二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 仮面ライダーAP 【仮面ライダーG、艦これ、宇宙刑事etc】
- 日時: 2017/02/25 07:32
- 名前: オリーブドラブ (ID: ACwaVmRz)
〜あらすじ〜
西暦2016年。対テロ組織シェードのテレビ局占拠事件から、7年の歳月が過ぎた頃。人々を脅かす改造人間の影は、今も世界に忍び寄っていた。
城南大学の学生、南雲サダトはバーテンダーのバイトから帰る途中、闇の中でシェードから逃げ惑う1人の少女と出逢う。その邂逅が、自身の運命を大きく揺るがして行くことも知らないまま。
そして、この「Gの世界」に誕生した第二の「仮面ライダー」が正義に目醒めた瞬間。その運命が今、芳醇の刻を迎える。
果たして。この戦いの果てに待つ結末に、希望はあるのか。
仮面ライダーGの舞台を主軸としつつ、艦隊これくしょんや宇宙刑事シリーズの要素などを絡めた、クロスss……の、ような何かです。
全43話を予定しており、「ハーメルン」「暁」「arcadia」でも掲載中となっております。ちなみに、艦これとのクロスは中盤から始まります。
機会がありましたら、チラ読みして頂ければ幸いです。ではでは!
〜目次〜
第1話 シェードの残影 >>1
第2話 エリュシオン星より愛を込めて >>2
第3話 迫る闇 >>3
第4話 束の間の…… >>4
第5話 愛するために >>5
第6話 仮面の戦士 >>6
第7話 目覚める魂 >>7
第8話 たった独りでも >>8
第9話 闇を纏う剣 >>9
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- 第1話 シェードの残影 ( No.1 )
- 日時: 2017/02/20 20:29
- 名前: オリーブドラブ (ID: w1J4g9Hd)
夜の帳が下り、艶やかなネオンが煌めきを放つ夜の東京。その一角にある小さなバーで——とある一人の若いバーテンダーが、カウンターの上に設置されたテレビを眺めていた。
『相次ぐ、シェードの改造人間による襲撃事件は留まることを知りません。警察も自衛隊も、この神出鬼没の怪人達に対抗しうる術を見出せていない状況です』
『シェードと交戦している謎のヒーロー「仮面ライダー」を目撃した——という情報もありますが、依然としてその実態は明確にはされておりません』
『そもそも、仮面ライダーには本当に正義があるのでしょうか。被験者保護施設の関係者や人権団体からは、改造人間の生存権を著しく侵害する凶悪な連続殺人犯と、糾弾する声も上がっています』
城南大学二年生、南雲《なぐも》サダト。20歳を迎えたばかりの彼は、テレビで絶えず報道されている物騒なニュースに、居心地の悪さを覚えていた。
というのも、報道された事件現場がこの近くだからだ。
「……たくよぉ! 近頃の世の中は物騒過ぎらァな! ついこないだまで対テロ組織だなんだと担がれてたシェードが、今じゃ悪の秘密結社! 連中にいつ襲われるかわからねぇってんで、今じゃ若いねーちゃんも夜道をうろつかねぇ! 昔は会社帰りにナンパし放題だったのによォ!」
「お客さん、飲み過ぎですよ。もう直ぐ店じまいですし……」
「るせぇクソガキ! 誰のおかげでこのガラガラのオンボロバーに金が落ちてると思ってんだ、えぇ!?」
4、50代のリーマンは飲んだくれながらサダトに八つ当たりし、赤い顔のままふらついていた。
「お客様。あまり飲み過ぎてはお身体に障りますよ。今日は、娘さんの誕生日でしょう? 早く帰って、安心させてあげてください」
「……ちっ、わぁったよ」
だが、サダトの後ろから現れた白髪の老紳士に諭されると、罰が悪そうに立ち上がる。彼はそのまま会計を済ませると、よろめきながら店を出てしまった。
「すみません、オーナー……」
「いいんだ、サダト君。君が対応に困るのも無理は無い。何せ彼は、7年前のテレビ局占拠事件で、奥様をシェードに殺されているのだから……」
「……」
「——ゆえに今は、一人娘だけが拠り所なのだ。それでも、どうしても奥様のことを忘れられないでいる……。だから酒に溺れることで、現実から逃れて安らぎを得たいのだよ。……私に免じて、許してあげて欲しい」
「……別に。怒ってなんかいません。ただ、やるせないだけなんです」
何もできないもどかしさ。客足の途絶えたこの小さなバーに、その感情だけが残されていた。
◆
ネオンの光も届かない、穏やかな住宅街。輝きを失った夜空は、その闇を以てこの空を覆っている。
(シェード、か……)
バイトから上がり、赤いレーサーバイクで帰路についていたサダトは、その中にある下宿先を目指して夜道を走っていた。
馴染みの公園はすっかり闇夜に包まれ、設置されている照明だけが、そこを照らしていた。
——そこを越えた先にある曲がり角まで、いつものように向かった時だった。
(なっ……んだ!)
ドタドタと深夜に忙しく響く足音。その音源に目を向けた先には——フードを深く被った厚着の少女を、迷彩服を纏う数人の軍人達が追いかけている光景があった。
非日常極まりないその絵面の異常さだけに気を取られそうだったが——サダトは少女を追う軍人達の装備に目を移す。その見た目には、見覚えがあった。
(な、なんでシェードがこんなところに!)
脳がそれを理解した瞬間、サダトは咄嗟に一刻も早く逃げようと、アクセルを踏み込もうとする——が。
「……くッ!」
どうしても、それはできなかった。女の子を見捨てては逃げられない、というなけなしの理性が、恐怖という絶対的な本能に胃を唱えたのだ。
彼はバイクをターンさせると、行き慣れた道を通じて軍人達の背後に回る。
「ぐわぁあ!?」
「く、邪魔者か!」
そして後方から容赦無く、バイクによる体当たりを敢行した。だが、シェードの手先ともなればやはり改造人間であることは間違いないらしく——バイクの追突で吹き飛ばされたはずの彼らは、憤怒の表情で立ち上がってくる。
(化け物かこいつら! ——ちくしょうッ!)
だが——サダトは恐れを振り切り、赤茶色のレザージャケットを翻してバイクから飛び降りる。そして、襲いくるシェードの刺客に強烈な突きや上段回し蹴り、裏拳を見舞った。
それでダメージを受けてはいなかったが、予想外の反撃を受けた彼らは、警戒した表情でサダトを睨み付けた。
「貴様……何者だ」
「……少林寺拳法四段、テコンドー五段。なんだけど、まるで効いちゃいない……よな」
手応えは確かにあった。普通の人間なら、間違いなく一発で病院送りにできるほどには。しかしシェードの軍人達には、まるで効き目がない。却って警戒させて、隙を狙えなくなってしまっていた。
「……乗って!」
「あ、あなたは……」
「話は後だ、急いで!」
こんな怪物相手では、武闘派バーテンダーであるサダトでもどうにもならない。彼は足早にバイクに跨るとタンデムシートに少女を乗せ、緊急発進する。
無論、シェードの軍人達は阻止しようとするのだが——それよりも先に体当たりを再び食らわされ、転倒させられたのだった。
そして彼らがもう一度立ち上がる頃には——二人の男女を乗せたバイクは、夜の闇に消え去っていた。
「あの男……」
「……ドゥルジ様に報告しろ。新しい『素体』になり得る」
- 第2話 エリュシオン星より愛を込めて ( No.2 )
- 日時: 2017/02/21 06:08
- 名前: オリーブドラブ (ID: SqYHSRj5)
「……今の話、本当なのか?」
「信じ難いのも、無理はありません。信じられない、と仰るならば、それもやむを得ないでしょう。それでも私は、これか真実であると言わざるを得ないのです」
シェードの追っ手を振り切ったサダトと少女は、彼の下宿先であるボロアパートに身を寄せていた。
その六畳間の狭い部屋の中、ちゃぶ台を挟んで向き合う二人は、この場に似つかわしくないほどにスケールの広い話をしている。
彼女がサダトに語った話によると。
アウラと名乗ったこの少女は——なんと、遠い外宇宙からやってきた異星人「エリュシオン星人」なのだという。
シェードによって改造人間にされ、人間に戻れなくなった人々を救う為、自らの意思で地球に訪れたのだそうだ。
——シェードと言えば、かつては対テロ組織として活躍し、精鋭中の精鋭と目されていた特殊部隊。
しかし、ある時にその実力と成果が「人体改造」「洗脳手術」という非人道的行為の賜物だという事実が発覚し、組織は解散。
統率者だった人物・徳川清山《とくがわせいざん》も投獄されてしまったという。
だが7年前、その解散したはずのシェードが、テレビ局を占拠して、人質と徳川清山の交換を要求する事件が起きたのだ。
その件は、シェード内で起きた内紛と思しき、改造人間同士の乱闘によって鎮静したが、彼らの再来は世間を震撼させるには充分過ぎるほどだった。
さらに、シェードの非人道的行為が発覚した後も、すでに改造された被験者達は人間に戻れなくなった苦しみに苛まれ、社会問題にもなっている。
——彼女は、そんな被験者達を生身の人間に戻すために、はるばる宇宙から来たのだというのだ。
「……そういえば。アメリカやロシアにいた被験者が奇跡的に生身に戻った、なんてニュースが半年くらい前にあったっけ。あれも、君が?」
「はい。あの人達には再改造手術に成功したということにして、私のことを秘密にして頂いているんです。私の力が明るみに出れば、良くないことに利用されたりするでしょうから」
「……そういうことなら、シェードに狙われることにも説明がつく。向こうからしたら、せっかく手塩にかけて改造した被験者なのに、人間に戻されたりしたら全部の水の泡だもんな」
「えぇ。……まだメディアには知られていませんが、彼らにはばれてしまったようで——あのように、追われるようになったのです」
そこまで語ると、彼女はフードを取り——艶やかな黒髪のボブカットを靡かせ、その美貌を露わにする。
雪のように白い柔肌。くびれた腰に反して豊満に飛び出た胸に、むっちりとした臀部から太腿にかけての滑らかなライン。淡い桜色の唇に、大きく碧く煌めく瞳。
確かに、異星人と言われると思わず信じてしまいそうな——おおよそ天然の地球人とは比にならない絶対的な美貌の持ち主であった。サダトの胸元程度しかない身長から察するに、恐らく10代であるが、そのプロポーションは到底、少女と呼べるようなものではない。
その美しさに、思わずサダトも息を飲むが——それを悟られまいと咳払いをして、平静を装う。
「……南雲様を、このような事態に巻き込んでしまったことには……もはや、弁明の余地もありません。——申し訳、ありませんでした」
「いいさ、別に。乗りかかった船ってやつだろ? こういうの。……さて、だったらなるべく外は出歩かない方がいいな。行く先が見つかるまでは、ここにいた方が安全かも知れない」
そんな彼女は死刑を待つ囚人のように目を伏せていたのだが——この場の空気に全くそぐわない、サダトの場違いな反応に思わず顔を上げてしまった。
「怒っては……おられないのですか? 私は、自分の勝手な都合であなた様を巻き込んで……!」
「君が追われてるのは、苦しんでる人を救ってきたから——正しいことをして来たからなんだろ? 正しい人を責めたくは、ない」
「……!」
その言葉に、アウラは驚愕したように目を見開くと——潤む瞳を細め、口元を両手で覆う。感極まった自分の想いを、懸命に隠そうとして。
だが彼女は、その思慕の情に嘘を付くことは出来なかった。
「よし、じゃあこうするか」
「……?」
ふと、サダトは肘をちゃぶ台の上に乗せて、小指を立てた。その意図を察することが出来ず、アウラは小首をかしげる。
「南雲様、それは……?」
「んー、約束を守るためのおまじない、かな?」
「約束……」
「ああ。君のやることを信じる、っていう……約束」
「……」
その目的と意義を知り、異星の姫君はほんのりと白い頬を染めて——サダトの向かいに座り、自分の小指を絡めた。
「南雲様……」
「ん?」
「私、私……出逢えた人が、あなたで良かった……」
「……そうか」
それは、単なるおまじない。
だが、知る者も頼る者もいないまま、孤独に救済の旅路を歩んできた彼女にとって——小指から伝わるサダトの体温は、かけがえのない温もりとなっていた。
……時は2016年。
人間の尊厳を顧みない悪の組織と、孤独な愛の戦士の戦いが幕を開けて、7年が過ぎようとしていた……。
※エリュシオン星人
成井紀郎先生が執筆された漫画版ストロンガー「決死戦7人ライダー」に登場。デルザー軍団やショッカーの黒幕である「タルタロス星人」に滅ぼされた惑星の生き残りであり、作中では科学者として働かされていた。
大首領と相討ちになった7人ライダーを緊急手術で救い、元の人間に戻した。改造人間を生身に戻すことができる、希少な存在である。
G本編から7年後であることから、7号ライダー「ストロンガー」に因み、この設定を採用。
- 第3話 迫る闇 ( No.3 )
- 日時: 2017/02/21 19:34
- 名前: オリーブドラブ (ID: SqYHSRj5)
場所は変わり、地下深くに位置する、とある場所。
天井からは水滴が滴り、コンクリートの床には、所々に水溜まりがある。
あちこちを蝙蝠が飛び回り、周囲には不気味な機械類が散乱していた。
「データの最終調整を始める」
一筋の光明さえ差さない暗黒の空間に、一人の男のしゃがれた声が響き渡る。
それを合図に、地べたを駆け回る鼠を踏み潰し、何人かの白衣の男達が、黙々と機械へ向かう。
「人工筋肉、及びパワーソースの最終データチェック完了」
「特殊装甲……及び固定兵器の最終データチェック完了。全てのデータチェック、完了しました」
まるで機械の一部であるかの如く、白衣の男達は黙々と各々の作業をこなしていく。
一糸も乱れぬその動きで作業が終了すると、指揮を執っていたと思しき男が、声を張り上げる。
「よし——事前データは完璧だ。『食前酒《アペリティフ》計画』の完成の日は近いぞ」
下卑た笑いを浮かべる彼の下に、作業を終えた一人の若い白衣の男が歩み寄る。
「No.5の基礎データを基に設計された量産型を配置し、それを前座として奴にぶつける。そして、弱った所を……!」
刹那、若い男の体から一筋の光が放たれ、異形の怪人に変貌する。
人体模型のような風貌を持つその全身は、毒々しい粘液で覆われており——彼の足が地に触れる度、びちゃりびちゃりと粘つく音が響き渡っていた。
「この私……エチレングリコール怪人が一網打尽に! 完璧な作戦ですね」
「うむ。あとは被験体の調達のみだ」
統率者らしき男は、コンピュータに表示された数値データを眺めて腕を組むと、眉間に皺を寄せる。
被験体の調達。一番の問題はそこだった。
「7年前の織田大道《おだだいどう》の失態のおかげで、我々は貴重な被験体を大勢失っているのだからな。手当たり次第に捕縛するほかないが……」
「隊長、ご安心を」
彼の傍にひざまづき、異形の怪人はニヤリと笑う。
「大義ある『食前酒計画』。その被験体のうちの一人は、既に目星を付けております。他の候補も、必ずやこの私が手に入れてご覧に入れましょう……」
「ほう……? 楽しみにしているぞ……わが同胞よ。して、あのエリュシオン星人の方はどうなっておる? 抹殺には成功したか?」
男を見上げる怪人は、さらに粘つくような下卑た笑みで口元を吊り上げ、言葉を紡ぐ。
「いいえ。あの娘は捕縛し、こちらで管理することとしました」
「なんだと? なぜそんなことをする必要がある。あの娘は危険だ、生かしておけば次々と我々の作品を台無しにされてしまうのだぞ!」
「ええ、無論その通りです。しかし、脅威となるのは野放しであれば——という話です。我々の手中に収めれば、これ以上ない便利な『道具』になるでしょう」
「なに……?」
「あの娘は改造人間を生身に戻してしまう。それは裏を返せば改造手術に失敗しても、被験者が死ぬ前に元に戻せる、ということです」
「ほう……」
「ならば丈夫で新しい被験者を探す手間が省ける上、トライ&エラーを繰り返し、より精強な怪人を創り出せるようにもなりましょう。それに何と言っても——奴は女。我々の手で、改造人間を元に戻せる『道具』を量産する『母体』に調教すれば……」
「ククク、なるほど……。聞けばあの娘、なかなかに見目麗しい女だという話ではないか。我が配下の野獣共も、さぞ喜ぶだろう……。いいだろう、ドゥルジ。お前の望むようにやって見せろ」
「はい……フフフ……」
※エチレングリコール
粘り気のある無色透明の液体。トラクターや自動車などの不凍液として主に利用されている物質であり、消防法により危険物の一つに指定されている。
毒性がある物質であり、1980年代にワインに甘味を出すために使用され、問題になった。
- 第4話 束の間の…… ( No.4 )
- 日時: 2017/02/22 06:44
- 名前: オリーブドラブ (ID: SqYHSRj5)
南雲サダトとアウラの出会いから、数週間。
サダトの部屋に匿われた彼女は、彼がバイトや大学で家を空けている間の家事や炊事を行い、部屋主の帰りを待つ日々を送っていた。
一方。サダトは彼女の分の生活費を稼ぐべく、バイトをさらに増やしている。移動先の目処が立たないうちは、彼女を外に出すわけにはいかないからだ。バイトさせるなど、以ての外である。
(でも、これってまるで……や、やだ。何考えてるの、私……)
そんな暮らしが続く中で、アウラは今の自分の姿を思い返し——妄想を繰り返しては、罪悪感に沈んでいた。こんな状況だというのに、心のどこかで幸せを覚えている自分がいたからだ。
(これってなんか……い、いや考えちゃダメだ俺。あの子は16歳なんだぞ。エリュシオン星じゃ成人扱いらしいが、こっちの基準で言えば高校一年生だ。犯罪だ)
同じ頃。サダトも大学の講義がまるで頭に入らず、悶々としていることも知らずに。
——その夜。いつものように、勤め先でのバーで一仕事を終えた彼が、黒い制服からレザージャケットに着替えていると。
「サダト君。最近、いつもよりシフトが多いね。買いたいものでもあるのかな?」
「……え、えっとまぁ……そんなところです」
オーナーである老紳士が、目を細めて尋ねてくる。視線を逸らし、歯切れの悪い返答しかしないサダトに、彼は穏やかな笑みを浮かべた。
「——そうか、恋人か。君もなかなか隅に置けないな。その顔立ちで、今までいなかったという方が不思議なものだが」
「え……い、いや、ち、ちがっ……!」
「ふふ、無理に否定することはない。大切にしてあげなさい」
「いや、だから……も、もういいです! お疲れ様でした!」
「ご苦労様。ふふふ」
本当のことを話せないサダトに対し、老紳士は当たりとも外れとも言い切れない指摘を送る。そんな彼の言葉を否定することに踏み切れず、サダトは喚くように声を上げてバーを後にした。
その背中を微笑ましげに見つめる老紳士の視線を、振り切るように。
——癖がある一方で、艶のある黒い髪。整った目鼻立ちに、強い意思を宿した眼差し。いわゆる細マッチョという体格で、姿勢もいい。
それだけの容姿を備えていて今まで彼女がいなかったのは、ひとえに恋愛に奥手なその性格が原因であり——そこが最大のコンプレックスでもあったのだ。
◆
「……ったく、あの人は全く……」
ネオンが煌めく町を抜け、静かな住宅街へと進んでいくサダトのバイクは——わざと遠回りを繰り返しながら、下宿先のボロアパートを目指していた。帰りの途中でシェードに発見されても、すぐに住処がバレるようなことにならないためだ。
遅かれ早かれ暴かれるとしても、ある程度時間を稼げば、アウラだけは逃がすこともできる。彼女は改造人間にされた人々を救える、唯一の希望だ。絶対に守らねばならない。
(……!?)
その思いを新たにした時。得体の知れない気配の数々が、サダトの第六感に警鐘を鳴らした。その殺気を後方に察知した彼は、素早くハンドルを切ると進路を変え、自宅から遠ざかって行く。
彼の行方を追う数台のバイクは、彼の背をライトで照らしながら、付かず離れずといった距離で彼を追跡する。
(来たな……!)
そんな追っ手を一瞥したサダトは、行き慣れた狭い道を駆け抜け、林の中へ入り込んで行く。無理に追おうとしたそのうちの何台かは、そこで木にぶつかったりバランスを崩したりして、次々と転倒してしまった。
狙い通りに撒いていけている。その光景から、そう確信していたサダトの前に——
「遊びは終わりだ、小僧」
「……ッ!?」
——悍ましい風貌を持つ怪人が、全身から粘液を滴らせ、正面から待ち構えていた。舗装されていない林の中で、相手が待ち伏せていたことに驚愕する余り——サダトは声を上げることすら出来なかった。
そして——瞬く間にバイクを片手でなぎ倒され、サダト自身も吹き飛ばされてしまう。
「うわぁぁああぁあッ!?」
舞い上がる身体。回転していく視界。その現象と身体に伝わる衝撃に意識を刈り取られ、サダトは力無く地に倒れ伏した。
彼を見下ろす人体模型は——口元を歪に釣り上げ、ほくそ笑む。
「ようこそ——シェードへ」
——しばらく時が過ぎ。かつて青年がいた場所に彼の姿は見えず、彼の私物であるオートバイだけが残されていた。
そして、そこにもう一台の、純白のカラーが眩しいオートバイを駆る男が訪れる。
彼はヘルメットを外し、今や無人となったそのレーサーバイクを眺めていた。
「遅かったか……!」
口惜しげに苦虫を噛んだ表情で、青年はバイクに駆け寄る。
そのバイクのすぐ傍に、木の葉や草が何かに溶かされた跡があった。
自然のものとは思えない、その痕跡。それと倒れたオートバイを交互に見遣る男は、眉を顰める。
「これは……」
そして素早く立ち上がると——自身の愛車に跨り、弾かれるように走り出して行った。
「シェードの仕業に違いない……無事であればいいが……!」
時は一刻を争う。彼の表情が、そう語っていた。白いジャケットを纏うその男はさらに
愛車を加速させていく。
「また一つ、尊い命が奪われようとしている……許すわけには行かない!」
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