二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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はらりら。
日時: 2017/01/08 21:04
名前: 星屑の売り子 (ID: saz7BosX)

※この作品は刀剣乱舞の二次創作を基本として、多作品がクロスオーバーしています。苦手な方は気を付けてください。

※オリジナルキャラの「主」(男)が出てきますが、基本的に他は刀剣男子や他作品のキャラクターで成り立っています。主にDMM関係のゲームです。

※キャラ崩壊の危険性が非常に強いです、基本的にかっこいい&可愛い彼らはいません。事前にご了承ください。


     ◆


 はじめまして、星屑の売り子です。
 二次創作を本格的に書くのは初めてなので不慣れなところがあると思いますが、温かく見守っていただけるとありがたいです。



◆整理整頓

最初の頁「出会い」>>1>>2

二の頁「準備」>>3


◆書き始め
2017/01/07

Page:1



Re: はらりら。 ( No.1 )
日時: 2017/01/07 22:08
名前: 星屑の売り子 (ID: saz7BosX)
参照: http://顕現方法に作者のオリジナルが用いられています。ご了承ください。

 最初の頁 ◆ 「 出会い 」



 何か、よくないことが起こった気がする。

 そんな悪い予感の中、目を覚ました。

 胸糞が悪い。そんな感想が喉をつい出そうになり、飲み込んだ。喉がおかしい。瞬間的に声が出ないのが分かった。思わず喉元をさする。風邪ではない、そんな喉の痛みどころではない。これは、それ以上に不愉快な違和感だ。

——お目覚めになられましたか——

 不意に声が聞こえた。不思議なことに、性別がはっきりとしない声だ。年齢も、幼くも聞こえ、年老いた声にも聞こえる。

 警戒してあたりを見渡す。畳の部屋だった。自分は今の今まで此処に敷かれた布団の中で寝ていたらしく、真っ白で清潔そうな布団が自分の形に歪んでいた。自分の記憶の中にこんな部屋はなかった。気味の悪さに飛び起きた。下半身を起し、片膝をつく。

——おやおや、もうそんなに元気になられましたか、あぁ良かった良かった——

 誰だ、どこにいる。そう言いたかったが、未だに声は出なかった。かすれたうめき声が口から洩れる。

 目に見えるのは寒々とした空と、灰色に固まった木々。冷やかに流れる小さな川、池。そして、ちょこんと座った白塗りの小さな狐。

 そのぬいぐるみのような狐が、不意に口を開いた。

——私、こんのすけと申します。主様のお世話をさせていただくものです——

「——……はぁ?」

 やっと絞り出した声は頼りなくか細い声だった。喉元を擦る相手に、こんのすけと名乗り出た狐は愉快そうに目を細める。

——ご無理をされることはありません。進行はすべて私が行いますので——

「……進行? なんだ、それ……」

 けほけほ、と違和感の拭い去るようにせき込む。やっとまともな声が返ってくる。こんのすけは、はい、と以前不思議な声で律義な返事を返した。

——審神者となられるための準備は私が行っておきましたので、主様には最初の一口となる付喪神を召喚していただきましょう——

「つく……なんだ、それ……って、おい」

 喋る狐はくるりと向きを変え、尾を振りながら廊下を歩き始めてしまった。意味のわからないことをとうとうと話されたまま、置き去り状態になったまま、考える猶予すら与えないわけだ。ため息をつき、目頭を揉む。此処にはあの喋る狐以外意思疎通できるようないきものはいないのだろうか。付喪神? 召喚? 何かのお伽草紙とファンタジーを掛け合わせたもののようだ。

 しかし此処で何も分からないままあたりを警戒してきょろきょろとしているのも性にあわない。此処は、あの狐について行ったほうがよいのだろう。

「……分かったよ、ついて行けばいいんだろ」

 ため息をつき、狐に続いて廊下に出た。外に冷気が肌に刺さり、ぶるっと身体を震わせる。寒い。吐く息が白かった。風に誘われ、遠くに消えていくそれ眺めて、ふと自分の服が見たこともない着物になっていることに気づく。白装束のようだったが、薄い灰色の袴を履いていた。死んだわけではなかった。なぜか安心はしなかった。



——こちらにお入りください——

 案内された先は狭く薄暗い一室。中央には紫色の布に恭しく差し出されるような形で、柄が取り外された刀があった。

 その鋭い切っ先は差し込む淡い光を反射し、見ている者に緊張感と厳粛な雰囲気を感じさせた。

「……これは?」

——見ての通り、刀でございます。主様には今から名高き名刀の付喪神をこの刀に宿し、現在に顕現していただきます——

「……なんだそれ。何かの小説の話か」

——いえいえ、現実でございますよ主様。主様には今からこの刀の主となっていただくのです——

 主、所有者ということか。意味がわからない、今見ている光景はすべて夢なのだろう、そう思いたいところだ。思わずうなり声が漏れた。

「……はぁ、まぁ、そうだったとして。まず俺はその、付喪神とやらを顕現するやり方を知らないのだが」

——それは簡単なことですよ。主様のお手でこの刀を一撫ですればよいのです——

「撫でる? 指落ちるだろ、真剣だぞこれ」

——何をおっしゃる! 審神者でありこの刀の主となるあなた様のお手を傷つけるわけありませんよ!——

 何をおっしゃる、はこっちの台詞だ。その意味のわからない自信はこの狐のいったいどこから出てくるのか。白塗りの狐を振り返ると、その健気な瞳は案の定自信で満ち溢れていた。

「……なんだよ、その目は」

——ご安心くださいませ、このこんのすけ、数多くの審神者を育ててまいりました故、分かるものなのですよ!——

「……はぁ」

 この狐の作り話なのか、どうやら自分のほかにもこんな奇妙な出来事を経験している者がいるらしい。それならばかなり混乱していただろう、今の自分のように、殺気さえ感じられるこの鋭い刃物を撫でろと言われたならば。

 そのあと何度か狐に諭され、恐る恐る刃物に手を伸ばした。冷たい感触が指先に伝わる。ただの無機物に触るだけで此処まで緊張するとは思わなかった。そっと、しかし慎重に、その鈍色の刀身を撫でた。

 次の瞬間、ふわりと、薄桃色の花弁が視界を満たした。



「 あー。川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、性能はいい感じってね 」

 目の前に、いつの間にか細身の青年が現れていた。赤と黒が基調の服装に、白く美しい肌。泣きぼくろに飾られた細められた赤い目が、こちらをしげしげと眺めていた。

——おぉ、加州清光ですか! これは良い相棒を呼ばれましたね!——

「……は? なんだよこれ……」

 狐の嬉しそうな声とは対照的に、こちらは同様しかなかった。細身の青年——加州清光は、不躾に思われるほどじろじろとこちらの様子を眺めまわしている。

「あんたが主? ……ふぅん、まぁ、いいじゃん。大事にしてよね」

 どうやら彼の中で自分は許されたようだ、加州は笑みを浮かべた。

 ……一安心と思っていいのだろうか。狐に目を向けると、狐も狐で満足そうである。

——加州殿、お初にお目にかかります、私、こんのすけという狐でございます。加州殿は主様を支える最初の刀剣男子となります故、苦労も多いかと思いますが、ひとつよろしくお願いいたしますね!——

「え、俺が一番なの? じゃぁ主は最初に俺を選んでくれたってわけかー」

 加州はさらに一段と機嫌を良くした様子で、張り切っちゃおうかなーと小さく口にした。目線まで持ち上げられた手を見ると、赤いマニキュアが丁寧に塗られていた。

——さて、初鍛刀はいかがだったでしょうか?——

「いかがって言われてもな……」

 緊張したのと合わせて、未だによく分かっていない。取りあえず、目の前にいる加州とかいう青年は自分が呼び出したらしいが、まだ現実味に欠けている。

 これは夢なのだろうか。それならば早く醒めてほしい。頭が混乱するばかりだ。ため息をつくと、「主?」と加州が腕に触れてきた。その感触があまりにも生々しかった。

——本来ならこれから戦場に加州殿に行ってもらうのですが……主様には少し、特殊なお話があります故、こちらにおこしください——

 狐は再び背を向けて歩きだし、加州はこちらを促すように目を合わせてきた。

 ついて行くしかないことは分かっていた。混乱した頭を抱えながら、再び寒々とした廊下に足を踏み出した。

Re: はらりら。 ( No.2 )
日時: 2017/01/08 13:36
名前: 星屑の売り子 (ID: saz7BosX)



「それで、話って言うのは?」

 行燈の灯った、比較的広い部屋だ。脚の短い机に人数分の座布団が敷かれ、狐はその上に行儀よく座った。俺と加州も狐と対峙するような形で座る。

 隅には電気スタンドのついた近代的な机と椅子もある。どうやら此処はタイムスリップした場所でもないらしい。隣に座る加州の姿を見ていてもそれは実感できた。少し古風ではあるが、コートを羽織った青年は、先ほどから爪の手入れに余念がなかった。

——はい、主様が審神者となられる際にお伝えしろと政府から言われたことでございます——

「……政府? この意味のわからない行為には政府もかかわっているって言うのか?」

——名刀の付喪神を従え、歴史を改変しようとする時間遡行軍の歴史改変を阻止するのが審神者の役目でございます。これは政府からの命でございますので——

 歴史の改変。再びわからない言葉がこの狐から飛び出してきた。繰り返し聞き返すと、狐は根気強くうなずいた。

——たとえば……ええっと、加州殿、ちょっと加州殿の例をお借りいたします——

「どうぞ。俺も詳しい話知りたいから」

 髪をいじっていた加州はふとそう返事を返し、目線を狐に戻した。それを確認して狐が先を続ける。

——例えば、此処にいる加州清光は、元は新撰組、沖田 総司の刀でございます——

「……新撰組?」

——はい、主様の時代なら高等学校ですでに習ったことがあるかと思われますが……——

「……流石に知ってる」

 新撰組、そう聞けば青い法被に勇猛果敢な若々しい戦士たちが思い浮かべられる。その中でも沖田 総司と言えば有名な人物だ。

 今となりで髪や爪の手入れに余念がない青年があの戦士の刀の付喪神らしい。

——新撰組と言えば池田屋事件が有名でしょう。時代遡行軍は新撰組が池田屋に侵入することを防ぐことで歴史を改変しようとするのです——

「……はぁ、何だ、SFみたいなものか」

——まぁそのようなもの、と言ったほうが理解しやすい方が多いです——

 その一点でさえも歴史が変われば全人類を巻き込む変化が起きるのだろう。SFの十八番というものだ、様々な映画でそんな景色を見ている。

 その改変を止めようとする正義のヒーロー役というわけだ。政府にその役をもらったらしいが、身に覚えがない。

「で、その大切な役がなんで俺なんかに?」

——ほかにも大勢の審神者が時間遡行軍のせん滅を目指し日々頑張っておられます。主様もその中のお一人、なのですが……——

 此処で狐の表情が曇ったように見えた。これには加州も興味を示した様子で、不思議そうに手を膝の上に置く。

「なになに? そんなにためられると気になっちゃうんだけど」

——……少々言いにくいのですが、主様、此処に来られる以前のことについて、何か覚えておられることはありますか?——

「……はぁ、覚えていること?」

 何の話が始まるのかと身構えていたが、案外普通のことだった。俺はため息をついて記憶をたどり始める。加州を顕現した部屋、そこに繋がるまでの廊下、寝ていた部屋、不愉快で輪郭のない夢——。いつの間にかあの布団で寝ていたのだが、あの部屋に見覚えはない。

 その先だ、あの部屋に来る時の記憶がないとしても、幼少期、友人や両親の記憶、昨日の夕食。何でもある、記憶はありふれていつも手元にあるものだ。自分の名前、年齢、趣味、好きな音楽、本。住んでいる家の間取り、景色、その時の季節。

 ——しかし、不思議と何も分からない。ぼんやりとした輪郭もない、ただただ暗闇が広がっている。何一つとして分かるものがなかった。幼少期、それはもちろん自分の名前、年齢、どんな顔だったかすら、思い出せなかった。

 瞬時に吐き気がこみ上げる。俺は誰だ。自然ときつく拳を握りしめていた。頭を軽くたたく。古いテレビを直す方法だ。何度もたたいてみたが、加州に止められただけだった。

 分からなかった。それだけが答えだった。茫然とした目で狐を見ると、狐はやはり、と言いたげに頷いた。

——主様、あなた様は記憶を失われておられます。それは此処に来る前のあなたの行動による罪の代償です。主様には時代遡行軍と戦う中でご自身の罪についても、振り返っていただくことになります——



 最初の頁 ◆ 「 出会い 」 終

Re: はらりら。 ( No.3 )
日時: 2017/01/08 21:02
名前: 星屑の売り子 (ID: saz7BosX)

 二の頁 ◆ 「 準備 」



 衝撃的な宣告を受けたその後、催した吐き気を何とかするべく俺はトイレに向かった。こんな和風な建物の中、かなりの数のトイレが並ぶさまはすさまじかった。

 一緒についてくる加州を何とか入口でとどめ、個室に駆け込んでしゃがみこむ。そもそも胃の中に吐き出すものがあるのかどうかすらも分からない。

 しばらく便座にもたれかかっていると、吐き気が引いた。ため息をひとつ吐いて立ち上がると、よろよろと外に出る。加州が心配そうに俺を眺めていた。

「大丈夫?」

「……あまり大丈夫じゃない……」

「……まぁ、そうだよね」

 顔色も悪いしね、と苦笑を浮かべながら、加州の手が俺の背中を撫でた。一応俺のことを気にしているらしく、よたよたと足元も危ういゆっくりとした歩調に合わせて後ろからついてくる。

 トイレから出てくると、白塗りの狐——こんのすけが待ちわびていた様子でお座りをしていた。

——落ち着かれましたか、主様——

「お前のおかげで随分と体力持っていかれたんだが……これから何する気だ」

——本来なら先ほどのタイミングで加州殿に戦場に行ってもらい、これからの戦の説明をするつもりでしたが、今回はせっかくですのでこの本丸のご案内をさせていただきます——

 再びの専門用語に、俺は当然のようにこんのすけへとその言葉を繰り返し聞き直した。

「本丸? 此処は城か何かか」

——城、というわけではありませんが重要な本拠地であります。此処で顕現された刀剣男子たちは共同で生活していただくことになります。審神者は仕事をなさっている方が多いので現世と本丸を行き来される方が多いのですが、主様の場合は此処に住んでしまわれたほうが簡単かと思われます——

「……俺ってニートだったの?」

——私は詳しくは存じ上げませんが、おそらく——

 辛辣なことを言ってくれる、そんな可愛らしいとも形容されるような顔で。深くため息をつきながら、引っかかったワードを再び上げた。

「……此処にいる加州君は、その、『刀剣男子』と言われる存在なんだな?」

——はい、顕現した名刀の付喪神はそのように呼ばれます——

 『刀剣男子』……男子、か。まぁ確かにまだそう呼ばれても良いような容姿をしているが、自分よりも圧倒的に永い年月を過ごしているのだろう青年を思わず眺めていた。こんなことをいちいち考えていると目が回りそうだ。

「此処、すごく広いみたいだけど、俺と主のほかにも来たりするの?」

 頭を抱え始めた俺をよそに加州がこんのすけとコミュニケーションを取り始める。それはそうだ、あれだけのトイレが設備されているのだから、おそらくそのうちに大人数の暮らしになるのだろう。

——現在確認されている刀剣男子は数多く存在いたします故、この本丸もそのうち賑やかになりましょう——

「ふーん、楽しみだな」

 その数だけこちらは真剣に触れなければいけないのだが。

 こんのすけは加州の言葉に満足げにうなずくと、本丸と呼ばれる屋敷の案内を始めた。部屋は多くあった、大部屋から小部屋までさまざまあったが、増築も許されているらしい。何でも手厚い手当が付いているらしく、刀剣男子が完璧に任務を全うできるのであれば住む場所の増築はいつでも望めばやってくれるらしい。

 外には小さな小川に池に橋、桜の老木もあった。少し離れた所には畑に馬小屋。今は一頭もいなかったが、そのうち増えるだろうということだ。

 十分に広いスペースがとられているが、周りに町があるわけでもなく、深い森に囲まれている。自給自足をしろ、とそう言うことらしい。

——多くの審神者たちは現世で買い物をして戻ってきているようですが、この世界にも町はありますし食べるものに変わりはありません。此処から少し行ったところに日常生活品を取り扱う店がございますので——

 こんのすけはそのうちその店にも連れて行くのだそうだ。

 着々とこの本丸に慣れることを強制されていっている。これが夢ならこのタイミングで覚めるのが一番いいのだが、どうにもそんな様子は一切見られない。加州はなぜか俺と以上に腕を組みたがり、高校生のようなはしゃぎようで、それが妙に生々しく、腕の感触や、その声が鼓膜を震わせた。

 自分がだれかもわからない俺が、なぜ、名刀と呼ばれた彼らを率いていけるのだろうか。そう問いかけても、こんのすけは大丈夫だと言い張るだけだった。

 そんな思いを悶々と一人で抱えている間に本丸はすべて見終わっていた。

 次は戦の説明だそうだ。こんのすけはさらに気合いが入った様子で先ほど俺達が話していた部屋に戻った。此処は俺の書斎になるらしい。

——戦闘とは、時間遡行軍が出現している時代、場所へと赴き、時間遡行軍をせん滅することを言います。これには刀剣男子たちが行きますので、主様は此処、本丸で待機することになります——

「俺は何もしなくていいのか」

——えぇ、まぁ何かやりたいとおっしゃるのなら、彼らが無事に帰ってくることを祈ってみてはいかがでしょうか——

「はぁ……まぁ、祈るんだろうけど」

 目の前で人が——まぁ人ではないんだが——怪我をしたり、運悪く命を落とすところなど見たくない。それも、先ほどまで元気で話していたりした相手ならなおさらだ。今隣で一緒に話を聞いている加州がいい例である。まだ出会って数時間と経っていない彼でも、瀕死の状態にまで傷つけば命が助かるように祈るだろう。

「えー怪我したりするんだったら行きたくないんだけどー」

——そんなことを言わないでくださいませ! これが刀剣男子の仕事でございます!——

「はー俺、汚れたりするの嫌いなんだよねぇ」

 ネイルもはがれちゃうかもしれないし、と再びきれいに整えられた爪を眺める。確かにそうだろう、身なりからして彼が綺麗好きなのがよくわかった。

 しかし、そこはさすがに名刀と言うべきなのだろう。こんのすけが戦の準備や作戦を事細かに説明しだすと、その目つきは変わっていた。生返事を返しながらも先ほどよりは話もちゃんと聞いているらしく、その間俺は、その様子を眺める時間となった。

 戦いについては俺はなにも関与しない。それが決まりらしい。血なまぐさい話が嫌いなのは本当だ。

 話し合いは数分でまとまった。今回はこんのすけのナビゲートの元、政府が作った場所で練習を行うらしい。それでもそれなりの怪我はするらしいが、命を落とすまではないという。

 加州が戦の準備を整えるのにそう時間はかからなかった。もともと俺の目の前に現れた時にその装備は整っていたらしく、軽い各部の調整で終わり、わざわざ俺のところまで報告に来た。

 改めて向かい合うのは此処に顕現された時以来だったが、加州は小奇麗な顔をにっと笑みを浮かべて見せた。

「じゃぁ行ってくる。帰ってきたら可愛がってね」

 犬みたいなことを言うな、と心中で思いながらはいはい、と軽く返事をしておいた。絶対だからねー、と加州はしばらくねばった後、こんのすけに連れられて、俺の部屋を後にした。

 残されたのはほのかな光を放つ行燈。部屋は不思議と寒くない、と思ったがどうやらエアコンもあるらしい。機械音が無音の部屋に響いていた。いきなり静かになった部屋の中、俺はどうしても無になった自分の過去と向き合い、再びあの吐き気に耐えなければならなかった。



「ねぇ、こんのすけ」

——はい、なんでございましょう、加州殿——

 戦に向かうための入口とやらがあるらしく、そこには歩いて行かなければならなかった。長い廊下を曲がり、外に出て、しばらく歩いた時、加州がこんのすけに問いかけた。

「主のさ、首」

——あぁ、お気づきになられましたか——

「お気づきって……そりゃあ一目見たらわかるでしょ」

 小さくため息をつく。正直、主と話しているときにそこへ目線を持っていかないようにするのは骨が折れた。

「……だからどこにも鏡がないんだ?」

——主殿にはまだ刺激が強いのでございます。そのうち、以前の記憶を思い出されるうちに、ご自身の身に起こったことも受け入れることができるようになるでしょう——

「それまで隠しておくんだ。りょーかい、それが主のためになるんだったらね」

 でも鏡がないのは不便だなぁ、と独り言を漏らした加州は、こんのすけと共に戦闘の練習があるという、『函館』に続く扉へと向かっていった。


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