二次創作小説(新・総合)
- ふぅぅ!! ( No.3 )
- 日時: 2020/03/10 15:14
- 名前: 走者 (ID: 3Oig7PbJ)
私、久保田志穂とすずの出会いは、小学3年生の冬のことだった。
その日は雪がちらつくほど寒い日で、私はお使いの帰り道、近道のために遊歩道を使っていた。
早く家に帰りたかったのかな、急いでいたせいもあって、私は足がもつれて転んでしまった。
「いたた……」
どうも転び方が悪かったみたいで、足をくじいたらしく、その場から動けなかった。
雪は肩に、手の甲に次々と降っていっては静かに溶けていく。
どうしようもないくらい、寒かった。
「どうしよどうしよどうしよ……!」
気づかないうちに、目には涙がにじんできた。
誰も通りかからない、気づかない。
もしかして私はずっとこのままなのではないかと、その考えが一瞬頭をよぎったとき、ついに涙が溢れてしまった。
「う……うわぁぁぁぁぁぁん……!」
泣き声はむなしくも林の中に吸い込まれていく。
手は赤く、かじかんでいる。足はまだ、とても痛い__
「__どうしたの」
突然、後ろからきれいで大人っぽい声がした。
首だけをあわててそちらに向ける。
「玲美沢……さん?」
名前と顔だけは知っている。
確か、隣のクラスのクールな女の子だ。でも……今の彼女はまるで雪だるまだ。
__上着を何枚も重ね着していて……厚着すぎない?
「……あぁ、私、寒いのが大嫌いなのよ。」
私の視線に気づいたらしい、玲美沢さんが視線を右に流しながら言う。
「ところで、私の名前を知ってるってことは__同じ小学校かしら」
認知されてなかった!!
そういえばと、この人はよく一人でいたことを思い出す。
「足をくじいたのね。2年生?それとも1年?家はどこ」
さらっと失礼なこといわれたぁ!!
そりゃあ、ちっちゃいけどさ!そんなストレートに……
「3年生!隣のクラスだよ!」
言い返した言葉は、珍しくちょっととげのある口調にはなってしまったが、玲美沢さんは素直に謝ってくれた。
「ごめんなさい、悪気はなかったの」
「いやいやいや、いいよ__」
「あまりにも小さいものだったから」
__結構ストレートな物言いをする人だと思った。
だけど、年相応にむくれていたところ、
「……もう、涙は引っ込んだみたいね。まだ痛む?」
気づいた。
この人、私を落ち着かせるためにあんなこと言ったんだって。
……だけど、正直に言えばもっと他の方法でやってほしかったなぁ……
「うん……動けない」
「そう。なら__」
玲美沢さんは、そこで言葉を切って、ひょいっと私を担ぎ上げた。
「お、おおおお姫様抱っこぉ!?」
「動けないんじゃ、おんぶは無理でしょ」
白い息を吐きながら、やや早口で返し、走り続ける玲美沢さんの顔は、とてもかっこよかった。
ジャンパーが重ねられてふわふわの腕に身体を預け、私はその日、帰宅した。
次に見たのは、放課後の理科室。
彼女の姿が目に止まって室内をのぞいてみたところ、私と同じクラスの雪城さんと、科学クラブの後片付けを黙々としていた。
とくにこれといった言葉が交わされていないのを見る限り、ただのクラブメートの関係なのだろう。
そういえば雪城さんも、玲美沢さんとはタイプは違えど、友達が少ない人だった。
しばらくボーっと眺めていたら、いつの間にか片づけが終わっていたらしく、ランドセルをかるった玲美沢さんが、目の前に仏頂面で立っていた。
「何しにきたの」
「えっ……あ、見てただけ!あはは……」
「そう。足はもう、治ったかしら」
あのあと病院にいってみたところ、ただ捻挫していただけだった。
お礼を言おうと思っていたのに、寒いのがよほど苦手らしく、とっととおウチに帰ってしまうのでこの1ヶ月間会えずじまいだったのだ。
「ヘーキヘーキヘーキ!前はありがとうね!」
「構わないわ」
相変わらずそっけない。
ここで私は、こう提案した。
「えっと……一緒に帰らない?」
「だめよ」
即答。
残念がるのも忘れてあっけにとられていたところ、
「今はまだ寒いから。もう2週間したら3月になって、丁度暖かくなるから」
「う、うん……」
そう言われた。
「玲美沢さん、久保田さん困ってる」
「雪城さん?……確かにそうみたいね。ごめんなさい、じゃあ、2週間後に会いましょう」
そういったきりスタスタと教室を出て遠ざかっていく。数秒してから、雪城さんが苦笑しながらこちらに会釈をして帰っていった。
玲美沢さんは、本当に、つくづく分からない人だと思った。
2週間すると、言葉通り彼女は私の前に現れた。
『帰りの会』のあと、教室の引き戸を開けると、彼女が目の前に仏頂面で棒立ちしていたので、腰を抜かしてしまった。
「久保田志穂さんね。約束どおり来たわよ。さぁ、帰りましょう」
「……あ、ありがとう!」
しばらく無言の時間。
玲美沢さんは足が長い上に本当に歩くのが早く、やや駆け足でついていく羽目になった。
「玲美沢さん……今更だけどさ、迷惑じゃなかったかな」
「何が」
「ほら、一緒に帰るの」
「全然」
即答。
彼女の顔を思わず凝視すると、かすかに頬を緩め、
「たこ焼きの、おいしいお店があるの」
前を見たまま、呟くように言った。
「ここよ」
「はぁっ、はぁっ……やっとだー……」
涼しい顔の玲美沢さんの横で、肩で息をする私。
ふと見上げると、そこにはキッチンカーらしきものがあった。
看板には『TAKOCAFE』と書いてある。やっぱりたこ焼きのお店なのだろう。
こんなおしゃれなところに通ってるんだなぁ、と、ちょっと尊敬の念を抱いて彼女に視線を移した。
彼女と目が合う。夜明け前の空みたいな、深く透き通った紺色の瞳だ。
1秒ほど見つめあったものの、彼女はすぐにお店を見据えて短く言った。
「早く行くわよ」
「あっ OK OK OK!」
玲美沢さんについていく形でお店の前に向かう。
カフェオレ色のゆるくツーサイドテールに結ばれたセミロングヘアがきれいにゆれた。
「いらっしゃ……すず!秋ぶりだねぇ!」
本当に冬は出かけていなかったんだ……呆れを通り越して、流石だと思った。
「隣の子はお友達?珍しいね」
「あっ、えっと__」
「いいえ、まだ、ただの同級生よ」
やっぱり友達への道は遠いのか__と内心やや落ち込むも、『まだ』ただの同級生との言葉に希望を感じた。
「アカネさん、私はたこ焼き2パック__久保田さんは?」
「じゃあ……1パックで!」
「ってことで、合計3パック、お願いね」
「まいどあり!」
店主であろうお姉さん『アカネさん』の快活な声が響き、目の前でたこ焼きを焼く実演がはじまる。
とてもリズミカルで、惹き込まれ、見ていて楽しい。
すると、左隣から__チャリン__と高い音がした。
「え、玲美沢さん……」
「いいのよ奢るわ、私が誘ったんだし。たこ焼き自体、格安だしね。」
なんだか申し訳ない気持ちになったので、「ごめんねごめんねごめんねー」と返す。
「……」
ノーコメントだった。涼やかな顔でアカネさんの手元を見つめている。厄介ごとはニガテなのだろう。
私も、たこ焼きのひっくり返される手さばきを眺めた。本当に無駄のない動きだと思う。
そうこうしているうちに、たこ焼きが10個ずつ行儀よく木船のような容器に並べられ、鼻腔を刺激するソースの香りと鰹節の香ばしさとともにテーブルに運ばれてきた。
心なしか、玲美沢さんの顔が上気している気がする。私自身も、ここ最近で一番興奮していた。
「おいしそう……!」
「実際おいしいわよ」
「いやぁ、嬉しいねぇ!ふたりとも、食べて食べて!」
ふたり椅子を並べ、いただきます、と手を合わせる。
爪楊枝は2本つけられてあり、隣の同級生は2本とも使って器用に食べ始めるが、私は1本だけ手に取る。
右上の端っこの1個に軽く突き刺すと、表面にややクリスピーな手ごたえがあった。これまでに食べてきたたこ焼きとは違うそれに、驚きと高まる期待を覚える。
そのまま持ち上げてみると、ゆらりと揺れるかつぶしとソースのにおいが強まり、口につばきがにじんでくる。きれいな焼き色で、もう見るだけでおいしい。
観察が終わると、口に持っていき、ふーふーと小さく息を吹きかけ、大きな球形の半分を口に入れる。
カリッ__という食感がしたのは一瞬。その直後、とろりと熱い生地が口腔に広がり、たこのくにゅりとした食感が踊る。
残った半球を見ると、たこはもう1個入っており、サービスの良さを感じる。これであの安さなのか……と、子供ながらお店の経営状態が心配になった。
すると__
「アカネさん、もう1パック」
びっくりして隣を見ると、すでに注文分をきれいに片付けた彼女がいた。相変わらず澄まし顔で__しかしかすかに満足気で__追加注文をしている。
うーん、今の光景を見るまでは、かっこいいイメージが強かったんだけどなぁ……
私は半ばあっけにとられつつも、『クールビューティーな玲美沢さん』が今までより少し身近な存在に感じられた。
「……たこ焼き、好きなの?」
「……なんとなく、丸いものに執着してるのよ」
どこか遠い目で答える彼女に、私はふーん、と受け流すほかなかった。
__と、どことなくあっさりとしたムードで終わった玲美沢さんとの初買い食いだったが、その後も彼女は時折、放課後限定で、でかけに誘ってくれ、その頻度はだんだんと増えていった。
ところで、まだ一緒に行動し始めて日が浅いころに、「お友達とのお付き合いは大丈夫なの」ときかれたが、それは彼女のいないところでぼちぼちやっていた。しかしそれよりも、玲美沢さんとは、性格はまるで違えど、なぜか最高の友達になれる予感さえしていたのだ。
放課後に玲美沢さんとすごしていくにつれ、彼女の面白いところも見えてきた。
「ま、またそんなに食べるの!?てゆーかてゆーかてゆーか、前の2倍くらいない!?」
「ぶどうは房でじゃなくて粒で買いたいって……」
「ストップストップストップー!スーパーボールは食べられないの! __わかっていながらつい食べちゃうヤツじゃないでしょーが普通は、コレ!」
「玲美沢さーん!メロンあるよー! __え、丸いじゃん……上にツルが生えてるからノーカン!?」
「ちょっとちょっとちょっとぉぉ!!」
実を言わなくても、彼女は結構天然なのかもしれない。でも__
「__しーにゃん」
「何何何、玲美沢さ……って、しーにゃん!?」
「……私、仲良くなった人には、あだ名をつけてみたかったの」
「仲良くって……私と、友達になってくれるの!?」
「一般的にはどこからが友達かはわからないけど__私は、久保田さんと__しーにゃんと友達だって、思ってる」
「わっ……私も私も私も!よろしくね、すず!」
__私は、すずのことが大好きだ。
__大親友じゃなくなった今も、それはきっと変わってない__
__私たちの関係に影が忍び寄りはじめた大元は、小学校5年生の野外活動の往路の道中……だったと思う。
前々から聞いていたけど、すずのお母さんは度を越した心配性で__
「お母さん、大丈夫かしら……」
出発直後、私たちは貸切バスの中でしゃべっていた。
「すずのお母さん? ……大丈夫大丈夫大丈夫!まさかついてくるわけじゃあるまいし!」
「たぶん__いえ、確実についてくるわね」
「へっ!?」
カーテン、開けてみましょう。と、すずに促され窓外をのぞいてみると……
「えぇーっ!?」
「……ほらね」
すずの家の車に乗った、すずのお母さんがバスと並走していた。
「嘘嘘嘘……」
「なんで……いつまで4年前にいるのよ……」
哀しみ満ちた口調でぼやくすずのその言葉が気になりはしたものの、すずのお母さんのインパクトにその疑問はすぐに頭の隅に追いやられていった。
__結局、すずのお母さんは引率の先生たちに怒られ、しぶしぶながら家に戻っていった。
その夜、自由行動にて、満点の星明かりの下、丘にふたりきり並んで座っていた。
「ねぇ、しーにゃん」
すずが、いつか見たような遠い目をして私に話しかける。
「どうしたの……?」
ただよう哀しげな雰囲気に、私の目線を夜空から落とし気味にせずにはいられなかった。
「私、丸いものにやたらこだわってたでしょ__自分でも恐ろしいくらいに」
私が特に大きな反応はせずに耳だけを傾けていると、すずは、ぽつり、ぽつりと言葉をつむぎ始めた。
「私……1年生のときに、近所の男子にからかわれていたことがあって」
「なんで……?」
「名前、ね」
すずは、いったん目の焦点を星空に合わせた後、また俯き気味になる。つられて私も一瞬空を見上げると、一筋の流れ星が落ちていった。
「__『すず』って名前、ああいう年頃の子からしたら面白かったのでしょうね」
「……全然おかしくないのにね」
「ありがとう、私もそう思うわ__でもね、実際は違ったのよ」
視界の隅が明るくなったので、私は視線を再び上へと移す。いくつか流れ星が落ちていっている。今夜は流星群だったのだろうか……珍しくニュースを見そびれた。
「すずと鈴を結び付けてはやし立てられて……悔しかった私は、いつの間にか鈴のような丸いものにすがるようになっていったのよ」
深層心理みたいなものかしらね、とすずは付け加え、急に饒舌になりだした。それと同じようなタイミングで、流星群の量が増えてくる。
「丸いものを食べたら、なんとなく気分が落ち着くの」
その後も、支配欲がおさまるとか過去の自分を克服するように感じているかもしれないとか、いろいろな考察を、すずは話してくれた。
そのころから、基本ひとりで行動するようになり、それにつれて、すずに対する周りからの興味が失せていき、からかいが減っていったことも。
すずがそんなに苦い思いを内に秘めていたなんて知らなかった。
私にだって悩みなんかなかなか打ち明けてくれないから、ずっとひとりでいろいろなことを抱えて、苦しんでいたのだろう。
「__もちろん、お母さんは私がからかわれていたことに、ほどなくして気づいたわ」
夜空の漆黒を縫っていくように、無数の光る糸が地平線に消えていく。
「それからお母さんは、ああなってしまった__私、私は……!」
「すず……すずは、悪くないよ」
すずに元々非はない上に、彼女自身も過去に束縛されたままもがいているのだから……
「しーにゃん……!!」
すずの右頬にも一筋、星が流れていった。
いつの間にか、流星群は終わっていた。
数日後。
野外活動の日程も終わり、家に帰ってみると、母が困り顔でまくし立ててきた__すずのお母さんのことだ。
てっきり、私が何者であるのか心配なのかと思ったらそうではなくて、学校ですずがうまくやれているか延々と相談に来ていたのだという。
これがまた厄介で、母が私から聞いたすずのことを言うと、なにも問題がないなんてそんなはずはない、何か大変なことがあるのではないかと不安がり、スーパーボールをかじっていたことを思い出した母が伝えると、半ばヒステリックになりながらむせび泣くのだという。
幸い、それ以降このようなことは二度となかったのだが、それは確かに、私たちの仲を引き離してしまう一因になったのだ。
__およそ1年弱が経過し、私たちは小学校6年生になって修学旅行の日を迎えた。
私たちは、新幹線に乗って京都に移動することになっていた。
新幹線だからすずのお母さんも追ってこないだろう、という、すずと先生方とそれから私の、淡い期待は打ち砕かれ、それが大きな悲しみを生むことになるのだった__
その知らせは富士山を通り過ぎたころに届いた。
線路沿いに走っていたすずのお母さんの車が、わき見運転で事故を起こし、彼女ただ一人、他界したのだと。
後日、告別式が執り行われ、すずは私と母が持ってきた香典を見て、何かを決心したような顔をし、私を呼び出した。
「すず……?」
「しーにゃん、私たち、ただの友達にもどりましょう」
言葉が出なかった。
「私がしーにゃんの親友になってしまったせいで久保田家を不幸にさせているのかもしれないから__」
「そんな__」
「今回だって、お金を使わせてしまって……」
だって、この間まで、同じ中学校にいけるようにと勉強を切磋琢磨していたのに__
「言い返したい気持ちはわかるの、私だって、しーにゃんのことが大好きだから!! __でも、一度だけ、距離を置かせてほしいの。」
……。
「自分勝手でごめんなさい、でも、そうしないと私が罪悪感でつぶれそうなの……!」
確かに自分勝手だと思う、けど__今までのすずの苦しみを考えると、これくらいなんだっていうのだろう。
そう、これくらい、のはずなのに、つらくて息ができない……けど__
お願い、と掠れ声のすずに、私の口は自然と動いていた。
「わかったよ また、友達から、頑張ろうね」
__それから私たちは、お互いを想っていながらも疎遠気味な日々をすごし、同じ中学にあがった。
入学2日目の休憩時間、気づくと、いつかみたいな仏頂面で目の前にすずが立っていた。
「しーにゃん」
『いつか』と変わったのは、お互いの呼び名、お互いを想う気持ち。
そして__
「美墨さん、知らない?」
「美墨さん?」
私の頭に、ひとりの少女の姿が思い浮かぶ。
元気だけど、どこか気弱そうで、昨日もあまり人と話してなかった子。
「さぁ、おおかたトイレじゃない?」
そう答えると、すずは一瞬だけ笑顔をみせ、短くお礼を言い教室からでていった。
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玲美沢すず
・闇深な我らがヒーロー((????「ヒロインでしょ?」
久保田志保
・思ったより濃密な関係をレズちゃんと築いていた。
天然クール
・あのさぁ……
淫夢要素
・ないです