二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第25話 船上出会 ( No.34 )
- 日時: 2017/01/09 09:01
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
ハルサメタウンから出港した連絡船は、クナシル島のサミダレタウンという港町に向かっている。
その船の中では、ポケモンバトルができるフィールドがいくつか設置されていた。どうやら目的地に着くまでの暇潰しや、トレーナー同士の交流の場ということらしい。
ポケモンセンター地下もそうだったが、つくづくこういう点でポケモンバトルがこの世界に浸透していることを実感するフィアは、実戦経験を積むためにそこでバトルをしていたのだが、
「モウカザル、火炎車!」
「! ブースター!」
ブースターが炎を纏った猿のようなポケモンに吹っ飛ばされ、戦闘不能となる。
『Information
モウカザル やんちゃポケモン
木の枝や壁、天井など、その場所
にある、あらゆるものを利用して
戦う。炎は威嚇のために用いられる。』
モウカザルにブースターを倒され、フィアの手持ちで戦えるポケモンはいなくなってしまった。
礼儀として、相手のトレーナーに礼を言うと、バトルフィールドのすぐそばに設置してある、自動でポケモンを回復してくれる機械(無料)へと向かい、ボールをセットする。
「……勝てない」
二対二のバトル、十戦中フィアが勝てたのは僅か二戦、それも辛勝。
たまたま強い相手と当たってしまったとも言えるが、自分がまだまだ未熟であると思い知らされるフィア。それ自体は悪いことではないのだが、それでもやはりへこんでしまう。
「フロルはまだ寝てるし……どうしよう、このまま僕も部屋に戻ろうかな」
機械からボールを外しつつ、あまりの敗戦っぷり項垂れていると、フィアは不意に声をかけられる。
「ねぇ君、ちょっといいかな?」
「はい?」
振り返ると、そこに立っていたのは一人の少女だった。
フロルと同じくらいの身長で、目を引くのは腰まである長い銀髪。黒いプリーツスカートに白いブラウスを着ており、黒いトレンチコートを羽織っている。コートはかなり裾が長く、袖もあまりがちで、いまいちサイズが合っていないように見えた。
見るからに子供、というような出で立ちの少女だが、フィアはこの少女を見たことがある。
(この子、昨日の大会の決勝戦で、イオン君とバトルしてた……)
確か、ルゥナという名前だったはずだ。
フィアがルゥナを知っているのは決勝戦を見ていたからだが、ルゥナがフィアを知っているということはないだろう。フィアが試合をしている間はルゥナも試合をしているわけで、ルゥナはフィアのことを知らないはず。
ならばなぜ、彼女はフィアに声をかけてきたのか。
「えっと……僕に何か用、かな……?」
たまらずフィアが少女に尋ねる。すると少女は、ゆっくり口を開いた。
「うーんとね、実はさっきまで君のバトルをちょっと見させてもらったんだけど」
「え……」
さっきまでフィアのバトルを見ていたということは、つまりフィアが惨敗する様を見ていたということ。フィアが勝ったのは最初の二戦、後の八戦は全て負けているから、見られているのはほとんど負け姿だけだろう。
誰に見せるためとかでもなかったが、負け続ける姿を晒していたと思うと、恥ずかしくなる。
フィアがそんな恥辱を感じているのをよそに、ルゥナは笑顔で言う。
「ちょっとアドバイスしたくなっちゃって。お節介だと思ったら、別にいいんだけど」
「えと……」
つまり、フィアがあまりにも負けているものだから、我慢できずに助言をしたくなった、ということだろうか。
フィアとしてはよく分からない申し出は受けたくないし、こんな小さな少女からアドバイスされることに対して恥を感じる程度のプライドはある。
だがルゥナ昨日のハルサメ大会で準優勝したトレーナーだ。成績としてはフィアよりも上。ここは素直に話を聞くべきかもしれないとも思った。
どうしようかとしばらく悩んだ末、フィアは、
「じゃあ、願しようかな……」
「うんうん、決まりだね。それじゃあ、バトルフィールドに——」
と、ルゥナがバトルフィールドに立とうとした時。
バトルフィールドは小さな段があり、その段に躓いて、ドッシーン、と豪快に転んでしまった。
「ひゃぅっ!」
「だ、大丈夫っ?」
漫画みたいな倒れ方だと、一瞬妙な感動が生まれたが、それはさておき。
倒れた拍子に、ボールが散らばり、彼女のポケットからも色々と零れ落ちた。それは財布だったりバッジケースだったり、重要なものばかりだ。
「あぅ、ごめん。つまづいちゃった……」
「いや、気にしなくていいよ。拾うの手伝うね」
「あ、ありがとう」
フィアは落ちたボールやバッジケースなどを拾い上げていく。そんな中、一枚のカードを手に取った。
(トレーナーカード? いや、でもトレーナー認証は全部P・ターミナルに内蔵されてるはずだし……)
トレーナーカードとは別の、身分証明書のようなものだと思いつつ、悪いと分かっていながらもついそこに書かれていることを見てしまう。
(やっぱり名前はルゥナっていうんだ、記憶違いとかじゃなくて良かった。それと、年齢——)
フィアは目を丸くした。そこに書かれている数字は、フィアが想像していたものからかけ離れたものだったからだ。
「じゅ、17歳……!?」
「? そだよ。私は先週誕生日を迎えて17歳だよ。それがどうかした?」
フロルの歳は13歳。なのでルゥナの年齢も、自然とそれぐらいだとフィアは思っていた。しかし、
(17って、部長と同い年……いや、あの人は僕よりも背が高いけど、それにしたってこの背の低さで17っていうのは……)
あり得ない話ではないが、フィアは驚く。フィアにとって年上の女性というのは彼女か母親ぐらいだったので、自分よりも背が低い年上女性というのがいまいちイメージしづらいのだ。
フィアがそんなことを思っているうちに、ルゥナは散らばった物品やモンスターボールを全て拾い上げた。
「さて、これで全部かな……そういえば、君の名前は?」
「あ、えっと、フィア……です」
年上と分かれば、敬語を使わないわけにはいかない。少し違和感を覚えないでもないが、フィアは言葉遣いに気をつけながら名乗る。
「フィア君だね。私はルゥナ、長い名前じゃないけど、ルゥって呼ばれることが多いかな」
いわゆる愛称というやつだ。フロルが博士のことをイーくん、イオンのことをイオくんと言っていたように、この世界にも愛称やあだ名が存在する文化にあるらしい。フィアがいた世界とずれてるのに、変な所で共通しているのだから、戸惑ってしまう。
ルゥナは名乗りを上げると、なぜか胸を張り、
「あと、先輩って呼んでもいいんだよっ」
「…………」
呼んでほしいのか。
フィアは胸中でそう呟いた。
(まあ、確かに年齢でもトレーナーとしても先輩だし、学校では年上の人は皆、先輩って呼んでたし、別に言い慣れないことはないかな)
むしろ、自分がいた世界と似た感覚に浸れるので、積極的に呼んでもいいかもしれない。
「じゃあ、ルゥ先輩で……」
控えめにフィアが言うと、ルゥナはまたしても嬉しそうに明るくなる。こうところは、見た目相応に子供っぽい。いわゆる、お姉さんぶりたい性格、なのだろうか。
フィアがそんなことを思っていると、二人はそれぞれバトルフィールドに立つ。そこでルゥナはやっと本格的なアドバイスに入った。
「さっきまでバトルを何回か見せてもらったけどね、フィア君はもう少し特性を意識するといいよ」
「特性?」
聞いた事があるようなないような言葉だった。彼女や青年から聞いたのか、もしくはターミナルでざっと調べた中にあったのか、はたまたフロルやイオン、イチジクなどが言っていたのか。
なんにせよ、その特性なるものがなんなのか、今のフィアは把握していなかった。
「特性っていうのはね、ポケモンが一つだけ持ってる特殊な力のことだよ。これを意識するだけで、バトルで有利に立ち回れるんだ」
例えば、とルゥナは思い出すように人差し指を頬に当てる。
「君が連れてたミズゴロウの特性は激流。体力が減ってピンチになると、水タイプの技の威力が上がるんだ」
「激流……」
思い返せば、確かに今まで、そのようなことはあった。
たとえば、昨日の大会、ノニとのバトル。サンドの攻撃で満身創痍だったミズゴロウの水鉄砲は、いつもよりも水流が強かったような気がする。
「それと君のブースターだけど、珍しい特性だったね。特性、根性。これも自分がピンチの時——というより、ポケモンが状態異状になった時に発動する特性で、発動すると攻撃力が上がるんだ」
ルゥナの説明を聞き、頷くフィア。彼女の助言は、思った以上に役立つものだった。
「特性は技と同じで、ポケモン図鑑やP・ターミナルで調べられるから、ポケモンを捕まえた時にチェックするといいよ」
「そうですか……ありがとうございます」
今日だけでフィアが覚えた特性、激流と根性。根性に関してはブースターはまだ状態異状になったことがないのでよく分からないが、ミズゴロウは今後、ピンチになった時は積極的に水技を使った方が良さそうだ。
「役に立ってくれたのなら私も嬉しいよ。それじゃあ次は——」
にこやかな笑顔を浮かべつつ、ルゥナ一つ、ボールを取り出した。そして、
「——実戦だね! 私とバトルしよっ!」
あとがき。ほぼ前作通りのシナリオですが、細部をちょっと変えつつ、今回は新キャラ、ルゥナの登場です。覚えてる人と察しのいい人とリメイク前を知っている人は、前話で名前だけは出ていたのを知っているはず。ルゥナは読んでわかる通りちっこい先輩キャラ。抜けているけれども、少なくともフロルよりは頼りになるしっかりした人です。ここいら辺から、今作における重要な要素が入ってくるのですが……それに関しては、次回以降のお楽しみです。