二次創作小説(映像)※倉庫ログ

6話 春星街路 ( No.7 )
日時: 2017/01/03 18:32
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 シュンセイシティはハルビタウンから歩いて小一時間ほどの場所にある街で、特に名産や名所があるわけでもない、普通の街だった。
 道路はアスファルト、家は木造。特徴的なものは何一つとしてない。
 ここまで個性を放棄した街というのも逆に珍しいんじゃないというくらいに無個性な街だったが、フィアは道すがら貰ったチラシに目を留める。
「劇団布団座? の、公演があるんだって。しかも明日だ」
「お芝居するの?」
「そういうことじゃないかなぁ?」
 演目は寡聞にして聞いたことがないものだ。オリジナルなのかもしれないが、“シキミの傑作が劇場で解き放たれる!”と触れこまれているので、なにかの名作を演劇にしたようだ。
「楽しそうだね、お芝居」
「だけど、僕らは劇を見に来たんじゃないよ。ジムに行かなくちゃ」
「むー、ちょっとくらい寄り道しても、イーくんは許してくれると思うけどなぁ……」
 ムスッと唇を尖らせるフロル。
 フィアもこの世界の演劇に興味がないわけでもなかったが、今はそれだけの余裕もない。早く元の世界に戻る手がかりを掴みたい気持ちでいっぱいだった。
 演劇はひとまず置いておいて、とりあえず、二人はポケモンセンターを目指すことにする。



 ポケモンセンターという施設は、この世界ではほぼすべての街に配備されている。
 傷ついたポケモンの回復が主な業務で、ポケモンバトルを主に行うトレーナー御用達の施設となっているようだ。
 ポケモン同士を戦わせるだなんて野蛮だと思ったが、どうやらこの世界ではそれが普通らしい。そもそも、ポケモンには戦う本能があるようなので、ポケモンどうしのバトルは自然なものなんだとか。それは、道中で襲ってきた野生のポケモンとのバトルで、なんとなく感じた。
 余談だが、フィアは最初に話を聞いた時、ポケモンセンターは病院のような施設だと考えていたが、それは間違いで、この世界にも病院は病院で別に存在するらしい。
 ポケモンセンターが病院と違う点に、ポケモンセンターはトレーナーのサポートをするというものがある。これが意味することは多々あるが、その一つは、ポケモントレーナー用の宿泊施設があること。
 トレーナーカードを見せれば、無料で宿泊できるらしい。宿泊費も食費もすべてタダ。フィアはこれで、10歳になったら旅立つという文化に、半分ほど納得した。
 P・ターミナルに内蔵されているトレーナーカードデータを受け付けに見せて、部屋を取る。演劇が近いため人が多く来るそうで、フィアとフロルで一部屋となった。
「有名なのかな、この劇団」
「あ、この名前、テレビで見たことある」
「テレビに出るほどか……凄いな」
「前に見たときは、すっごくおもしろかったよ。ハクシンのエンギだった!」
「へぇ……」
 どのくらいの凄さなのかはさっぱり伝わらなかったが、それなりに規模の大きな劇団だということは理解した。
「今日はどうしようか……ジム戦に行きたいけど、ちょっと疲れたな」
 ここまでの道中、大きな出来事こそなかったが、フィアにとっては驚きの連続だ。
 まず、街と街の間の道端——この世界では基本的に道路と呼ぶらしい——にポケモンが出て来る。野生のポケモンだ。
 ポケモンに備わっている闘争本能が剥き出しになったポケモンは、道を通るトレーナーに襲い掛かってくることが多い。襲うと言っても、感覚としてはバトルを申し込まれるようなものらしいが。
 そこで何戦か、野生のポケモンとのバトルを経験し、ポケモンバトルの感覚は掴めたが、初めてのバトルは緊張した。お陰で疲労も溜まっている。
(いや、厳密には、初めてじゃないけども……)
 まだ“あっち”の世界にいた頃、彼女の誘導でバトルをさせられたことがある。
(部長……どこにいるんだろう)
 そもそも彼女は、この世界にいるのだろうか。
 早く、なにかしらの手掛かりを掴みたいのだが——
「フィア?」
「っ、ごめん。考え事してた……なに?」
「せっかくだし、特訓しようよ」
「特訓……?」
「うん。ほら、ジムリーダーって、すっごく強いトレーナーでしょ? だったら、ポケモンと特訓して、強くならなくちゃ」
「あぁ……」
 フロルの提案に、成程、と納得した。
 どこか抜けていて、ぽけぽけした娘だと思ったが、しっかりと自分のすべきことは考えているようだ。
 いくら年下でも、抜けていても、自分よりもこの世界に長く住んでいるのだ。自分より、彼女の方がしっかりしているのかもしれない。
「でも、特訓っていっても、どうするの?」
「ポケモンセンターの地下に、バトルフィールドがあるって、さっきジョーイさんが言ってたよ」
「ジョーイさん……受付のお姉さんか」
 受付というより、ポケモンセンターで働く女性は皆、ジョーイと呼ばれている。職業名らしい。フィアの感覚では「お医者さん」と言っているようなものだろう。
「地下にバトルフィールドか。そこで、どうするの?」
「バトルだよ。わたしと、フィアで」
「僕とフロルで?」
「うんっ」
 対戦相手がいないのだから、自動的にそうなるだろう。
 特に反対する理由もなかったので、フィアは受付で回復してもらったポケモンを受け取り、二人で地下へ続く階段を下る。
 階段を下り切り、扉を開けて部屋へと入ろうとした、その時。
 ドンッ、と誰かとぶつかった。
「おっと、ごめんごめん」
「あ、いえ、こちらこそすいません……」
 反射的に頭を下げるフィア。
 頭を上げると、相手の人物の姿が視界に入ってくる。
 歳はフィアと同じくらいだろう。細身の少年が、そこにいた。
 全体的に白や黄色を基調とした服装で、目を引くのは、つばのないふんわりとした大きな帽子。首には長く黄色いマフラーを巻き、黄色いTシャツの上から、白く袖の広い半纏のようなものを羽織っている。
 彼もトレーナーだろうか、と思っていると、向こうから声をかけてきた。
「ねぇ君」
「あ、はい……」
「ちょっと頼みがあるんだけど、いいかな?」
 いきなりだった。
 あまりに唐突な要求で困惑しながらも「な、なんでしょう……?」と恐る恐る聞き返す。
「大したことじゃないよ。オレさ、ずっとここでバトルしてくれるトレーナーが来るの待ってたんだけど、だーれも来ないんだよねー。だからもう諦めて帰ろうとしたんだよ、今」
「はぁ……」
 それって、つまり、
「いやー、いいところに来てくれた! オレとバトル、付き合ってくれない?」
 そういうことだった。
 フィアは背後のフロルに目配せする。フロルは「いいよ」と言ってくれた。
「わかりました。バトル、します」
 フロルとのバトルはとりあえずお預け。フィアは、少年とのバトルを受けた。
「おー。よかったよかった。無駄足にならずに済んだよ。あ、君、名前は?」
「あ、えっと、僕はフィアです……」
「フィア君ね。オレはイオン。よろしくー」
「よ、よろしくお願いします……」
「敬語なんていいよいいよー、同い年っぽいし? 気ぃ楽にしていこう」
 イオンと名乗った少年は、晴れやかな笑顔でバトルフィールドに立つ。どれだけ待っていたのだろうか。
「そんじゃー始めよっかー。あ、そうだ。フィア君。ポケモン、何体いる?」
「えっと、ちょっと待って」
 フィアは自分の手持ちポケモンを指折り数え、
「さ……二体、だよ」
 と答えた。
「二体かー。三対三がよかったんだけど、しょうがないか。じゃあ二対二のバトルでいい?」
「うん、いいよ」
 了承し、対戦のルールを決定する。
 バトルフィールドに立って、今からバトルが始まる。
 そういえば、とフィアは思った。

(野生じゃないポケモンとバトルするのって、これが初めてだ——)



あとがき。シュンセイシティ編開始です。街の名前はリメイク前と変えておらず、命名法則は季語です。シュンセイは春星、春の星ですね。おぼろげな空に浮かぶ淡い星です。ちなみにハルビタウンは、フィアも言っていた春日です。カスガじゃないですよ。今回は、前半部分をリメイク前と結構変えてます。基本的なシナリオは変わっていませんけどね。次回はフィアvsイオン戦。フィア初のトレーナー戦です。お楽しみに。