二次創作小説(新・総合)
- Re: 戦闘中~地球を守れ~ ( No.45 )
- 日時: 2020/01/16 19:50
- 名前: モンブラン博士 (ID: daUscfqD)
その光景は地獄絵図だった。果敢に挑んだ数十名の伝説の戦士達は鬼神によって蹴散らされ、変身能力を失い、倒れ伏している。その瞳にも光はなく、虚ろになっている。彼女達はこれまで幾度となく強敵に立ち向かい、絆の力で勝利と平和を手にしてきた。だが、今度の相手は違った。地力――即ち、フィジカルが別次元だった。どれほど浄化技を放っても、打撃を食らわせても真っ向から耐えきり、打ち破る。正々堂々で純粋に強い。諦めずに立ち上がる前に、意識を失ってしまう現実。1人、また1人と戦力を失い、とうとう残るは自分だけとなってしまった。己の現状を振り返り、光属性の少女はステッキを持つ手が震え出す。
自分が負けたら何もかも終わってしまう。皆の努力が水の泡になる。頭では分かっていた。だが、心が折れそうだった。この怪物にどうすれば勝てるのか、皆目見当が付かないのだ。猛禽類の如く鋭く殺気立った瞳が、少女を捉える。その肉体は鋼のように鍛えられており、筋肉の山脈と形容しても違和感はない。自分を圧倒的に上回る身長・体重・筋肉・そして戦闘経験。その形相も相まって、鬼の神と思えるほどだ。目を凝らしてみると、男の背後から何かが放出されているのがわかった。淡いオレンジ色の光――それは男の闘気だった。真に優れた格闘技者になると、闘気を発するようになると言われている。では、部屋全体を覆わんばかりの男の闘気の量は何なのだ。無言の威圧感。闘気だけで早くも飲み込まれんとしている現実がある。手足が震え、額や腕から汗が噴き出す。ふと、視線を下にやると、偉大な先輩戦士達が倒れていた。心臓の鼓動は停止している。そう、倒されたという表現では生温い。男は宣言通りにこの場の戦士達全員を往生させたのだ。
少女は戦士の力を得たのだから、張り切って悪者を浄化してやると意気込んでいた。自分は超人的な力を有したのだから、大抵の困難は乗り越えられると信じて疑わなかった。だが、現実はどうだ。杖を持つ手が大量の汗で滑ってきた。
対峙するだけでも喉が渇き、体力を消耗する。気が付くとほんの少し後退している自分がいた。いくら誤魔化しても身体は正直だった。男を恐れ、逃げ腰になっているのだ。男は真上に拳を放ち、拳圧で軽々と天井を破壊。否、天井どころか建物そのものを跡形もなく破壊してしまう。上空から落下してくる仲間と敵。彼らは状況を瞬時に理解し、己の戦闘に集中している。空は青く澄んでいる。夕方に突入し、知らない間に朝になっていたのだ。長い時間の経過を気にする余裕を失うほど、彼女は追い詰められていた。今回参加したメンバーの中で、最も若く、最も戦闘経験が無い。だが、未知の可能性を評価された自分はまだ、何の実績も挙げられていない。怖い。逃げたい。自己の保身とネガティブな感情が少女の頭を占めていく。そしてぎゅっと目を瞑ったかと思うと、踵を返し、逃走を開始した。戦士として逃げるのは恥であり、してはならないこと。承知の上だが、今は恐怖から逃れたい感情が勝ってしまったのだ。男は追わない。ただ、冷たい眼で少女が逃げ去る姿を見るだけだ。
少女は振り返ることなく道路を走り続け、曲がり角のビルで大きく息を吐き出し、両膝に手を添える。相手は追跡しない。胸を撫でおろすが、遠くで爆発音が聞こえた。それが何を意味しているのか、彼女にはすぐに分かった。
仲間が戦っているのだ。あの化け物染みた大男を相手に。
頼りになる助っ人を叩き潰され、戦闘を放棄し、心が完全に折れてしまった少女は体育座りになると、ボロボロと泣き出す。大粒の涙が柔らかな頬に流れ、小さな顎を伝い、衣服を濡らす。誰も彼女を攻めることはできない。少女も1人の人間なのだ。決して完璧ではない。弱みを見せる時もある。少女は震える唇で小さく言葉を紡いだ。
「みんな、ごめん。私、勝てなかった……」