二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第32話 状態異状 ( No.62 )
- 日時: 2017/01/18 09:43
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
『——フロル選手の勝利となります!』
なにもせずに勝ってしまった。
フィールドに立つフロルは、試合時間になっても会場に現れない相手を待っていたら、そのうち審判からそのように告げられた。
不戦勝。フィアの一回戦もそうだと言っていた。
バトルをしないというのは寂しい気がするが、しかし勝ちは勝ちだ。フィアと準決勝でバトルする約束がある。フロルはその勝利をラッキーだと捉えて、ロビーに戻った。
今までならフロルが戻った時には既にフィアがそこにいたのだが、今回はいなかった。自分は不戦勝だったので、当然と言えば当然だが、キョロキョロと見回す。すると、備え付けのモニターが目に入った。
『ブースター! 後ろ!』
『悪いがこっちが速いぜ! 喰らいな、電磁波!』
ちょうどそこには、フィアのバトル風景が映し出されていた。見れば、まだバトルをしているようだ。
『おぉーっと! テイル選手のエモンガ、電磁波だぁ!』
パッと見ではフィアが不利な状況にあるようだった。モニターには、身体が痙攣しているブースターがアップで映し出されている。
「フィア……だいじょうぶかな……」
モニターをジッと見つめるフロル。ずっとそちらを注視していると、その不注意が祟って、どんっ、と人とぶつかった。
「あっ……ごめん、なさい……」
「おー。気を付けろー」
フロルは咄嗟に申し訳なさそうに頭を下げたが、相手——若い女だ——は特に気にした風もなく、そのまま歩き去ってしまった。
「……?」
その一瞬でフロルは漠然と違和感を覚えたが、漠然とし過ぎていて、よくわからなかった。
『ブースター! アイアンテール!』
「あ……フィア……」
モニターに再びフィアとブースターが映し出される。
再びそちらに注意が行き、曖昧な違和感は雲散霧消してしまった。
そしてフロルは、そのままずっと、モニターを見つめ続けていた。
「エモンガ、電磁波!」
バチバチッ! と電気が弾ける音が響き渡る。
すると、ブースターはガクッと膝を折って地に伏してしまった。
「ブースター!」
ブースターの身体は、ピクピクと痙攣している。なんとか立ち上がるが、上手く身体が動かせないようだった。
『おぉーっと! テイル選手のエモンガ、電磁波だぁ! フィア選手のブースター! 麻痺状態にされてしまったぞぉー!』
「どうだ? 俺のエモンガの電磁波は。ビリビリ痺れるだろ?」
麻痺状態。確か、ポケモンの状態異常の一つだと記憶している。
毒、麻痺、火傷、眠り、凍り——主にこの五つが、基本的な状態異常とされるらしい。
その中でも麻痺は、身体が痺れて動けなくなってしまうことのある状態異常。さらに、素早さも落ちるらしい。
『フィア選手のブースター、せっかくニトロチャージで上げた素早さを、麻痺で打ち消されてしまいました!』
『テイル選手は、今大会でもたびたび電磁波を用いていますね、手持ちに電気タイプが多いようですが、麻痺で動きを鈍らせる戦術は、電気タイプの常套手段です。クリさんがいれば、もっといい解説ができたのですが』
『ウルシさんもよくやってくれてますよー。それで、この麻痺はどうなのでしょう?』
『……テイル選手のエモンガは、持ち前のスピードを生かした、ヒット&アウェイ戦法。最初よりも素早さを落とされたうえに、麻痺で動きが止まる可能性もあるブースターは、もうエモンガのスピードには追いつけません』
テイルの狙いは、ズバリそこだった。
ニトロチャージでエモンガに追いついて来ようとするブースターを、減速させたのだ。動きを止め、素早さを落とし、エモンガの戦いやすい状況を作り出したのだ。
『エモンガの戦術は、これでより確固としたものとなったでしょうね』
『となると、状況はエモンガが圧倒的に有利だと?』
『圧倒的というほどではありませんが……フィア選手のブースターに、手数の差を巻き返すだけの手段があるかどうかですね。ブースターはまだ、四つ目の技も見せていませんし』
解説のウルシはそう言うが、ブースターの最後の技は起死回生。体力が減ってきている今なら威力は大きいが、格闘タイプの技なので、飛行タイプのエモンガには効果いまひとつだ。
ブースターを麻痺状態にさせられ、一気に不利がのしかかるフィアだが
「麻痺……動きを鈍らせる状態異常……」
この技は、知っている。
いつか使ってくることも、予想していた。
「……ブースター、火炎放射だよ!」
フィアはそう指示を出すが、身体が痺れてブースターは動けず、攻撃も放たれない。
「麻痺が上手く効いてるな! エモンガ、エアスラッシュだ!」
その隙に、空気の刃がブースターを切り刻む。
無数のエアスラッシュを耐え切り、今度こそ、ブースターは反撃に出る。
「火炎放射!」
攻撃が止まった瞬間、ブースターは口から炎を噴射する。
しかし、その攻撃はエモンガには届かない。というより、攻撃が目的の技ではないように思えた。炎はやや下向きに放たれており、そこから炎上して、まるで壁のようにブースターとエモンガの視界を塞いでいた。
(炎を盾に、また突っ込んでくるつもりか? エアスラッシュを誘ってんのか……だが、流石に何度も同じ手には引っかからないぜ)
炎で目をくらませ、炎を切り裂くエアスラッシュを誘い、また捨て身のニトロチャージで突っ込んでくるのだと、テイルは考える。実際問題、ブースターの攻撃で怖いのはそれだ。麻痺で動きを鈍らせたとはいえ、上昇した素早さをなかったことにしたわけではないのだ。またニトロチャージで素早さを上げられると、麻痺させた意味もなくなってしまう。
(接近すれば、ニトロチャージはトップスピードで攻撃できない。火炎放射ならそのまま突っ込めるし、効果いまひとつのアイアンテールなら耐えられるはず……四つ目の技が怖いが、ここまでで見せてないってことは、エモンガに効果がない技と見た。穴を掘るとかだろ、たぶん。それなら行ける!)
ブースターがニトロチャージで突っ込んでくる前に、接近して勝負を決める。
結論が出てから、テイルの指示は早かった。
「エモンガ、急降下! サイドを狙え!」
エモンガはテイルの指示を受け、炎の壁と平行になるように下降。そのままブースターの右横へと飛び出す。
「そこだ! スパーク!」
そして、膜の内側に放電させた電気で全身を包み、そのまま突っ込む。
しかし、
「来た……! ブースター!」
それは、それこそが、フィアの誘導だった。
「アイアンテール!」
炎の噴射を止めたブースターは、尻尾を立て、鋼鉄のように硬化させる。
そして、向かってくるエモンガに、渾身の力でフルスイングする——
「! まずいっ、上がれ!」
——が、エモンガは無理やり攻撃を止めて滑空の軌道を修正。急上昇して、アイアンテールは直撃しない。尻尾の先端が、少し掠めた程度だ。
しかし、たったそれだけにもかかわらず、エモンガは、大きく弾き飛ばされた。
「エモンガ!」
空中に吹っ飛ばされたため、膜を広げて体勢を立て直すことができたエモンガ。
それでも、今のアイアンテールの威力は、テイルの予想を遥かに上回るものだった。
「っ、なんだ今のアイアンテールは……!」
バッとブースターの方へと向き直ると、テイルは思わず息を飲む。
麻痺状態で身体が痺れているはずのブースター。体力も残り僅かで、状態異常と相まってかなり消耗しているはずなのに、その佇まいには、鬼気迫るものがあった。
凄まじい覇気。肌で、感覚で伝わるほどの、恐ろしいと思えるほどの闘志が、解き放たれていた。
「これは……!」
「まだまだ、ここからが本番だよ、ブースター……!」
フィアの声に応え、ブースターは咆哮と相違ない声で鳴く。
赤い炎の獣は、燃え盛る星の如く、灼熱の意志を持って彼らの前に佇んでいた——
あとがきなんです。フィアvsテイル、思ったより長かったので、三分割にしました。いや、実は挿入したいシーンがあったので、それを抜けばギリギリ収まりそうだったんですが、カットするのも都合がよくないですし、別にまとめちゃうとそれはそれで字数が余るので、こっちを分割するという形になりました。なので次回こそは、テイル戦を決着させたいです。流石に次回には決着できるはずです。お楽しみに。