二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 戦闘中 〜ボクらの絆〜 ※オリキャラ ( No.6 )
日時: 2018/06/19 20:01
名前: フウ (ID: fDoLpxww)


 スパークが爆ぜ、忍はでたらめな距離を弾き飛ばされ武家屋敷の門扉に激突した。上から瓦が雨あられと降り注ぎ、その姿をたちどころに隠してしまう。握ったままの紫の腕から、冗談かと思うほどのひどい身震いが伝わってきた。それが自分自身の震えであることに、レッドは最後まで気付かなかった。
 天に向かい、恐竜が吠える。勝利の雄叫びのようであり、未来世界から己を見下ろしているゲームマスターへの宣戦布告のようだった。


 そのはるか後方で遠雷の如き発射音が炸裂し、猛り狂う恐竜の腹に巨大な砲弾がめり込んだ。


 叫喚を上げて横倒しになる恐竜を唖然と凝視し、レッドは視線を引き剥がして後ろを振り返る。爆音高らかに、遠くに臨んでなお物々しい戦車が一台、曲がり角の向こうから姿を現していた。
 開け放しのハッチから上体を出しているのは、茶色のローブに身を包んだペストマスク——ブラウンクロウだ。どでかい砲門の上には、赤いローブのペストマスク——レッドクロウが腕を組んで仁王立ち、吹き荒れる風に裾をはためかせている。時折ガンガン足元を蹴り、ブラウンクロウに指示を出している、……みたいに見えた。


「……ッド。レッド!」


 自分を呼ぶ声に正気づき、レッドは目の前の青年に視線を合わせた。肩を揺すっていた手を止め、先のチーム戦で仲間だった青年————ブルーが心底安堵して表情を緩める。

「よかった、気づいた……! 動けるか? 奴らが次撃つ前に離れよう。月光!!」

 ブルーの右に控えていた忍が首肯し、気を失っている紫を肩に担いだ。レッドはブルーの肩を借り、半ば引きずられ戦線を離脱する。

「……エネルギーパックは……? さっき、落として……」
「……武器屋で買ってくれたの、あんただったのか。
 あれ、近くにいた俺の忍が拾ってきた。すまない、あいつ命令通りにしか動かなくて気が利かないんだ。プレイヤーがいたなら助けろって指示出しとけばよかった」
「ッ! 忍!! わたしを庇って……!!」

 言うなり、レッドは転がるようにして武家屋敷へと駆けだした。慌ててブルーが追い、月光が追従する。
 がれきと化した門を前にして、レッドはためらうことなく瓦を掴み、よろめきながら後ろに投げ捨てていった。たちまち爪が割れ指が切れ、鮮血の飛沫が散っていく。

「お、おい、無理するな!」
「する!! わたしのせいでこんなことになった!! 早く見つけないと!!」

 土埃まみれの顔をむちゃくちゃにぬぐい、必死に忍を探すレッドの後ろ姿に胸が詰まり、ブルーは彼女の隣にしゃがみこんだ。月光もマスターにならう。ふたりと一体で協力し、屑山を手分けして切り崩していく。
 エリアから恐竜の雄叫びと戦車の砲撃音が絶えた頃、やっとのことで忍の腕を探り当てた。レッドとブルー、どちらからともなく歓声があがり、残った力を振り絞って月光の手を借りつつ中から引きずり出す。
 半身が出ると、忍は自力でがれきの中から抜け出した。動くと体内のパーツがきしむ音が鳴り、装束はズタズタで痛々しい限りだが、少なくとも五体はそろっている。

「忍!! よかった、よかった……!! ごめんなさい、ひどい目に遭わせて……!」
「…………」

 声を震わせて、レッドは両手で忍の手を包んだ。彼女の口から謝罪と感謝の言葉がとめどなくあふれるが、忍はうつむき、血と泥で赤黒く荒れたマスターの指を食い入るように見つめていた。

「忍?」

 レッドの手を振りほどき、忍はバツが悪そうに佇んでいたブルーへと歩を進める。月光がすぐさま立ち塞がるが、相手に敵意がないことを感じ取り、微かに眉根を寄せた。
 ブルーの目の前で、忍は立ち止まった。手を伸ばし、バトルボールを握ったままのブルーの手首を掴む。





 そのままブルーの手を引き、彼のバトルボールを己の胸に当て、トン、トンと叩いた。
 何度も、何度も。





「!?」

 息を呑むレッド。ブルーも度泡を食って後ずさろうとするが、忍の手を振り払えない。月光は完全に状況処理が追いついておらずフリーズしている。
 ————忍が自ら撃破を望むなどという異常事態に、皆が一様に困惑していた。

「し、忍!! あなた何を……」

 混乱が収まらないまま、レッドが己の忍の横に歩み寄った。腕を掴み、顔を覗きこんでようやく、レッドは忍の異変と行動の意味を悟る。





「————あなた、目が……?」





 こくり、と忍が頷いた。
 破れた頭巾で隠れていて気がつかなかった。
 牙が引っ掛かったのだろうか。忍の顔の右半分、額からまなじりにかけて大きな裂傷があり、眼窩に収まっている球状の水晶体が完全に割れていた。
 飛ばないバトルボールに、折れた盾に存在価値がないように、壊れた己にマスターを守る資格はない。
 静かな片目のまなざしがそう語っているように、ブルーには思えた。