二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第36話 強欲罪人 ( No.68 )
日時: 2017/01/22 13:23
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「レパルダス、参上!」

『Information
 レパルダス 冷酷ポケモン
 神出鬼没で不意に現れるポケモン。
 美しい毛並とスタイルで惑わし、
 その隙に相手の持ち物を掠め取る。』

 マモンが繰り出すのは、紫と黄色の体毛を持つ、豹のようなポケモン。
 猫っぽさもあるが、しなやかな身体に浮かぶ模様は豹柄に近いように感じた。
 そしてなにより、図鑑の説明文だ。
「ポケモンまで泥棒……グリモワールは泥棒しかすることがないの?」
「んなこたないに決まってら。つってもあたしや、あたしのポケモンは人モン奪うのが生き甲斐だけどな。なんせ——」
 シュッと右手の軍手を外し、マモンはその掌を見せつける。
 それは異形だった。
 まず、色がおかしい。毒々しい暗い緑色。遠目から見るだけでもわかるほど、異常な質感。女性どころか、人間としてもおかしい、ゴツゴツした肌。
 まるでこの世ならざるものが憑りついているかの如く、彼女の掌は異質であった。
 この異様なものを見せられ、フィアも息を飲む。
 しかし彼女は気にする風もなく、声高に宣言した。
「——あたしは強欲の七罪人だかんな」
「……七罪人?」
 先ほど下っ端たちも言っていたが、それがグリモワールの幹部に対する呼称なのだろうか。
「ていうことは、この前のサタンっていう人も、七罪人……?」
 何気なくフィアが呟くと、マモンは軍手を嵌めつつ耳聡く反応した。
「あ? サタ? お前、サタに会ったのか?」
 急に不審な、というより怒りが混じったような表情を見せる。
「あいつ、まった報告サボったな。ったく、ひっでぇ態度だぜ。大将はなんであんな奴を野放しにしてんだか……」
 しかも愚痴のようなことまで言い出した。よく分からないが、あのサタンという男とこのマモンという女は、あまり仲が良くないようだ。
「——ま、こんなことをここで言っててもしゃーねぇ。とっとと始めっぞ」
「……戻って、ブースター」
 マモンが好戦的な眼差しを向ける中、フィアはブースターをボールに戻し、腰のベルトに直す。そして、
「ミズゴロウ、頼んだよ!」
 ミズゴロウで戦うことを選択した。
「ミズゴロウ、水鉄砲!」
「躱せ、レパルダス」
 先手必勝。先んじてミズゴロウは水鉄砲を放つが、スッと、半身になって、レパルダスは水鉄砲を回避する。非常に無駄の少ない動きだ。
「はんっ、あたしに向かって水鉄砲程度の技なんて、舐めてんのか? そんな技、盗む価値もねー。速攻で決めてやる、レパルダス!」
 マモンの声と共にレパルダスは素早い動きで駆け出し、ミズゴロウの脇を通り過ぎていく。
「わっ!」
 そしてフィアのすぐ側も過ぎ去り、フィアの背後でカーブ。またミズゴロウの側を過ぎようとするその時、
「辻斬り!」
 鋭い爪を振り、通り過ぎる間際にミズゴロウを切り裂いた。
「ミズゴロウ!」
 レパルダスはシュタッとマモンの足元に戻ってくる。
 そして、その一撃でミズゴロウは戦闘不能になっていた。
「そ、そんな……!」
 フィアの足元まで転がってきたミズゴロウをボールに戻し、フィアは歯噛みする。
「打たれ強いミズゴロウが、一撃で……」
「ま、とーぜんだわな。辻斬りは急所を狙う技だ。いくら防御が高くても、ダメージが跳ね上がる急所を攻撃されたらひとたまりもねーよ。ま、それ以前に——」
 手に持っているボールを、お手玉のようにポンポンと放りながら、マモンは一言、告げる。

「——それがお前とあたしの実力差、ってことだ」

「ぐ……っ!」
 この前であったサタンという人物も強者のオーラのようなものを発していたが、このマモンという女も十分強い。グリモワールの幹部は皆このように強いのだろうか。
 ともあれ、ミズゴロウは戦闘不能だ。フィアは致し方なく、ブースターの入ったボールを手に取ろうとするが、
「……? あれ?」
 ボールをセットしてあるベルトに手を伸ばしても、空振りする。何にも触れなかった。
「ボールが、ない……!?」
 まさかこんな大事な時に落としたのかと思ったが、それはまずない。ブースターを戻したのはマモンと戦う直前。その後フィアは大きな動きを見せていないので、ボールが落ちるようなことはないはずだ。
 そう思っていたら、マモンはさっきまでお手玉していたモンスターボールを掲げた。
「ひょっとして、お探しものはこれか?」
「っ……それって、僕のボール!?」
 さっきは気にしなかったが、注視すれば一目で分かる。それは、フィアのボールだ。マモンはそのボールを近くの積み荷に置きつつ、
「隙だらけ過ぎるっつーの。あたしはただの泥棒じゃないんだぞ? 強盗だって怪盗だって、スリだってする。勿論、レパルダスもな」
 つまり、さっきレパルダスがミズゴロウを倒した辻斬り。本来なら通り間際に引き裂くだけでいいはずなのに、わざわざ大きく回って後ろから斬りつけたのは、フィアのボールを奪うためだったようだ。
「言ったろ? 速攻で決めるってな。お前もうポケモン持ってねーだろ」
「あ、う……」
 まさかポケモンを奪うなんて方法でこちらの動きを封じるだなんて思いもしなかった。しかもこれはポケモンを人質に取られたようなもの。フィアも迂闊に動けないし、どちらにせよ戦力がなくては動く意味もない。
 圧倒的な実力差に加え、卑怯汚いなどという言葉を鼻で笑う番外戦術。
 ふと、砂礫の穴で出会ったグリモワール、サタンの言葉が思い浮かぶ。

 ——この馬鹿どもが馬鹿なことしたのを見てここまで来たんだろうが、場合が場合ならそれは無謀ってもんだ——

 ——他の連中が相手なら、無事じゃ済まねえだろうよ——

 自分のやったことは、無謀だったのだろうか。
 一人でこんなところに来て、なにもできずに負ける。
 自分はここに、来るべきではなかったのか。
「さーて、リヴが戻ってくるまでもうちっとだし、いたいけな少年ひん剥いて小銭でも稼ぐかな。追剥やるのは久しぶりだ」
 ポキポキと指を鳴らし、口元に嫌らしい笑みを浮かべるマモン。発言の内容からしても窮地に陥ってしまったフィア。
 だが、幸運というのは、訪れるべくして訪れるものだ。

 突如、海から大波が押し寄せ、レパルダスを飲み込んだ。

「んだぁ!?」
 いきなりの攻撃に声を荒げるマモン。フィアもキョトンとしている。
 波が引くと、まだ戦闘不能ではないレパルダスが起き上がる。そして、波が押し寄せたのとは逆方向——即ち波止場から船へと上がってくる者が、一人。
「大人が子供相手にそんな真似して、恥ずかしくないのかな。いや、恥を恥とも思わないのかもしれないけど」
 振り返ると、そこにいたのは一人の女性——いや、少女と言ってもいいかもしれない。
 まだ幼さが残る顔立ちをしているが、歳はフィアよりも少し上くらいだろうか。鮮やかなピンク色の髪を低い位置で長いツインテールにしている。
 服装は、セーラー服に似た白いブラウス。青いプリーツスカートと、学校の制服を思わせる意匠。
「案ずることはないよ、君。『勇敢と蛮勇は違う、されど蛮勇も勇気の一片であり、立ち向かうことに意義があるのだ』——私の師匠が綴った言葉だよ。君の行いは、正しい。でも——」
 スッと隣に立つポケモンを撫でながら、彼女は言った。

「——流石にちょっと見かねる光景だから、横入り、させてもらいますね」



あとがきですね。フィアとマモンのバトル。大筋はやっぱり変えてませんけど、リメイク前のマモンのポケモンはザ・泥棒ポケモンのウソドロでしたが、ベガポケなので今回は使えず、代わりにレパルダスを使わせています。レパルダスは確か、公式で明確な泥棒設定はなかった気がしますが、なんか泥棒しそうに見えるんですよね。あと、七罪人の証明である焼印も、変えましたね。より異質に、よりグロテスクに、おどろおどろしくしましたが、これにはこれでちゃんと意味があります。しかし最近思いますが、こういうのなかなか楽しいですね。リメイクすることになったのは自分の落ち度で、責任なので、こういうとリメイク前に読んでくださっていた方々に申し訳ないですが……なんというか、リメイクの楽しさを感じています。リメイク前よりも、あるシーンはよりボリューミーにしたり、ある設定を変更したり、大筋を変えないことが多いですが、細かいシーンの描写を増やしたり、設定を変えたり、ポケモンや技を変えたり、リメイク前との相違点を比較しながら見ていると、面白く感じます。リメイク作品を作る時の感覚って、こんな感じなんでしょうかね。本当ならリメイク前の作品も貼り付けたいくらいですが、そもそも完結できていないい上に、今の自分はURLを貼り付けられない状態にあり、しかも一応ネタバレになってしまうのですよね。タイトルはそのままで過去ログ(紙ほか板)にあるので、興味のある方だけ閲覧してもらうことにしましょう、今のうちは。本当なら今話は前話と繋げて投稿するはずだったので、あとがきをかなりボリュームアップさせたところで、次回。七罪人マモンに追い詰められるフィアを助けた、謎の美少女の正体が明らかに……自分で言うのもなんですが、謎の美少女ってあまりに月並みですね。ともあれお楽しみに。