 フィアはお世辞にも説明が上手とは言えなかったが、それでも青年は黙って聞き、相槌を打ちながら、最後まで聞いてくれた。そして、
「そうか。やっぱり君が……ってことは、君は“あれ”連れてこられたのか。なら、その部長って人は……」
 また青年はぶつぶつ呟き始めた。
「あ、あの……」
 フィアが声をかけると、青年は顔を上げた。
「ああごめん。僕はその部長って人がどこにいるのかは知らないけど、この遺跡の出口なら知ってるから、案内しようか」
「いいんですか?」
「うん。なんにせよ、ここは安全な場所とは言えないからね。今はまだ大丈夫だと思うけど、そのうち“奴”が来る」
 青年はスクッと立ち上がった。それに合わせてフィアも立ち上がるが 、
「っ? うわっ!」
 なにかがフィアの足にぶつかってきた。なのでフィアはバランスを崩し、その場にしりもちをついてしまう。
「大丈夫かい? って、ダンバルか。珍しいポケモンだね」
「ダ、ダンバル……?」
 引き起こしてもらいながら足元を見ると、確かにそこには、ポケモンと思しき生き物がいた。
 青い鋼鉄の体。三本の爪に、頭部は球状で赤い眼玉が一つある。足らしき部位はなく、浮いていた。
「フィア君は、イーブイ以外にポケモン持ってるの?」
「あ、いえ。持ってないです」
「ならちょうどいいし、捕まえておきなよ。野生のダンバルなんて滅多に見れるものじゃないよ。それにこのポケモンは、育てるとかなり強いしね。僕も苦戦したことがあるよ」
「はぁ……」
 だが捕まえろと言われても、どう捕まえればいいのか分からない。確かイーブイは、モンスターボールという球体に入っていたが。
「ん? ああそうか。ボールがないんだね。はいこれ」
「あ、ありがとうございます……」
 フィアは青年からモンスターボールを受け取る。
「白いボタンの部分をポケモンに当てればいいんだよ。そうすれば捕まる……かもしれない」
「かもしれないって……」
「とにかくやってみなよ。ポケモンを捕まえるには……」
「えっと、こうですか?」
「あ、ちょっと」
 言われた通りフィアはボールのボタンをダンバルに押し付けた。するとボールが開き、ダンバルがその中に吸い込まれていく。
 ボールはフィアの手の中から抜け出して地面に落ちる。するとカチカチと何度か揺れ、カチッと最後に音が鳴ったきり動かなくなった。
「…………」
「これでいいんですか?」
「……あ、うん」
 どうにもリアクションが微妙だった。
「凄いね。ダンバルはかなり捕まえにくいポケモンなのに、ダメージも与えず一発捕獲なんて」
「ダメージ?」
 聞いてみると、ポケモンは捕獲の際、ダメージを与えたり、状態異状にすると捕まえやすくなるらしい。なので捕獲の際は、ダメージを与えてからボールを投げるのがセオリーなんだとか。
 捕まえたダンバルをボールから出す。するとフィアの足にすり寄ってきた。
「随分と気に入られてるね。フィア君にはトーレなーの才能があるのかもしれない」
「そ、そうですか?」
 トレーナーの才能と言われても、いまいちピンとこない。しかし、褒められているようで、なんだが照れ臭かった。
 ポケモンの捕獲以外にも、青年は色々なことを教えてくれた。彼女は断片的かつ端的な説明しかしなかったが、青年は丁寧で分かりやすく教えてくれたので、フィアでも概ね理解できた。
「よく知ってるんですね」
「まあね。幼馴染がトレーナーズスクールっていう、トレーナーの学校で先生をしてて、その繋がりで。そんなことより、変なところで寄り道しちゃったね。早くここから出よう——」
 と、青年が一歩踏み出したところで、ぞわりと、嫌な感覚が全身を襲った。
「っ!」
「……!」
 二人は自然と同じ方向を向く。
 すると、そこにはフィアが吸い込まれたものと同じ、黒い渦があった。あの時よりもよりはっきりと見える。その背後にある、禍々しい影も。
 影は膨張し、拡大する。

 そして影は、暗い世界の扉を開いた。

「な、ま、また……!?」
「こいつは……くっ、なんでこんなに早く……!」
 渦はどんどん大きくなっていく。フィアたちを取り囲むように広がり、真っ暗な空間が延々と続いている。
「な、なに、これ……!」
 街で味わった時以上の恐怖を感じる。四方八方は暗黒が広がるばかりで、逃げ道はない。
 それだけでなく、空間からはなにかが飛び出してくる。ポケモンなのだろうか。どれもこれも、異形の姿だ。街で見たポケモンとはどこか違う雰囲気がある。
「こいつらは……! くそ、よりによってなんて奴らを呼ぶんだよ」
 青年は素早くボールを取り出した。そして、
「出て来いダイケンキ! 吹雪!」
 青年のボール出て来たのは、頭部に一本の立派な角を持つ海獣のようなポケモン。ダイケンキというようだ。
 ダイケンキは口から猛吹雪を放ち、扉から現れた影たちを攻撃していく。大抵はそれだけで吹っ飛ばされていった。
「す、凄い……」
 あっという間に消し飛んだ。どれも凶悪そうだが、青年のダイケンキがいればどうにかなるのではないか。
 そのあまりの強さに、フィアが圧倒されていると、不意に影が差す。
「……え?」
 サッと振り返り、その存在に気付くが、遅かった。
 そこには、うねうねと動く存在。
「あ、ぅ……」
「! フィア君!」
 青年が叫ぶ。同時に、ダイケンキになにか指示を出した。
 フィアに差した影は、腕なのか触手なのかわからない、コードのような黒く長い身体を伸ばす。
 それは、ダンバルに絡み付いた。
「ダンバル!」
 一瞬だった。
 ピカッ、と眩い閃光がフラッシュすると、バチバチバチッ! と電気がスパークした。
「その手を離せ!」
 直後、ダイケンキの角が、黒い影の身体に突き刺さり、吹き飛ばす。ダンバルに絡み付いていたものは解かれたが、プスプスと黒い煙が立ち、ダンバルの身体も焦げている。
「ダ、ダンバル……!」
「フィア君! 早くダンバルを戻すんだ! このままだと取り返しにつかないことになる!」
 青年の言葉でフィアは我に変える。さっきダンバルを捕まえたボールを不慣れな手つきで手に取って、ダンバルをボールに戻そうとする、が
「っ、うわぁ!」
 さっきの黒い影がまたやって来る。
 それは再び黒い触手を伸ばしてダンバルに絡み付くが、今度は電撃を発しない。締め上げるように巻き付く。
 早くボールに戻さなくてはと、急いでボールのスイッチを押すが、いくら押してもダンバルがボールに入らない。光はダンバルに当たっているのだが、そこで霧散する。
「な、なんで……!?」
「巻きつくか。面倒な技を……! ダイケンキ、シェルブレード!」
 ダイケンキは前足の鎧から剣を抜刀。触手を断ち切るように、ダンバルに巻き付く脅威を取り払った。
「さあ早く! ダンバルを戻すんだ!」
「は、はい……っ!」
 さっきと同じようにボールを操作し、今度こそダンバルをボールに戻す。戻す前の傷は、酷過ぎて見ていられなかった。
「早く手当てしないと、ボールの中とはいえダンバルもやばいかもな……でもそれにはまず、こいつらをなんとかしないと……」
 気が付けば、周囲は完全にポケモンに包囲されていた。もう逃げることはできなさそうだ。
「フィア君、イーブイもボールに戻して」
「わ、分かりました。戻って、イーブイ」
 言われた通りフィアはイーブイをボールに戻す。
「さて、どうするか……」
 青年が厳しい面持ちで包囲網を睨むと、一斉に飛びかかってきた。
「う、うわあぁっ!」
「くっ! ダイケンキ、フィア君を守るんだ!」
 ダイケンキはフィアの側に寄り添い、襲い掛かって来るポケモンを薙ぎ払う。
 その時だ。
「っ! 来たか……!」
 青年の言葉と同時に、フィアは顔を上げる。
 黒い渦。それがかなり大きくなっており、その裏側の影も、比例して大きくなっている。

 キルキル ギギガギギゴル ガルギルギキュギュギュ ギャギャキキルルキルキンギキキギグルキグル

 影からおぞましい呻き声が聞こえる。発音が奇怪すぎて何と言っているのか全く分からないが、声も大きくなっていき、やがて、叫び声へと変貌する——

 ギギュ ギギギギガガギガ ギルルルギュルギグルルギ ギギルギグギュル ギルルルルルッ! 

 次の瞬間、黒い渦はさらに大きくなり、フィアたちを吸い込む。

「う、うわぁ!?」
 見えない力に引っ張られ、フィアは態勢を崩す。咄嗟にダイケンキに掴まったが、渦はダイケンキ諸共吸い込む。
「フィア君! ダイケンキ! くっ……!」
 青年の方にも、フィアを吸い込もうとするものとは違う渦が存在していた。あちらも吸い込まれないように体を支えている。
 しかし、それもすぐに限界が来た。渦はさらに吸い込む力を増大させ、フィアも、ダイケンキも、青年も、すべてを吸い寄せる。

 ギギャラギルララ ギルルルルルグ ギラララ ギギギギガガガギルルル ギガルラララギガララ ギガルルルルルルルル———————ッ!

「う、う、うわ、うわあぁぁぁぁぁっ!?」

 そしてフィアは、再び闇の渦に飲み込まれた——



あとがきです。読者の方々には申し訳ないのですが、最初に投稿されていた2話の後に来る予定だった一話分が抜けていたため、2話に統合させていただきました。大変申し訳ありませんでした。