二次創作小説(新・総合)
- Re: Fate/Lost Hope ~空白の聖杯戦争~ ( No.10 )
- 日時: 2019/08/29 00:18
- 名前: 餅兎ユーニアス ◆o0puN7ltGM (ID: u5ppepCU)
同時刻。
音呼鈴市の右端に位置する、大きな洋風の屋敷。日本の街並みからは想像が付かない、海外の一部を切り取って張り付けたかの様な屋敷の中庭にて。キャンバスが広げられた大きな人工芝の上では、小さな少女が可愛らしい鳥の絵をキャンバスに描いていた。
真っ白なショートヘアーに、光を持たない空色の瞳。クリーム色のフリルに彩られた、まるでピアノの発表会にでも行くかの様な黒いドレス。静かに木々を揺らすそよ風に吹かれながら、少女は楽しそうに絵を描いていく。少し雑で歪な形の絵が出来上がった時、少女は誰もいない真横を向いて笑顔を見せた。
「お母様!見てください!小鳥さんの絵が出来ましたよ!」
楽しそうな少女の声が虚空の中を響き、広い空の中に消えていく。返事の無い会話を、一人の少年が遠くから見つめていた。
真ん中分けの白い髪は長く、肩に届きそうな程。少女と同じだが光を宿す水色の瞳。黒い執事服を見に纏い薄手袋を着けている様子は、少年執事の様だ。
「……『エゼル』。報告を頼む」
少年が言うと、柱の影から一人の侍女が出てきた。茶色の髪は背中の上で大きくカールしながらも一つに纏められ、髪よりも鮮やかな茶色の瞳が、少年を見つめていた。
「かしこまりました。朝の状態について御報告致します。
6:57分、起床。その後、着替えを行ってからは虚空に向かって会話を行いながら、この中庭へとやって参りました。以降、今の今まであの様子です」
「……幻覚の頻度は」
少年の言葉に、エゼルは黙りこむ。しかし、それは一瞬の事だった。
「以前より回数を増しています。このままでは最高回数の12回を上回る可能性があるため、出来る限りの処置を行う方針です」
「……そうか」
少年が少し悲しそうに俯いた時、だった。
少女の視線が突然切り替わった。横を見ていた少女は前を向き、遥か彼方を見つめたまま動こうとしない。何も喋らずに遠くを見つめる少女を見て不思議に思った少年は、声を掛けようと一歩踏み出した。
『■■■■■■■■■■■■■■』
ノイズが、聞こえた。
少年が咄嗟に辺りを見渡す。エゼルは突然の少年の動きに首を傾げ、少女は未だに虚空を見つめていたが、突然、少女が少年の方を向いた。白い髪が、静かに揺れる。
「……兄様。聞こえましたか?」
「……『リーゼロッテ』?」
少年が不思議そうに名前を呼ぶと、リーゼロッテと呼ばれた少女は静かに微笑んだ。
「歌が、美しい歌声が、聞こえました」
平穏な時を送る、音呼鈴市。
夢の終わりは確実に、永遠なる平穏の終わりを告げていた。
それに気付くのは、今では無いのだろう。
聖杯戦争開始まで、あと17時間。