二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第24話 大会終了 ( No.31 )
日時: 2017/01/09 14:26
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 ハルサメタウン、バトル大会二回戦。フィアの相手は、一回戦でフロルを敗ったイオンだ。
「本当なら決勝戦とかでバトルしたかったけど、ま、しゃーないよねー」
「うん、まあ……」
 陽気に声をかけてくるイオンに対して、フィアは曖昧に頷く。そして互いに、ボールを構えた。
「出て来て、ミズゴロウ!」
「行くよっ、ガーディ!」
 フィアのポケモンはミズゴロウ。そしてイオンが繰り出したのは、赤い犬のような姿のポケモンだ。

『Information
 ガーディ 子犬ポケモン
 どんな相手にも勇敢に立ち向かう
 ポケモンと言われるが、ピンチに
 なると大きく吠えて追い払うこともある。』

「あり、ブースターじゃないのかー」
「うん。だって、イオン君とのバトルで、ミズゴロウには申し訳ないことをしちゃったからね」
「? なんのこと?」
「キモリだよ」
「……あー。そーゆーことねー。理解した」
 初めてイオンとバトルした時、ミズゴロウはなにもできずにイオンのキモリに負けてしまった。
 だがそれは、ただ単純に相性が悪かっただけではない。フィア自身の未熟さのせいでもある。
 それはトレーナーとしての経験もそうだが、その一方で、不利な相手にぶつける知識のなさでもある。
「僕がなにも知らなかったから、ミズゴロウには悔しい思いをさせちゃった。だから、今度はちゃんと、バトルさせてあげたいんだ」
「……オレの手持ち、サンダースとキモリの二体しか知らないはずなのに、よく出せるよ」
 含みのある笑みを浮かべるイオン。
 両者のポケモンが出揃った。あとは審判の合図で、バトルが始まる。
『さあ、いよいよ二回戦も開始されました。フィア選手はミズゴロウ、イオン選手はガーディをそれぞれ繰り出し、バトル開始です!』
 アナウンサーの威勢の良い声がフィールド内に響き渡った。そして、一回戦での戦績を元に軽い解説を入れる。
『一回戦イオン選手は、フロル選手のアチャモを、なんと開始一分足らずで倒しています』
『攻撃が速いというか、攻撃前後の隙がほとんどないから結果的に攻撃速度が高いんだよねぇ。あのスピードにはぼくもやられちゃったよぅ』
『そしてフィア選手は、アローラのサンドのタイプを特定し、勝利を収めています。さあ、この一戦はどうなるのか』
『タイプの上ではフィア君が有利……だけど、そう上手くはいかないだろうねぇ』
 二人の解説をよそに、バトル開始の合図が出され、バトルが始まった。
 フィアとイオンのバトル、先に動いたのは、イオンのガーディだった。
「ガーディ、燕返し!」
 一瞬でミズゴロウとの間合いを詰めたガーディは、鋭い爪でミズゴロウを切り裂いた。
「うっ、ミズゴロウ、こっちも反撃だよ。水鉄砲!」
 ミズゴロウは態勢を立て直し、ガーディに向かって水を噴射するが、
「遅い遅い、躱してニトロチャージ!」
 ガーディはサッと水鉄砲を躱すと、炎を纏ってミズゴロウに突進する。
「ミズゴロウ!」
 ミズゴロウは地面を転がる。効果はいまひとつなのでダメージは少ないが、
『攻撃と同時に素早さを上げるニトロチャージ、鈍足なミズゴロウに対してスピードで攻めるつもりかぁ。苦手なタイプに対する常套手段だねぇ』
 イチジクの言う通り、ここで素早さを上げられるのはミズゴロウにとっては辛い。なので、早めに決めにかかる。
「ミズゴロウ、岩砕きだ!」
 ミズゴロウはガーディに向かって走り出し、岩を砕くような体当たりを繰り出すが、
「バークアウト!」
 直前でガーディはけたたましい叫び声を放ち、ミズゴロウの動きを止めてしまう。
「もう一度、バークアウト!」
 さらに二度目のバークアウトを放ち、今度はミズゴロウを吹っ飛ばす。
「くぅ、ミズゴロウ、水鉄砲!」
 ミズゴロウは起き上がり、息を吸って水を噴射するが、
「ガーディ、炎の渦だ!」
 ガーディも同時に炎の渦を放つ。
 だが普通は、水タイプの技に炎技が勝てるはずがない。これが火炎放射や大文字なら話は別だが、ガーディが放つのは威力の低い炎の渦。このままいけば水鉄砲に打ち消されるのが関の山だ。

 しかし、炎の渦は水鉄砲を突き破り、ミズゴロウを渦に巻き込んだ。

「え……っ?」
『おーっと! ガーディの炎の渦がミズゴロウに決まりました!』
『炎の渦は相手の動きを制限するから戦いづらいよねぇ……それに、バークアウトかぁ』
 フィアも炎の渦で水鉄砲が突き破られるとは思っていなかったので呆然としている。そんなフィアに、イオンは説明する。
「オレのガーディの技の一つ、バークアウト。これは便利な技でねー、攻撃と同時に相手の特攻を確実に下げる技なんだ。その分威力は低いけど、そのミズゴロウに対しては有効だよね?」
「っ……!」
 ミズゴロウがガーディに対して有効打を撃てるのは、水鉄砲と泥かけ。そのどちらも特殊技であるため、バークアウトで威力が下げられてしまっている。
「そんじゃーこのまま決めようか。ガーディ、ニトロチャージ!」
 ガーディは炎を纏い、炎の渦に囚われたミズゴロウに突進する。効果はいまひとつだが、どんどんダメージが蓄積していく。
 そしてミズゴロウの体力が大きく削られ、ガーディのスピードが最高まで達した時、
「燕返し!」
 ガーディは身を翻して、鋭利な爪でミズゴロウを切り裂いた。
「ミズゴロウ!」
 そこでミズゴロウの体力は限界に達し、戦闘不能となってしまう。
「……ごめんねミズゴロウ。タイプでは有利だったのに、君を勝たせてあげられなかったよ」
 そんなフィアの言葉に、ミズゴロウは鳴き声を上げて、頬ずりするようにすり寄る。少し湿っていた。
「ははは……次は勝とうね。お疲れさま」
 そして、フィアはミズゴロウをボールに戻す。
『二回戦、決着です! イオン選手のガーディ、今回のバトルも開始から一分三十秒、速攻で試合を終わらせてしまいました!』
 アナウンサーの声と共に、会場が沸き上がる。フィアはミズゴロウをボールに戻し、イオンに声をかけた。
「負けたよ、イオン君。本当に強いね」
「いやー、まあそれほどでもあるかな? このまま決勝戦も速攻で決めて、優勝しちゃうか」
「あはは……頑張ってね」
 自信満々なイオンの態度だが、何度も言っているように彼は強い。恐らく、この大会の優勝候補と言われて当然の実力を持っているだろう。
 なんにせよ、これでフィアも敗退。あとは、イオンの試合を見届けるだけとなった。



 そして迎えた決勝戦。イオンの相手は、長い銀髪が特徴的な小柄な少女だった。
 イオンのポケモンはサンダース。対するは、背中から炎を噴き出しているヤマアラシのようなポケモン。

『Information
 ヒノアラシ 火鼠ポケモン
 背中の炎はヒノアラシの感情の
 変化で燃え上がる。驚いた時や
 怒った時には特に激しく燃える。』

 現在、イオンのサンダースは持ち前のスピードでヒノアラシを押している。相手を上手く攪乱し、相手の攻撃は避け、自分の攻撃を何度も叩き込んでいた。
「ヒノアラシ、火炎車!」
「遅い遅い! サンダース、電光石火!」
 ヒノアラシが炎を身に纏おうとすると、それより速く接近し、サンダースはヒノアラシを突き飛ばした。
「やっぱり速い……煙幕!」
「煙の乗じて隠れるつもりかー。だったら隠れる前に落とす! 電気ショック!」
 ヒノアラシはとりあえず煙幕で視界を塞ごうとするが、それよりも早く、サンダースの電撃がヒノアラシに襲い掛かる。
 その一撃で、ヒノアラシは戦闘不能になってしまった。
『決勝戦、終了——!』
 アナウンサーの声と、試合終了を告げる合図が鳴り響き、観客たちがより一層沸き上がる。
『イオン選手、ルゥナ選手のヒノアラシを一蹴! 試合時間一分五十七秒と、全試合二分未満で終わらせて優勝です!』
「すごいねイオくん、本当に優勝しちゃった」
「まあ、イオン君ならやるとは思ってたけど、こんなに早く終わらせるなんて……」
 勝敗の結果より、驚きなのは試合時間の短さ。本当にあっと言う間と言えるほど、イオンは速攻で勝負を決めてしまった。
 その後、イオンは優勝賞品であるポケモンのタマゴと賞金の五万円を受け取り、ハルサメタウンのバトル大会は終了した。



「さー、祝勝会だー! 今日は全部オレのおごりだから、気にせず食べて食べて!」
 大会が終わった夜。
 ハルサメタウン内のとあるレストランで、三人は食事をしていた。
 というのも、イオンが祝勝会をあげようと自分で言い出し、三人を適当な店に連行。店のフルコースメニュー三人前を、大会の優勝賞金を使ってポンと払ってしまったのだ。
「い、いいの? 優勝賞金、五万円も貰ったのに、全部使っちゃって……それに、僕たちまで一緒に食べて……」
「いーのいーの。気にしない気にしない。ほら、あれだよ。楽しいバトルのお礼ってね!」
 随分と気前がいい言い分だった。
 この世界の通貨が円ということに驚きを禁じ得ないフィアだったが、物価は違うのかもしれないと思いつつ、テーブルに出された大量の料理はどれも豪勢で、フィアが今まで食べたこともないようなものばかりだった。
 物価が違うとかそんなものではない。見てなんとなくわかる。高級な食材を惜しみなく使った、高級料理だと。これではむしろ、食べることに気後れしてしまいそうだ。
「それに、金なんて出るところから出るんだから、大事に持っててもしゃーないっしょ。使える時に使わなくちゃね!」
「そ、そうかなぁ?」
「そーそー。それより食う食う。このポフレなんて、甘くてすげー美味いよ?」
「うん、おいしー。ありがと、イオくん」
「いいっていいって」
「フロルはまったく気にしないんだね……」
 その図太い神経というか、能天気さが少し羨ましかった。
 とはいえ、料理を出されて食べないのも失礼だ。もうここまで来てしまったのだからと、フィアも食事に手を付ける。
「明日はクナシル島行きの船が出るんだよね」
「みたいだねー。朝の十時に出港だってさー」
「なら、朝は早いね。フロル、ちゃんと起きるんだよ」
「んー、がんばる」
 料理に夢中のフロルはいまいち信用できなかった。
 やはり明日も、自分が起こすしかないだろうと、フィアは諦めた。



「……見つけた。あの子たち、だよね」
 夜の港町。レストランなどの飲食店が並ぶ一角で、一つの人影があった。
 暗がりで姿はよくは見えないが、月光に照らされている神秘的な銀髪だけは、隠しようがなく輝いている。
 さらに足元には、輪っか状の光がいくつもあった。
「ターゲットBF、及びターゲットGF、確認。二人はクナシル島行きの船に乗るのかな? 私も準備しないと……でもその前に、代表に連絡しなくちゃ」
 一度、街並みから外れる。
 誰もいない広場。潮風が吹くと、長い銀髪が揺れた。
 雲一つない夜空には、銀色の月が、孤独を愛しながら浮いていた。
「……今夜は、月がきれいだなぁ」
 星々すらも霞めてしまうような月。
 漆黒の夜空はすべて、彼女の支配下にあるかのようだ。
「こんな夜は、君と出会った日を思い出すね、ブラッキー」
 足元の光る輪に語りかける。月明かりに照らされたそれは、黒いしなやかな姿を見せた。
 それは主人の足元にすり寄ると、小さく鳴き声を上げる。
「……うん、そうだね。お仕事、がんばろっか」
 そうして二人は、夜の闇へと消えていく。
 歩むその先に、月の影を残しながら——



あとがきです。一話に色々詰め込みすぎた感ありますけど、これでハルサメ大会終了です。思えば、ブースターを使っていなかった……でも仕方ないんです。ノニ君のサンドにブースターぶつけたら圧勝だし、イオンとのバトルではミズゴロウ使いたかったんです。ちなみにイオン戦はリメイク前のほぼ使い回しです。いやさ、バークアウトという技を使いたかったので。好きなんですよね、バークアウト。咆哮系の技って、格好良いじゃないですか。ハイパーボイスは別にして。では、次回ですね。やはりリメイク前のシナリオ通りですが、クナシル島へ出航。その船の中で……って感じです。お楽しみに。