二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第39話 草花進化 ( No.71 )
日時: 2017/01/22 22:17
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 サミダレタウン大会、準決勝戦。
 フィアとフロルのバトル。お互い同時に、この一戦のためのポケモンを、繰り出す。
「頼んだよ、ブースター!」
「お願いっ、リーフィア!」
 フィアが繰り出すのはブースター。そもそもミズゴロウがマモンとのバトルで戦闘不能、そこからここまで来るのに回復させる余裕などなかったため、必然的にブースターを出すことになる。そのブースターも、下っ端との戦闘で、少しばかり負傷しているのだが。
 しかしそんなことなど関係なく、フィアは最初からこのバトルで、ブースターを出すつもりだった。
 そしてフロルのポケモンは、クリーム色のスマートな肢体。体の各所からは草が生え、緑色の耳や尻尾には葉脈のような模様や切れ込みがある。

『Information
 リーフィア 新緑ポケモン
 細胞が植物に似ているため、
 光合成が行える。尻尾の葉っぱは
 大木を両断するほどの切れ味を誇る。』

「リーフィア……このポケモンも、イーブイの進化系なんだ……」
「うん……わたしが、イーくんからもらったイーブイを進化させたポケモン……わたしのはじめてのポケモンだよ」
 初めて手に入れ、始めて進化させた、思い出のポケモン。
 フィアのブースターも同じだ。フロルほど、いい思い出ではないが。
 しかし二人の共通点。そこに、なにか運命的なものを感じる。
 だとすればこの対戦も、その運命の導きによるものなのだろうか。
 不思議な感覚に包まれながら、両者は動き出す。
「リーフィア、リーフブレード!」
 先に動いたのはリーフィアだ。
 葉っぱのような尻尾をピンッと屹立させ、鋭利な刃物のように振るう。
「ブースター、ニトロチャージ!」
 対するブースターも、炎を纏って駆け出す。
 リーフィアのリーフブレードにブースターのニトロチャージ。両者の攻撃が激しくぶつかり合った。
 しかしパワーはブースターの方が上。ブースターがリーフィアを突き飛ばした。
「うぅ、パワーじゃ負けちゃう……でも」
 パワーではブースターが上。単純な殴り合いなると、タイプでも不利なリーフィアが押されてしまう。
 しかし、フロルには策があった。
「リーフィア、剣の舞!」
「!」
 リーフィアは攻撃せず、その場で剣のように鋭く舞い踊る。
 猛々しく、気高く、それでいて美しく。力強さの中にしなやかさのある、不思議な舞だった。
『フロル選手のリーフィア、剣の舞で攻撃力を上げてきました! 力でブースターに打ち勝つつもりだぁ!』
『相性的にリーフィアはブースターに弱い。しかも覚える技もさほど多くないですから、攻撃力を上げて対抗するつもりなんでしょうね』
 剣の舞は攻撃力を大きく上げる技。
 こうなると、いくら草技が効果いまひとつのブースターといえど、軽々しくリーフィアの攻撃を受けられない。
「リーフィア、リーフブレード!」
 リーフィアは太陽の光に葉っぱのような尻尾を煌めかせ、一直線にブースターに向けて走り出す。
 フロルは本気、そして全力だ。ならばフィアとブースター、こちらも全力で迎え撃つのが礼儀だ。
「ブースター、ニトロチャージ!」
 ブースターは全身に炎を纏い、地面を蹴って駆け出した。
 リーフィアのリーフブレードと、ブースターのニトロチャージが再びぶつかり合い、交錯する。
 しばし激しく競り合うと、互いに身を退いた。
「ニトロチャージをぶつけてこれか……だったら、火炎放射!」
 その後すぐに切り返したのはブースターだ。口から燃え盛る炎を噴射し、リーフィアを攻撃する。
「リーフィア、かわして電光石火!」
 リーフィアは襲い掛かる炎を横に跳んで回避し、そのままブースターへと突っ込んだ。剣の舞で攻撃力が上がっているため、ダメージは小さくない。
「アイアンテールだ!」
「リーフブレード!」
 ブースターは反撃に鋼鉄のように硬化させた尻尾を振るい、リーフィアも鋭い尻尾で斬りかかる。
 双方の攻撃がまたしてもぶつかり合うが、結果は僅かにブースターが強い。剣の舞で攻撃力を上げても、まだブースターには届かない。
「ブースター、攻めるよ。ニトロチャージ!」
 大きく後退するリーフィアに、ブースターは炎を纏って追いかけるように駆け出す。
「かわして!」
 リーフィアはまた横に跳んでニトロチャージを回避するが、
「まだまだ! 火炎放射!」
 すぐさまブースターは火炎放射で追撃。
 リーフィアはなんとか身を捻って躱そうとするが、避けきれず炎を少し掠めてしまう。
「リーフィア、こっちも負けてられないよ。秘密の力!」
 リーフィアは一度態勢を整えると、勢いよくブースターに飛び掛かり、前足で突き飛ばした。
「くっ、ブースター、火炎放射だ!」
 反撃にブースターは火炎放射を放つが、
「かわしてリーフブレードだよ!」
 跳躍して炎を躱し、、リーフィアはブースターとの距離を一気に詰める。そして、袈裟懸けのように尻尾で切り裂いた。効果はいまひとつだが、剣の舞によって攻撃力が大きく上がっているため、このダメージも馬鹿にならない。
「もう一度リーフブレード!」
「アイアンテールで押し返すんだ!」
 リーフィアは返す刀で追撃を試みるが、ブースターも鋼鉄の尻尾で素早く切り返し、リーフィアを押し返す。リーフィアは宙を舞った。
「ニトロチャージ!」
 そして炎を纏って突進。リーフィアが地面に着地した瞬間に攻撃が当たる、絶妙なタイミングだが、
「リーフブレードだよ!」
 リーフィアは空中で身を捻って態勢を変え、尻尾を振り下ろすようにしながら落下。そのままブースターとぶつかり合う。
 ブースターの勢いを逆利用し、跳ね返る力で大きく後退した。直撃も受けておらず、ダメージはほとんどない。
 しばし競り合っていた二体は互いに飛び退き、睨み合う。
(フロル、こんなに強かったんだ……これならシュンセイジムやイオン君にも、負けないような気がするけど……)
 そんなことを思うフィアだったが、今はバトル中だ。雑念を振り払い、頭を切り替えてバトルに集中する。
「ブースター、アイアンテール!」
「リーフィア、電光石火!」
 ブースターは尻尾を鋼鉄のように硬化させてリーフィアへと突っ込むが、それよりもリーフィアの方が速い。高速の突撃がブースターの脇腹へと繰り出される。
 しかし、その攻撃を受け止め、ブースターは尻尾を振るい、大きく吹っ飛ばした。リーフィアは地面に叩きつけられる。
「よしっ」
 手応えのある一撃。まともに入ったので、リーフィアには大ダメージだと思いきや、
「リーフブレード!」
 砂煙の中からリーフィアが飛び出し、ブースターを切り裂いた。その動きは、あまり大ダメージを受けたようには見えない。
「リーフィアは防御力が高いポケモンだよ。そうは見えないかもしれないけど……だからブースターの攻撃でも、簡単には負けないよっ」
 攻撃特化のブースターに防御特化のリーフィア。相性ではブースターが有利だが、リーフィアには剣の舞がある。
 この勝負、いよいよどちらが勝つのか分からなくなってきた……が、その危うく保たれていた均衡が、崩れた。
「リーフィア、電光石火だよ!」
 遠くから攻撃する手段のないリーフィアは、とにかく前に出る。素早い動きでブースターに接近し、突撃。さらに、
「秘密の力!」
 前足を突き出して、ブースターを押し飛ばす。剣の舞で強化された攻撃だ。この連撃はかなり堪えた。
 しかも、ブースターはガクリと膝を着いてしまう。ピクピクと痙攣しており、明らかに身体が痺れていた。
「やった、麻痺の追加効果っ」
 秘密の力は、フィールドの状態、環境によって技のタイプや性能、効果が変わる技。人工的なバトルフィールドでは、力任せに攻撃し、麻痺の追加効果が発生する。
 麻痺状態になってしまったブースター。これで素早さが下がり、動きも阻害される。
『おぉっと! フィア選手のブースター、麻痺状態になってしまったぞぉ!』
『剣の舞で火力を上げ、麻痺状態で足まで奪う……さらにリーフィア自身の高い防御力。走攻守の三拍子が揃った状態が構築されましたが……』
 観客たちが沸き上がっている。状態異状でフロルが優勢となった、観客の多くはそう思っていたが、それはAブロックのバトルを見ていない者たちだ。
 Aブロック二回戦の試合を見ていた観客は、そんな者たちとは違う意味で沸き上がっていた。
 ブースターが状態異状になるということは——
「来た……!」

 ——ブースターの特性、根性が発動するということなのだから。

 ブースターは大きく轟くように咆哮し、観客を黙らせる。
 そして、好戦的で情熱的な、力強い眼差しでリーフィアを睨みつける。
『来ました! ブースターの特性、根性が発動だぁー! これで攻撃力が超アップ! ブースターはリーフィアの防御を突破できるのかぁー!?』
『リーフィアはタイプ相性と根性発動で、持ち前の防御が生かせない。ブースターは剣の舞で高火力の技を受けてしまう上に、麻痺で動きが鈍い。互いに防御が意味をなさない状況……如何にして必殺の一撃を叩き込めるかが肝要になりますね』
 火力はお互いに十分。だがその条件であれば、スピードで負けているブースターの方が不利だ。
 だというのに、なぜだろうか。
(僕、凄いドキドキしてる……身体の内側が、熱くなってるみたいな……)
 この感覚は、なんだろうか。
 テイルとのバトルでも、似たような状態になっていた気がする。あの時は熱中しすぎて意識が半分飛んでいたが、今は集中していても、自分の意志をハッキリと感じる。
 追い詰められても楽しい。追い込まれても昂ぶる。
 まだ準決勝。先がある。ルゥナとのバトルが残っている。
 それでもこのバトルが、最高に楽しいと感じられた。
「ブースター、ニトロチャージ!」
 しかし、ブースターは身体が痺れて動けない。
 その隙に、リーフィアが接近してくる。
「リーフブレード!」
「っ! アイアンテール!」
 寸でのところで鋼鉄の尻尾を振るい、リーフィアを押し返す。根性でパワーアップしたブースターの攻撃は競り合うこともなく、一瞬でリーフィアを吹き飛ばした。
「すごいパワー……だったら、剣の舞!」
 リーフィアは再び鋭く舞う。攻撃力をさらに高めてきた。
「電光石火だよ!」
「近づけないで! 火炎放射だ!」
 リーフィアは超高速で突っ込むものの、ブースターが放つ火炎放射に阻まれ、足を止めてしまう。
「むぅ……だったら、とんで! 秘密の力!」
「叩き落として! アイアンテール!」
 リーフィアは跳躍して、上からのしかかるようにブースターへと仕掛けるが、打ち上げるようにして繰り出されるアイアンテールに弾き返されてしまう。
 二度の剣の舞を使用しても、パワーではまだブースターに敵わないようだ。
「むー……だったらもう一度だよっ! 剣の——」
「させない! 火炎放射!」
 リーフィアが再び踊ろうとするが、ブースターが炎を放ち、舞を止める。
「起死回生だ!」
「!」
 さらに飛び掛かって、前足で起死回生の一撃を叩き込もうとするが、
「っ、しまった、麻痺が……!」
 攻撃の途中で身体が痺れてしまい、ブースターの動きが止まる。
 リーフィアはその隙を逃さなかった。
「今だよ! リーフブレード!」
「う、く、起死回生!」
 尻尾の葉っぱを刃のように振るうリーフィア。ブースターも直前で起死回生を繰り出す。リーフィアの刃を押し切り、そのまま吹っ飛ばした。
「リーフィア!」
 ドテッ、とフィールドに落ちるリーフィア。防御の高いリーフィアでも、今の攻撃はかなり効いたようだ。
 しかしそれはブースターとて同じ。幾度と繰り返された交錯、連撃でかなり消耗している。
 リーフィアは立ち上がり、尻尾を構えて駆け出す。ブースターもそれに合わせ、走り出した。
 これが、最後の一撃だ。

「リーフィア、リーフブレード!」

「ブースター、ニトロチャージ!」

 バトル開始の交錯と全く同じ技での、再三にわたるぶつかり合い。
 しかしもう既に、勝敗は決していた。
 根性で攻撃力が底上げされたブースターのニトロチャージは、葉っぱの刃を突き破り、そのままリーフィアを突き飛ばした。
「リーフィア!」
 壁まで吹き飛ばされたリーフィアは、そのまま地面に伏し、ぐったりとして動かない。完全に戦闘不能となっている。
 つまり、
『決まったあぁぁぁぁぁ! フィア選手のブースター、一進一退の攻防を、特性の根性で打破! フロル選手のリーフィアを倒し、決勝戦進出だあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 アナウンサーの叫びと同調するかのように、ワァッと観客たちの歓声が今まで以上に大きくなる。
『……準決勝戦、それも駆け出しトレーナー同士とは思えない、ハイレベルなバトルを見せて頂きました。もし彼や彼女と戦う機会があるなら、是非とも手合せしたいところですね』
 ウルシもそう言ってまとめる。
 お互いにポケモンをボールに戻す。
 勝った嬉しさよりも、このバトルを戦いきったことの満足感が大きい。たぶん、負けてもこの高揚した気分はそのままだ。
 フロルの方を見る。負けて落ち込んでいる——そんなことはありえない。
 このバトルで戦い合った仲だ。そうであることは、すぐに感じ取れた。
 彼女は笑っていた。フィアと同じく、やり切った、というように。そして、すべてが満たされたような笑顔。
 その笑顔のまま、彼女は言った。

「フィア……ありがとう」



あとがき。無理やり一話に収めたフロルとの準決勝戦。凄い熱いバトルにするつもりが、テイル戦よりも短くなってしまった。まあ、これはこれで楽しく書けたのでいいんですけど。個人的に、ポケモンバトルは負けられないバトルより、全力で楽しいバトルが好きです。伝わるかな? 悪の組織戦より、ライバルバトルの方が好きってことなんですけど。一番好きなポケモンBGMは、BW2のチャンピオン戦ですしね。さて、文字数もギリギリそうなので、あとがきはこの辺で。次回は決勝、ルゥナ戦です。お楽しみに。