二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第29話 助言忠告 ( No.59 )
日時: 2017/01/17 01:24
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「ミズゴロウ、水鉄砲だ!」
 ミズゴロウは口から大量の水を噴射し、熊のぬいぐるみのような姿のポケモンを吹っ飛ばした。

『Information
 ヌイコグマ じたばたポケモン
 ぬいぐるみのような見た目に
 騙されてはいけない。腕を振り
 回す力はプロレスラーも吹っ飛ばす。』

 ヌイコグマは派手に吹っ飛ばされると、そのまま地面に叩きつけられ、目を回して戦闘不能となった。
『二回戦決着ぅ! フィア選手のミズゴロウ! ヌイコグマのじたばたで接戦になるも、激流の特性を発動して勝利だぁー!』
 アナウンサーの高らかな叫び声が響き渡り、会場内は一気に湧き上がる。
「なんとか勝てた……」
 体力が減ると威力が増加するじたばたには苦戦させられたが、こちらも体力が減ることで水技の威力が増加する激流の特性を発動させ、最後の接戦を制することができた。
 対戦相手に一礼してから、フィアは汗を拭いつつ、フィールドを後にする。



 フロルと共に一回戦を突破したフィアは、続く二回戦も辛く勝利を収めて、三回戦進出を決めた。今のところは順調だ。
 緊張と興奮が入り混じった気分で、会場ロビーへと戻ると、見覚えのある長い銀髪が目に入った。
 その人物もこちらの存在に気付いたようで、たったと小走りでこちらに向かってくる。
「フィア君っ!」
「ルゥ先輩……」
 ロビーに戻ってきたフィアを迎えたのは、ルゥナだった。彼女の方が対戦が早いブロックだったので、先に試合が終わっている。フィアのバトルが終わるのを待っていたのだろうか。
 軽く周囲を見回すが、フロルの姿はない。まだ試合中だろうか。
 などと思っていると、ルゥナがこちらに笑顔を向けている。
「二回戦突破おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
「連絡船で私が教えたこと、ちゃんと実践できてるみたいで安心したよ。特性を理解して使いこなさないと、強いトレーナーにはなれないからねっ」
「そう、みたいですね……」
 特性の強さは、フィアも実感していた。
 知って使うのと知らずに使うのとではまるで違う強さだ。まだミズゴロウの特性しか発動させたことはないが、ピンチになるとパワーアップする激流は、ここぞというところで頼りになる。
 ルゥナに特性のことを教わって、本当に良かったと思う。それと同時に、彼女への感謝も募る。
「ところでフィア君、次の対戦相手のチェックはしてる?」
「次の対戦相手? いえ……」
「じゃあ、ちゃんと見ておいた方がいいよ。記録は残されてて、P・ターミナルを使えばいつでも閲覧できるから」
 と、自分のP・ターミナルを操作して、閲覧の仕方を教えてくれるルゥナ。至れり尽くせりだ。
「対戦相手を知ることは、こういう大会では重要だからね。しっかりチェックするんだよ」
「そうなんですか?」
「当然! 知は力。情報は勝負の基本だよ。対戦相手の今までのバトルを見れば、相手がどういうポケモンを使って、どういう技で攻めて、どういう戦術を用いるのかがわかる。それがわかれば、対策も立てられるし、準備もできるでしょ?」
「はぁ、確かに……」
 とはいえ、フィアの知識と戦力では、どのような対策を講じればいいのか、また対策できるだけの力があるのか、不安ではあるが。
「特に次は三回戦。二回戦までを勝ち抜いてきた強者揃いだから、しっかり準備しておかないとね」
 しかしルゥナの言うことももっともだ。元の世界でも、同じようなことを言っている軍師を思い出す。
「それともう一つ。フィア君に、次のステップに行くためのヒントをあげる」
 ピッ、と人差し指を立てて、ルゥナはウィンクする。
「次のステップの、ヒント、ですか?」
「そう。フィア君もバトルの基本は押さえて来たみたいだし、次はテクニック編ね」
 基本を押さえたと言っても、それは初歩の初歩的な段階であり、まだまだ知識不足な感は否めないのだが。
 それでもルゥナは、次の段階に進める信じていた。
「あのねフィア君、ポケモンの技は、攻撃するためだけにあるんじゃないんだよ」
「……?」
 いまいち言っている意味がよくわからなかった。
 技は攻撃するためだけにあるわけではない。変化技は確かに攻撃ではないが、そういうことでもなさそうだ。
「もちろん、ポケモンの技は攻撃して、ダメージを与えることが基本だけど、技の使い方はそれだけじゃない。トレーナーの発想次第で、無限の使い方が生まれるんだよ」
「?」
「むしろ混乱させちゃったかな……えぇっと、そうだなぁ……」
 まるで理解を示さないフィアに、ルゥナも困惑していた。
 しばし考え込むルゥナ。そして、例を出しつつ説明する。
「たとえば、炎タイプの技に、火炎放射ってあるよね」
「はい。僕のブースターも覚えている技、ですよね」
「炎にはものを燃やす性質があって、木や草を燃やすことができる。これはわかるよね?」
「それは、まあ、勿論……」
 ふと、元の世界のことを思い出した。
 “彼女”とあの世界で初めてポケモンに出会った時。灯油缶に引火させて大爆発を起こさせられた。炎とはかくも恐ろしいものだ。
「でも炎っていうのは、熱の塊でもあるの。だから水を蒸発させたり、鉄を柔らかくしたり、溶かしたり……色んな使い方ができるよね」
「えっと……そ、そうですね」
 言っていることは理解できた。フィアも固体、液体、気体の基本的な性質や、金属の熱伝導くらいは知っている。
 しかし、それでなにを伝えたいのかは、いまいちよくわからない。
 そう思っていると、ルゥナはさらに例示する。
「炎が強ければそれだけ高温になって、水技を打ち消しやすくなる。鉄に吹き付ければ熱伝導で、直接当てなくてもダメージになる。こんな使い方もあるんだよ」
「あ、成程……」
「他にも、広く拡散させるように放ったってめくらましに使ったり、上に鼻って火の雨にしたり……ポケモンの熟練度次第なところもあるけど、技の広がりは無限大だよ」
 単純に技を繰り出すだけでなく、その技でなにができるのか。どんな用途があり、どんな風に応用が利くのかを考える。
 ルゥナは、そういうことを言っているのだろう。
「ただ技を打ち合うだけのトレーナーは強くなれないよ。技の可能性を広げて、自分なりの工夫をしないとね」
「は、はい。やってみます……!」
 その点ルゥナは、技合成で技の広がりを持たせることができるので楽そうだな、と思ったりもしたが。
 今まではあまり考えなかったが、技をただ放つだけでなく、応用して使うことも意識する必要がある。その点では、“彼女”が灯油缶を用いて爆発を起こしたのも、技の広がりの一つと言える。
 次の対戦相手のチェック。それから、技の応用。
 この小さな先輩は、初心者な自分に精一杯のアドバイスをしてくれている。その助力には、応えたいと思う。
「私からのアドバイスは、ひとまずこれでおしまいっ。お互い次の試合があるし、この辺にしとこうか」
「はい、ありがとうございました」
「いいよいいよ。それよりも、私の言葉、忘れないでね」
「……はい」
「いい返事だね。じゃ、頑張ってね……あ」
「ま、まだなにか?」
 去り際に、思い出したように声を上げるルゥナ。まだ言い残したことがあるのだろうか。
「いや、ちょっとフィア君にも注意しておいた方がいいかなって」
「な、なにがですか?」
 こちらに向き直るルゥナ。
 初めて見る、真剣で、真摯で、剣呑さすら感じるルゥナの眼差し。
 彼女は重い口振りで、フィアに告げた。

「今回の大会ね——ポケモンの紛失事件が起きているの」



あとがきですね。今回はフィアの二回戦突破。相手がヌイコグマなのは、元々が同じ格闘・ノーマルタイプで、熊のぬいぐるみを模した非公式ポケモン、テディがここで登場したので、セルフオマージュ的な? どっちも熊のぬいぐるみなので、合わせた感じです。ただそれだけです。本題はそこではなく、それに続くルゥ先輩のありがたいお言葉の時間ですけど。小説やアニメならではな、ゲームでは再現できない技の多様性については、いまいち上手く表現できた気がしないです。でも、伝わってくれてますかね? ちなみにリメイク前はここで出迎えるのはフロルで、対戦動画が見れることとかはサラッと流す程度だったんですけど、今回はちょっと文章マシマシです。ルゥナは完全にフィアのポケモンバトルアドバイザーと化していますけど、技合成の力を持つ彼女だけに、技そのものについての言及は適役だったかなと思います。ククイ博士が出て来ないのが悔やまれますね。では次回、待望の三回戦……までいけるといいですね。ルゥ先輩のお話だけで終わっちゃいそうですが、お楽しみに。