二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第30話 電撃少年 ( No.60 )
日時: 2017/01/18 00:18
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 ポケモンの紛失事件。
 事件という言葉から感じる、明らかに危険なにおい。
 それと同時に違和感の残る言葉選びに、フィアは首を傾げる。
「紛失? 失踪、じゃなくてですか?」
「今のところ、なくなってるのはモンスターボールごとだから、紛失が正しいと思うよ。ポケモンがひとりでにどこかに行ったってわけじゃないからね。そのせいで、バトルができなくて、大会参加を辞退するトレーナーが結構出てるみたい」
「それって……」
 フィアの一回戦の相手も、同じだ。
 ポケモンがいなくなっていて、バトルができない。そう言っていた。
「大会に影響が出ているとはいえ、大会参加者のポケモンだけがいなくなっているわけじゃないみたいで、大会と直接関係ないっぽいし、大会そのものの運営に支障をきたすから、まだ公にされてはいないんだけど……たぶんこれ、窃盗事件だよ」
「せ、窃盗って……ポケモン泥棒、ってことですか?」
「うん。普通に考えたら、大会参加者を辞退させて、自分が有利に勝ち抜くためだろうけど、それにしては狙ってる相手がバラバラすぎるんだよね……」
 困り気な表情を見せるルゥナ。
 ここまで口振りからして、彼女はポケモンが紛失したトレーナーと、それによって大会を辞退したトレーナーを把握している。彼女もあくまで大会の一参加者なはず。にもかかわらず、そんなことを把握しているということは、
「ルゥ先輩は、その犯人を追ってるんですか?」
 以前、アシッド機関という組織で働いているとも言っていた。もしかしたら、その仕事の一環なのかとも思ったが、
「追ってるってほどでもないけど、ちょっと気になるから個人的に調べてるの。本部にちょっとお願いして、名簿を見せてもらってね。トーナメント表と大会参加者の名簿を見比べて、犯人っぽい人の目星をつけようとしたんだけど、不戦敗になった人の規則性が見いだせなくて、ちょっとお手上げ状態かな」
 どうやらフィアの考えすぎだったらしい。
 大会を辞退させて勝ち抜くつもりなら、少ない対戦回数で勝ち抜いている人物がいるはず。しかしルゥナが言うには、二回連続で不戦勝になっている選手はいない。どころか、バトルするはずの二人ともが辞退するという対戦カードもあるらしい。
 捜査を攪乱させるためという線も考えられるが、ポケモンの窃盗はあまりにもリスクが高い。大会参加者以外のポケモンもいなくなっているとのことだが、攪乱させるためだけに、わざわざここまでするだろうか。
「いまいち犯人の意図も目星もつかないんだけど、逆に言えば、今回の事件が窃盗であれば、無差別に行われているとも考えられるからね。むしろ、現時点の情報から推理すれば、その可能性の方が高い。だから、どんな人でも被害者になり得る……とにかくフィア君も気をつけて。ポケモンは、トレーナーにとって大事なパートナー。ポケモンを守ることも、トレーナーの義務だよ」
「は、はい……気をつけます」
 ポケモンがいなくなって、バトルができない。そんなことには絶対になりたくなかった。
 この世界に来てから日が浅いフィアだが、ポケモンとの関係がどれくらい大事なものかは、少しくらいは理解しているつもりだ。ポケモンがいなくては旅を続けられないという、実利的な考えなんて関係ない。今いるポケモンたちに、いなくなって欲しくはない。
 フィアは、ギュッとベルトのボールを一つ、握り締めた。
「っと、ごめんね。脅かすつもりはなかったんだけど……とりあえず、ボールの管理はしっかりね。それから次の対戦相手の人の、対戦映像を見るといいよ。そこから攻略のヒントを、自分なりに考えてみて」
「は、はい……」
「それじゃあ今度こそ。またねフィア君……決勝で会おう」
 そう言ってルゥナは、手を振りながら小走りに去ってしまった。少し急いでいる様子だったが、まだ事件について調べている途中なのだろう。彼女にも次の試合がある。大変だろうに、と思う。
 しかし、それでも彼女は、間違いなく大会で勝ち上がってくる。
 なぜなら、
「……決勝で会おう、か」
 確かにそう言った。
 彼女は、決勝まで勝ち進むつもりなのだ。
 それが自分と戦うため、だなんて自惚れた考えはできないけども。
「……僕も、頑張ろう」
 そう思えるだけの、力は湧いてきた。



『さぁ! サミダレタウンバトル大会ビギナーカップ! 準々決勝の三回戦! いよいよ開幕だぁー!』
 二回戦の時にも聞いた、やたらテンションの高い実況の声。
 次は三回戦、準々決勝。
 ここが今大会の折り返し地点。ここを突破すれば、半分を過ぎる。
『三回戦からは実況の他、解説としてジムリーダーをお呼びしています! 今回の試合の解説をしてくれるのは、テンロウ学園で教鞭を振るい、テンロウシティのジムリーダーも務めるウルシさんです!』
『ウルシです。観客の皆さんにもわかりやすいような解説ができるよう、尽力いたす所存です。よろしくお願いします』

『Information
 ジムリーダー ウルシ
 専門:鋼タイプ
 異名:導きの学徒コメットティーチャー
 担当科目:ポケモン学 歴史』

 実況者席の隣に、今まではいなかった人物が座っていると思ったら、三回戦からはジムリーダーによる解説があるらしい。ますます緊張してきた。
『はい! よろしくお願いします! それではウルシさん。対戦前に、今大会の見どころなどはありますでしょうか?』
『そうですね。サミダレタウンはレギュレーションごとに連日大会を催していますが、今回はその一日目。バッジを持たない、または一、二個しかバッジを持たない初心者ビギナー向けの大会です。なので、ハイレベルなバトルよりは、奇抜で斬新なバトルを見せ、ホッポウに新たな風を吹き込んでくれるようなトレーナーが見れたらいいと思っています……見どころではなく、僕の願望になってしまいましたね。すいません』
『いえいえ! なにも問題はありませんとも!』
『それはどうも……ではもう一つ。教師としての立場から言わせて頂くのであれば、型に嵌らないバトルを見せてくれるトレーナーへの期待と、新人トレーナーの公式戦を先駆けて見られること、でしょうか。ここから大物になるトレーナーが出たりすれば、嬉しいと思います』
『ありがとうございます! それではそろそろ、選手入場の時間です! 両選手、入場ッ!』
 実況者の声に応じて、係員が入場を促してくる。
 フィアはボールを握り締めると、控え室から、陽光の射すバトルフィールドへと歩み出した。

『サミダレタウンバトル大会ビギナーカップ三回戦! その対戦カードは……フィア選手vsテイル選手です!』

 バトルフィールドは、今までの試合と同じ。ただしフィアが経験してきたような土のフィールドではなく、石製で正方形のタイルを敷き詰めたようなフィールドだった。特殊なコーティングと接合方法で敷かれているらしく、激しい動きをしてもなかなか壊れない丈夫なフィールドだ。
 トレーナーの立つ所定の位置まで移動すると、対戦相手を見遣る。
 少年だ。フィアが歳のわりに童顔で小柄なのもあるが、自分よりも年上に見える。茶髪のトレーナー姿。ルゥナのように派手な髪色でもなく、イオンのように豪奢な格好でもなく、フロルのように異様なファッションでもない。正直、あまり目立つ容姿ではなかった。
 しかしただ一つ、フィアが気になるものがあった。彼に肩に引っ付いている、生物。
 おもむろに図鑑を取り出すと、“それに”かざす。

『Information
 エモンガ モモンガポケモン
 マントのように広げた膜の内側
 から電気を放電させて滑空する
 ため、滑空中に触れると感電する。』

「肩にポケモンを乗せてる……」
 テイルと言うらしい少年の肩には、黒いモモンガのようなポケモンが乗っていた。図鑑によるとエモンガというらしい。飛び立つと電気を纏うので、常に感電と隣り合わせで大丈夫なのだろうか、と思わなくもない。
 しかし彼とエモンガは、試合直前にもかかわらず、じゃれあったりするなど、非常に仲がよさそうで、緊張している素振りも一切見せていない。
(イオン君とサンダースも、あんな感じだったなぁ……)
 トレーナーとポケモンの信頼関係、というのだろうか。
 ポケモンは大事だが、それはフィアがそう思っているだけで、お互いにどんな気持ちなのかはわからない。
 いつか、わかる時が来るのだろうか。
『えー、では審判が準備中なので、その間に両選手について軽く紹介を。フィア選手は、現在バッジ一つですね。シュンセイジムのアドベントバッジを所持しているそうです』
『おや、イチジク君のジムですね。珍しいです。ひょっとして、シコタン島の出身でしょうか?』
『珍しいのですか?』
『あのジムはかなり特異な性質なこともあり、あまり挑戦者がいないのですよ。シコタン島自体、ジムが一つしかないので、あまりトレーナーの足が向かない島ですしね』
『よくご存じですね』
『ちょっと酒の席で、お互いのジムについて語り合う——もとい愚痴り合う機会がありましてね……まあ彼の場合は、ジム戦がない分はお芝居と睡眠の時間に充てられると言って、挑戦者の少なさには不満はないようでしたけど』
 少し小声になるウルシ。酒、愚痴、というワードが、体面的にあまりよくないのだろう。
 しかし、シュンセイジムがどのくらい特殊なのかはわからないが、そんな評価を受けているとは思わなかった。
 さらにフィアは、あのジムを一人で突破したわけではない。イオンの力があって、彼のお陰でバッジを手に入れたのだ。ウルシの期待には沿えそうになかった。
『話が逸れましたね。なんにせよ、彼の特殊なジムを攻略したその実力は、気になるところです』
『はい、ありがとうございます! 長くなりましたが、次いでテイル選手。こちらはバッジゼロのようですね』
『まだ駆け出しなのか、それともジム巡りをしていないのか……実力は不明ですが、未知数ゆえに、そのバトルが観測できるというのは楽しみです』
 目の前の相手、テイルはまだバッジを持っていないようだ。
 しかしだからと言って安心できない。ウルシも言うように、ジム巡りをしていないだけで強者という可能性もあるし、イオンのようにバッジが少なくても強いトレーナーはいる。油断はできなかった。
 審判の準備も終わり、そろそろ対戦が始まりそうだ。
 一応、礼儀としてフィアは軽く頭を下げる。
「……よろしくお願いします」
「おう、よろしくな!」
 年上と思って敬語で、生来の性格から控え目に言うフィアに対し、テイルは気さくに応じた。
 さらに、
「お前、フィアだっけ? 二回戦のバトル見たぜ。すげー逆転だったな! 見てるこっちもビリビリ来たぜ!」
「え? あ、はい、どうも、ありがとうございます……」
 フィアの二回戦のバトルを称賛する。
 まさか自分のバトルを褒められるとは思わなかったので、面食らってしまうが、同時に一つ、わかったことがある。
(この人、僕のバトルを見てるんだ……)
 フィアがルゥナのアドバイスを受けて、彼の一回戦、二回戦のバトルビデオを見たように、彼もフィアのバトルを見て、研究している。
 ルゥナのアドバイスは本当に重要だった。もしもあの助言がなければ、今ここで、既に情報という面でアドバンテージに差がついていたのだから。お互いに対戦を見て、多少の知識があるからこそ、同じ土俵に立てる。
 そんな点からも相手の強さを感じつつ、実況の声が響く。
 バトル開始の、宣言が。

『それでは、三回戦! フィア選手vsテイル選手! バトル——スタートッ!』



あとがき。なんとか前口上のところまではこぎつけましたが、逆に対戦前のあれやこれやが長すぎました。色々盛ってしまった結果です。ここでタクさんのオリキャラ、テイルの登場です。シナリオそのものは特に変えてません。あぁ、でも街の名前は変えましたね。ウルシは元々オボロシティという街のジムリーダーでしたが、リメイクしてテンロウシティに変わりました。あまり大きな意味はないので、特に気にすることもないですけど。では次回、フィアvsテイルのバトル。お楽しみに。