二次創作小説(新・総合)
- 信用 ( No.3 )
- 日時: 2020/01/08 21:23
- 名前: さきこ (ID: H8Xp0wSz)
最近噂の大きな耳を持った泥棒、ドロッチェの住処はゴミ捨て場だ。ここには、宇宙船を作る時に出たゴミや不良品や、古くなった部品などが山のように積み上げられている。
彼はそこに拠点を作り、宇宙船を作り始めたのだった。盗み出した船の設計図を手に、毎日ガラクタの山の頂きで、うんうんと唸っている。
「何を作ろうとしてる」
ある日、しゃがれた声が背後から聞いた。ドロッチェが振り返り見てみると、声の主はぐるぐる眼鏡の小さな初老の男だった。
「…宇宙船」
ドロッチェは戸惑いつつ、ぼそりと呟いて返してみた。
「ほぉ。お前さん一人で、か」
ドロッチェは人と、まともに話すのはこれが初めてだった。なんだか変に緊張して、顔が熱くなるのを感じていた。
「オレはこんな星、さっさと出て行くんだ」
この街に住んでいれば、ドロッチェのことは誰もが知っているはずだった。最近悪さをしているこそドロの子ども。この男も例外ではなく、彼の事を知っているはずである。最初は通報されるのではないかと思ったドロッチェだが、男にそんな様子はなく、ただ興味深そうに彼を見て、質問を投げかけた。
「星から出てどうする」
「…」
ドロッチェは答えずに、不審そうに男をじっと睨むように見つめている。
「手、貸そうか」
「…お前に手、ないだろ」
目的が見えない。こいつ、何がしたい?
泥棒に不審がられた男はさも楽しそうに笑っており、
「その様子じゃ、一生かかってこの星を出られるかどうかってところじゃないか?ん?」
「作れんの、宇宙船」
「作れる。本職だったわい」
男は頷いて、なにか懐かしむように遠くを見た。
行き詰まっていることは事実だった。設計図は手元にあるが、それを理解することはドロッチェには難しい。圧倒的な知識不足、そして技術や経験、道具だってない。ドロッチェ一人では作ることなど到底できなかった。
この男に頼れば、宇宙船は完成するかもしれない。しかし、信用してもいいものだろうか?からかわれているだけかもしれないのだ。泥棒に手を貸すメリットなどない。
お前の目的は?そうドロッチェが聞こうとした時。
「その設計図な、わしが書いた」
「は?!」
ドロッチェは驚きに大きく目を見開いて、男を見た。
「設計者の名前、ドクとあるだろう。それがわしの名前じゃ」
ドロッチェは、言われたとおり設計者の欄を見て、どきりとした。
"設計者:ドク"
「わしは、船をいくつも作ってきた。宇宙への憧れから技師になったが、1度も宇宙に行けないままこの歳になった。工場からはもう用済みだと捨てられた」
ドクは穏やかに声を落とし話し始めた。記憶を辿りながら、しゃがれた声で大切そうに。
「しかしまだ引き下がれん。引き下がりたくなどない」
そういうことか、とドロッチェは思った。つまり、オレに船を作る代わりに、自分を乗せろと言いたいのだ。
ドロッチェにとって、大人はそう簡単に信用出来る相手ではない。自分を捨てた親、助けを求めても知らん顔で通り過ぎていく人々。時には自分を罵り、殴り、奪っていった大人たち。こいつも同じように俺を利用するつもりなんだ。
今度は自分が、大人たちを騙し、罵り、奪ってやろう。
まずはこの男を騙してやる。
「いいぜ、船が出来たら乗せてやる。宇宙を見せてやるよ。だからオレに、船を作ってくれ」
