二次創作小説(新・総合)
- Fate/Grand Order 幻想風化大陸(募集中) ( No.9 )
- 日時: 2019/10/01 18:04
- 名前: 餅兎ユーニアス ◆o0puN7ltGM (ID: YA8nu/PY)
少女の最後の言葉と共に、景色は闇へと変わる。宙に浮くような浮遊感に襲われ、周りの音は一斉に遮断された。
声を出そうにも、口ばかりが動いて喉から言葉が出てこない。体も動かせず、ただ闇の中で浮いているだけだった。
(夢じゃない。あの子……聖杯を使う気だ。何とかして目を覚まさないと……!)
人理修復の旅に出た立夏にとって、聖杯の力がどれ程の物かは充分分かっている。ありとあらゆる願いを叶え、世界を作り、果てには人理さえも歪めてしまう万能の願望機。だからこそ、それを使う少女を止めなくてはいけない。動かない体とは反対に、心はその使命感によって突き動かされていた。
「…………ゥ………」
ふと、どこからか音が聞こえてきた。方向を感覚で探ると、その音は何度も、立夏の目の前から聞こえてくる事が分かった。一点に意識を集中させて、耳を澄ませる。
「………ゥ………フォ………ゥ……」
聞き慣れた、何かの鳴き声。その高く澄んだ声は闇によく響き、動かない体を引き寄せるかのような感覚を引き起こす。
「フォーウ!フォウフォーウ!」
その声の主が誰なのかを理解した瞬間、視界は一瞬にして光に覆われた。
同時刻。
カルデアの指令室では、スタッフ達のざわつきが起きていた。コンピューターと向き合いキーボードを打つ手を止めないまま、波の様にざわつきが引き起こる。
「特異点を観測しましたが………ここの座標、もしかして太平洋?」
「嘘だろ……太平洋のど真ん中だぞ?こんな所にも特異点ができるのか……?」
「な、何かの間違いとか……」
「いいや、間違いなんかじゃないさ。座標はそこで合っている」
ざわつくスタッフ達を静めるように、一人の女性が言う。中心に星の結晶らしき物が取り付けられた杖を持つ、乱れの無い茶髪の女性だ。
「ひとまず、座標を確定してほしい。特異点なら、放ってはおけないからね。後は立夏君を……」
女性がそう言いながら入り口へと向き直ると同時に、入り口の扉が開き、薄いピンク色の髪の少女が入ってきた。
黒縁の眼鏡をかけて、白いパーカーを羽織った少女を見た女性は、笑顔を見せる。
「お、丁度良い所に来てくれたね、『マシュ』。ちょっと立夏君を呼んできてくれないかい?ちょっと緊急事態が起きてね。コールを掛けてたんだけど反応が無いから、君に行ってほしくて」
マシュと呼ばれた少女は立ち止まると、「先輩をですか?」と尋ねる様に言った。緊急事態という言葉に少し心配を覚えているのだろう。眼鏡の奥の瞳が、不安を告げている。
「それは構いませんが……緊急事態というのは」
「それはマシュにだけ話す訳にもいかない。どうにも今回は異例だからね。立夏君が来たら話そう」
女性が言うと、マシュは「分かりました」と一言言い、踵を返して指令室を後にした。
カルデアの長い廊下を駆け足で進む。立夏のいる部屋に近づいた時、マシュは扉の前で足を止めた。
「この声は……『フォウ』さん?」
立夏の部屋から、猫と兎を合わせたかのような生き物、フォウの声が聞こえた。何を話しているのか気になったが、今は聞き耳を立てている時間は無い。マシュが一歩踏み出すと扉は開き、ベッドに座る立夏とその側にいるフォウの姿が現れた。
「先輩。『ダ・ヴィンチ』ちゃんがコールを掛けても出なかったというので呼びに来ましたが……」
マシュが部屋に入ってきた時、立夏の顔は少しだけ険しく、そして青ざめていた。悪い夢でも見たのだろうか、具合が優れないのだろうかと不安に思い、言葉が失われると、立夏が顔を上げてマシュを見た。
「あ、マシュ?えっと、呼びに来てくれたんだね」
「はい……あの、先輩。大丈夫ですか?顔色が良くないですが……」
「……俺は大丈夫。何でも無いよ」
立夏はそう言って笑みを見せる。隣でフォウが「フォウ……」と呟くように鳴くが、マシュはそれ以上は問わなかった。
何を言っても同じ言葉が返ってくると、分かっていたから。
「緊急事態と言っていたので、行きましょう。ダ・ヴィンチちゃんが心配してましたよ」
「え、本当?なんか申し訳ないなぁ……ごめんね、マシュ」
ベッドから立ち上がり歩きながら言う立夏に、マシュは「いえ、私は大丈夫ですよ」とだけ言うと、立夏の後に続くように指令室へと向かっていった。
- Re: Fate/Grand Order ~幻想風化大陸~(募集中) ( No.10 )
- 日時: 2019/10/02 22:10
- 名前: 餅兎ユーニアス ◆o0puN7ltGM (ID: NOuHoaA7)
「ダ・ヴィンチちゃん。先輩を連れてきました」
指令室の扉が開くと、「お、早かったね」とダ・ヴィンチが振り向いて言う。いつの間にか着けていた眼鏡を片手で整えると、立夏達の方へと歩いてきた。
「コールに応じなかった時はどうしたことかと思ったが、無事そうで何よりだよ。……ちょっと沈んでいるようだけど」
やはり立夏の心の状態は、ダ・ヴィンチにも分かるらしい。表に出ていただろうかと思いながら「ちょっと悪い夢を見て」と適当に笑うと、ダ・ヴィンチは微笑んだ表情を崩す事無く小さく頷いた。
「さて、第三の亜種特異点として観測された『下総国』を修正して五日しか経っていないが、新たな特異点が観測された」
「特異点……!それは、最後の亜種特異点ですか?」
マシュの問いにダ・ヴィンチは首を振る。指令室のガラスの奥にある管制室を見ると、青い地球儀のような物……『カルデアス』を指差した。
「亜種特異点なんかじゃないさ。特例中の特例である特異点だ。しかも座標は、あの赤い印の通り……太平洋のど真ん中を指している」
「太平洋!?」
立夏は驚きの声を上げる一方、疑問を覚えた。夢で見た景色は確かに日本の景色で、場所も噴水のある公園といった普通の所だ。普通だったら特異点は聖杯が影響した場所に出来るのだが、何故海の真ん中なのだろうか?
「更に大きさも半端じゃない!これはもはやアジア大陸と変わらないだろうね!しかも標高を確認した所、この特異点は海面上に無い事が発覚した。どこだと思う?」
「……海中?」
「残念、『空中』だよ」
「……は!?」
マシュは思考が追い付いていないのか、呆然としながら会話を聞いている。立夏の口からは、先程から驚愕の声しか出ていない。そんな二人を前に、ダ・ヴィンチは普段の微笑みを全く崩す事無く話していた。
「いやぁ、流石の私も驚いたよ。標高1200mの太平洋上に、超巨大な特異点。亜種特異点でも無ければ、一体誰が引き起こしたかも分からない。間違った歴史と言うよりは、あれは『造られた架空の歴史』と言った方が正しいだろう」
「造られた歴史……つまり、その特異点には今の歴史とは全く異なる物があるという事ですか?」
マシュがようやく口を開くと、ダ・ヴィンチが「そうそう、そういう事!」と嬉しそうに言った。理解がスムーズで嬉しいのだろう。
「……ただ、大きな問題がある。この特異点をざっと確認した所、一般人が数名程巻き込まれている事が分かった。しかも、全員特異点が出来る時に日本にいたという事も判明している」
「!そんな……巻き込まれた人の安否は!?」
「そこまでは分からない。直接行って確かめなければ分からないんだ。だから立夏君を呼んだんだよ。下総国に行ったばかりで申し訳ないけど……『ホームズ』がいれば色々捗るのに、一体何処にいるのやら……」
ダ・ヴィンチがやれやれと言わんばかりに溜め息をつく。普段なら特異点が観測されるとやって来るサーヴァント、『シャーロック・ホームズ』が、今回は指令室にいないのだ。廊下を渡る際も見かけなかったが、本当に何処にいるのだろうか。
「……まぁ、ホームズがいなくても私がいる。天才は一人でも充分さ。ともかく……立夏君。今回の特異点修復、行ってくれるかい?」
無論、答えは決まっている。今まで幾度となく特異点を修復してきたのだ。再び特異点が出来たのならば、言うことはただ一つ。
「はい!任せてください!」
不思議と気合いの入った一言。ダ・ヴィンチはその一言を聞いて、嬉しそうな笑みを見せた。