二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第40話 炎矛月盾 ( No.74 )
日時: 2017/01/25 00:50
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「いいバトルでしたね。トロピウスを飛ばした甲斐がありました」
「会場に無事送り届けるまでが依頼内容だったからね」
「その依頼も、非常に突発的でしたがね……いきなり素性の知れぬ女性から連絡が来たうえに、あろうことか旧友の部下を名乗り始めた時は新手の詐欺師かと思いましたよ……しかし、グリモワール、ですか」
「なにか思うところでもありますか?」
「えぇ、まあ少し……彼も似たようなことを仰っていました。私は直接的に戦を交えていませんし、どこの地方にも、あの手の輩はいるものですが……」
「危険ですよね」
「まだ、なんとも言い切れませんけどね」
「ところで、連絡をしてくれた子……ルゥナさん? に報告はしなくていいの?」
「旧友がその役を担ってくれていると思いますし、問題ないでしょう。私たちは、私たちのすべきことがあります。そちらを優先しましょう」
「そうですね……でも、ちょっと手がかり、掴めたかも」
「?」
「彼のレベルに見合わないダイケンキ……師匠のにおいがした」
「ほぅ、英雄の……となると、彼が鍵だと?」
「わかりませんが……意識しておいた方がいいかもしれないね」
「私の旧友に、ルゥナさん、そして彼とラインが繋がっています。いざとなれば彼とはまた会い見えることもあるでしょう」
「それならそっちは泳がせといて、先に面倒な方から処理、ですね。じゃ、私たちも三番ポートに急ぎましょうか」
「御意に」



 準決勝を終え、ロビーに戻るフィア。
 次は決勝戦、ルゥナとのバトルだ。
 サミダレタウンに向かう連絡船で出会い、線上でも、この大会でも、フィアを指導してくれた彼女。
 出会ってからまだ数日。たった短い間だが、その中でフィアは彼女から、トレーナーとして強くなるために必要なことを、たくさん学んだ。
 なぜ彼女がここまで自分に親身になってくれるのかはわからない。しかし彼女の性格からして、裏があるとか、貸しを作ろうとか、そういうことではないと思う。たった数日の付き合いではあるが、彼女はそんな人間ではないと、感じた。
 フィアがここまで勝ち上がって来れたのは、ひとえに彼女の指導のお陰だ。彼女がいなくては、フィアはテイルとのバトル——いや、二回戦で既に負けていたかもしれない。
 どうすれば彼女にこの恩を返せるのか。フィアから彼女にできることと言えば、全力でバトルに臨むことだけだ。
 それが恩返しになるとは思えないが、せめて、彼女から教えてもらったすべてを出し切って勝負したい。フィアはそう思っていた。
「もうすぐか……」
 サミダレ大会、ビギナーカップは、一日のスケジュールで全行程が行われる。しかし参加者の数は少ないとはいえず、時間はかかる。そのため、もうだいぶ日も落ちてきた。あと数刻もすれば、月も出て、完全に夜となる。
 決勝戦のための会場準備もじきに終わり、入場しなければならないだろう。
 最後のバトルで出すポケモンは決まっている。体力も回復させた。準備は万全だ。
 そろそろ移動しようとフィアが立ち上がったその時、スッと背後に何者かの気配を感じる。
「フィア」
「っ、フロル……」
 不意に声をかけられて驚くが、振り返れば、そこにはフロルが立っていた。
「どうしたの?」
「んっと、えっと……あのね、フィア」
「な、なに?」
「……がんばって」
 応援された。
 そんなことを伝えに、わざわざ来たのだろうか。
 彼女らしいといえば、らしい。
 言葉が足りてないが、なにかを必死で伝えようとして、その気持ちだけが伝わってくる。
「うん……頑張るよ。ありがとう」
「それじゃあ、えぇっと……」
「まだなにかあるの?」
「そう、うん。えっとね、フィア」
 どこか踏ん切りがつかないように、言葉がつんのめっているフロル。
 彼女はわりと言葉足らずで、こういうことがよくあるが、いつもと少し違う。
 いつもは、言葉にしたいことをどう表現したらいいか分からず、言葉選びに迷っている感じだが、今は言葉にすること、それそのものに迷っているような、そんな感じだ。
 しばらくそんな風にもごもごとしていたが、やがて、彼女は言葉を紡いだ。

「決勝戦が終わったら、一番ポートにきて……待ってるから」

「え……?」
 そうして彼女は、たったかと小走りに去ってしまった。
「……待ってる? 六番ポートで、決勝戦後に……」
 確かに彼女はそう言った。
 待ち合わせ。なんのためなのか、わからない。
 決勝戦直前に、妙なもやもやを抱えるフィア。
 そのもやもやを抱いたまま、決勝の舞台へと、上っていく。



『さぁ遂に始まりました! これで終わり! サミダレタウン大会ビギナーカップ、決・勝・戦! 白熱したビギナー同士のバトルの締めということで、観客も湧き上がっております!』
 決勝戦のフィールドは、基本的に今までと変わらないが、暗くなってきたために照明が灯されている。フィアは、野球のナイターみたいだな、と思った。野球観戦などまともにしたことはないが。
『ではでは、ファイナルバトルの対戦カードは、この二人! まずは準決勝で超絶ハイレベルなバトルを見せた、逆転勝利の申し子、フィア選手!』
 アナウンサーの言葉に合わせて、フィアは誘導されるままに、フィールドへと歩む。今まであまり気にしないようにしていたが、これだけの観客に見られているところに出るだなんて、かなり緊張する。しかも逆転勝利の申し子などと言われるのも恥ずかしい。単にギリギリで勝ってきただけだというだけだと思う。
『対するは、的確な技のチョイスから、絶妙なコンビネーションを見せるルゥナ選手! こんなナリだが17歳だぞ!』
「なんか失礼なこと言われたよっ!?」
 ルゥナも、同じように入場してくる。
 お互いにフィールドの所定位置に立つ。すると、ルゥナの方から声をかけてきた。
「やっぱり来たね、フィア君」
「ルゥ先輩……」
「準決勝戦、すごかったよ。あんなバトル見せられちゃったら、ハードル上がっちゃうな……あれ以上の凄いバトルなんて、私には見せられそうにないや」
「そ、そんなことは……僕は先輩と、いいバトルを——」
「フィア君」
 ルゥナは、フィアの言葉を遮った。
 そして、紡ぐ。彼女の言葉を。
「確かに、ポケモンバトルはコミュニケーション。人と人、ポケモンとポケモン、そして人とポケモンが繋がる“遊戯”の側面がある。でも、こんな風に大会があったり、ジムが用意されているように、“競技”としての一面も持ってるんだよ。悪い人とバトルしたことのある君ならわかると思うけど、負けちゃいけないバトルもある。泥臭くても、卑怯でも汚くても、勝つためになんだってしなきゃいけない時があるんだよ」
「ルゥ先輩……?」
「連絡船や大会中に、私はフィア君に色々なことを教えた。君にはたくさん甘い蜜を吸わせてあげたよ……だから今度は、苦い汁を味わわせてあげる。現実は、綺麗なままで終わるばかりじゃないんだよ」
 そう言って彼女はボールを構える。
 今までと少し違う彼女の雰囲気に圧倒されるも、フィアも同じようにボールを握る。

『両者、準備が整ったようです! それではサミダレタウン大会ビギナーカップ、決勝戦——スタート!』

「今度こそ、勝ってみせる……! お願い、ブースター!」
「悪いけど、後輩に負けてあげるほど、私は優しくないよっ! 行って、ブラッキー!」
 フィアが繰り出すのはブースター。
 対するルゥナは、ブラッキーだ。
 偶然か必然か、連絡船でのバトルが、またここで再現された。
『フィア選手は三回戦から連続してブースター! 対するルゥナ選手は、今大会初めて繰り出すブラッキーだ!』
『ブースターの攻撃力も凄まじいですが、ブラッキーは耐久力に優れるポケモン……攻撃と防御。矛と盾、どちらが勝るかの勝負になりそうですね』
 ウルシはそのように評するが、フィアはそんな単純な構図ではないと知っている。むしろ、厳しいのはフィアの方だ。
 ブラッキーは耐久力に優れるポケモン。連絡船では、ブースターの猛攻をも耐えきったほどだ。ブースターの攻撃を受け切ってしまう、最強の盾。
 がむしゃらに攻めているだけでは、前回の二の舞だ。どう攻めるべきかを考えながら、相手の出方を窺うフィア。
 そうしていると、不意にブラッキーが前に出た。
「隙だらけだよっ! ブラッキー、毒々!」
「え……?」
 素早くブースターとの距離を詰めたブラッキーは、じわりと身体の表面から毒素を分泌する。
 そして、分泌した毒素を、ブースターへと放つ。
 毒素を受けたブースターは、苦しそうに呻く。毒々の効果で、毒状態になってしまったのだ。
 しかし、それだけでは終わらない。
 ブースターは息を荒げながらも、自らの不調を力に変え、勇ましく咆える。
『おぉっとブースター! 早くも特性、根性が発動だぁー! 三回戦、準決勝を制したそのパワーが、この決勝戦でも解き放たれるぞぉー!』
『……妙ですね。フィア選手のブースターについて知らなかったわけでもないでしょうし、ここで毒々とは……』
 根性発動に沸き立つアナウンサーと会場だが、ウルシは疑念の表情を見せていた。
 ウルシだけではない。フィアもまた、ルゥナの行動に首を傾げる。
「自分からブースターを毒状態にした……? 先輩、僕のブースターの特性は……」
「知ってるよ。フィア君に特性のことを教えたのは私なんだから」
 やはり、知ったうえで毒々を放ったようだ。
 なぜわざわざ、ブースターが有利になるような行動を取ったのか。フィアには理解できなかった。
 しかしルゥナは、そんなフィアに、ピシャリと言い放つ。
「自惚れないでほしいな」
 鋭い言葉だった。
 どことなく冷たさを感じる声。
 今まで、優しく、丁寧にフィアに指導してきたルゥナだが、ここに来て彼女は、厳しい言葉を浴びせる。
「根性があるといっても、状態異常で君のブースターが蝕まれていることに変わりはない。体力は常に削られる。持久戦に持ち込めば、こっちが有利なんだよ」
「でも、根性で攻撃が上がってるし、持久戦になんて……」
「そこが君の自惚れ。三回戦と準決勝では、根性で押し切ったみたいだけど、私のブラッキーをその程度のパワーアップで倒せると思わないで」
 その程度。
 根性による強化、その強さは、ここまでのバトルで実感しているし、相応の結果を出している。
 それはルゥナもわかっているはずだ。それでも彼女は、根性の強化を、その程度と評する。
 それだけ、ルゥナはブラッキーの防御力に、自身があるということなのだろうか。
「それと、勘違いしちゃいけないよ。毒々は相手を毒状態じゃなくて、“猛毒”状態にする技。時間が経つにつれて、体力の消耗どんどん激しくなっていくからね」
 それに、とルゥナは続ける。
「今は夜。照明がちょっと邪魔だけど、夜はブラッキーのフィールド……この子の力が最大限に発揮される時だよ」
 つまり今のブラッキーは、連絡船の時よりも強いということ。
「っ……!」
 月光を浴びてフィールドに立つブラッキー。
 その姿は神秘的で、神々しく、それでいて強大であった。
 まるで魔神の如く、彼女と彼女のポケモンは、月夜の地の上で、フィアの前に立ちはだかる——



あとがき。サミダレ大会決勝戦です。正直、テイル戦が一番長く書いて、フロル戦が一番気合入れて書いて、マモン戦まで挟みましたけど、決勝戦はルゥナです。ここまで友好的に接して、フィアに色々レクチャーしてくれたルゥナですが、今回は厳しめモード。飴と鞭です。まあ、負かすって意味ではフィアは結構負けてるんですけど。でも、ただ負けるんじゃなくて、嫌な負け方、嫌な勝ち方、嫌な戦術ってものがありますからね、ポケモンには。作者は受けルが苦手です。TODとかもってのほかです。絶対零度スイクンはトラウマです。まともに殴り合わないポケモンバトルって、やっぱ敬遠されちゃいますよね。そんなバトルをフィアに教えつつ、描けたらいいかなと思ってます。というわけで次回、サミダレ大会決勝ルゥナ戦後編、お楽しみに。