二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 戦闘中 〜ボクらの絆〜 ※オリキャラ ( No.12 )
日時: 2018/06/23 17:01
名前: フウ (ID: fDoLpxww)



◇ 



『閉じ込められた!?』
『あと数十分薬を飲み遅れていたら』
『山村さんがいなければ今頃……』



 普段があまりにも元気だったから。
 小さい頃から、薬を飲みそびれたことなんて一度もなかったから。
 長いこと一緒に暮らしていながら、彼は姉の病気の恐ろしさを毛ほども理解していなかった。
 父と同僚に支えられて仕事着のまま帰宅した、見たことないくらい白くなった姉の細面を、今でもはっきり思い出せる。
 それ以降、今まで行った行ってないの確認しかしていなかったのに、定期検診のあった日は診察結果について家族で情報共有されるようになった。彼自身も授業中やバイト中に、薬の服用時間が近づくと時計を見る癖ができた。少し前まで何気なく過ごしていた日常に、常に薄く緊張の膜が張られているようだった。
 その膜を一度、彼は愚かにも破ってしまったことがある。

『姉ちゃんの病気って、そんなに難しい病気なの?』

 ある日さりげない体を装って聞いた一言で、母はひとたまりもなく泣き崩れた。むせぶ母の背をさすりながら聞いた一言が、そのままブルーの“戦闘中”への参加理由になった。



『ごめんね、ごめんねえ。うちにお金があればねえ……』








「お、あああぁあああぁあああぁああぁああああ!!」





 腹の奥底から、吠えた。
 イエローが目を丸くする。
 まだだ、まだ諦めない!! ほとばしる激情の為すままに、ブルーはその名を絶叫した。








「撃て!! 日光!!」








 ぎょっと目を見開いたイエローの手から、バトルボールが投擲された。
 ブルーの胴を打ち抜く直前、予想外の方向から投げ込まれたバトルボールがイエローのそれを弾き飛ばす。間髪入れない第二投は、土くれを蹴散らし割り入った大盾忍に防がれた。
 今度はイエローが距離を取る番だった。大盾忍に前を守らせ、柄にもなく焦りに顔をこわばらせながら、座り込むブルーの傍らへと見参したそれらに視線を送る。




 右に銀の。
 左に金の“契約の腕輪”を身に着けた忍を従えて、ブルーはゆらりと立ち上がる。
 伏せていた顔が、上向く。
 風に揺れる前髪の隙間から覗く鋭利な双眸が、白刃のような光をたたえてイエローを見据えていた。




 双龍の忍————!!




 二体一組で動く、最もレア度が高い特殊忍。これをブルーは闘技場の対決に勝利し、早い段階で手に入れていた。
 入手直後、日光と名付けた双龍の片割れにブルーが命じたことはふたつ。
 他のプレイヤーに存在を気づかれないよう、常に隠れて自分に付くこと。
 バトルボールなど、使用できそうなアイテムが転がっていたなら、適宜回収すること。
 日光ではなく月光を連れていた理由は、ある程度マスターの意図を汲み取り柔軟に対応する月光に比べ、日光は命令された通りにしか動かないためだ。指示に忠実だというべきか、気が利かないというべきか。
 なんにせよ、ブルーにとって、どちらも頼もしい従者であるには違いなかった。


 かき集めた闘志を精一杯押し出して、ブルーはイエローを睨みつけていた。
 愕然としていたイエローの表情が、何の前触れもなく緩む。頭がぐらりと揺れ、顔が見えないほど深くうつむいた。両肩が、ぶるぶると小刻みに揺れている。
 それが武者震いだと気づいたのは、大音量の笑い声が天を衝いてからだった。花火の連続玉みたいに、爆発する歓喜をすべて声に変えてイエローは笑う。

「え、ええ?」
「!? !?」
「だっはっははははははは、わーっはっはっはっはっは!! ……あ〜〜!! ブルー、やってくれたなこいつう!!」

 子供みたいな笑みを弾けさせてイエローは言う。その場で踊り出してしまいそうなほど嬉々としているイエローに毒気を抜かれ、ブルーは所在なげに佇むしかなくなってしまう。
 この、ある意味緊張感を失くした空気を変えたのは、頭上から落ちてきた少女の声だった。



「いたっ、イエローさん!! と、……ええぇええ!? ブルーくん、あなた双龍持ちだったの!?」
「レッド!」



 忍に腰を支えられ、レッドは高木の茂みから軽やかに着地した。双龍の存在に加えて、渦中のふたりが激突しているとは思わなかったらしく、動揺を抑えきれない様子である。
 ————それぞれが等分に距離を取って立ち並ぶさまは、まるで三すくみ。それに気づいてか気づかずか、やにわに場の空気が刃のような鋭さを増していく。
 ブルー、レッド、イエロー。歳も故郷も目的も違う三者がそれぞれ、己のパートナーに指示を与える。





「月光が先行しろ、日光がサポートだ。何が何でもイエローさんの先手を取れ!」
「まずはふたりの出方を見る。忍、攻撃に備えておいて」
「先に仕掛けてきた方から迎撃するぞ!! 構えろ、大盾!!」





 戦闘アンドロイドたちは、全く同じタイミングで首肯した。







 ここからが、本当の“戦闘中”の始まりである。

【読了感謝】