二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- あの夏が飽和する
- 日時: 2019/05/20 19:17
- 名前: 渚 (ID: A2lM0P.B)
こんばんは、渚です。ここではカンザキイオリ様が作られたボカロ、「あの夏が飽和する」の二次創作小説を投稿させて貰います。初心者ですので解釈が間違っていたりするかもしれませんが暖かい目で見守って頂けると嬉しいです。ではまず軽く人物紹介をさせて頂きます。
〜人物紹介〜
三山夏見(みやま なつみ)
この物語で殺人を犯してしまう主人公。もう一人の主人公からは夏と呼ばれている。
緒尾月律(おおづき りつ)
三山夏見と逃亡するもう一人の主人公。夏見からは律と呼ばれている。
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- Re: あの夏が飽和する ( No.1 )
- 日時: 2019/05/20 20:13
- 名前: 渚 (ID: A2lM0P.B)
「昨日人を殺した」
夏はそう言った。雨でずぶ濡れのまま俺の家の前で静かに泣いていた。夏は酷く震えていた。
「取り合えず家に入って。話し聞くから」
俺は夏から話しを聞く為に家に上がらせた。
「はい、タオル。これで体拭いて。風邪引くから」
「あり、がと」
夏は震えた手でそっとタオルを受け取り丁寧に雫を拭き取った。そして拭き終われば体育座りをして俯いたままポツリポツリと語り始めた。
「殺しちゃったのはいつも虐めてくるアイツ。今日、放課後に階段に呼び出されてついて行ったらお金を取られそうになった。もう嫌になって肩を突き飛ばしたの。そしたら、血が出て来た。遠くからでも見えた。打ち所が悪かったみたいでもう、死んじゃってた。もう、此処には居られないよ。もし、捕まるくらいなら遠くに行って死のうと思う。最後に律に会いたくなって来たの。」
夏は泣かないように歯を食いしばっていた。だけど、その体は震えていた。本当は泣きたいはずだ。逃げ出したいはずだ。だけど、此処に来てくれた。それが嬉しかった。だから俺は夏に言った。
「俺も夏と一緒に行くよ。夏が居なくなったらもう生きてる意味だって無いし、生きていても楽しくない。俺、友達が居ないから。だからついて行って俺も一緒に死ぬよ。」
夏は困惑の目を俺に向けた。
「律は何もしてない。それにこんな人殺しと一緒に居ちゃダメだよ。」
今にも泣き出しそうな震えた声で夏はそう言った。それに付け加え夏は俺に訴えかけた。
「律はお人好し過ぎるよ。私が虐められてるのみて注意したから律は友達が居なくなっちゃった…それなのに私と一緒に来て死ぬなんて。私のせいでこんなに迷惑をかけたくないよ…」
「別に良いよ。これは俺が決めた事。夏は気にしなくて良いんだよ。夏は逃げて良いんだよ。それより時間が無いよ。早く逃げよう。」
俺は夏が返事をする前に支度を始めた。なるべく大きなリュックに財布、携帯、ゲームを詰め込んだ。そして夏に目線を合わせて言った。
「もう、こんな街から出て行こう。俺達を殺したこの街から。」
夏は言葉を聞くと我慢していた涙を流し始めた。
「律、ありがとう。大切にしてくれて、必要としてくれてありがとう。」
「ほら、泣いてる時間は無いよ。」
俺は夏の手を引いて外に出た。夏は袖で涙を拭い俺と一緒に走った。夏の手から震えは無くなっていた。
「人殺しなんてそこらじゅうに沸いてるんだ。俺達を最初に殺したのはいじめた奴だ。夏はなにも悪くないよ。」
夏は俺の言葉を聞き笑みを零した。
「ありがとう、律。本当は怖かった。誰にも必要とされずに一人で死ぬのが。でも律が必要としてくれた。私、もう怖くないよ。」
俺達は愛されないという共通点から出会い、簡単に信じあった。学校、親に拘束され逃げ出せなかった。でも今は違う。俺達は自由に走っている。これからは二人で自由の道を歩んでいくんだ。夏が居るならなんでも出来る。俺達の所持金は底を付いた。俺は金を盗った。夏が苦しまないように。何回も何回も金を盗んだ。もう今更何にも気にする事は無かった。額から流れ落ちる汗も、割れてしまった眼鏡も気にしなかった。
俺達は何日、何ヶ月歩き続けた。食料が無くなって意識が朦朧とする中警察が迫ってくるのが見えた。俺達に怒号を浴びせた。俺達は走って走って警察を撒いた。何回も何回もこの繰り返しをした。正直もう辛かった。けど夏となら一緒に逃げたいと思った。そしてまた、見つかった。夏の手を引き逃げようとした。けれど夏は動かなかった。そして俺が夏の手を離し疑問の顔を浮かべていると夏はそっとリュックからナイフを取り出した。そして俺の目を見据え笑顔でこう言った。
「律、ありがとう。私、律がいたからここまで頑張れたよ。だけどねもう一回考えてみたの。律は本当に私と死んで良いのかって。答えは、ダメ。律は何もしてないから。罪も無いのに律が死ぬ意味なんて無い。だから、死ぬのは私だけで良いの。」
そう言うと夏は自分の首にナイフを宛て、切った。俺は呆然と夏が倒れるのを見た。最後に夏は俺にあの純粋な笑顔を向け「ありがとう」と言った。まるで何かの映画のワンシーンを見ているみたいだった。首からは真っ赤な血が出ていた。俺はヘナヘナと座り込み夏に謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい。俺は夏を助けられると思っていたのに、結局何も出来なかった。本当にごめんなさい!」
俺はいつのまにか警察に捕まったいた。そして、事情聴取などをされた。俺は全部ありのままの事を話した。そして数ヵ月後、少年院から家に帰された。普通に学校にも行くようになった。俺は転校した。すぐに友達も出来た。だけど、夏だけが居ない。俺はポッカリと心に穴が空いたように感じた。それだけ夏は俺に大切な存在だった。だけど、彼女はもう居ない。それくらい分かってる。でも、思い出したくない。認めたくない。夏が死んだのを。あの純粋な笑顔が頭から離れない。今でもあの出来事、彼女の表情が頭を飽和する。夏に言いたい事、それを夏の墓の前で呟く。
「夏、どうか俺を許してくれ。生き残ってしまった俺を。そして、ありがとう、夏と一緒に居た日々、忘れない。」
俺の言葉に反応する声は無い。ただ静寂が俺を支配する。
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