二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第37話 借受海獣 ( No.69 )
- 日時: 2017/01/22 15:58
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
突然この場に現れた少女。
まだ幼さが残る顔立ちをしているが、歳はフィアよりも少し上くらいだろうか。鮮やかなピンク色の髪を低い位置で括り、長いツインテールにしている。
服装は、セーラー服に似た白いブラウス。同色のプリーツスカートと、学校の制服を思わせる意匠。
少女はゆっくりとフィアの隣まで歩む。
同時に、角にピンク色の花を咲かせた鹿のようなポケモンも歩を進める。さっきレパルダスを攻撃したのは、このポケモンだろうか。
そう思いつつ、フィアは図鑑を開くが、
『no information』
「……? 情報がない?」
砂嵐を背景にそんな一文が表示されるだけで、このポケモンに関する情報が一切開示されない。
「このポケモンは季節ポケモン、メブキジカ。四季の存在する地方にだけ生息するポケモン」
フィアが首を傾げていると、少女が端的にそう教えてくれた。
「あの、あなたは……?」
礼より先に、フィアからはそんな言葉が飛び出す。味方のようだが、素性が分からなくては不安だ。
そんなフィアの心情を察したのか、少女は嫌な顔一つせず名乗りを上げた。
「私はミキだよ。わけあってホッポウ地方を旅してます。君は?」
「フィアです……」
「フィア君だね。うん、覚えました」
少女——ミキはフィアの名前を復唱し、視線を動かす。その先にいるのは、マモンだ。
穏やかで明るい眼差しが、キッと鋭くなる。
「さて、それじゃあここからは、彼に代わって私が戦うよ。覚悟はいいかな?」
「うーん……あんま可愛い女の子を泣かせたくはないんだけどな。ま、しゃーねーってことで」
ミキのメブキジカとマモンのレパルダスも構え、火花を散らしている。互いにしばらく睨みを合いを続け、
「レパルダス、辻斬り!」
「メブキジカ、ウッドホーン!」
共に駆け出す。
レパルダスの爪とメブキジカの角が交錯し、互いに傷を負わせる。
「自然の力!」
振り返り、メブキジカは大きく声を上げる。すると海に波が立ち、その波はどんどん巨大化し、大波となってレパルダスに襲い掛かる。
「やっぱりさっきの波は自然の力か! レパルダス、ジャンプ!」
レパルダスは一息で空高くジャンプし、凄まじい跳躍力で大波を回避する。さらに、
「猫の手!」
前足を掲げると、その手が光り始める。
「! まずいかも……飛び蹴り!」
メブキジカも跳躍し、強烈な前蹴りを繰り出そうとするが、レパルダスの手から渦状の炎が放たれ、メブキジカを飲み込んだ。
「メブキジカ!」
「やりぃ! マジカルフレイムだ!」
ガッツポーズを決めているマモン。
図鑑で調べると、猫の手は味方の技をランダムで使用する技のようだ。見たところ今のは炎タイプの技。マモンは炎タイプも持っているようだ。
「んじゃ、今のうちに厄介なモンは奪っちまおうか! レパルダス、泥棒!」
「っ!」
弱点を突かれて転げるメブキジカに、レパルダスは急接近。鋭い爪で掠め取るような一撃を見舞う。
「くぅ、メブキジカ、ウッドホーン!」
「うぉっ! 下がれ!」
メブキジカは角を思い切り突き上げ、レパルダスを引き剥がす。
レパルダスはギリギリのところで後ろに跳躍し、その攻撃を回避した。
「ちぃっとヒヤッとしたな。レパルダス、アイアンテール!」
「メブキジカ、飛び蹴り!」
レパルダスが、尻尾を鋼鉄のように硬化させて飛び掛かる。
一方、メブキジカも跳躍して、強烈な前蹴りを放つはずだが、
「! メブキジカ!」
メブキジカの攻撃が繰り出される前に、レパルダスのアイアンテールが脳天に直撃。メブキジカはよろめいてしまう。
しかし、今のメブキジカの動きは、少しおかしい。
「なに、今の……技が出せなかった……?」
「考えてる暇はやらねーかんな! 辻斬り!」
「っ、ウッドホーン!」
レパルダスの爪と、メブキジカの角が、鍔迫り合いのようにせめぎ合う。
単純なパワー勝負ならメブキジカに分があるが、メブキジカは俊敏なレパルダスに翻弄されている。
素早い動き。ランダムに技が放たれる猫の手。繰り出せない飛び蹴り。
なにか異常な力を感じつつも、確実にこの場では、メブキジカが劣勢だった。
「どうしよう、このまま見てるだけなんて……」
そんな中、戦えないフィアはそう呟く。
(そう言えば、前もこんなことあったっけ)
それはこの世界に来る前、闇に閉ざされた遺跡で青年が黒い渦から出て来たポケモンと戦っている時だった。
あの時も、自分の未熟さと無知ゆえに、ポケモンを傷つけてしまった。しかし、今は違う。
(そうだ、今は……こんな時だからこそ、力を借りるしかない)
思い出したフィアは、鞄の中から一つのボールを取り出す。
「ごめんなさい、あなたのポケモンの力、少しだけ貸してください……!」
どこにいるかも分からぬ彼にそう断ってから、フィアは手にしたボールを放る。
「力を貸して、ダイケンキ!」
現れたのは、一体の海獣。法螺貝のような立派な角に、屈強な青い肢体。蓄えた白髭と、非常に貫禄のあるポケモンだ。
『Information
ダイケンキ 貫禄ポケモン
鎧に仕込まれたアシガタナで
敵を切り裂く。刀を抜いて戻す
居合の動作は、視認すら難しい。』
「っ、今度はなんだ!?」
「! 師匠……?」
また声を荒げるマモンと、呆然とダイケンキを見据えるミキ。そんな二人のことなど気にも留めず、フィアとダイケンキは二人の戦いに斬り込んでいく。
「ダイケンキ、シェルブレード!」
ダイケンキは前足の鎧から仕込み刀——アシガタナを抜刀し、その巨躯からは考えられないスピードでレパルダスに斬りかかる。
レパルダスもダイケンキの登場に驚いていたのか、その場から動かず、なすがままにシェルブレードを喰らい、返す刀でさらに切り裂かれ、その場に倒れ込む。
「なっ……レパルダス!」
メブキジカの攻撃を受けたとはいえ、レパルダスがたった二回の攻撃で戦闘不能になった事に対し驚愕するマモン。いや、それだけではない。
「なんなんだよ、あのガキとダイケンキは……! あんな奴が、あれほどのダイケンキを使いこなせるわけがねーだろうが……!」
俗に言う、レベルが高いポケモンは、ある程度の強さを持ったトレーナーでないと命令を聞かないものだ。トレーナーの強さの目安はジムバッジなのだが、フィアの持つバッジは現在一つ。ウソドロをシェルブレード二回で倒すようなダイケンキに命令して、素直に聞き入れてもらえるほどの力はないはず。マモンはそう思っており、実際にはその通りだ。
「なんだよ、なんなんだよ、あのダイケンキ……あっちの女の子も怖いし、こりゃまずいわ。どうすっか……」
追い詰められ、弱ったような表情を見せるマモン。順当に行けば、このままフィアたちの勝利だ。
だが幸運とは平等なもの。フィアにミキという幸運が訪れたように、マモンにも、幸運が訪れた。
「マモ……何してるの……?」
どこからか声が聞こえる。しかし辺りを見回しても、それらしい人影はない。
だがマモンだけはその声の主がどこにいるのか分かったようで、甲板の手すりに乗り出した。
「おぉ、リヴ! 良いとこに来てくれた!」
などと歓喜の声を上げながら、マモンは手すりを越えて海へとダイブした。その行動に目を見開くフィアとミキも、手すりから目下の海面を見下ろす。
するとそこには、マモンと、一人の少女。
全く手入れをしていないような痛んだ黒髪で、片目が隠れるほど左右非対称に前髪が伸びている。服装は傷だらけのグリモワールの制服をエプロンドレス——いわゆるメイド服のように改造しているが、俗に言うコスプレなどのために見栄えをよくしたものではなく、もっと質素で地味な機能性を重視した服装に見える。
さらにその下。マモンと少女を乗せている一匹のポケモン。長魚のような姿をしており、一言で言えば非常に美しいポケモンだ。
『Information
ミロカロス 慈しみポケモン
世界で最も美しいと言われている
ポケモン。荒んだ心を癒す波動を
放ち、争いを収める力があるらしい。』
「いやー、助かったー。あいつらマジでやべーって」
「……?」
リヴと呼ばれた少女は首を傾げるだけで、状況がまだ飲み込めていないようだ。しかしマモンは構わず、
「とにかくサッサと逃げんぞ。戻って来たってことは、終わったんだろ?」
少女は静かにコクリと頷く。そしてミロカロスに何か囁くと、次の瞬間、ミロカロスは薄い泡のような膜に包まれた。
「んじゃ、ここはとんずらさせてもらう。ポケモンはそのへんに置いてあっから、好きに持って帰んな」
マモンは最後にそう言い残し、少女、ミロカロスと共に海へと沈んでいってしまった。
「っ、待て——」
「待つのは君だよ」
フィアが身を乗り出そうとするのを、ミキは手で制した。
「あれはダイビングっていう、潜水する技。もう追いかけられない。それに、君の目的は別のものでしょ?」
言われてフィアは思い出した。確かに、自分の最初の目的はフロルのポケモンを取り返すことだ。頭に血が上って忘れてしまっていた。
フィアはさっきマモンがボールを置いた積荷へと走り、そこで自分のボール、そしてフロルのボールを手に取る。
「良かった……!」
安堵の溜息を吐くフィア。ミキは辺りを見回しつつ、フィアに歩み寄って来る。
「下っ端たちはいつの間にか逃げちゃったか」
「他の人のボールは、どうしよう……」
「じゃあ、それは責任を持って私が請け負います……ところでフィア君?」
「はい、なんですか?」
ミキが少し不安そうな、焦ったような空気を醸し出しながら訪ねてくる。
そして、その質問の内容は、フィアにとっても重大なことだった。
「確認なんだけど……君、サミダレ大会の準決勝がありません?」
「……あ」
こちらも、完全に忘れていた。
フィアは慌ててP・ターミナルを取り出し、現在の時間を確認する。するとフィアの顔は真っ青になっていく。
「しまった……!」
決勝戦が始まるまでの残り時間は、三分を切っていた。
あとがき。正直、リメイクなので本当にほとんど手を入れていないところは、なにも言うことないんですよね……今回はもう一人のグリモワール幹部、リヴが登場ですね。ゆってこれは本名ではなく愛称なんですけど。リヴも、マモンのことをマモと呼んだり、サタンをサタと呼んだり、グリモワール七罪人のほとんどは、お互いを頭二文字の愛称で呼び合っています。あ、そういえばミキの口調をちょっと変えましたね。違和感のない程度に。語るのはそれくらいでしょうか……では次回もお楽しみに。