二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第35話 盗人猛々 ( No.67 )
日時: 2017/01/22 06:21
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 ルゥナから教えられた、グリモワールの潜伏場所と思しき場所。それは街の中ではなく、街の端。それも、複数個所存在する場所——波止場だ。
 サミダレタウンは街の端にいくつもの港が存在しており、会場の近くにもある。
 ルゥナが割り出したグリモワールの潜伏場所、七番ポート。
 少々入り組んだ街の中を駆け抜け、フィアは主に貨物船が停泊する七番ポートまで辿りつく。するとそこには、案の定、グリモワールと思しき制服を着た者たちが何人かいた。
「やっぱりグリモワール……!」
 ルゥナの言う通りだ。
 数は多くない。外から目立たないようになのか、船から降りてくる気配もなかった。
 とうなると、やはり乗り込むしかない。ルゥナからは危険だと言われたが、
「ブースター、出て来て」
 ここまで来て、たたらを踏むわけにはいかない。
 ブースターを出して、二人で船へと続く渡し橋へと疾駆する。
「! 侵入者だ!」
 橋に近づいたことで、気づかれてしまった。しかし関係ない。
 そのまま突っ込む。
「船に入れるな! 出て来いバニプッチ!」
「クヌギダマ!」
「ズバット!」

『Information
 バニプッチ 新雪ポケモン
 朝日を浴びた氷柱から生まれた
 と言われるポケモン。口から吐く
 吐息はマイナス50度にも及ぶ。』

『Information
 クヌギダマ 蓑虫ポケモン
 木の枝にぶら下がって餌が来るのを
 待つ。木の皮を重ねすぎて身体が
 重いため、なかなか餌にありつけない。』

『Information
 ズバット 蝙蝠ポケモン
 目は完全に退化しており、なにも
 見えない。口から出す超音波で、
 周囲の様子を探って行動する。』

 下っ端らしき者どもは、フィアたちを近づかせないよう、それぞれポケモンを繰り出すが、
「ブースター! ニトロチャージ!」
 繰り出されたポケモンは、下っ端諸共ブースターのニトロチャージでまとめて吹っ飛ばされた。
 ブースターがこじ開けた突破口。フィアも一緒に駆け抜けて、船へと乗り込む。
 侵入者たるフィアの存在には既に気づいている。下っ端たちは皆、ボールを構えてこちらを警戒していた。
 そのうちの一人が、声を荒げる。
「なんだお前は! なにしに来た!」
「フロルの……盗んだポケモンはどこだ!」
 フィアも負けじと怒声を放つ。
 その勢いに尻込みしたように後ずさる者もいるが、侵入者を排除することも、彼らの役目。下っ端たちは再びポケモンを繰り出してくる。
「出て来い、グライガー!」
「お前もだ、ウリムー!」
「サイホーン、侵入者をぶちのめせ!」

『Information
 グライガー 飛び蠍ポケモン
 不意を突いて顔面に飛びつく。
 獲物が驚いている隙に毒針を
 突き刺すが毒素はあまり強くない。』

『Information
 ウリムー 猪豚ポケモン
 非常に嗅覚が優れているポケモン。
 分厚い氷の下に埋もれたキノコや、
 温泉までも探し当ててしまう。』

『Information
 サイホーン 棘々ポケモン
 頭が非常に悪いと言われているが
 ある地方では調教してレースをする
 ため、その考えも見直されている。』

「数が多い……ミズゴロウ、君も戦ってくれ」
 フィアはミズゴロウも同時に出して応戦する。相手は三体だ。こちらが二体を使っても悪くないはず。
「グライガー! メタルクロー!」
「ミズゴロウ、水鉄砲だ!」
 鋏を硬化させて突っ込むグライガーに、ミズゴロウが水鉄砲を浴びせて押し戻すす。
「角で突くだ!」
「右から来るよ、ブースター! アイアンテール!」
 角を突き出して突っ込んでくるサイホーンに、今度はブースターがアイアンテールで迎え撃ち、吹っ飛ばす。
「ウリムー、突進!」
「火炎放射!」
 突進してくるウリムーには、そのまま炎を放ち、丸焼きにする。
 繰り出される下っ端のポケモンを次々と薙ぎ払っていくフィア。
 多勢に無勢。取り囲んで一網打尽にするはずが、一人のトレーナーと二体のポケモンに押されている下っ端たち。
 彼らの表情には、どんどん余裕がなくなっていく。
「な、なんなんだこいつ。わけわかんねぇし、強いぞ……!」
「なぁ、これはマモン様を呼んだ方がいいんじゃないか?」
「そうだな……ここは七罪人に任せるが得策だ」
 口々にそんなことを囁き合う下っ端たち。
 その時、船の奥から誰かが出て来た。
「んー……なんだよなんだよ、騒がしいなぁ。昼寝くらいゆっくりさせろってんだ」
「! マ、マモン様!」
 マモンと呼ばれたのは、若い女だ。二十歳を超えているかどうかというくらいだろう。
 背は高めで、後ろ髪が跳ねた黒いショートカット。作業服のような格好をしており、両手には軍手。上着は腰に巻き、腰の辺りでカットした長袖のTシャツを着ている。
 なにより目につくのは、グリモワールのシンボルマークを象ったワッペンを付けていることだ。
 この下っ端とは明らかに違う意匠、雰囲気。
 この人物が、ルゥナの言っていた、幹部クラスのグリモワール、なのだろうか。
「なんだよ、侵入者? まった面倒なの出て来たなー」
 ガシガシと後ろ髪を掻くマモン。本当に、面倒くさいと言いたげな仕草だ。
 目元を擦って大きく欠伸をすると、マモンはフィアに向き直る。
「で、お前なにしに来たの?」
「盗んだポケモンを……フロルのポケモンを返せ」
 率直過ぎるマモンの言葉に、フィアもストレートに要求を突き付ける。
 マモンはフィアの言葉の意味を考えるように少し悩んだが、やがて思い出したように手を叩き。
「あー、フロルってあの子か。なんかトーナメント表に名前あったな。可愛かったなー、あの子。なんか貧相なカッコしてたし、本人を持ち帰ってアスと着せ替え人形にして遊ぼうかと思ってたけど、作戦中だし、流石にそれは自重して、ポケモンを貰ったんだった。あんまり隙だらけだったから、ついついスっちゃったぜぃ」
 と言いつつ、マモンは作業着のポケットから、いくつかのボールを取り出す。
「ほら、これじゃね? 一個か二個だけスる予定だったんだが、全部盗られるのは、流石に無防備すぎるよなぁ。女の子としても心配しちゃうね」
「……!」
 マモンは取り出したボールを、近くの積み荷の上に置いた。
「あれが、フロルのポケモン……!」
「ま、スったのはあの子だけじゃねーけど」
 マモンは、作業着の内側からなにかを落とす。コン、コンコン、といくつものボールが甲板の上に転がった。
「そのボールは……! ってことは、やっぱり大会中にポケモンを盗んでいたのは……」
「あたしだなぁ。潜れないあたしは見張り役だったんだが、流石に暇で暇でしゃーなくてなぁ。暇潰しに観光がてら、いろいろスったわ」
 それに、とマモンは続ける。
「頭数を増やしてもポケモンが足りねーのさ、うちはよ。あたしゃサタと違って、他人のモンぶんどって力にすんのには賛成なのさ。ま、それで強くなれるかは知らんがね」
 頭数、というのはイオンの言っていた、刑務所から解放した犯罪者たちのことだろう。
 犯罪者を解放して組織に取り込んでいるという話も、本当だったのだと、フィアはこの時に確信する。
「あー、ちーっと喋りすぎちまったかも。お喋りなのがいけねぇなぁ、あたしは。ま、それもこれも、すべては暇なんが悪い」
「なんでもいいよ。盗んだポケモンを返してくれ!」
「はんっ、泥棒が返せと言われてほいほいものを返したりするかよ。返して欲しけりゃ——」
 などと、盗人猛々しく自らを泥棒と称しながら、マモンは作業着のポケットからボールを一つ取り出し、

「——力づくで奪い返してみろ!」

 それを、投げ放った。



あとがきです。今回は主に下っ端戦。そして、グリモワール幹部、マモンの登場です。まあ正確には幹部という呼称は、意味としても正しくないのですが、グリモワール内で特別な地位にあることだけは確かです。ちなみに下っ端の使用ポケモンがばらばらなのは、その辺から奪ってきたポケモンを雑に分配しているから、という設定です。なので下っ端の強さもまちまちですが、トレーナーとしての技量が追いついていないので、基本的には弱いです。この辺は作中でふれたとおりですね。しかしマモン、盗人猛々しいという言葉を体現したような性格に、レズっぽさまで出してしまって、何キャラにしたいのかわからないですね。昔の自分の考えが分かりません。では次回、マモン戦ですね。ウソドロがいなくなった彼女の手持ちはどうなってしまうのか。お楽しみに。