二次創作小説(新・総合)
- 苛立ち ( No.4 )
- 日時: 2020/01/08 21:48
- 名前: さきこ (ID: H8Xp0wSz)
ドロッチェは後悔していた。
「コラぁドロッチェ!ネジをしっかり締めろと何度言ったらわかる!」
「配線もまともに出来んのか!」
「作業中によそ見をするな!」
「金が足りん、もっと稼げ!」
「酒もタバコも切れてるぞ、買ってこんかい!」
(このクソジジイ、うるさいったらありゃしない。つか、酒もタバコも船作りには関係無いじゃねーか…)
ドロッチェ達は、棄てられていた中で最も大きな宇宙船を修理して使うことにした。
ドクが「どうせなら大きい方がいい。お宝沢山乗せて飛べ」と言い出し、ドロッチェがそれに乗った。ドクが書いた設計図はあったが、一から作るには明らかに無理があった。
そうして作業を開始したのはいいものの、ドロッチェが大人しく耐えられたのは最初の2日だけだった。それ以降は、ドクに怒鳴られてはすぐ拗ねてしまい、作業が雑になってはまた怒鳴られるという悪循環を起こしている。
「いいかドロッチェ、ネジ1本の緩みが命取りになる。星から出るにも入るにも、船には大きな負荷がかかるのだ。ワープだの何だの使うのも相当な負荷だ。船は、その負荷に耐えられなくてはならん。もし途中で機体が壊れてみろ、お前さんは1人広大な宇宙や高いエネルギーの中に放り出されることになるぞ」
「あーあーハイハイ、わかったからちょっと黙れよクソジジイ」
ドロッチェには難しい言葉がたくさん出て来たので、段々頭が痛くなってくるようだった。
「アレだな、それなりに知識がついたと思っとるんじゃろう。でもお前さんがやったのひただの暗記。しっかり理解出来ていないから力になっておらん」
「うるッせぇな偉そうに」
「わし偉いもん。そんな態度しとると教えんぞ」
「お前一人でやればいいだろ?何で俺がやらなきゃならねぇんだよ!」
「お前さんが始めた事じゃろうが!自分でやる努力をせんか!」
チッ、と舌打ちをしてドロッチェは船から出ようとする。
「どこに行く!」
「盗み!」
「そうか!じゃあタバコ忘れるなよ!」
外に出ても苛立ちは消えず、金属片を思い切り踏みつけながら歩いていく。
あぁ、ムシャクシャする。この足が地面を踏んでいることにすら。俺は早く宇宙に行きたい。
もちろん一人でだ。あのムカつくジジイを地上に残して、嘲笑いながら飛ぶのだ。さぞ気持ちのいいことだろう。
- 不穏 ( No.5 )
- 日時: 2020/01/08 22:02
- 名前: さきこ (ID: H8Xp0wSz)
深夜、ドロッチェが盗みから戻るとドクがいなかった。船は金属で作られているため音がよく響く。しかし、暗い船内はしんと静まり返っている。ただいまと声をかけても自分の声が跳ね返って聞こえただけだった。
最近、どんなに遅くなっても船に戻るとドクにガミガミと小言を言われていたので変に感じたが、すぐに頭を振ってその考えを否定する。
これが普通なのだ。
電気が通っていないので、船内はどこまでも完全な暗闇だ。
アンティーク調の古いランプに火を灯すと、炎が金属の壁をぬらりと冷たく照らした。
これだけ暗く、ドクがいないなら作業はできない。今日は1人で平穏な時間を過ごせそうだ。読書でもしようか。
タバコを食堂のテーブルに置いて、盗品は奥の部屋にしまって自分の部屋に引き上げた。
この船は、乗れても50人が限度と言うくらいの大きさである。不法に廃棄されたプライベート船の中では最大級だろう。メインの操縦室、エンジンルーム、通信室などは勿論、1人、また数人で利用出来る個室も多く、大広間、食堂…色々揃っている。宇宙の長旅に耐えるため、食料庫や貯水槽などもしっかり完備されている。
一人部屋、元船長室がドロッチェの部屋だ。
宇宙の伝説や歴史の書かれた本が並ぶ本棚、深い紅のソファーセット。それが今この広い部屋にある全てだ。
本を1冊引き抜いて、ランプを置くとソファーで横になる。この本はお気に入りだ。珍しい本のようで、ドクに見せるととても驚いた様子だった。
遠い銀河の向こう、違う世界にあるという星の伝説が書かれた本。
願いを叶える機械仕掛けの大彗星、ココロを持つという天かける船、夢を生み出す杖…
それらはどれも不思議な御伽噺のようで、しかし宇宙のどこかに存在する事実。
ページを捲る度、凍えたドロッチェの心は段々とほぐれていくようだった。
この本を読んでいる間だけ、ドロッチェは年相応の幼い顔付きになる。
無邪気に、夢を見る。
宇宙を目指すのは、あの名前も知らない絵画を追うためである。しかし、何度もこの本を読み返すと、次第に宇宙への憧れも強くなって行った。
本を閉じ、空想にふける。
どこまでも広い宇宙を、真っ暗な宙に無数の光が浮いている中を飛び回り、不思議な星を旅して回るのだ。やがてあの絵画に追いつき、奪ってしまう。
でも、とドロッチェは思う。
絵画を手にした後、俺はどうするのだろうか。
あの絵画を追うためここまで生きた。その後は?
朝、食堂に向かうとドクが帰ってきていた。昨日テーブルに置いておいたタバコを吸いながら、ぼんやりと天井を見つめていた。
ドキリとした。白い体のあちこちに怪我を負っている。
ドロッチェに気付いて振り返ると、いつもと変わらない声音で
「おぉ、起きたか。おはようさん。タバコ、貰ったからな」
「…ん。」
ドロッチェはどうしたんだと聞こうと思って、やめた。船が出来るまで利用するだけだ。心配したって仕方ない。
ドクも、何も話さなかった。
