二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 戦闘中 〜ボクらの絆〜 ※オリキャラ ( No.3 )
- 日時: 2018/06/17 14:46
- 名前: フウ (ID: fDoLpxww)
ざり、と土を踏みしめる音が一歩を詰めた。頭上からは弾を装填する音が降ってくる。イエローは束の間目を閉じ、らしくないニヒルな笑みを浮かべた。
どう甘く見積もっても、この状況を突破できる可能性はない。ならば今、自分がするべきことは単純かつ明快だ。
あとのミッションを仲間に託し、ひとりでも多く敵を撃破する。
「————おおっ!!」
裂帛の気合いと共に目を押し開く。
包囲の一角をぶち破って大盾忍が飛び込んできたのがほぼ同時だった。
驚愕の中、「大盾」と叫ぼうとして見えたのは、後ろでボールを振り上げる敵プレイヤーの姿だった。腹の底から声を張る。
「背後!!」
大盾は即応し、閃くような速度で得物を水平に薙ぎ払う。あらぬ方向に飛んだバトルボールはたまたまそこにいた敵プレイヤーに直撃し————、なんと激しいサウンドと共に「撃破」の赤字が宙に表出した。同時にイエローの懐が重くなる。敵プレイヤーの所持金数十万円がイエローに移動した証だ。
「鳩に豆鉄砲」を表情に落とし込んだ顔のまま、敵プレイヤーは無数のポリゴンと化して霧散する。今頃は倒されたプレイヤーが転送される“敗者の部屋”で「攻撃力ゼロじゃねえのかよ!」とでも叫んでいることだろう。
もっとも、今の一連の出来事が信じられないのは大盾も同じようで、イエローや赤チームのプレイヤーたちと一緒にぽかんと立ち尽くしている。やがてその背中が「あっ」みたいな跳ね方をして、すぐさまイエローに向き直った。まろぶように駆け寄ってきた大盾は、マスターへ満面の笑みにも等しい眼差しを向けている。
きらきら光る目線の先で、あんぐりと開いたイエローの口がゆっくりと閉じていく。閉じた口は数秒の間を空け、急に何かを耐えるようにぎゅっと引き結ばれた。————しかし、あっけなくこらえきれなくなり。
「……ぶっ、っく……! あーっはっはっはっはっは!!」
「? !?」
「お、大盾ぇ!! お前って奴は!!」
イエローは大盾の肩をバンバンどついて爆笑した。目を白黒させている大盾は、マスターの奇行の訳をよくわかっていない様子である。それでも健気にマスターの意図を理解しようと人工知能をフル稼働している最中、首にがっきとたくましい腕が回った。
とっさにマスターの顔を見上げる。目もくらむほど眩しい笑顔がそこにあった。
「最高だ!! お前は!!」
「っっ!!」
息を詰まらせた大盾の横顔を、バトルランチャーの弾がかすめた。
イエローはぱっと腕を離して弾の出所を探る。しかし敵の忍はもう別の木に飛び去っていた。
「ちっ。空気の読めない奴だな、全くよお」
まずは上空からの攻撃を止めなければ、地上の敵に集中できない。そのためには忍が発砲して飛び移るまでのわずかな間を狙うしかない。が、どこから来るかわからない弾を避け、忍の位置を確認し、バトルボールを投げる。それが果たして可能なのか。
(————待てよ)
思案を巡らす。
大盾が弾いたバトルボールはイエローの球とみなされ、当たった敵は撃破された。だとすれば————。
「大盾、聞け! 作戦だ!!」
「!」
我に返ったように、赤チームの猛攻が始まる。盾で間断なく投げ込まれてくるバトルボールを防ぎながら、大盾は大きく頷く。
その上空、正確にはイエローたちの右斜め上方。巨木の葉陰に身を潜めた敵の忍は、勢いよくサムズアップする大盾忍の胸を狙い、静かにトリガーを引き絞った。
「!!」
パシ、と軽い音がした。大盾が絶妙な角度をつけて弾を受け、弾の軌道を真上へと修正したのだ。
弾かれて高く宙に浮いた敵の弾に、跳躍したイエローが右足を合わせる。
ランチャーを構えたまま目を見開く忍を確かに捉え、牙を剥いてイエローは笑った。
だとすれば————、大盾が一度防いだ弾ならば、自分が触れても撃破扱いにならないはず!!
「うおらあぁあああぁあああぁああぁああぁあ!!」
持てる力全てを右足に注ぎ、イエローは弾を直上に蹴り上げた。弾は数瞬前に描いた軌跡を過たず遡り、忍の手からランチャーを弾き飛ばした。
空中で転身し、イエローは大盾が地面と平行に構えた盾の上に降り立つ。だん、と盾を蹴り上げ、宙を舞うランチャーを右手で掴んだ。
そして銃口を彼に向ける。忍に「かく乱しながら次を撃て」と命じた、嗄れ声の橙ベストの男に。
たった一発の銃弾が、勝負を即刻終結させた。
「……う、そだあぁあああぁああ!!」
無念の叫びを残して、橙は戦場から消え去る。併せてガラスが砕けるような音が鳴り、橙の忍の契約の腕輪もポリゴン化し、消失した。忍は糸が切れたように脱力し、茂みへと落下する。
くるりと態勢を整え、再びイエローは盾の上に降り立った。肩にランチャーを担ぎ、獰猛な笑みを浮かべて、イエローは怯える有象無象を睥睨する。その下で得物を背中全体で支えながら、大盾も底光りする眼光を敵プレイヤーたちに突き立てた。
赤チームの表情が凍り付いたその時、ホルダーで携帯電話がけたたましくさえずった。油断なく目を走らせながら携帯に耳を当てると、女の子の緊迫した声が鼓膜を震わせた。
『イエローさん! ブルーくんと臙脂さんが林の方向かってるのでもう少し頑張ってください! 今どの辺ですか!?』
「レッドちゃんか。心配すんな、俺には大盾がついてる」
呆気にとられたような間が空き、次いで聞こえたのはたまらず吹き出す音。
『血相を変えて飛び出していったから、イエローさんのところかなあとは思ってましたけど。あたりでしたか』
「ははっ、ご名答!」
『やっぱりマスターの傍がいいんでしょうね。忍もそう?』
いたずらっぽい問いから一拍分の沈黙があり、鈴を転がすような笑い声が聞こえてくる。彼女の忍はどう答えたのだろう。
じりじりと、赤チームのプレイヤーたちが後退し始める。視線が泳ぎ、退路を気にするように後ろを振り返る。
数多のバトルで培われた経験が告げていた。今が攻め時だと。
「わり、そろそろ仕掛けるから切るぞ! またあとで!」
『はい、ご武運を!』
イエローの一言でついに赤チームは崩れた。通話を切るよりも早く包囲網は崩れ、プレイヤーたちは悲鳴をあげながらてんでばらばらに潰走を始める。
無論、逃がす気はない。負ける気もちろんしない。イエローはひとりではないのだ。
「狩るぞ、大盾!!」
「!!」
着地し、イエローは悍馬のように駆け抜ける。
マスターと並び走りながら、大盾もまっすぐ、前のみを見据えていた。
◇
【撃破情報】
イエローが藍、翡翠、灰を撃破。赤チーム、残り2人。青チーム、残り5人。
【通達】
赤チーム全滅。青チームの勝利。青チームのプレイヤーには赤チームの所持金を分配する。
◇
忍契約解除装置「(´・ω・`)」