二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第38話 準決開始 ( No.70 )
日時: 2017/01/22 22:19
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 サミダレ大会ビギナーカップ準決勝。
 準決勝からは天井のドームを開いた吹き抜けの状態で戦う、開放感溢れるフィールドだ。
 本来ならビギナー同士のバトルでも熱狂する観客たちなのだが、今はそうではない。むしろ皆、シーンと静まり返っている。
『準決勝戦開始まで残り三分を切りました! しかしフィア選手、一向に現れません! 一体どうしてしまったのか!?』
『試合開始までに片方の選手がフィールドに来なければ、もう片方の選手が不戦勝になるというルールでしたね。今大会はやけに不戦勝、不戦敗が多いですが……流石に準決勝戦にもなると観客たちの期待も大きいですから、これが不戦勝などという結果に終わってしまうのは、残念極まりないでしょう』
 現在フィールドに立っているのはフロル一人。最初はフィアが来ないうちにフィールドに向かうことを渋っていたのだが、フィアが戻って来ると信じてフィールドに立つよう、ルゥナに押し出されたのだ。
(フィア……)
 物憂げな表情で、ただひたすらに、フロルはフィアを待っていた。



「どどど、どうしよう、このままじゃ間に合わない……!」
 試合開始まで、残り時間はおよそ三分。しかし現在フィアがいる波止場からでは、どんなに急いで走っても試合会場まで五分はかかる。物理的にはどう足掻いても間に合わない。
 フロルと約束したのだ。準決勝でバトルしようと。そのために、こうしてグリモワールに立ち向かい、ポケモンを取り返したのだ。
 せっかくポケモンを取り返したのに、バトルができないだなんて。自分のしたことは、なんだったのか。
「と、とにかく、急がなきゃ……!」
「待って! 走っても間に合わないよ!」
「で、でも!」
「あと少しだけ待って! もうすぐ……来た!」
 焦燥に駆られるフィアを宥めるミキは、波止場の入口を指さした。
 そこには、一つの影——人影だ——があった。
 男だ。歳はわりと若く見えるが、顔立ちが整っているからだろうか。
 長い金髪——いや、色味からして、黄色に近い髪色だ——を後ろで一本に縛っている。
 黒い背広にネクタイ、手袋まで付けており、きっちりとした印象を与える男性だった。
「おや? この状況……もしや、すべて終わってしまいましたか?」
「そのもしやです! 遅いですよアッサムさん!」
「それは申し訳ありません。少々連絡に手間取ってしまいまして……何分、今の彼は一介のトレーナーでは連絡を取ることすらも困難でして……」
「だから事実確認は後回しって言ったじゃないですか!」
 さっきまでの落ち着きが嘘のように、捲し立てるミキ。しかし険悪さは感じられず、アッサムと呼ばれた男はどうやら、彼女と親しい仲のようだ。
「あ、あの、あなたは……?」
「おっと、これは失礼いたしました。申し遅れましたが、私の名はアッサム。PDOというイッシュ地方自警組織の統率補佐を務めて——」
「そういう説明はいいですから!」
 アッサムの自己紹介を断ち切るミキ。
 穏やかそうなアッサムだったが、流石に見かねてか、不満げな視線をミキに向ける。
「……ミキさん。ここ最近、貴女は落ち着きがなくなりましたね……貴女の師匠が泣きますよ」
「師匠の話は今はいいから! 時間がないんです!」
「わかりましたよ。今の私は貴女には逆らえませんからね……して、如何様に処理すればよろしいでしょうか」
「飛べるポケモンを用意してください。大至急!」
「成程、そういうことですか……了解いたしました。場所はどこまで?」
「会場まで!」
 完全に置いてけぼりを喰らっているフィア。自分のために動いてくれているようなのだが、なにがどうなっているのか、さっぱりわからない。
「承知いたしました。では、参りましょう」
 と、アッサムはフィアの手を引く。
 そして、いつの間にか握られていたボールから呼び出される、一体のポケモン。

「飛翔の時間です——トロピウス」



『もう残り時間は三十秒です! フィア選手まだ現れません! 本当に何があったのか!?』
 モニターには試合開始までの残り時間が表示され、カウントダウンを始める。刻一刻と時間が進み、試合開始までの時が迫っていく。
 観客たちはもう冷めきってしまい、観客席から出ようとするものまで出て来る始末。もうフィアは現れず、フロルの不戦勝で準決勝が終わる。そして、不完全な決勝戦を迎えて、ビギナーカップは終了する。
 所詮は初心者のための大会。期待するほどのバトルなんて幻想だ。誰もがそう思っていた。
 その時。

 緑色の巨体が、フィールドの中央に突撃した。

『な、なんだ——!? 突如、ポケモンがフィールドに降ってきた——!』
『いや、飛んできた、の間違いでしょう……しかし』
 砂煙が濛々と舞い、そのポケモンの姿は見えない。だがやがてその砂煙も晴れていき、ポケモンの姿が露わになる。

『Information
 トロピウス フルーツポケモン
 好物のフルーツを食べすぎるあまり、
 首回りに生えてきた。しかし自分
 では口が首まで届かないので食べられない。』

 フィールドに突っ込んできたのはトロピウス——だけではなかった。その背には、三人の人影がある。
「ふぅ……ギリギリ、間に合ったね」
「死ぬかと思った……」
「トロピウス、ご苦労様でした」
 モニターの残り時間を見つめる少女と、ふらふらになってトロピウスから降りる少年。
 降りて来たのは、フィアだ。
「私はまだやることがあるから、ここで失礼しますが……応援してるよ。頑張ってね」
「はい、ありがとうございました!」
「アッサムさん、お願い」
「再び承知いたしました。トロピウス、飛んでください」
 手を振って、ミキとアッサムはトロピウスに乗ったまま、飛び去ってしまう。今思えば、彼女らにはかなり助けられた。七罪人を退けるにも、この場所に来るにも、二人がいなければどうしようもなくなっていた。
 思えば、なぜ二人はこうも自分を助けてくれたのか、少しばかりの謎が残らないこともないが——
「フィア!」
 とその時、フロルが叫ぶ。
 フィアはフロルの方を向くと、ゆっくりとポケットからボールを取り出し、
「フロル。ポケモン、取り返して来たよ!」
 ——今はこちらだ。
 フィアは取り出したボールを、ギュッとフロルに握らせる。
「フィア……ありがとう」
 フロルは込み上げる喜びを、柔らかい微笑みで表した。
 とそこで、アナウンサーが割り込んで来る。
『なにやら選手二人の間でいい空気が流れていますが、なにはともあれ、サミダレ大会ビギナーカップ、準決勝戦! 戦うのは、試合開始まで残り七秒というところで空から滑り込んできたフィア選手! お前はどこのヒーローだ——!』
 いつになくテンションの高いアナウンサー。そして狙ったわけでもないがギリギリで滑り込んできたという登場の仕方に、観客たちも意気揚々と沸き上がる。
『そしてそのフィア選手の相手は、紙一重の試合をギリギリのところで勝利していったフロル選手! 逆転勝利を得意とするフィア選手に、その力はどこまで通用するのか!』
 フィアはそんなアナウンサーの声を聞きつつ、フロルとは反対側のフィールドの端、トレーナーの定位置へと移動する。そして、ボールを構えた。
(そう言えば、フロルとバトルしたことってなかったな)
 シュンセイシティでバトルする予定があったが、イオンとのバトルを優先してしまい、結局戦わずじまい。
 連絡船でも相手をしてもらおうと思っていたが、彼女は寝ていたのでそれも叶わず。
 ここまでの道中、共に支え合ってきた仲だが、バトルをするのはこれが初。そう思うと、妙な気分だ。
『さぁ、いよいよ戦いの銅鑼が鳴り響きます! サミダレタウンバトル大会ビギナーカップ準決勝戦! 試合——』
 マイクを握り締めたアナウンサーは大きく間を空け、

『——スタート!』

 待ちに待った準決勝戦が、開始された。



あとがき。ようやっと準決勝戦までこぎつけました。ギリギリのところで試合に間に合うフィアですが、リメイク前はミキのバルジですっ飛んで行ったんですよね。リメイクに際して、新キャラのアッサムを加え、トロピウスになりましたけども。このアッサムですが、昔の白黒を知っている人なら、たぶん誰だかわかると思うんですよね……懐かしい名前とかも出しましたし。本当、昔の作品を漁ると、なんだか感慨深くなってしまっていけませんね……もう何年前だろうという感じです。どういう感じなのか、言語化が難しいです。えっと、では次回ですね。ようやく約束の一戦、サミダレタウン大会準決勝、フィアvsフロルです。お楽しみに。