二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第41話 専守防衛 ( No.75 )
日時: 2017/01/25 02:12
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 月夜の力を得て、今まで以上に強くなっているブラッキー。
 ルゥナはそういうが、果たして本当に強くなっているかはわからない。
 仮に強くなっているとしてもフィアのやることに変わりはない。ブースターだってここまでのバトルで、強くなっている。素早く決着をつけるだけだ。
「一気に決めるよ、ブースター! ニトロチャージ!」
「穴を掘る!」
 ブースターは炎を纏って駆け出すが、ブラッキーが地中へ逃げてしまい、その攻撃も失敗に終わる。
 地面タイプの技である穴を掘る。炎タイプのブースターが受けたくない技だが、この技は死角から襲い掛かってくるので、回避が難しい。
 しかし、
「後ろだよ! アイアンテール!」
 背後から飛び出したブラッキー。それに対し、ブースターは硬化させた尻尾を叩き込む。
 連絡船でルゥナとバトルした時と、今のフィアの違い。それは経験だ。
 実戦経験を積み重ねてきたフィアの経験値は確実に蓄積されており、相手の行動に対しても、すぐに指示を飛ばせるようになった。
 穴を掘るであれば、真下か、背後から飛び出すことが多い。そんな予測も含めて、ブラッキーの攻撃を許さず、逆にブースターが根性の一撃を繰り出す。
 だが、しかし、
「軽いよ、フィア君」
 吹っ飛ばされたブラッキーは空中で体勢を立て直し、スタッと着地。あまり効いているようには見えない。
「直撃したと思ったのに……ニトロチャージ!」
「穴を掘るだよ!」
 またもニトロチャージを穴を掘るで躱すブラッキー。
 また、地中からの攻撃が来る。
「ブースター、出て来たところを狙うんだ」
 フィアも神経を研ぎ澄まして、すぐに指示が出せるよう、ブラッキーの攻撃に備える。
 やがて、ブースターの真横の地面がから、ブラッキーが飛び出す。
「そこだ! アイアンテール!」
 さっきと同じやり取り。飛び出したブラッキーに、ブースターは鋼鉄の尻尾を叩き込む。
 しかし、さっきと同じということは、結果も同じということに他ならない。
「だから、軽いって」
 直撃したはずのアイアンテール。それを喰らったブラッキーは、平然と受け切っていた。
 今度は吹っ飛ばされることもなく、しっかりと地面に踏みとどまって、耐えている。
「しっぺ返し!」
 そして、カウンターの一撃を放つ。
 尻尾を振るい、逆にブースターを吹っ飛ばした。
「くぅ……火炎放射!」
「月の光!」
 ブースターはゴロゴロと転がりながら体勢を立て直し、炎を噴射するが、炎を受けながらブラッキーは光を浴びる。
 早朝から始まったこの大会だが、決勝戦ともなると、時間もかなり遅い。夜空に浮かぶ月の光が、ブラッキーの傷を癒す。
「ダメージが……!」
「もっと攻めてきてよ。攻撃しないと、ブラッキーは倒せないよ」
「わかってます! ニトロチャージ!」
「ブラッキー、穴を掘る!」
 三度目のニトロチャージを、同じ手法で回避するブラッキー。
 素早さを上げないために、ニトロチャージは受けずに回避しているのだろうが、ルゥナの目的はそれだけではない。
 ブラッキーの攻撃に備えているブースターの息が、上がっていた。
『ルゥナ選手は、やはり消耗戦に持ち込むつもりですね』
『穴を掘るは、発動から攻撃までに時間がかかる技。そのタイムラグがネックとなる時もあるのですが、この場合は有効活用していますね』
 実況席で、ウルシがそうコメントする。
『猛毒でブースターの体力は消耗する一方。つまり、時間をかけた方がブラッキーにとっては都合がいい。穴を掘るは攻撃までに時間がかかる技……』
『穴を掘るで、時間を引き延ばしていると?』
『そういうことです。地中にいる間は、攻撃を受けませんからね。確実に時間を稼げます』
 持久戦に持ち込むというルゥナの目論見を、完全に達成されてしまっているフィア。
 穴を掘るで時間をかけられ、月の光でダメージは回復される。そしてなにより、根性が発動しても、まるで堪えないブラッキーの防御力。
 圧倒的な攻撃力で圧倒するつもりが、まるで通用しない。
「アイアンテール!」
「しっぺ返しだよ!」
 穴から出て来た瞬間、ブースターが鋼鉄の尻尾をブラッキーに叩き込む。しかしその攻撃は簡単に受け切られてしまい、反撃のしっぺ返しで吹っ飛ばされる。
「月の光!」
 その隙に、ブラッキーは月光を浴びて体力を回復。まるでダメージが蓄積しない。
 一方、ブースターは猛毒でどんどん消耗していく。もう残り体力も僅かだろう。
「だったら、あれしかない……ニトロチャージだ!」
 ブースターは炎を纏って突撃する。
 今までのパターンでいけば、ブラッキーは穴を掘るで回避するはず。
 しかし、
「わかりやすいなぁ、フィア君は」
 ルゥナは、そうはしなかった。
「ブラッキー! 躱して!」
「!」
 穴を掘るを使わず、ブラッキーは大きく横に飛んで、直進するブースターの攻撃を躱す。
 その行動に歯噛みするフィアに、ルゥナは指摘する。
「フィア君、起死回生で一発逆転を狙ってるでしょ?」
「っ……!」
「ここで私のブラッキーを倒せる可能性があるとすれば、根性が発動してて、なおかつ体力が残り僅かな状態で繰り出す、フルパワーの起死回生のみ……格闘技だから、悪タイプのブラッキーには効果抜群だしね」
 ピシャリと、ルゥナは言い放つ。
「起死回生を確実に叩き込めるタイミングは、穴を掘るを使って、地面から出て来た瞬間……カウンター気味に攻撃するその時だよね? だから、ブラッキーの穴を掘るを誘ってる。でしょ?」
 読まれている。
 フィアの思考が、完全に。
「はっきり言って、フルパワーの起死回生を受けても、私のブラッキーなら耐えきる自信はあるけど……自分の思い描く戦略や立ち回りが、いつもいつも上手くいくわけじゃないってことを、知ってもらわないとね」
 猛毒に侵されているブースターは、必死でブラッキーに食らいついていくが、ブラッキーは隙を見せない。ブースターをいなして、躱して、ひたすら距離を取り続ける。
 明らかに、まともに勝負をする気のないルゥナとブラッキーに、観客たちから多少のブーイングが飛んでくるが、彼女らはそんなことなどお構いなしだ。ひたすら防戦を続ける。
 だが、フィアにはわかる。これは、彼女の指導なのだと。
(ルゥ先輩、決勝戦だっていうのに、まだ僕にバトルについて教えてくれてる……)
 実戦の中で培われる力は、見聞きする知識とはまるで違う。それは、ここまでのバトルでフィア自身も実感している。実戦の中でしかわからないこともある。
 今まで教わったことをすべてぶつけてバトルに臨んでいたフィアからしてみれば、戸惑ってしまう。彼女の指導は終わっていない。まだまだ、教わることがあった。
 たとえそれが、決勝戦という舞台であろうとも。
 少し、悔しかった。
「……ブースター、火炎放射!」
「ブラッキー、なにもしなくていいよ」
 ブースターと常に一定の距離を取り、攻撃を躱し続けるブラッキー。
 痺れを切らしたブースターは、火炎放射で遠距離攻撃を仕掛けるが、ブラッキーはそれを無理に躱そうとせず、真正面から受ける。
 直撃。しかし、ブラッキーは堪えているようには見えない。
「ニトロチャージだ!」
「毒々!」
 ブースターは炎を纏って、悠然と佇むブラッキーに突っ込む。
 対するブラッキーは、毒液を放った。毒液そのものにダメージはない。ニトロチャージを押し返すような力もない。
 しかし、顔面に毒液を浴びたブースターは、驚いて足を止め、勢いを殺しきれず、つんのめって転んでしまった。
「うっ、めくらまし……!?」
「そんな感じだね。ブラッキー、距離を取って」
「逃がさないで! アイアンテール!」
「受けるよ。衝撃を利用して、後ろに」
 ブースターから逃げるブラッキーを、ブースターはアイアンテールで追撃する。
 ブラッキーは尻尾の一撃を受けるも、入りが浅い。上手く勢いを利用され、ブラッキーは大きく後退して、結果的にブースターは距離を取られてしまった。
「もう一度だ! アイアンテール!」
「反撃だよブラッキー! しっぺ返し!」
 跳躍して再びアイアンテールを叩き込むが、ブラッキーのしっぺ返しでカウンターされてしまう。
 決して軽くない一撃を喰らい、後方に吹っ飛ばされるブースター。その隙に、ブラッキーは、
「月の光!」
 月光を浴びて体力を回復する。
 バトルが始まってから、ブラッキーは回避と回復を繰り返し、体力はほとんど減っていない。
「まずい、ブースターの体力が……!」
 対するブースターは、猛毒に侵され、体力が削られる一方。ちょくちょく喰らうしっぺ返しによって、消耗はさらに加速される。
 残り僅かな体力も、そろそろ尽きる。あと数分と動けはしないだろう。
「こうなったら、一か八か、そのまま攻める……ブースター!」
 フィアはブースターに呼びかける。
 猛毒で消耗するスピードがどの程度かはわからないが、今まで経過した時間や残り体力を考えると、恐らく、これが最後の一撃だ。
 全身の力を集め、駆動させ、解き放つ。

「起死回生!」

 ブースターはブラッキーに飛び掛かった。
 後ろ足をバネのように使い、地面を抉るほど蹴り飛ばし、一瞬で距離を詰める。
 この一撃が決まれば、もしかしたら——そんな希望を抱いた一撃が、放たれる——
「まあ、そう来るよね」
 しかし、それはルゥナの予見の範疇。読めている手札だ。
 見えているカードへ対処することは、酷く簡単だ。

「穴を掘る」

 ブースターの攻撃が叩き込まれる。
 体力がギリギリの状態で放たれる起死回生。そこに根性の強化が合わさることで、起死回生の一撃は地面を大きく抉っていた。メキメキ、と周囲のタイルをも砕くほどの破壊力。まともに食らえば、生半可なポケモンであれば即座に戦闘不能。ブラッキーほどの耐久力でも、弱点を突かれてしまえば倒れてしまいそうなほどの、強大で驚異的な攻撃だ。
 しかしそれは、当たっていれば、の話。
 当たらない攻撃は、脅威とは言えない。
 起死回生は、直撃した——フィールドへと。
 地面こそ破砕したが、肝心のブラッキーには、当たっていない。
 そして、
「……おしまい、だね」
 ぐらり、とブースターが揺れる。
「ブースター!」
 すると、ばたん、と倒れた。
 猛毒に侵され、蝕まれたブースターの体力が、遂に尽きたのだ。
 目を閉じて倒れたブースターは、戦闘不能。
 つまり、

『ブースター戦闘不能! ブラッキーの勝ち! よって勝者、ルゥナ選手!』

 サミダレタウン大会ビギナーカップ。
 優勝は——ルゥナだ。



あとがきです。サミダレ大会決勝ルゥナ戦、決着。まあ、わかってる人はわかってたでしょうけど、というか展開的に予想されてそうですけど、ルゥナの圧勝です。今回は、前話のあとがきでも述べたように、まともに勝負しないバトルを描きました。毒殺戦法なんて対戦では普通ですけど、相手とまともにぶつかりあわず、逃げ回ってほぼ専守防衛に走るバトルは、見栄えもよくないですし、観客受けは悪そうです。この世界観だと。ルゥナはしっぺ返しである程度は殴ってましたけど、回避と防御が主でしたからね。でもまあ、こういう汚い、まともに取り合わないバトルもまた、戦術で、非難されるいわれはないんですよね。では次回、サミダレタウンのお話は終了予定です。お楽しみに。