二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第4話 北方地方 ( No.5 )
日時: 2017/01/03 13:47
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「……成程な。つまりお前は、その部長とかいう女に連れられて、この世界に来た。言っちまえば、異世界の人間、ってわけか」
「えっと……はい、たぶん……」
 ダイケンキを運び、フィアは博士と少女と共に、ポケモン研究所なる場所を訪れていた。
 研究所と言っても、外装は普通の家とあまり変わらない。ログハウスのような木造の家屋で、中にはよくわからない機械がたくさん置いてあるものの、テーブルに椅子、ソファ、カーペットといった家具、エアコン、冷蔵庫といった家電に、シンクや水洗トイレといった設備に至るまで、フィアの知るそれとほぼ同じだ。出された飲み物も、ごくごく一般的なコーヒーである。
 自分の知識内のものに安心しながら、フィアは今までの経緯をすべて、博士と少女に話した。
 博士はフィアの話を、神妙に聞いていた。その表情には、信じられない、と言わんばかりの驚きも混じっている。少女も少し困惑していたが、彼女の場合は、そもそもあまり理解できていない様子だった。
 とはいえ、こんな荒唐無稽な話、とても信じてもらえはしないだろうと、フィアは思っていた。今の自分は、あったことをそのまま伝えることしかできないが、自分で話していて、冷静に考えてみると、あまりに非現実すぎる。頭が狂ったと言われても仕方ないような、おかしなことを口走っていると、自分でも感じるほどだ。
 しかし博士は、頷いて納得の仕草を見せた。
「とでもねぇ話だが、この世界は超常現象の塊みてぇなもんだしな。異世界から野郎が来たところで、そこまで驚きはしねぇ」
 その返しにフィアとしては驚きなのだが。
 しかし超常現象の塊というのがどんな世界なのか、フィアには想像しがたいものだったが、ついさっき自分が経験したことが頻発する世界だとしたら、おぞましいの一言に尽きる。流石に、博士の冗談だとは思うが。
 フィアの話を飲み込むと、今度は博士の方から切り出した。
「さて、そんじゃあ異世界からやって来たお前に、かるーくこの地方について説明してやる。ここはホウエン、ジョウト、カントーのずっと先、シンオウ地方のすぐ北にある、三つの島と一つの諸島からなる地方。ホッポウ地方だ。そんでここは三つの島で最小の島、シコタン島の南に位置する町、ハルビタウン」
 なんとか地方についてはまだ気にしなくていいと付け足し、博士は続ける。
「この地方の特徴は、各島の性質、風土に合わせて多種多様なポケモン生息していること。そして、それらの環境の中で育まれたことで、他の地方では覚えない技を覚えること。だがそれと相反するように、この地方で発祥したポケモンが存在しないことだ」
「発祥したポケモンがいない……?」
「ああ。ホッポウには、この地方にはを原点とするポケモンが存在しない。いやさ昔はいたらしいんだが、今は絶滅しちまったって話だが、ま、そんなことはどうでもいい」
 少なくとも今のお前にとってはな、と博士は言った。
「重要なのは、お前がこの世界に飛ばされたことだ。恐らく伝説のポケモンが絡んでるんだろうな。可能性としてありそうなのは、シンオウ地方の神話で伝えられている、パルキアが怪しいか。ここはシンオウから近いし、なにせ空間を司るポケモンだ、次元の壁を超えることくらい造作もないだろう」
「え、ポケモンってそんなことまでできるんですか……?」
「まぁな。つっても伝説のポケモンだからこその力だが」
 となると、フィアや彼女、あの青年を飲み込んだ渦の裏側にいた影も、伝説のポケモンなのだろうか。
「……ま、こんなとこでそんなこと言い合っててもしょうがねぇ。今は行動あるのみだ……なぁ、お前」
「はい……?」
「お前、元の世界の戻りたいか?」
 勿論、と即答したかったが、フィアの性格上、それは無理だった。しかし。
「と、当然です。一刻も早く戻りたいですよ」
 元の世界に戻りたい、という気持ちは、今のフィアの大部分を占めている。なので、彼にしてははっきりと、そう言った。
「よっしゃ、なら決まりだ。フィア、お前にはホッポウ地方を旅してもらう」
「え……?」
 あまりにも唐突だったので、フィアは呆然とする。しかし博士は構わず続けた。
「正式に資格を持ってるわけじゃぁねぇが、俺も研究者の端くれだ、お前がなんでこの世界に飛ばされたのか興味がある。だが、それを知るはあまりにも情報が少なすぎるんでな。お前には俺の研究の手伝いをしてもらいつつ、元の世界に戻るための手掛かりを探す。どうだ、一石二鳥だろ?」
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。旅なんて僕には無理ですよ!」
 フィアの常識では、未成年の一人旅なんてありえない。危険だし、なによりフィアはその手の技術や知識がない。
 だが博士は、そんなフィアの主張を否定する。
「んなこたねぇ。この世界じゃ、10歳になればトレーナーになって旅に出られるんだ。逆に言えば、それくらいこの世界は旅人に対して親切になってるってこった。俺の息子も13ぐらいの時に旅立ったしな。それだって、一般的なトレーナーの旅立ちとしては遅いくらいだぜ?」
 博士はそう言うものの、フィアからすれば不安ばかりだった。フィアの感覚では、旅とは生死を賭けるような所業。生半可な覚悟では到底不可能なことである。
「覚悟がいんのはなにするにしても同じだ。それに安心しろ、付き人も用意してやる。なぁフロル」
「えっ? わたし!?」
 急に話を振られて慌てる少女。今の今まで名前も聞かなかったが、フロルというらしい。そういえば、博士の名前も聞いていない。彼女からは、イーくん、などと呼ばれていたが。
「たりめーだ。お前もそろそろ旅立ってもいい歳だろ。俺が前に渡したポケモンだって、きっちり進化させたじゃねぇか」
「で、でも……」
「大丈夫だ、自信を持て。お前よりフィアの方が、この世界では初心者なんだぜ? お前がサポートしてやってくれや」
「う、うん。イーくんがそう言うなら……」
「うっし! じゃあ決定だ!」
 博士はポニーテールを跳ね上げるように勢いよく立ち上がった。
「とりあえず今日はもう休め。そんでもって明日また研究所に来い。その時が、お前らの旅の始まりだ」



 ……こうして、半ば強引にフィアとフロルの旅は始まった。フィアは元の世界に帰る手掛かりを探すため、フロルはフィアのサポートと、ポケモントレーナーとして己を鍛えるために——



 夜。
 フィアは、明日の準備と言って部屋にこもっている博士の下を訪れた。
「あの、博士……」
「なんだよ、こんな夜中に。明日は早い。さっさと寝ろ」
「その……少し、お話が……」
「……なんだよ。言ってみろ」
 博士は手を止めて、フィアの方へと向く。
 彼の手には、一つのボールが握られていた——



あとがきコーナー。今回はちょっと短め。ここで初めて明かされましたが、今作の舞台はホッポウ地方。モデルは北方領土です。作中の島の名前も、それに属する島の名前をもじっています。確か北方領土って、シンオウ地方のポケモンリーグあたりの一部だった気がしますが、気にしません。いやさ、気にはします。そのうち説明します。タブンネ。次回はフィアとフロルの旅立ちです。研究所では通例のイベントが行われる……予定です。次回もお楽しみに。