二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第33話 根性発動 ( No.63 )
- 日時: 2017/01/19 08:45
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
『な、なんだぁ!? ブースターの気迫が、とんでもないぞぉー!?』
ブースターの凄まじい気迫に、テイル、会場、実況や解説席までもがどよめいている。
そんな中で、ウルシの一声が、零れ落ちた。
『……恐らく、ブースターの特性ですね』
『ブースターの特性? えぇっと、ちょっと待ってくださいね……』
実況がなにやらペラペラと紙を捲っている。今大会の資料かなにかだろうか。
『あ、あった。ブースターの特性は……貰い火、ですか。炎技を受けても、吸収する特性のはずですが……?』
『えぇ、それが普通のブースターの特性です。しかし、あのブースターは違う』
『違う……隠れ特性、というやつですか』
『そうです。ブースターでは稀にしか見られない、根性の個体でしょう』
『根性って……えぇっと、またちょっと待ってくださいね……なになに? 状態異常の時に、攻撃力が跳ね上がる特性、ですか』
『ただでさえ攻撃力の高いブースターです。さらに火力が上がれば、耐久の低いエモンガでは、かなり手痛いダメージとなるでしょう』
状態異常の時に攻撃力が跳ね上がる特性、根性。
フィアのブースターは、正にその特性なのだ。ゆえに麻痺状態の今、攻撃力が大きく上昇している。
「あっぶねぇ。三度目の危機一髪だ。そのブースター、根性だったのかよ」
胸を撫で下ろすテイル。鬼気迫るブースターのアイアンテールから、直感的にそれを読み取ることができなければ、今頃エモンガは戦闘不能なっていたかもしれない。
根性が発動しているとなれば、一撃でもまともに食らえば戦闘不能必至と思っていい。迂闊に接近するのは危険だろう。
「下手に勝負を急がない方がいいな。ここはお前の得意なヒット&アウェイを貫いて、近寄らずに攻めるぞ、エモンガ! エアスラッシュ!」
あからさまにブースターと距離を取って、エモンガは空気の刃を飛ばし、ブースターを切り裂く。
根性で上がるのは攻撃のみ。先ほどの誘導には引っかかってしまったが、近づきさえしなければ、大ダメージを受けることもない。なので、徹底的にロングレンジから攻める。
「うっ……火炎放射!」
満身創痍のブースターだが、エアスラッシュの連打を耐え抜き、炎を放つ。
放たれた炎はやはりエモンガには届かないが、両者の視界を遮る壁となる。
「また炎を盾に……だが、根性があると分かった以上、近づくわけにはいかないな。そのままエアスラ——」
「起死回生!」
刹那。
炎の壁から飛び出したなにかが、エモンガの顔面を打ち据えた。
「エ、エモンガ!?」
予想だにしない不意の一撃。まさかブースターが飛び込んできたわけではあるまい。なにが飛んできたのだと、それを見たテイルは目を見開いた。
「タ、タイル……っ!?」
それは、正方形の薄い物体——このフィールドの地面に張り巡らされた、タイルの一枚だった。ブースターの足元には、ちょうど一枚分の“欠け”が見える。
「こいつ、タイルを、剥がして……!?」
仮にもポケモンバトルのためのバトルフィールドだ。タイル一枚と言えど、そう簡単に剥がせるものではない。
しかしブースターは、根性で強化され、残り僅かな体力で放つ起死回生によって、強引に削り取り、炎の壁をめくらましに、それをエモンガへと投げるように放ったのだ。
「お願い、動いて……! ニトロチャージ!」
タイルの直撃を喰らったエモンガは、当然ながら体勢を大きく崩している。隙だらけもいいところだ。
そこに、ブースターが炎を纏い、突撃してくる。
「か、躱せ!」
まともに反撃などできるはずもなく、回避だって間に合うかわからない。しかし、ブースターの攻撃を受けられない以上、そう指示を出すしかなかった。
跳躍し、エモンガへと一直線に突っ込むブースター。エモンガは大きく身体を逸らして、ブースターの真下を滑るように受け流そうとする。
「ギ、ギリギリ……!」
エモンガのすぐ真上を、ブースターが通過するような形で、紙一重の回避に成功するエモンガ。ニトロチャージは、これで避けられる。
そう、ニトロチャージは、だ。
「逃がさない! ブースター!」
ブースターはエモンガのちょうど真上に位置した瞬間、くるっと空中で転回した。
エモンガが逃げられないこの千載一遇のチャンス。この一瞬を、逃しはしない。
鋼の一筋が、一閃——
「——アイアンテール!」
硬化させた尻尾を、エモンガへと振り下ろす。
「エモンガ!」
流石にこの攻撃は避けられず、脳天にアイアンテールを叩き込まれたエモンガは、フィールドに叩きつけられる。
あれだけ警戒していた、根性で強化された一撃。効果いまひとつとはいえ直撃だ。その一撃で、エモンガは戦闘不能となってしまった。
『エモンガ戦闘不能! ブースターの勝ち! よって勝者、フィア選手!』
わぁっ! と歓声が沸き上がる。
はぁはぁと息を切らして、フィアの意識はふっと現実に戻った。意識が戻って初めて気づいた。自分が今まで、どれほどバトルに集中していたのか。
周囲へ意識が向いたことで、この大きな歓声に気付く。そして、目の前の光景も理解する。
タイル敷きのフィールドを歪めてしまうほどの勢いで叩きつけられたエモンガ。そしてその傍らに、ボロボロになりながらも、最後まで立っているブースター。
ブースターは、立っているのだ。
「勝った……勝ったんだ……!」
嬉しさが込み上げてくる。
なぜだろう。二回戦も接戦で勝ったはずなのに、今のバトルは特に嬉しいと思える。
「あと少しだったんだが、負けちまったな……ありがとな、エモンガ。ビリビリ痺れる、いいバトルだったぜ」
テイルはフィールドで目を回しているエモンガを労い、抱きかかえる。
「やるな、お前。根性だって知らなかったとはいえ、警戒しなかったのはこっちの落ち度……だが、それを差し引いても強かったぜ、そのブースター」
フィアの足元にすり寄ってくるブースターを指さして、テイルは言う。
「根性が発動してなくても、最後のアイアンテールは躱せなかったし、耐えられなかったと思う。俺たちもまだまだ、だな」
「い、いえ、そんなことは……根性が発動しないと、起死回生でタイルは剥がせなかったと思いますし、電磁波を使ってくれたのはラッキーだったっていうか、エモンガのスピードには振り回されっぱなしでしたし……」
「そんな諸々を含めて、お前の勝ちなんだ。もっと誇ってもいいんだぜ?」
負けたというのに、笑顔を見せるテイル。彼の表情は、清々しかった。
だというのに、勝者である自分がうじうじしているのは、おかしいと感じてきた。
誇る気にはなれないが、少し前向きになるくらいなら。そう思ったら、フィアの口元が綻ぶ。
「次は準決勝だな。俺に勝ったんだから、絶対に勝てよ!」
「……はい! ありがとうございました!」
こうして、フィアのサミダレタウン大会、三回戦が終了したのだった。
「フロルも準決勝まで上がったんだ、良かった……」
ロビーに戻る道中。
フィアはトーナメント表を確認し、フロルも三回戦を勝ち上がったのを確認する。
準決勝ともなれば、それなりの実力がなくては勝ち上がれない。お互いにそこまでの力があるか不安だったが、無事に準決勝でバトルする約束が果たせて、本当に良かった——
「フィアっ!」
——と思いながらフィアがロビーに出た瞬間、フロルが飛び出してきた。
「っ、フロル……? どうしたの?」
フロルの勢いに圧倒されながらも、フィアはそう尋ねる。というより、尋ねざるを得ない。
なぜならフロルの表情は悲愴に満ちており、目尻には涙を浮かべ、今にも泣き出してしまいそうだ。
いつものほほんとしていて、ぽけーっとしている彼女が、初めて見せる泣き顔。
一体、どうしたというのだろうか。
「なにがあったの、フロル?」
「フィア……」
鼻を啜りながら涙目でフィアを見上げるフロルの顔は、ほぼ半泣き。もうすぐで泣き喚いてしまいそうだ。
それでもフロルは、なんとか踏みとどまって、フィアに伝える。
自分自身に、起こったことを。
「わたしのポケモン、盗まれちゃった——」
あとがき。三回戦テイル戦、やっと決着です。三話かけてようやく終わりました。思ったより長引いちゃいましたね。リメイク前だとテイル戦は二回戦でもうちょっとサラッと終わって、ルゥ戦でだらだらしてる隙に騒動が起こるシナリオだったんですけど、色々あって色々変更しましたね。というわけで、三回戦が終了して、フロルが泣きついてきます。ちまちま伏線張ってたポケモンの失踪騒動。そろそろ回収いたします。次回をお楽しみに。