二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第26話 特異体質 ( No.35 )
日時: 2017/01/09 12:52
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 ルゥナとのポケモンバトル。ルールは二対二のシングルバトル。交代はなしとのことだ。
「最初はお願いね、マグマラシ!」
 ルゥナの一番手は、頭と尻尾に炎が噴き出した、胴長のヤマアラシのようなポケモン。

『Information
 マグマラシ 火山ポケモン
 炎の熱風で相手を威嚇する。
 素早い身のこなしで攻撃を
 避けながら炎で敵を焼き焦がす。』

「マグマラシ、ヒノアラシの進化系か」
 つまり、昨日イオンのサンダースと戦ったヒノアラシは、昨日今日で進化したようだ。
「相手は炎タイプ。だったら君しかいないよね、ミズゴロウ!」
 フィアの一番手は水タイプのミズゴロウだ。マグマラシとは相性が良い。
「それじゃあ行くよっ」
 ルゥナの掛け声とともに、マグマラシが駆け出す。それを合図に、フィアとルゥナのバトルが、開始された。
「マグマラシ、火炎車!」
 先手を取ったのはルゥナのマグマラシ。マグマラシは炎を身に纏い、縦方向に回転しながらミズゴロウへと突っ込む。
「ミズゴロウ、岩砕き!」
 ミズゴロウも岩を砕くような勢いでマグマラシへと突進するが、火炎車の方が威力が高く、ミズゴロウは弾き飛ばされてしまった。しかも、
「煙幕!」
 マグマラシは口から大量の黒い煤を吐き出し、ミズゴロウの視界を塞いでしまう。
(うぅ、水鉄砲で反撃しようと思ったのに、これじゃあマグマラシがどこにいるのか分からない……いや)
 視界を遮られて反撃を諦めかけるフィアだったがすぐに首を振る。
 目が見えなくても、ミズゴロウにはレーダーの役割を担うヒレがある。これがあれば、マグマラシが今どこにいるのか把握できるはずだ。
「ミズゴロウ、集中するんだ。マグマラシの居場所を突き止めて」
 ミズゴロウは目を瞑り、ジッと動かずマグマラシの居場所を探る。そして、
「マグマラシ、電光石火!」
 煤の中から猛スピードでマグマラシが飛び出した。だが既にそこからマグマラシが飛び出すことをミズゴロウは知っている。マグマラシが突っ込んでいく先には、マグマラシと向かい合った状態のミズゴロウがおり、
「水鉄砲だ!」
 口から勢いよく水を噴射する。
 マグマラシは自分から水鉄砲に突っ込む形となり、吹っ飛ばされてしまった。
「マグマラシ! 大丈夫?」
 効果抜群の攻撃を間近で喰らったはずだが、マグマラシは力強く炎を燃やし、まだまだやる気十分だ。
「よーし、なら、次はこの手で行くよっ! 煙幕!」
 マグマラシは再び煤を吐き出してミズゴロウの視界を遮ってしまう。
 しかしミズゴロウは視界を塞がれた程度では動けなくなることはない。頭のヒレを揺らしてマグマラシの居場所を探り、その方向を向くが、
「スピードスター!」
「えっ?」
 煙の中から飛び出したのは、無数の星だった。五芒星の星型に圧縮されたエネルギー弾が無数に放たれ、ミズゴロウを切り刻んだ。
「ミ、ミズゴロウ!」
 そこまで高威力の技ではなかったようだが、不意打ちのような攻撃を喰らい、ミズゴロウは思った以上のダメージを受けてしまった。
「畳み掛けるよっ、電光石火!」
 マグマラシはさらに高速でミズゴロウに突撃し、吹っ飛ばす。
 煙幕を張って視界を遮り、その隙に攻撃する。煙などを使う戦術としては初歩の初歩みたいなものだが、それでも有用な戦術だ。だが一度それが破られてしまえば、普通は先ほどルゥナが近接攻撃から遠距離攻撃に切り替えたように違う方向性で攻めてくる。
 フィアはまだトレーナーとしての経験が浅い。それゆえに、対応も遅れがちだ。
「くっ、体当たり!」
「スピードスター!」
 ミズゴロウはなんとか態勢を立て直してマグマラシへと突っ込むが、マグマラシは星型のエネルギー弾を無数に飛ばして動きを止め、
「火炎車だよ!」
 炎を纏って回転しながらミズゴロウに激突し、またも吹っ飛ばす。効果はいまひとつだが、それでもミズゴロウはかなりダメージが蓄積している。そう長くはもたないだろう。
「もう一度、火炎車!」
「み、水鉄砲!」
 マグマラシは再び火炎を纏って車輪のように回転しながらミズゴロウへと突貫。ミズゴロウも口から水を噴射して迎え撃つが、水鉄砲は火炎車の炎を多少削ぎ落すだけで、攻撃を止めることもできずミズゴロウは火炎車の直撃を受けてしまう。
「ミズゴロウ!」
 ミズゴロウは地面を転がりながら吹っ飛ばされていく。それから気力でなんとか立ち上がるが、もう戦闘不能寸前であることは火を見るより明らかだった。
 しかし、その時ミズゴロウに異変が起こる。
「っ、これは……?」
 目には見えないが、フィアは感じた。ミズゴロウからオーラのような、強い気配が漂っていることを。
 そんなフィアとミズゴロウを見て、ルゥナは、
「やっと発動したんだね。それが特性、激流だよ」
「激流……これが」
 ピンチになると水タイプの技の威力が上がる特性、激流。今までは気づかなかったが、こうして意識してみると、はっきりわかる。
「さて、それじゃあ次は、その特性がどのくらいのものか、試してみなよ。マグマラシ、火炎車!」
 マグマラシは炎を身に纏い、車輪のように縦方向に回転しながらミズゴロウへと突撃する。
 普段なら水鉄砲でも押し返せないマグマラシの火炎車。しかし、激流が発動している今ならそれも不可能ではない。
「ミズゴロウ、水鉄砲だ!」
 ミズゴロウは口から勢いよく水を噴射する。その量が通常の水鉄砲の比でなく、大量の水がミズゴロウから放たれ、マグマラシを押し返した。
「凄い……!」
 先ほどまではまったく敵わなかった火炎車だが、それをいとも容易く押し返してしまった。この激流という特性は、かなり強力なものであるようだ。
「思った以上に強力だね……じゃあこっちも、ちょっと本気出しちゃおっかな」
「……?」
 含みのある怪しい笑みを浮かべるルゥナ。
「マグマラシ、火炎車!」
 何事かと身構えてしまったフィアだが、ルゥナは普通にマグマラシに指示を出し、少々肩透かしを食らってしまう。
 だがマグマラシの火炎車は奇妙なものだった。素直にミズゴロウへと突っ込むことはせず、炎を纏いながら真上へと飛び上がっていったのだ。しかも、ルゥナの指示はそこでは止まらなかった。
「+(プラス)!」
 そして、

「スピードスター!」

 次の瞬間、マグマラシは回転しながら炎を纏った星を無数に撃ち出した。
「っ!?」
 空から降り注ぐ炎の星。フィアは驚きを隠せず、驚愕の顔でその様子を呆然と見つめていた。
 その間にも炎の星は全てミズゴロウへと吸い込まれるように向かっていき、切り刻みながらその身を焼いていく。その攻撃にタイプをつけるのなら炎タイプのようだが、威力は圧倒的に火炎車よりも高い。激流が発動するほど体力が減っていたミズゴロウは、その攻撃で戦闘不能となってしまう。
「…………」
 それでもまだ、フィアは唖然としている。何が起こったのか分からない、と言うかのように。
 そんなフィアを見てか、ルゥナは自慢げに胸を張る。
「どう? 驚いた? これが私のTSAだよ」
「てぃー、えすえー……?」
「“特質”って、そのまま言った方がわかりやすいかな?」
 TSA、特質。耳にしたことのない、はたまた本来のそれとはニュアンスの違うように感じられるルゥナの言葉に、フィアは首を傾げる。
「trainer,s special ability……TSA。人体的特殊能力とも呼ばれてるけど、代表が言うには一部の人間のみが発現させられる特異体質……ありていに言えば、トレーナーが持つ特殊な力のことだよ」
 そしてルゥナは、彼女の言う“特質”について説明する。
「フィア君ももっとトレーナーとしての経験を積めば分かると思うんだけど、トレーナーは元々、ポケモンの力を引き出す力を持っているんだ。それの延長線上にあり、トレーナーによって異なる性質を現す力が、特質」
 フィアにはいまいちピンと来ない説明だった。理解がまるで追いつかない。
「今はあまり深く考えなくていいけど、もうちょっと説明するなら、トレーナーがより直接的にバトルに干渉する力、かな」
「より、直接的に干渉する……」
「そしてさっき見せた私の特質は“技合成アルケミア”。技と技を合成することができる力だよ」
「技と技を合成する……? どういうことですか?」
 そのままの意味で捉えれば、二つ以上の技を同時に放つことだろう。 フィアは知らないが、ある程度熟練したトレーナーならポケモンの技と技を掛け合わせることができたりするし、合体技というものも存在する。だが、ルゥナの言う技合成とは、それらとは一線を画すものだった。
「私も感覚でやってるからうまくは言えないけど……こう、二つの技の良いとこ取りをして、新しい技みたいに攻撃する、って感じかな? さっきの火炎車とスピードスターを見たなら分かると思うんだけど、技を合成すれば威力が足し算で高くなるし、効果ももとの技を受け継ぐんだ」
 口で簡単に言うが、それは物凄いことではないのかとフィアは内心思う。
 ポケモンが覚えられる技は最高で四つ。しかしルゥナの技合成とやらは、実質的にその枠を超え、さらには既存の技をパワーアップさせている。
 まだしっくりこないフィアだったが、その能力というものが強力であることだけは理解した。
「さて、ちょっと話が長くなっちゃったね。バトルを再開しようか」
「あ……はい」
 フィアは戦闘不能になったミズゴロウをボールに戻し、最後のボールを手に取った。
「出て来て、ブースター!」
 フィアが繰り出すのは、当然ながらブースターだ。
(特質、か……この世界は、本当に不思議だな)
 この世界は本当におかしなことばかりだ。
「ブースター、アイアンテールだ!」
 ブースターは場に出るなり、尻尾を鋼のように硬化させ、マグマラシへと飛びかかる。
「意外と速いね……マグマラシ、躱してっ」
 ブースターの振り下ろすようなアイアンテールを躱そうとするマグマラシだが、完全に回避することは出来ず、掠めるようにして攻撃を受けてしまった。
「もう一度!」
 攻撃を躱し切れなかったことでマグマラシは態勢を少し崩してしまい、その隙にブースターは追撃の尻尾を放つ。
 今度のアイアンテールはマグマラシのしなやかな体に綺麗に決まり、マグマラシは勢いよく吹っ飛ばされていった。
「っ、マグマラシ……!」
 効果はいまひとつだが、マグマラシもミズゴロウとのバトルで消耗していたため、今のアイアンテールで戦闘不能となってしまった。
「やられちゃったか、戻ってマグマラシ」
 ブースターのフィジカルが思いのほか高かったのか、ルゥナは少々驚きながらマグマラシをボールに戻す。
 これで、ルゥナのポケモンも残り一体。一応イーブンに持ち込めた。
「それじゃ次、行こうか」
 ルゥナは最後のボールを構え、ポケモンを繰り出す。



あとがき。対戦の内容は弄ってませんが、リメイク前にもあった能力……ちょっと名前を変えています。特質、またはTSA。どっちの方がわかりやすいですかね? 一応、作中では人によって呼び方が異なるという設定ですが。ルゥナは特質と呼んでいます。また、技合成も、アルケミア、というルビつき。臆さずグラジオくんにならってみました。いやさ、グラジオはそんなルビふった言い方はしてませんけど。このトレーナーの特殊な力が、今作の大きな特徴ですね。今回はその導入ということで。次回、ルゥナ戦その二です。お楽しみに。