二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第23話 他地方種 ( No.30 )
日時: 2017/01/08 21:29
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

(考えるんだ……あのサンドのおかしな点は、地面タイプのはずなのに、水鉄砲の効果が薄すぎる……それに、氷柱針も使うところ)
 サンドの攻撃が続く中、フィアは思考する。
 フィアの知識なぞたかが知れているが、明らかに目の前のサンドは、おかしい。
 そう、普通ではないのだ。
(……ポケモンのタイプは、そのポケモンの容姿からある程度は推測ができる)
 フィアはある仮説を立てた。
 その上で、ここまで見て考えた、自分のポケモンに対する認識を、少し整理する。
 フィアの観察の一つ。ポケモンのタイプは、そのポケモンの特徴に大きく依存する。
 たとえば、体色。赤い色は炎の色。アチャモやブースターは炎タイプ。
 たとえば、質感。ぬめりのあるミズゴロウは水タイプで、ゴツゴツしているダンバルは鋼タイプ。
 たとえば、性質。葉っぱを咥えているキモリは草タイプで、電気を弾けさせて威嚇するサンダースは電気タイプ。
 これは、炎タイプだから赤いのか、赤いから炎タイプなのか。水タイプがあるからぬめりがあるのか、ぬめりがあるから水タイプなのか。草タイプだから葉っぱを咥えているのか、葉っぱを咥えているから草タイプなのか。それはわからない。卵が先か、鶏がさきかという論争だ。
 しかしタイプを判断するうえでは、それはどちらでも構わない。「A(体色、質感、性質)ならばB(タイプ)」の式を成り立たせるためには、AとBのどちらかの要素さえわかればいいのだ。
(僕の見立てだと、あのサンドは白い……白いタイプって、なんだかわからないけど)
 色から推測するのは、少し難しい。炎だって、高温になれば青白くなるし、白い植物や鉱石もある。
 だから、次の要素から考える。
(質感は、見た感じだからよくわからないけど……硬いのは確か。それに、綺麗だ)
 透き通るように綺麗なサンドの表皮。昨日見たサンドは、砂のようにザラザラで、ゴツゴツしていた。愛嬌のある顔だが、無骨な感は否めない。
 目の前のサンドからはそれは感じない。もっとスマートだ。
(そして、覚えている技は高速スピン、メタルクロー、氷柱針、乱れ引っかきの四つ)
 ポケモンは最大で四つまでしか技を覚えられない。
 性質とは、覚える技から大きく推理できる。ポケモンは覚えている技が、タイプと強く結びついているのだ。
 それは、ポケモンのタイプと技のタイプを一致していれば、技の威力があがるという性質があるから。
(たぶんノーマルタイプじゃないと思うけど、ノーマルタイプの技が二つ……残りは氷タイプと、鋼タイプの技か)
 地面タイプの技は、一つもない。
 ノニのサンドは氷柱針を放ち、水鉄砲でも致命傷にならず、体当たりを余裕で受け切った。
 そこから推理できる、サンドのタイプとは——
(……こんなことってあり得るのかわからないけど、でも、試してみよう)
 自信はないが、時間もない。
 一か八かでも、こうなったやるしかなかった。
「ミズゴロウ!」
 乱れ引っかきの最後の一撃を受けて、後ずさるミズゴロウ。流石にダメージの蓄積が痛い。かなりボロボロだ。
 フィアはミズゴロウに呼びかけた。
 まずは、確認するために。
「そろそろ決めるぞ。サンド、メタルクロー!」
 サンドは鋼鉄の爪を振りかざす。よろめくミズゴロウに爪の一裂きを食らわさんとするが、
「ミズゴロウ、泥かけだ!」
 ミズゴロウは地面を蹴りあげ、巻き上げた泥をサンドにぶつける。
 たかだが泥だ。威力は高くない。
 しかしその泥を受けただけで、サンドは驚いたように後退してしまった。
「今の反応……」
「っ、泥かけ……覚えていたか……!」
 歯噛みするノニ。サンドも、顔に付着した泥を、嫌そうに拭って落としている。
 その様子を見て、フィアはほぼ確信した。
「効いてる……やっぱり、そのサンド……」
「……気付いたのか?」
「え? えと、たぶん……」
 自信なさげだったが、それでも確信しているのだ。
 答え合わせのようだが、フィアは推理した自分の結論を、述べる。

「そのサンド、地面タイプじゃないよね?」

 会場がざわめく。
 地面タイプではないサンド。その意味が理解できない者もいて、小さな混乱が会場内で生まれた。
 一方、その答えを突きつけられたノニは、
「……その通りだ」
 と、答えた。
『こ、これはどういうことでしょう!? サンドが地面タイプではないとは……』
『あぁ、やっぱりねぇ』
『イチジクさんは、なにか知っているのですか?』
「ちょっとだけねぇ』
 机に突っ伏し、今にも寝てしまいそうな状態で、イチジクは言う。
 フィアの言葉が答え合わせなら、イチジクの言葉は解説だ。
 実際、解説訳なのだが。
『聞いたことがあるよぉ。ポケモンは環境に応じて姿形を変えることがある……そうやって変化したポケモンを、リージョンフォームって呼ぶんだってさぁ』
『リージョンフォーム……』
『アローラ地方に出張公演に行ったとき、ちょっとだけ見たことがあったなぁ。ノーマルタイプなはずのペルシアンが悪タイプで、びっくりしたよねぇ』
『そのリージョンフォームというのは、タイプまでも変わるものなのですか?』
『そうみたいだねぇ。ぼくの経験と、あのサンドを見る限りはねぇ』
 環境に応じて姿形が変わり、場合によってはタイプすらも変わる。
 フィアがこの世界のポケモンという存在に抱いていた疑問の一つ。ポケモンは、種族それぞれが独立しており、類似種も明確な区別がつくような存在だ。
 その点などがフィアの知る獣の概念と少しずれていたので、少し戸惑っていたこともあったが、ポケモンにも似たようなものはあるにはあるらしい。
「……リージョンフォームっていうんだ」
「そうだ。おれのサンドはアローラ地方で捕まえた……っていうか、おれは元々アローラ地方の出身なんだ」
「あ、そうなんだ……」
 アローラ地方という地方がどこなのか、どういう地方なのかはまったくわからないが、どうやらノニはよそから来たトレーナーらしい。
「アローラの姿をしたサンドは、地面タイプではない別のタイプを持つ。そのタイプがなにタイプかまでは、教えないけどな!」
「だ、大丈夫……大体、見当はついてるし……」
「へぇ。だったら証明してみな! サンド、氷柱針!」
「っ、躱して!」
 サンドが放つ氷柱針を、ゴロゴロと転がって回避するミズゴロウ。
 ここまで何度か見てわかったが、氷柱針は一度に射出される針の数が、かなり不安定だ。今のは少ない数だった。それゆえに、ギリギリ躱しきることができた。
 転がって体勢を整えると、ミズゴロウは駆け出した。
「体当たりだ!」
「受け止めろ!」
 体当たりはサンドには効かない。受け止められてしまう。
 しかしそれは、体当たりだからだ。
「ストップ!」
「!?」
 サンドに突っ込む直前。フィアの指示で、ミズゴロウは足を止めてしまった。
 そして、
「切り替えて! 岩砕き!」
「しまっ——!」
 頭を下げ、頭突きのように頭から突撃し、サンドを吹き飛ばした。
 フィールドを転がるサンドは呻き声を上げており、かなりダメージが大きいようだ。
「そのサンドは、見た目と技からして、たぶん氷タイプ……それと、もう一つタイプがあるよね」
 それをフィアは、ここまでのバトルと、ありったけの自分の知識をフル稼働して、推理した。
 フィアの推理材料は、全部で三つ。
 一つ、メタルクローを使ってたこと。二つ、体当たりのダメージが小さかったこと。三つ、岩砕きだけは回避に徹して警戒してたこと。おまけで確信に至った四つ、泥かけのダメージの大きさ。
 以上の点から、メタルクローと同じタイプであり、ノーマルタイプが効果いまひとつで、格闘タイプと地面タイプに弱いタイプ。
 即ち鋼タイプ。
 氷と鋼の複合タイプだと、フィアは結論を出す。
「……正解。アローラの姿のサンドは、氷と鋼タイプ。凍てつく力と硬い装甲を持つポケモンだ」
「やっぱり」
 氷と鋼タイプ。共通する弱点は、格闘タイプ。
 だからこのサンドは、格闘タイプの技である岩砕きだけは、避けていたのだ。二つのタイプが弱点となり、大ダメージを受けてしまうから。
「とはいえ、リージョンフォームでもサンドは防御の高いポケモンだ。それなのにさっきの岩砕き、かなり効いたぞ。すごいパワーだ」
 ノニはそうミズゴロウを評価する。
 確かにサンドも、今の攻撃でふらふらだ。かなりダメージを負っている。
 もうあと一息で、サンドを倒すことが出来そうだ。
「だけど、そっちもそろそろ限界だろ。一気に攻めるぞ! サンド、氷柱針!」
「泥かけ! 泥を巻き上げて」
 泥を巻き上げて、襲い掛かる氷柱針を防ごうとするが、泥程度ではすべての氷柱を止めることはできない。何発かは刺さってしまった。
 ミズゴロウは刺さった氷柱を振り落すと、今度は走り出す。
「岩砕き!」
「かわせ! 高速スピン!」
 しかし、がむしゃらに突っ込んでもサンドには当たらない。サンドはカーリングのストーンのように、円盤状に丸まると、高速回転してミズゴロウの岩砕きを躱す。
 氷タイプというだけあって、氷上を滑るような、綺麗な回避行動だ。
 それを見て、フィアは一つ、思い出した。
「……もう一度、岩砕きだ!」
「当たるかよ! 高速スピン!」
 今度は跳び上がり、上からダイブするように岩砕きを放つ。
 しかし線で進む攻撃を避けるのだ。点でしか狙えない攻撃が当たるはずもなく、ミズゴロウはフィールドに派手にぶつかった。あまりの勢いと威力に、フィールドの一部が抉れ、砕け散り、小さな穴が空く。
「水鉄砲!」
「継続だ。高速スピン!」
 頭を振って気を取り直し、ミズゴロウは水鉄砲を噴射する。サンドは回転したまま、放たれる水鉄砲を氷の皮膚と遠心力で弾く。
 砂岩のような皮膚を持つ地面タイプなら、水を吸収してしまうのでこうはいかなかっただろうが、リージョンフォームのサンドの表皮は氷。水は吸収せず、通用しない。
「もっと強く!」
 しかし、ミズゴロウはさらに力を込めて水流を噴射。
 水流の勢い、威力は、どんどん増していく。
「ぐ、この水流は……だが、氷の皮膚を持つサンドが回転している状態では、水鉄砲は効かないぞ!」
 回転して水を弾くも、水鉄砲に押されて前進できないサンド。押し合いのような様相を呈してきている。
「効かなくてもいい……動きを、操れれば……!」
 ミズゴロウは少しずつ立ち位置を変え、水流でサンドを押していく。
「……ストップ!」
 やがて、ピタッと水流が止まる。
 それに合わせて、前進する力を込めていたサンドが、ギュンッと前へ突っ込んでくるが、

ガコンッ

 サンドの動きが、止まってしまった。
「っ、サンド!」
 回転は続けているが、前進しない。
 なぜなら、サンドはフィールドに空けられた、小さな穴に嵌ってしまっているからだ。
「これは、さっき岩砕きで砕いた穴……!?」
『おぉ? あれはぼくのネッコアラに使った手だねぇ』
 フィールドの破壊を利用した、回転運動攻撃を止めるテクニック。
 サンドは回転を止めたが、穴に嵌った拍子にひっくり返ってしまったようで、逆さまにした亀のように手足をじたばたさせている。
「シュンセイジムではしっぺ返しでやられたけど……今度はやられる前に、決める!」
 サンドが起き上がる前に攻撃。
 そしてこの一撃で、終わらせる。
「ミズゴロウ、岩砕き!」
 全身全霊の突撃。ミズゴロウの一撃は、穴に嵌って動けないサンドを吹き飛ばす。サンドは宙を舞い、やがてフィールドへと落下した。
 小柄なわりに意外と重量はあるのか、ドォン! という鉄塊が落ちたような轟音が響き渡る。
 砂煙が舞い上がる中、審判が落ちてきたサンドを覗き込む。
 そして、手にした旗を上げる。
「……サンド、戦闘不能! よって勝者、フィア選手!」



あとがき。まずはお詫びから、前話のあとがきを書くのを忘れてました。まあ、書かなければいけないというほどのものでもないので、ないならないでいいんですけど。バトル大会はリメイク前にもありましたが、今回はちょっと変えてます。下っ端戦でサンドを出した理由はこれ。誰もが分かっていたと思いますけど、アローラサンドです。トレーナーのノニ君もアローラ出身。わかりやすい第七世代要素です。どうせもいいですけど、ノニ君はよくニノと名前を間違えます。作者なのにね。次回はバトル大会二戦目です。お楽しみに。