二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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[ポップン]釈迦ミミニャミ短編詰め
日時: 2015/10/16 16:07
名前: KKK (ID: vkkVQEZj)

かっこが変換ででないのでこれ[ ]でいきます





[お嬢さんはどうしてこんな私と居るのですか?]

するり。
男は胡座をかいている自分に向かい合うように座る少女の腰を撫でながら問う。

[さあ、何故かしらね]

少女が首を傾げると美しく整えられた少女の前髪がはらり、と重力に誘われ下方へと垂れた。
何故か。少女の解答は問いかけの答えとなるものではなかった。
故に男は、アンテナ売りは不服であったのだ。少女が自分の問いに答えないことが、少女が自分を見ていないことが、少女がきちがいのフリをしていることが、気にくわなかったのだ。

[私は貴女の思うような綺麗な人物ではありませんよ]

アンテナ売りは知っていた。少女が自分だけでなく、何物をも見ていないことを。
見ようとしていないことを。

[アンテナ売りさんは変なことを言うのね。アンテナ売りさんはアンテナを売るからアンテナ売りさんで、私はアンテナ売りさんをアンテナ売りさん以外の何者とも思っていないのに。]

つらつらと、少女は述べた。違うのだ、そうではない。そうではないのだ。
少女はアンテナ売りをアンテナ売りという綺麗な存在だと思っていて、アンテナ売りはそれを否定したいのだ。だというのに少女はアンテナ売りという職業の話に自身の内で変えてしまう。そう、少女はやはりずれているのだ。決定的に、絶望的に、絶対的にアンテナ売りと考えが相違しているのだ。

[貴女はやはりおかしい。]

[アンテナ売りさんに言われたくないわ、失礼しちゃう。]

アンテナ売りは少女の腰に置いていた手をするりと移動させ、少女を引き倒した。
少女はころころと笑う。アンテナ売りは自分の身体の上にのる形となった少女をぎゅうと抱きしめた。ぴたり、と少女の声が止む。

[ねえアンテナ売りさん]

少し起き上がるようにして少女はアンテナ売りの顔を見下ろした。

[私は何者でもない、きちがいなの。ねえアンテナ売りさん。アンテナ売りさんもそうなんでしょ?私と同じで何者でもない、狂った存在なんでしょ?]

少女の曇った瞳には、不安の色が滲んでいた。
そうだ、その通りだ。アンテナ売りは頭がおかしい、狂いきったきちがいだ。そして少女は何者でもない、存在を喜ばれなかった生き人形だ。
二人して日陰者で笑われ者なんだ。

[そうですね]

アンテナ売りは答えて、笑った。
可笑しくて可笑しくてしょうがない、そんな様子で。
不安そうだった少女は柔らかい笑みを浮かべる。

[…そう、そうよね、やっぱり私達はおんなじなのね!ふふっうふふふふふっ]

暗い暗いその場所で、二人の笑い声だけが虚空に響き渡った。

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Re: [ポップン]釈迦ミミニャミ短編詰め ( No.2 )
日時: 2016/03/19 13:47
名前: KKK (ID: J3j8HjC2)

盲目の彼



「ねえアンテナ売りさん、今日はどの部品を使うの?」
彼がいつも仕事で使う工具箱の隣においてある部品入れをカチャカチャと音をたてまさぐりながら私は問う。カチャカチャ、カチャカチャ。
「今日は右から3番目、銅を使った部品といつものネジです」
「相変わらずすごいわね。ちゃんと覚えてるなんて。仕事熱心なのは良い事だわ。」
カチャカチャ、カチャカチャ。
今彼の世界にあるものは音を鳴らすだけの部品と、私だけ。漂う草木の淡い匂い等もあるけれど存在を主体としてはっきり示すものは2つだけ。ああ、心地よい。
「ねえアンテナ売りさん、アンテナ売りさんの目はよくなるの?」
「さあ。良くなるかもしれませんしこのままかもしれませんね。後天性のものですから慣れたものでもない。なにより専門じゃないですからね。そればかりは私にはなんとも言えないんですよ」
そう、と呟いてまた部品をまさぐる。願わくは、このまま彼の目が良くなりませんように。
彼の世界に余分なものが入りませんように。

Re: [ポップン]釈迦ミミニャミ短編詰め ( No.3 )
日時: 2016/03/21 07:43
名前: KKK (ID: J3j8HjC2)

盲目の彼女




「……アンテナ売りさん、起きた?もう朝よ、朝ごはんを食べてお仕事しなきゃだわ」
真暗闇に響く少女特有の高い声。年のわりに大人びてはいるものの拙さを残したその口調と声は、まぎれもなく現在私が依頼を受けている先のお嬢さんだった。
「…おはようございます」
「お仕事が大変なのもわかるけれど寝坊は感心しないわ。いつもより30分も遅い」
昨晩はお嬢さんが延々話かけてきたために就寝が遅れたのではあるが、そんなことを言おうものならまた屁理屈をごねるだけであろう。私は溜め息をついて起き上がることにした。
「アンテナ売りさん、立ちましょう」
お嬢さんが私の手をとり立ち上がる補助をする。これくらいなら一人でできるのですが、お嬢さん……。
私が盲目になってからというもの、お嬢さんは私の杖になりたがった。以前は怪我や命の危機にさらされることばかりだったので丁重にお断りしていたのだが、存外、お嬢さんの介助は優しいものであった。まるで現状の私を愛するように、不自由な私に満足しているように。ああ、そうだ。きっとそうなのだろう。彼女は私の暗い世界に自分しかいないとでも思い込んでいるのだろう。……愚かしいことだ。彼女は、お嬢さんは盲目の私より盲目的だ。見えていない。なにも。なにもかも。
「アンテナ売りさん?」
私の思考を遮るように彼女が手を強く握り、話しかけてくる。
「行かないの?お仕事、遅れちゃうわよ?」
「……はい。」
お嬢さんは、盲目的だ。
だが、それでいい。欠けているくらいがちょうどいい。欠けているくらいが魅力的で、美しい。繋いだ手のひらの温度を感じながら、私は仕事へと出向いた。

Re: [ポップン]釈迦ミミニャミ短編詰め ( No.4 )
日時: 2016/07/25 21:53
名前: KKK (ID: IVyqriGF)

古ぼけた娘


私の名前はミミ。
この世界で多くの人間はミミといえば明るく愛らしい茶髪の兎を思い浮かべるであろう。しかし残念、私はミミではあるがその少女ではない。私と似ているのに正反対のあの娘では。
私の妹では、決して。
本当はミミという名は私のものだった。黒髪で無愛想で暗い、私の。
しかし私は病弱で、その上祟り神から「呪い」を受けてしまった。呪われている子など跡取りの嫁に相応しくない…そんな理由で私は勝手に「亡き者となった」ことにされてしまった。
なんてことはない、愛情を注がれずに慰み者として扱われるだけの日々。呪われた私は余生をそうして生きるよう課せられた。何年何十年と、この先ずっと。死ぬまでだ。それもそのはず、病弱であることに変わりはなく私の体に負担はかかっているのに、祟り神の「呪い」は私の成長を遅れさせ、特定の場合でないと死ねない体にした。さぞ暴力の振るい甲斐があるだろう。虐げ易かろう。跡取りの嫁になど相応しくないだろう。納得はできる、けれど許すことのできないこと。
私はそのような人生を強いられた。
妹のミミはどんどん大きくなって、14程度の私よりも上の17程にまでなった。人々は私を亡き者という意味を込め釈迦ミミと呼んだ。軟禁生活にまで慣れが出てしまった。
そのときの私は酷い顔をしていただろう。軟禁され暴力性欲嗜虐心の掃き溜めにされ死ねもしないのだから無理もないが。

続きます

Re: [ポップン]釈迦ミミニャミ短編詰め ( No.5 )
日時: 2016/07/27 01:26
名前: KKK (ID: IVyqriGF)

宗教


ある日私の家にある青年、セールスマンと思われる男性が訪ねてきた。アンテナ売りと名乗ったその人はこの家は呪われている、自分ならその呪いを断ち切ることができるなどと宣った。
当然ながら呪いというのは私のことと考える屋敷の者はそれを断った。日々の鬱憤を晴らす存在が消えては困るためだろう、その時は依頼することはなかった。
だけど数日後、再びその青年が訪ねてきたとき。屋敷の者たちはすんなりとその男に解呪を願ったのであった。そう、呪いは「私」ではなく「家」にあり、このままでは繁栄どころか廃れてしまう…そのような言葉を聞いたためだ。なんとも御しやすい、浅はかな連中である。所詮は成金風情と言ったところか…。

依頼を受けた青年はまず家を見回りたいと言い出し、屋敷の者が案内しようとしたところを呪いがどうのと(私にはこじつけにしか聞こえなかったが)説明し、一人で散策を始めた。コツリ、コツリと、屋敷の者ではない足音が響いている。コツコツ、コツコツ。私の部屋にも近付いてくる。動物的な聴覚で部屋から離れた場所の会話を聞いていたが、ここまでくると最早ただの人間でも聞こえる距離だ。
コツリ。
その音は私の部屋の前で止まった。数秒の沈黙。
しかし青年は何をどうすることもなくその場を去ったのだった。
「……助けてくれないことくらい、知ってるわよ」
青年の足音が人間では聞こえない距離になってから、私は独り呟いた。

続きます

Re: [ポップン]釈迦ミミニャミ短編詰め ( No.6 )
日時: 2016/10/11 22:22
名前: kkk (ID: r1a3B0XH)

結構イイ人


「お嬢さんお嬢さん。僕の宗教においでなさい。なんとかしてあげるぜ。」

耳を疑った。青年はカツリ、カツリとまたこちらの部屋へ近づきながら確かに今、そう言ったのだ。
なんとかしてあげるぜ。私を助けるというのだろうか。ぺてん師が。詐欺師風情が。胡散臭い新興宗教の教祖紛いが?まさか。できる筈もないのに。
私の独白なんて、聞こえた筈もないのに。

コツリ。

足音は再び私の部屋の前で止まる。先刻とは違い、数秒も間は空けずに青年はまた言葉を紡いだ。

「お嬢さんお嬢さん。君はこの家の呪いに囚われていますね。でも大丈夫。僕がアンテナを立てますから。だからおいでなさい僕の宗教へ。呪いも家もトラウマも、なんとかしてあげますからね。」

…まるで意味がわからない。私を家人と同じ阿呆だとでも思っているのか?齢14だからと馬鹿にしているのか。何にも知らないくせに。
「冗談を言わないで頂戴。私は何も求めないし何も信じない。貴方に用なんて無いんだから」
用なんて無い。助けなんて求めない。求めたって届かない。叶わない、貴方だって気づかなかったんでしょう。自分の中でいくつかの感情が渦巻いていることがわかる。阿呆らしい、私は救いを求めているのね。どうしようもないって諦めたくせに。
「だけど君は、」
青年はまだ口を閉じない。諦めることを知らないのだろう、セールスマンの鏡だ。
もう、黙ってほしい。期待させないで、これ以上。
その旨を伝えようとしたとき、遮るように青年は続きを述べた。
「助けてくれない、って言ったじゃないですか。」
助けてくれないことくらい、知っている。どうしてそれを知っているの?人間には聞こえない筈じゃない。届いていない筈じゃない。やめて。期待させないで。
「お嬢さんお嬢さん。僕の宗教においでなさい。」
カチャ、とドアノブに手をかける音が聞こえる。青年が言葉を紡いでいる間にもドアはだんだんと開いていき、廊下の光を部屋に届けてしまう。
「君が求める全て、なんとかしてあげるぜ。」
その言葉と同時にしっかりと扉は開かれた。
逆光に当てられた彼は、人間とは違う猫の耳を持っていた。


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