二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第31話 一撃離脱 ( No.61 )
日時: 2017/01/18 01:12
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

『三回戦! フィア選手vsテイル選手! バトルスタートッ!』
 その言葉を皮切りに、お互いにポケモンを繰り出す。
 フィアは握り締めたボールを放ち、テイルはバッと腕を伸ばした。
「このバトルは君だよ。お願い、ブースター!」
「痺れるバトルにしようぜ! 行け、エモンガ!」
 フィアが繰り出すのはブースター。このチョイスも、テイルのバトルを結果だ。
(あの人のポケモンは、一回戦も二回戦も電気タイプのポケモンだった……ミズゴロウは電気タイプ相手じゃ、不利だからね)
 対するテイルのポケモンは、ずっと肩に乗せていたエモンガ。ボールを介さず、そのまま出したきた。
 電気と飛行タイプのエモンガ。
 映像を見る限り、およそ滑空しているだけとは思えない動きで、空中を自在に飛び回っていた。あの身軽さとスピードが、恐らくこのポケモンの武器だ。
 思考を働かせながら、同時にフィアは、自分に言い聞かせる。
(自分で考えるんだ。どうすれば有利に戦えるのか。どうすれば勝てるのか……!)
 そのために、ルゥナの助言を受け、ちゃんと今までの対戦の映像を見て予習してきたのだ。
「ブースター、まずは火炎放射!」
「エモンガ、上昇だ!」
 ブースターはその場から動かず、口から放射状の炎を放つ。
 しかしエモンガは素早く空中に飛び上がり、放たれる炎を回避する。
「エアスラッシュ!」
「う……っ」
 そしてそのまま、膜を翼を羽ばたかせるようにあおぎ、無数の空気の刃を放った。
 ブースターは避けることもできず、それらの刃に切り刻まれる。
「大丈夫? ブースター」
 弾の数は多いが、一発一発の威力はそれほど高くない。ブースターはぶんぶんと頭を振って、大きく咆えるように鳴く。まだまだ戦えそうだ。
「よし。もう一度、火炎放射!」
「躱してエアスラッシュだ!」
 ブースターは再び炎を放つも、エモンガには当たらない。エモンガは滑空しながら空気の刃を飛ばし、ブースターを切り裂く。
「遠くから攻撃……だったら、突っ込むよ! ニトロチャージ!」
 三次元的に動けるエモンガに、火炎放射はなかなか当たらない。ここはブースターの得意な接近戦に持ち込もうと、炎を纏ってエモンガに突っ込むが、
「影分身だ!」
 突如、エモンガが分裂した。
「!? 増えた!?」
 まったく同じ姿のエモンガが何体もいる。そのうちの一体にニトロチャージが炸裂したが、手応えはなく、すぐに消えてしまう。
 二回戦では見せていなかった技。初めて見る技に、フィアは戸惑いを隠せない。
「影分身を知らないのか? 残像の分身を生み出して、回避率を上げる技だぜ。本体以外は全部偽物だから、攻撃力はない。けれど、どれが本物か、見分けられないだろ?」
 テイルの言う通りだ。四方八方で滑空する無数のエモンガ。攻撃力があるのは本体だけでも、肝心の本体がわからない。
 フィアとブースターが、キョロキョロと目まぐるしく動くエモンガに注視していると、スッとブースターに接近する影が一つ。
「ほら、後ろががら空きだぜ! スパーク!」
 接近してきた影は、本物のエモンガ。電気を帯びた身体で突っ込んでくる。
 電気をスパークさせた突撃は、確かにブースターの背中に直撃したが、
「っ、ブースター! アイアンテールだ!」
 ブースターは身を捻ってエモンガを振り払い、捻った際の勢いをそのままに、鋼鉄の尻尾をエモンガに叩きつけた。
「うぉっ! 大丈夫か、エモンガ!」
 まともに尻尾の一撃を食らい、空中に吹っ飛ばされるエモンガ。しかし、膜を広げ、空中で体勢を立て直す。
「あっぶねぇ。効果いまひとつじゃなかったら、ちょっとヤバかったかもな。しかしスパークの直撃を喰らってあの切り替えしとは、なかなかのガッツじゃねえの、そのブースター!」
「え、あ……ど、どうも……」
 思ってもみなかった称賛に、フィアは戸惑う。勝負中に褒められるという発想がなく、虚を突かれて困惑してしまう。
 だが、ブースターの反撃が上手く決まったのも確かだ。ようやくエモンガに攻撃を当てられた。この一撃は小さくない。
「一発もらっちまったが、落ち着いて行くぞ、エモンガ。エアスラッシュだ!」
「ブースター、躱して! ニトロチャージだよ!」
 放たれる空気の刃を躱しつつ、その合間を縫うように跳躍し、炎を纏うブースターだが、
「上昇! エアスラッシュ!」
 エモンガはさらに上へ上へと上っていき、ブースターのニトロチャージを回避。高い位置から空気の刃を飛ばす。
 しかし、
「追いかけて! ニトロチャージ!」
 一度地に足を着けたブースターは、一際強く地面を蹴った。こちらに向けて放たれるエアスラッシュもものともせず、炎を纏い、捨て身で突撃を仕掛ける。
 身体中が空気の刃で切り裂かれるも、それはブースターのニトロチャージを止めるには至らない。そのまま、エモンガへと突っ込んでいく。
「躱しきれるか……いや、スパークだ!」
 かなり接近を許してしまったが、テイルは直撃を喰らう気は毛頭ない。
 エモンガは膜を広げて帯電し、空中を滑るように自身もブースターへと突撃。ただし、真正面からぶつかりあうようなことはせず、軌道を少しずらして、ブースターの真横ギリギリを、ブースターの体表を撫でるようにしてすり抜ける。
『上手ないなし方ですね。スパークで帯電させた電気を盾にして、ニトロチャージの炎を相殺。突撃は正面衝突を避け、横に衝撃を流して回避。ダメージを上手く逃がしています』
 接触はしたものの、突撃のダメージはほとんどなく、エモンガはブースターの捨て身のニトロチャージを流してしまった。
「うぅ、上手くいくと思ったのに……」
「いーや、今のは少しヒヤッとしたぜ。実際、上手くいくかどうかわかんなかったしな。ま、成功したからよしだ」
 結果よければすべてよし、とテイルは笑う。
 しかし、
「……完全に躱しきれなかったのが、少し悔やまれるけどな」
 ぼそりと、小さく呟いた。
 その意味は、すぐに現れる。
「次こそは当てるよ、ブースター。ニトロチャージだ!」
 ブースターは炎を纏い、跳躍するようにエモンガへと突撃する。今までと同じ攻撃だ。
 しかし、そのスピードは、今までよりも速い。
「ニトロチャージはこれが強いんだよな! 躱してエアスラッシュ!」
 エモンガは旋回してニトロチャージを回避。空気の刃を飛ばそうとするも、それよりも早くブースターが反応した。
「火炎放射だよ!」
「っ、影分身だ!」
 空中で身を捻り、逃げるエモンガに炎を噴射する。
 咄嗟にエアスラッシュを止め、影分身に技を切り替えて攻撃を透かすが、ギリギリだ。
 これがニトロチャージの強さ。直線的な攻撃だが、一度でも攻撃を当てれば素早さが上がる。スピードで攪乱するエモンガにとって、相手にスピードアップされると、持ち前のスピードが生かしづらくなってしまう。
 しかもブースターにはパワーがあるのだ。そこにスピードが足されるとなると、純粋に強い。そうなると、エモンガにとっては苦しい戦いとなってしまうことは、容易に予想できる。
「となると、どっかで仕掛けるしかないな……」
 影分身でブースターを攪乱するエモンガ。無数の分身が縦横無尽に飛び回るフィールド。使うのは二回目だが、駆け出しトレーナーが一度や二度で見切れるような技ではない。
 現に、フィアもどれが本物か分からず、飛び回るエモンガを見回して混乱している。
「横だ! スパーク!」
「! 来るよ! アイアンテール!」
 テイルの指示を合図に、エモンガは横から電気を纏って突っ込む。
 フィアも多数のエモンガのうちの一体に動きが見られたのを確認すると、すぐさまブースターに指示を出す。
 エモンガのスパークがブースターの脇腹にヒットしたが、ブースターもしっかりと耐えきって鋼鉄の尻尾をスイングして反撃。カウンターのアイアンテールは当たった感触があったが、あまり手応えはない。
 再びエモンガはブースターとの距離を取る。
「少し掠ったか。けど、こんくらいなら大したことないな。エアスラッシュ!」
「火炎……いや。やっぱりニトロチャージ!」
 遠距離からの攻撃を再開するエモンガは、空気の刃を射出。
 対するフィアは、指示に一瞬迷ったが、火炎放射ではなくニトロチャージを選択。ブースターは炎を纏って突貫する。
 捨て身のニトロチャージだ。
「また我が身を省みずに突っ込んでくるかよ! 仕方ない。中断だ! 上がれ!」
 ブースターのタフネスに驚きつつ、ニトロチャージの直撃は受ける訳にはいかないと判断し、テイルはエモンガを下がらせる。攻撃は中断し、上昇してニトロチャージを躱すが、
「火炎放射!」
「っ!」
 ブースターでは届かない上空で舞うエモンガに、ブースターは炎を噴射する。安全圏だと思っていたために回避が間に合わず、エモンガは火炎放射に飲まれてしまう。
「エモンガ! 大丈夫か?」
 直撃を喰らったので、ダメージは決して小さくない。下降してくるエモンガの身体は、所々が焦げている。
 しかし、ブースターは攻撃力の高いポケモン。特攻は低くないものの、そこまで高いわけでもない。大ダメージというわけでもなく、まだまだ戦えそうだ。
「とはいえあのタフさは予想外だな。デカい一発をもらうと即KO、捨て身で突っ込まれると危ない橋になるし、ニトロチャージもある……うっし」
 ここらへんでやるか、とテイルはなにかを決めたように、バシンッ! と拳と掌を合わせる。
 フィアでもわかる。なにか仕掛けてくるつもりだ。
「エモンガ、スパークだ!」
「来るよ、ブースター」
 エモンガは帯電してブースターに突っ込んでくる。今までのヒット&アウェイを捨てたかのような、真正面からの突撃だ。
 死角から狙われるのは辛いが、真正面から来るならブースターでも対応できる。フィアはエモンガが突っ込むタイミングを計り、そして。
「アイアンテール!」
 ブースターに指示を飛ばす。
 鋼鉄の尻尾を振るい、突っ込んでくるエモンガを打ち返すように攻撃を繰り出すが、
「影分身!」
 技が当たる直前。
 エモンガは分裂した。
「っ! ここで影分身……!?」
 エモンガの接近を許した状態での影分身。数こそ少ないが、すぐ目の前に何体ものエモンガがおり、大きな圧力となる。
 攻撃を透かされ、影分身で翻弄され、面食らうフィアの視界に、一匹の影が映る。ブースターの背後に、エモンガが一体、飛び出した。
「! 後ろ!」
「悪いがこっちが速いぜ! 食らいな!」
 フィアの指示からブースターが動くよりも速く、エモンガの技が繰り出される。
 しかしそれは、攻撃ではない。
 エモンガは、指先をスッとブースターに向ける。
 そして、それは放たれた。

「電磁波!」



あとがきです。フィアvsテイル。リメイク前とはバトルするポケモンが違います。完全書き下ろしです。書き切るのに少々苦労しましたが、わりと自信作。とはいえ、あまりヒット&アウェイしてる感じないですけど。それでも楽しく書けましたね。なんやかんや、互いのエース対決ですし。では次回、フィアvsテイル、決着……するといいですね。お楽しみに。