二次創作小説(新・総合)
- Re: Fate/Lost Hope ~空白の聖杯戦争~ ( No.3 )
- 日時: 2019/08/20 09:47
- 名前: 餅兎ユーニアス (ID: MTNmKKr2)
断章 『永遠が告げる始まり』
何もない真っ白な空間。空も大地も白紙の白に覆われ、方向も失ってしまいそうな空間。ひょっとしたら、もう方向なんて忘れているのかもしれない。空間の中心に立つ少年は、ふと、心の中で呟いた。
癖毛の跳ねる長めの黒髪、磨かれたかの様な光を宿す黒い瞳。制服と思われるYシャツに紺色のズボン。傾いた群青色のネクタイを右手で整えながら、少年は小さく息を吐いた。寒くもないのに浮かび上がる白い霧が、白い地面に影を作る。その影が消える頃に、少年は一歩を踏み出した。黒いスポーツシューズは、音を立てる事なく地面を蹴る。歩いても歩いても、見える景色に変わりは無い。分かっていても、足が勝手に動いていた。
どこにでもいる一般人。常に自分をそう言ってきた少年『伊奈瀬 翔夜』は、いつも見る夢に疑問を抱いていた。目を開けるとそこは何もない真っ白な空間で、何をしてもどう足掻いても、その空間からは出られない。暫くすると金属音が遠くから鳴り響き、気付けば夢から覚めているのだ。この夢が現実に影響を与える訳でもない。ただ、この白い空間にいると、何故か呼吸が苦しくなってくる。そんな気がするのだ。現に今だって、少し苦しい。
「何なんだ、この夢……」
呟く声は遠くまで響き、遥か彼方へと消えていく。
何か気付くべきものがあるのか、自分が夢を見れないだけなのか。考えるとしたら前者だろう。今までは普通に夢を見ることが出来たのだから。
だが、今日も何も起きない。今日もまた孤独に、金属の音を待ちわびるのだろうか。
白紙の中に放り込まれたかの様に、周りに翔夜以外の生命は存在しない。
その空間に終わりは無く、端も無く。
ただ永遠と試行錯誤して、失敗例を投げ捨てて、
永遠に、孤独な夢であるのだろうか。
その場に踞る。涙は出なかったが、どうしても苦しかった。覚めろ、覚めろと、頭の中で繰り返す。目を強く瞑り、ただひたすら願い続ける。早く朝を。この夢の終わりを。どうか。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
音が、聞こえた。
それは夢の終わりに聞こえる音では無かった。空気を裂く金属の音では無い。ノイズに近い雑音。おぞましい「何か」が潜むノイズに、背中が凍りついた。
恐る恐る、その正体を確認しようと顔を上げる。前方から聞こえたノイズを、確かめる為に。
顔を上げた直後。
空間に、大きな鐘の音が轟いた。
それは柱時計が時を告げる際の鐘に似ていて、規則的に、何度も、空間を震わせる。地震が起きているのか、立っていられなくなった翔夜はその場でバランスを崩して倒れてしまう。何が起きているのか、翔夜自分に置かれた状況を理解できずに、目を白黒させながら鐘の音を聞いていた。
「終わりの刻だ、人間」
突然背後から声が聞こえ、振り向く。そこにはいつからいたのだろうか、一人の女性が立っていた。
褐色の肌に、長く白い髪。身長より大きい巨大な剣を背負った、非現実的な装束の女性。あぁ、これは夢だから。普通の人が見たら驚くだろうその姿に、孤独に麻痺を覚え始めていた翔夜は驚く様子を見せなかった。
「終わりの、刻?」
「貴様にも聞こえただろう。おぞましい気配を潜めた『声』が」
声?あれは声だったのだろうか?
そんな疑問を述べる間もなく、女性は言葉を続けた。
「永遠は終わりを願い、終焉の咆哮を上げた。この空間は間もなく消滅し、『奴』は外へ出るだろう。……驚いた、まさかあんな朧な存在の幻霊が、抑止力の壁を破る時が来るとは」
「幻霊……?アラヤ……?何の話なんだ?何が起ころうとしているんだ?」
翔夜の問いに、女性は答えようとしない。代わりに深く息を吸うと、巨大な剣を鞘に納めたまま手に取った。
「今この時を持って、平穏は終わりを告げる。願望を懸けた闘い、「聖杯戦争」が始まろうとしている。だが、此度の聖杯戦争は、ただ一人の勝者が条件では無い」
「聖杯、戦争?頼む、分かるように説明を……」
「時間は無い、人間。目が覚めたら貴様の祖父の家へ向かえ。
戦が始まる。無慈悲な殺し合いだ。貴様はその戦に身を投げる運命となった。呆然としているだけでは、意図も容易くその首を取られるだろう」
殺し合い。戦。物騒な言葉と訳のわからない言葉が入り雑じり、混乱する。女性はそんな翔夜を気にも留めず、静かに言葉を紡いだ。どこか、悲しそうな表情で。
「……貴様の代わりを成す刃が現れるまで、その命、守り抜け」
女性が鞘に納められた剣先で地面を強く突く。聞き覚えのある金属音が響く。
白い空間に、黒いヒビが入り、本当に地震と思える揺れを感じた時、
翔夜は、夢から覚めていた。