二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第9話 二つの道 ( No.12 )
- 日時: 2017/07/03 10:54
- 名前: kuzan (ID: sCSrO6lk)
聖杯戦争開戦から2日後、蓮はセイバーを連れて街に出ていた。
それは街を把握するためや、敵の偵察などを踏まえてである。
が、その目的を忘れ、セイバーは現代の世界に完全に浸っていた。
最初は乗り気ではなく、服も軽く連の大きめのコートを羽織っただけで隠そうとはしなかった。だがふと洋服屋で立ち止まり、「これ欲しい。」と呟いた。
決して安いとは言えないその服を買い、試着室を借りて服を着た。
その服は薄い赤色のワンピースで赤いパンプス、更にお洒落で黒いダテメガネを買い、その姿は何の変哲もない少女のようなものだった。
「さあ蓮!次はどこに行こうか。」
セイバーはとても上機嫌であり、蓮を様々場所へと連れ回すことになる。
連はその度に財布の中身を見ながらため息をつく。
「…ま、たまにはこんなこともいい、か。」
とその度に呟き、苦笑を浮かべる。
「どうした蓮!さ、次だ、休む暇なんてないからな!」
遠くから手を振り、蓮に呼びかける姿はまるで少女のようなもので、鎧で体を包み、二対の剣を振るうとは思えない。
「ああ、待ってくれよセイバー。」
ゆっくりと歩いて彼女の元へ向かう。
普段剣を降っているからこそこういう日常を楽しみたいのであろう。
加えて彼女は昔の人間であり、現代の文化に興味があるのは当然だ。
だから今はこの日常を謳歌させてやりたいと蓮は考える。
「…侮った…。」
蓮はポツリと呟く。
しばらく散々連れ回され、財布の中身は無に近い。
はぁ、と大きな溜息をつきながら入った喫茶店で頼んだコーヒーを飲む。
だが、目の前で嬉しそうにサンドイッチを頬張る少女を見ればどうでもいい、とすら思える。
「ふふ、時代はこうして発展していくのだな。
私の時代には無いものばかりだ。」
食べていたサンドイッチを皿に置くと、上機嫌な様子で連に話しかける。
蓮はつられて笑うようにすると
「そうか、それは良かった。
でもセイバー、俺の財布の中身も考えてくれよ。ほぼ空だぞ…。」
財布を逆さにし、軽く上下に動かす。財布の中から出てきたのは1ドル札数枚と硬貨数枚だけ。
セイバーは苦笑し、悪びれる様子もなく
「は、済まないね、だが仕方ないだろう、興味あるんだから。
私は君のために戦う、君は私のモチベーションのために尽くす。
特価交換だよ、それは整ってると思うな。」
「…そうだけど…。」
言い返そうと思った時、カラン、と鈴を鳴らしながら喫茶店の扉が開く。
思わずそちらを見るとただでさえ目の前に可憐な少女がいるのに同じように可憐な女が入ってきた。
その女は紫色のコートにジーンズ、紫色の髪を持った女だ。
「…蓮…、おい蓮…!
マスター!」
思わず見とれ、その女の方ばかりを見ていてセイバーの声に気が付かなかった。
机に腕を起き、前のめりで蓮に語りかけていた。
「お、おう、どうしたセイバー。」
目のやり場に困っているとセイバーの方からずい、と顔を寄せてきて
「…あの女、サーヴァントだ。恐らくあちらもこっちに気がついている。
見た目に騙されるな、私のマスターだろう。」
今までとは一変し、真剣な顔で蓮のことを見る。
「…ああ。済まないセイバー。」
そして再びそのサーヴァントの方を見るとキョロキョロと店中を見渡す。
席は満席であり、座るところがない。
店員がそちらに向かうとそのサーヴァントに何かを聞いている。
サーヴァントは笑を浮かべ、頷き、四人掛けの席に座っている蓮達の方を見て、指を指す。
すると店員は蓮達の方に向かって来て
「あちらの方と相席して頂いても宜しいでしょうか?」
と聞いてくる。
蓮はセイバーの方を向き、どうする?と呟く
それに対しセイバーはいいんじゃないか別に。と何でもないように呟く。
「…よし、なら大丈夫です。」
そう言えば店員は
「ありがとうございます。」
と頭を下げ、サーヴァントの方に向かい、席に案内する。
「失礼致しますね。」
そのサーヴァントは不気味なほど笑みを作っており、セイバーの隣に座った。
セイバーはむっとして
「貴様、どのクラスのサーヴァントだ。」
と単刀直入に聞く。
するとサーヴァントは笑みを絶やす様子もなく、そのまま続ける。
「ふふ、私はバーサーカー。
それだけですよ。」
サーヴァント、バーサーカーはニコリと笑みを深くする。
「…バーサーカー?
なら何故狂化の効果を受けていない。狂化の効果を受けていれば語彙力なども失われるはず、なのに貴様はなぜ問題なく話せている…?」
セイバーは顔を歪め、不思議そうにそう聞く。
それに対しバーサーカーは今までとは変わらず、冷静とも言えるその笑顔のまま
「いいえ、私とて狂化の効果は受けています。
狂化EX…私の狂化は思考を弄られる程度で聞いているのです。
つまり語彙力などの問題は一切ありません。ただし、この頭は一つの思考で固定されています。」
「その、思考って…?」
蓮は思わずそう聞く。
恐らくこれは真名に繋がるヒントであり、それを引き出すことが出来るだろうと考えた。
しかしバーサーカーは少し考え
「失礼、その事については控えさせていただきましょう。
後に響いてきますからね。」
と笑みを浮かべながら呟く。
蓮は渋い顔をしながら
「…そうか、そうだよな。」
と呟く。
そしてバーサーカーは思い出したように手を叩き
「そう言えばあなたのクラスを聞いていませんね。
私の信じる道は名乗られれば名乗り返すのが礼儀ですので、それは私の道に反することになります。」
とセイバーの方を見る。
するとセイバーはしまったという顔をし
「そんなもの私も同じだ。
うっかりしていた。その事は詫びよう。そして私のクラスは最優のクラス、セイバーだ。」
「…セイバー、セイバーですか。
ふむ、ありがとうございます。ではこちらを。マスターからの預かり物です。」
と言いながらバーサーカーは一つの紙を取り出し、蓮の方に向ける。
「…これは…自己証明強制…!?
権謀術数の入り乱れる魔術師の社会において、決して違約不可能な取り決めをする時にのみ使用される、もっとも容赦のない呪術契約の一つだったな…。
自分の魔術刻印の機能を用いて術者本人にかける強制の呪いは、いかなる手段用いても解除不可で、さらに例え命をさしだしても、次代に継承された魔術刻印がある限り、死後の魂すらも束縛される。
この証文を差し出した上での交渉は、魔術師にとって最大限の譲歩を意味し、魔術師の間では滅多に見られない代物だぞ…!?何でこんなものが…」
「さあ、私にもわかりませんよ。
ですが、どうぞ内容をお読みください。」
「…『この自己証明強制を受け取ったものにはバーサーカー陣営との同盟を組む権利があり、その同盟は最後の2騎になるまで破棄されない。
ヒャッチ・ディグソン』…。」
セイバーと顔を見合わせる。
同盟を引き受けるか、引き受けないか。
「どうする、私はマスターの意図に合わせるが…。」
「…馬鹿言え、俺だけで決められるか。
セイバーはバーサーカーと背中を合わせて戦うことは出来るのか?」
そう言うとセイバーは少し項垂れ
「…信用できるとはいえないが…
戦力が増えるのは正直嬉しい、と思う。」
「よし、なら決まりだ。」
そう呟けば自分の名前をサインする。
「…マスターからのギアスが効いたとの連絡が入りました。同じように、私の体にもギアスが効いたようです。まるで縄でも巻かれているようです。
さあ、これから私達は同盟として聖杯戦争を勝ち抜いていきましょう。
方針の話し合いでも本日しましょう。場所は我々の本拠地。場所は私がご案内します。さあ、よろしくお願いしますね、セイバー、そして、ええと、蓮さん?」
そう呟けば笑みをより深くし、二人を見る。
2人はその笑みに少し悪感を感じていた。