二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第27話 月光進化 ( No.36 )
- 日時: 2017/01/09 14:08
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「出て来てっ、ブラッキー!」
繰り出されたのは、黒豹のような体型のポケモン。漆黒の体の各所には黄色い輪っか模様がある。
『Information
ブラッキー 月光ポケモン
月の波動を受けると力が増大し
全身の輪っか模様が光る。その
輝きは闇を明るく照らす標となる。』
「ブラッキー……このポケモンも、イーブイの進化系なのか」
電気タイプのサンダース、炎タイプのブースターときて、今度は悪タイプのブラッキー。イーブイは本当に様々な進化をするようだ。
「よし、行くよブースター、ニトロチャージ!」
ブースターは全身に炎を纏い、ブラッキーへと駆け出す。だがブラッキーはその攻撃を避けようとせず、地に足をしっかり着けて攻撃を受ける姿勢を取った。
そしてブースターのニトロチャージがブラッキーに炸裂する。しかし、
「っ、踏みとどまった……!?」
普通のポケモンなら軽々と吹っ飛ばすほどのパワーを持つブースター。そのブースターのニトロチャージの直撃を受けてもなお、ブラッキーは地面に足を着け、しっかりと踏みとどまっている。
さらに、
「反撃だよっ。ブラッキー、しっぺ返し!」
ブラッキーはくるりと体を回転させ、細いラグビーボール状の尻尾をブースターに叩き付けた。
「! ブースター!」
先ほどとは逆に、ブースターはブラッキーの攻撃を耐え切れずに吹っ飛ばされてしまった。ブースターは地面を転がっていき、勢いが止まるとゆっくりと立ち上がる。
しっぺ返し。イチジクのネッコアラも使っていた技だ。後出しすることで、威力を高める技。
ブースターのニトロチャージを完全に受け止めるバイタリティに、反撃技のしっぺ返し。このブラッキーというポケモンは、耐久力が高いポケモンのようだ。
「防御が高いなら、とにかく攻める。ブースター、火炎放射!」
立ち上がったブースターは、今度は炎を放射する。激しい炎をブラッキーに噴きつけ、そのしなやかな体を焼き焦がそうとするが、
「効いてない……?」
炎が晴れた時、ブラッキーは悠然と佇んでいた。大きなダメージを受けた様子は一切ない。
「根性があるから毒々が使いづらいけど……これならどうかなっ。穴を掘る!」
ブラッキーは次の瞬間、素早く穴を掘って地中へと身を潜ませてしまった。
「穴を掘る……!? まずい……」
穴を掘るは地面タイプの技なので、ブースターには効果抜群。攻撃力が低いと言っても、弱点を突けばそれなりのダメージは期待できるはずだ。さらにブースターはミズゴロウのように地中の相手の居場所を探ることが出来ないので、回避も難しい。そして、
「っ、ブースター!」
ブースターは地中から飛び出したブラッキーに後ろから体当たりされる。効果抜群なので、ダメージは大きい。
「くっ、アイアンテール!」
「踏みとどまって! しっぺ返し!」
ブースターは反撃に鋼鉄の尻尾をブラッキーへと叩き付けるが、やはりブラッキーは踏ん張って攻撃を耐え、反撃に対する反撃としてこちらも尻尾を振るってブースターに叩き付ける。
ブースターはブラッキーと違って防御は低い。威力が倍増した攻撃を喰らい、体力も限界を迎えつつある。
「うぅ、だったらこれ……ブースター、起死回生!」
ブースターは残った力を振り絞り、ブラッキーへと飛びかかる。
起死回生は残り体力が少ないほど威力を増大させる技。今のブースターの体力は残り僅か、加えて起死回生は格闘技なので悪タイプのブラッキーには効果抜群。上手く行けば、この一撃で戦闘不能まで持ち込めるとフィアは踏んでいたが、
「月の光!」
刹那、ブラッキーの体の輪っかが淡く発光する。それほど強い光ではないが、その光を受け、ブラッキーが今まで受けてきた傷がすべて癒えていく。
そして次の瞬間、ブースターの起死回生の一撃がブラッキーに叩き込まれる。だが事前に月の光で体力を回復していたブラッキーの体力を削りきることは出来ず、後ずさったもののブラッキーはまだ戦闘不能ではない。
そして、
「ブラッキー、しっぺ返し!」
直後、ブラッキーの反撃の尻尾がブースターに直撃。ブースターは大きく吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「ブースター!」
その一撃で遂にブースターの体力は限界を迎え、戦闘不能。即ち、フィアとルゥナのバトルは、ルゥナの勝利となった。
バトル後、フィアとルゥナはポケモンを回復させつつ、軽く歓談していた。
「ルゥ先輩、やっぱり強いですね……ブラッキーなんて、技合成すらされずに負けちゃいました」
結局ルゥナが技合成を見せたのはマグマラシが戦闘不能間際の時の一回だけ。それだけ、ルゥナのトレーナーとしての技術が高いのだろうと思ってフィアはそう言ったのだが、ルゥナは少し戸惑ったようなそぶりを見せた。
「ん、あー……うん。まあ、ね」
「? どうしました?」
「いや、なんでもないよ。それより、フィア君も思ったより強かったよ? 今はまだ未熟かもしれないけど、ぐんぐん伸びそうな感じ。私もうかうかしてたらすぐに抜かされちゃうかも」
と言われて、フィアはイオンにも似たようなことを言われたなあ、と思い返していた。自分では分からないが、フィアには何かしら潜在的な資質のようなものがあるらしい。
「それとフィア君、お願いなんだけど……私の能力、技合成については、あんまり人に言わないでね」
「……? 先輩がそう言うならそうしますけど……なんでですか?」
言ってフィアは、自分の戦術を隠すためだとか、そういうことを思ったが、どうやら違うらしい。
「んーとねー、特質っていうのは今のところわりと世間に浸透してはいるんだけど、否定的な人も結構いるんだよ。中には能力持ってる人の挑戦を受けつけないジムもあるくらいだし……そういう人と諍いを起こしたくないから、私は基本的に自分の力を見せないようにしてるんだ。機関からもそう言われてるし」
「……機関?」
首を傾げ、ルゥナの言葉を復唱するフィア。どこかで聞いた響きだと思いつつ、ルゥナがする説明に耳を傾ける。
「えーっと、まずアシッド機関って知ってるよね?」
「……ええっと、まあ……」
知ってると言っても、名前程度だが。確か、ポケモントレーナーについて研究している組織だと、博士か誰かが言っていた気がする。
「私はそのアシッド機関に所属してて、定期的に私の能力についてのレポートを出してるんだ。能力は視覚では分かりにくいものが多いから、私の技合成みたいにはっきりと能力が発動している様子が確認できるのは珍しいんだって。だからちゃんと研究されるまで、あんまり公の場に晒しちゃいけないんだよ」
「そう、ですか……」
フィアにはやはりよく分からないが、とりあえず他言無用ということだけは理解したので、このことは胸の内にとどめておくことにする。
「ちなみに、特質を発見した第一人者は、アシッド機関の代表なんだよ。ちょっと捻くれた人なんだけど、すっごく頭がいいんだ」
「へぇ、そうなんですか」
研究者や発明家、過去の偉人で俗に天才と呼ばれる人間は変人が多いとフィアは知っているので、反応は淡泊なものだ。そもそもフィアにとってその人物は限りなく無関係の人物なので、特に何も思わない。
「さて、私は定時報告もあるし、船室に戻るね」
「あ、はい。色々とありがとうございました」
「いいんだよ、別に。それじゃ、頑張って」
そう言って、ルゥナは船内の奥へと消えて行った。
「……僕も、もう少しバトルしておこうかな」
もっと、経験を積まなくてはならない。経験を積んで、強くならなければ。
そう思いながら、フィアはバトルを希望するトレーナーが来るのを、待っていた。
「ふぅ……」
一息つきながら、ルゥナは割り当てられた船室に戻る。
船で島々を移動するホッポウ地方は、造船技術が非常に高い。小さな島でもそれなりに大きな船が停泊するので、乗客の人数に対する船の大きさが明らかに大きく、乗客一人に対して一つずつ部屋が割り当てられていた。
ルゥナは荷物を机の上に置くと、P・ターミナルを取り出す。
画面を操作して、インストールしてある通信機能を起動。ただし、ただの通信機能ではなく、特定のコミュニティでのみ使用可能、通信傍受対策が徹底して施されている最新鋭の通信機能だ。主に機密情報の保持のために用いられる機能である。
音が漏れないように、専用のイアホンを接続し、耳に嵌める。しばらくして、真っ白な画面に【GGA】という文字が表示され、イヤホンから音声が聞こえる。
『こちら、アシッド機関エントランスです。お名前とご用件をどうぞ』
「ルゥナです。代表の回線に繋いでください」
『了解です。コード、タイプを肉声で15秒以内に入力してください。どうぞ』
この徹底した機密保持のセキュリティ。最新鋭の技術を駆使したものから、馬鹿みたいに幼稚なもの、原始的すぎるものまで、様々な種類の防衛線を縦横無尽に使い尽くすセキュリティ。
ここまで徹底する必要はあるのかとたまに疑問を感じるが、自分の所属する組織が研究しているものの都合上、そうなるのも致し方ないとは思う。
15秒経過したら自動的に登録している個人情報がすべて削除されてしまうので、ルゥナは急いで、かつ冷静に自分の存在を証明するコード、タイプを、他ならぬ自分の声で入力する。
「LUN154608457。白銀の闇、ルゥナです」
ほとんど無作為に選ばれた文字と記号と数字の羅列。謎のコードネーム。そして、最後に自分の名を名乗らなければ解錠されない引っかけつき。
ミスも許されず、ちゃんと発音しなければ即座に弾かれるので、ちゃんと入力できているかいつも不安になる。
『解錠コード、カラータイプ、声紋。すべて認証しました。代表室の回線に接続します』
しかしそれは杞憂だ。今回も、ちゃんと入力はできたようだ。
希望した回線に接続され、連絡が可能となる。ここまでしないと連絡ができないというのも手間だが、しかし機密保持のためならば致し方ない。
少し待つと、すぐにイヤホンの奥から声が聞こえてくる。
『よぅ、ルゥナちゃん! 定時報告まではちょっとはやいぜ? ケヒャハハハ!』
どこか子供っぽい男の声。人によっては不快感を催すらしいけたたましい笑い声が耳の中で響く。なんだか上機嫌だ。
「ちょうど報告することがあったので。いっしょに定時の方も済ませていいですか?」
『二度も連絡するのは無駄だもんな。合理的なのは悪くないぜ。許可する。で、どうした?』
「ターゲットBFと接触しました。ターゲットGFとはまだですが、すぐに接触可能だと思います」
『そうか。ごくろーさん。んじゃ、引き続き監視、保護を頼むぜ』
これで定時報告は終わり。基本的に詳細は提出するレポートに記されているので、口頭での連絡はこの程度だ。緊急事態が発生したとか、活動に意見があるとか、そのようなことがなければ一分足らずで終わる。
しかし今回ルゥナは、それだけで終わらなかった。
気になっていることがあったのだ。
「……あの、代表」
『なんだ?』
「どうして私たち……というか私が、こんなことを……? こういうこと、とても代表がやりそうなこととは思えないんですけど……」
三日前の夜のことだ。
いつものように自分自身の力について究明するため、ホッポウ地方を巡っていたルゥナは、代表からの連絡を受けた。それは、指令だった。
内容は、とある人物——ターゲットBF、及びGFの二名の監視、保護だった。
あまりに急な指令で、内容も自分たちの目的とは外れているように思えたが、他ならぬ代表から直接下された指令だ。受けないわけにはいかなかった。
もっとも、ルゥナが選ばれたのは、性格的なところもあったが、それ以上にたまたまターゲットの一番近くにいたという、ただそれだけのことなのだが。
『あー……ま、いいか。ルゥナちゃんには言っておくぜ。頼まれたんだよ』
「頼まれた? 誰に、ですか?」
『大昔にやり合った前代英雄……ま、ちょっとした昔馴染みだわな。ちぃっと心配性なところがあってな、不安だから僕んとこの職員使って見といてくれってよ。ったく、あいつの頼みじゃなけりゃ、ぜってーに引き受けなかったぜ。ケヒャハハハ!』
「……なんだか、楽しそうですね」
『どこがだよ。ま、そういうわけだ』
「はぁ。まあ、とりあえずは、大体は理解できました」
『保護っつっても、そんなに手ぇ出さなくていいぞ。あくまで最低限かつ最小限、そしてルゥナちゃんのレポートを優先させてくれ。僕らにとっちゃ、そっちの方が優先事項だからな』
「はい。わかりました」
誰かに頼まれた、という理由は意外だった。自分で頼む、というか押し付けることはあっても、とても他人の頼みを素直に引き受けるような人だとは思わなかった。
しかし、結局は自分たちのことを最優先、というのは、如何にも代表らしかったので、少し安心した。
これ以上連絡することもなく、ルゥナは回線を切った。
それとほぼ同時に、船内にピーッ! という警笛のような音が鳴り響いた。そして同時に、アナウンスが流れる。
『サミダレタウンに入港しました。船内にいるお客様は、下船の準備をしてください。繰り返します——』
あとがき。今回は語りたいことたくさんありますが、本編が長いのでさっくりと。やっぱりブラッキーはいいですね。以上です。次回、サミダレタウン編をお楽しみに。