二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第28話 五月雨港 ( No.58 )
- 日時: 2017/01/16 14:17
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
クナシル島は、ホッポウ地方で二番目に大きな島。そして、シンオウ地方に最も近い……というより、クナシル島の最南部はシンオウ地方に分類されるそうだ。そのことについて、ホッポウはシンオウと少しばかり揉め事を起こしているようだが、それはまた別のお話。
クナシル島で最も大きな港町、サミダレタウン。規模も活気もハルサメタウンとは大違いで、人込みの喧騒がいたるところから聞こえてくる。ドーム状の巨大な建物と、様々な島や他の地方からの船も受け入れるための複数のポートが特徴だ。
このサミダレタウンは、言わばホッポウ地方の玄関といった場所なのだ。
「わぁ、おっきい街だねぇ」
「うん。かなり活気があるね」
フロルやイオンと共に船から降りたフィアは、軽く街を散策した後、イオンと別れ、ポケモンセンターで部屋を取って休んでいた。
「フロル。明日も朝早いんだから、ちゃんと起きるんだよ」
「むー。フィアってば、もう明日の話してる……」
「フロルは一人じゃまるで起きられないじゃないか……遅刻して不戦敗なんて、流石に悲しすぎるよ」
そんな話をしていると、ふとフロルの顔に影が差す。
「……イオくん、残念だったね」
「うん……そうだね」
街の散策中に見つけた、バトル大会の広告。
どうやら明日、このサミダレタウンでもバトル大会が行われるようだ。
バトルの経験が積めるということで、フィアは勿論参加するつもりだった。フロルもそれに同調したが、意外にもイオンは違った。
彼曰く、
「この大会も、バッジの個数で参加者が分かれるんでしょ? フィア君たちとバトルするのも楽しいけどさ、オレとしてはもっと上の相手と戦いたいんだよね。だからとっととバッジゲットして、次に進みたいから、今回はパスかなー。お互いバッジの数を増やして、また次の大会でバトルしようよ。じゃーねー!」
と、いうことだった。
言葉をかなり選んでいたようだが、ハルサメの大会は、彼としては満足のいくものではなかったのだろう。
それは初戦で戦ったフロル、二回戦で戦ったフィア、決勝戦で戦ったルゥナも含めてだ。
この街はハルサメタウンよりも大きく、より多い人数の参加者が集う。それでも、バッジの個数によって振り分けられる参加者のレベルは、イオンにとっては物足りないだろうことは、察しが付く。彼は、バッジ一つのトレーナーのレベルではない。
一緒の大会に出ないのは少し残念だったが、彼の選択をフィアたちが止めることもできない。
(それに、僕もずっとイオン君に甘えてばっかりじゃいられないからね……)
シュンセイジムでの活躍は感謝しているが、また次のジムでも彼の力に頼るようなことはしたくなかった。
この世界に不慣れなフィアだが、適応するというのは楽をすることではないのだ。
シュンセイジムで痛感した自分の不甲斐なさ。そこから、イーブイの進化、バトル大会、ルゥナの教え——短い間だったが、様々な物事を経験し、知識も得た。
ジム戦から二日しか経っていないが、この大会はその間につけた力を、一人で、試す時なのだ。
そして翌日。
フロルを起こすのに四苦八苦しながらも、フィアはフロルと一緒に、バトル大会が催されるドーム、ポケモンバトル専用の特設フィールドが設置されているらしいスタジアムに来ていた。
「……凄いな」
フィアは心の底から驚いていた。自分たちが参加するレギュレーションは、新米トレーナー向けのもの。なのでそこまで活気があるとは思っていなかったのだが、観客席はほぼ満席。相当数の人が観戦に来ている。
「こんな中でバトルするのは流石に緊張するなぁ……フロルは大丈夫?」
「え? なにが?」
緊張の有無を聞いたのだが、フロルはきょとんと首を傾げているだけだった。どうやら、まったく問題ないようだ。
とその時、二人のターミナルにメールが送信された。
「トーナメント表だ……やっぱり大きな大会なだけ会って、参加人数も多いね」
試合回数は、一回戦、二回戦、三回戦とあり、それらを勝ち抜けば準決勝、そして決勝戦。優勝するためには五回も勝たなければならないことになる。
当然ながらトーナメント表にイオンの名前はない。代わりに、違う名前が目につく。
「! ルゥ先輩……!」
ルゥナだ。彼女も、この大会に出ていたようだ。
しかしフィアからは離れたところに名前がある。完全に逆ブロックで、決勝まで行かなくては戦えそうにない。
そこからフィア寄りのところには、フロルの名前もあった。
「フロルは……」
かなり離れている。ここまで離れていると、準決勝までいかないと当たらない。
サミダレタウンは大きな街で、そこで開かれる大会も大きい。勝ち抜くのはそう簡単なことではないはずだが、
「フィア、がんばろう」
「フロル……」
「がんばって勝ち抜いて、準決勝で戦おうよ」
フロルは小さな拳を握り、自身を鼓舞するようにそう言った。
「……そうだね」
そのフロルの発言が気を紛らわせるためなのか、それとも本気で言っているのかフィアには判断つかなかったが、フィアはこの大会を勝ち抜くのは簡単でないと分かる。だがそれでも、そんなことを言われてしまえば、決勝に行こうと思わざるを得ない。
——間もなく、サミダレタウン大会一日目、ビギナーカップ一回戦が開始されます。出場選手は、所定の対戦フィールドに移動してください——
「……もう時間だね。それじゃあフィア、がんばって」
「うん、フロルも」
アナウンスが流れ、フィアとフロルは一旦別れる。そして、各々指定された対戦フィールドへと向かうのだった。
フィアの一回戦は、驚くほど拍子抜けだった。
昨日はフロルに、起きないと不戦敗になるよ、とわりと冗談でなく脅したりしたものだが、まさか自分がその逆パターンを味わうことになるとは思わなかった。
不戦敗の逆。つまりは、不戦勝。
フィアの一回戦は、戦わずしての勝利だった。
「ラッキーと考えるべきなのかな、これは……」
フィアは経験を積むために出場しているので、バトルがないというのは、なんとなく残念な気持ちになる。
「それにしても、相手の人もなんか変だったな……」
お互いにフィールドに立ち、いざポケモンを繰り出そうとした時、相手はポケモンを出さなかった。
いつの間にかポケモンがいなくなっていたと喚いていたが、ボールに入ったポケモンが勝手にいなくなるわけがない。道端に落としたか、部屋に忘れたか、といったところだろうが。
「……まあ、僕には関係ないよね。フロルとは準決勝で会う約束だし、ルゥナ先輩ともまたバトルしたい。不戦勝だけど、この勝利はありがたく受け取っておこう」
勝ってしまったものは仕方ない。可哀そうだが、相手のトレーナーはご愁傷様でした、と言ってやるほかなかった。
あとがき。遂にサミダレタウン。ここでもバトル大会です。よく考えたら、直前で大会してるのにまた大会かよ、と思います。昔の自分の考えることはよく分かりません。大筋はやっぱり変わってませんが、イオンが今大会に参加してない理由を明確にしたり、試合回数、対戦カードなどに変更を加え、それに伴って新しいシーンを追加したりしてます。リメイク前よりも描写が多く、カットよりも追加要素が多いので、伏線込み込みで話が以前より長くなってしまいますが、ご勘弁ください。では次回、サミダレタウン大会、本格的に始動します。お楽しみに。