二次創作小説(新・総合)

ABT⑧『風の公女と滅びし暗殺者』-2 ( No.110 )
日時: 2020/03/31 22:05
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: MMm5P7cR)

数刻の後、どさっと魔物が地面に倒れる音が。しかし、まだ仕留めきれていないようです。
その様子を見た青年は、1つため息をついて両の拳を前に突き出しました。



????『あんた、そこからしばらく離れてろ。火傷するぞ』

リン「火傷…?確かにあの魔物、まだ仕留めきれていないようだけれど…そこまでする必要あるの?」

????『やらないと三度、四度と復活する。この手の魔法は上司が昔研究していた『呪術』に似ているものだからな。―――魔物とはいえ何度も暗殺されるのは嫌だろ。―――『極』!!!』



淡々とリンに状況を説明したガスマスクの男は、両の拳をロケットパンチのように放ち魔物へとぶつけました。
その直後―――まるで『火葬』をするように、勢いよく炎が燃え盛りました。
魔物は呻き苦しむような声をしばらく上げた後、身体が灰のように燃えて無くなっていき…その場に炎が消えたと同時に消滅してしまいました。



リン「助かったわ、ありがとう。私はリンディス。『逃走中』の打ち上げ参加の為に『運営本部』に向かっているのだけれど…あなた、場所を知らないかしら?」

????「『運営本部』……?!あの右手の言っていた…。話の通りなら、そこに上司が―――」

リン「あら?あなたも本部に向かおうしていたの?なら丁度いいわ、一緒に行きましょう!あなた、名前は?」

????「勝手に決めるな!それに俺は馴れ合いは好きじゃないんだ。…だが、このまま別の魔物に襲われてあんたが喰われても後味が悪いからな。今回は一緒に行ってやる。


     ……俺は『ジャック』。暗殺者だ」

リン「なるほど。それでそんなに身のこなしが軽かったわけね。納得だわ」



ガスマスクの青年は『ジャック』と名乗りました。
ジャック…ジャック…。どこかで聞いたよう―――あっ!ヴィルヘルムの部下ではないですか!
前回から行方不明だと言っていた『彼』、それがこのジャックなんですね。まさかここに来て現れるとは…。何はともあれ無事で良かった良かった。
目的地が同じだということで、魔物に再び襲われても叶わないと思ったのか2人は一緒に運営本部まで向かうことにしました。



リン「そういえばジャック、あなたどうしてガスマスクを付けっぱなしにしているのよ。別に倒すべき相手もいないのだから、取ってもいいんじゃないの?」

ジャック「暗殺者は顔を見られたら終わりだからな。常に付けてるんだよ。…まあ、こんな訳の分からん世界に来た限り俺の素顔と素性をイコールに出来る奴は早々いないと思うから別にいいが」



ジャックは再びため息をつき、ガスマスクを取って素顔を見せました。現れたのは褐色の肌と赤い目。そして、ヴィルヘルムと同じフェイスペイント。ジャックが彼の『部下』だということを証明しています。
久々に直視で見る外の風景。彼女達とはぐれあの場所で目を覚ますまで―――見ることの叶わなかったそれが、彼の目の前に広がっていました。
―――しばらく歩いていると、遠目に近未来的な建物が。…運営本部で間違いないですね!



リン「もしかしてあれかしら…!急ぎましょう!」

ジャック「お、おい!待てって!」



逸る気持ちを抑え、リンディスとジャックは運営本部に向かって走って行きました。





……その頃。





~運営本部 エントランス~



マルス「神様、サクヤさん、ごめんね。こんなことまで手伝ってもらってしまって…」

MZD「ついでだって、気にしないで。…それにしてもこんな小さいヤツまでゲート通って現れるとはね…。ま、修理がほぼ完了してるって思っていいんだろうけど」

まるすちゃ「まるまる~!まる~!」

ハテナ「のいのーい♪」

サクヤ「まさか異界の飛空城にまでゲートが繋がってしまうとは…。兄貴、早く修理したいからって色々と試し過ぎではないですかね」

ヴィル「…アクラルの奴、もしかして私がゲートをいじったのを更に変化させたのか…?それとも修理に使ったのか…?一体どういう魔力の改造を施したのか…」

MZD「それ以上考察されるとまた(^ω^)に入られる恐れがあるからそこら辺でやめてくんない?」



エントランスでは、ぬいぐるみのようなマルスがエントランスを元気そうに駆け回っています。どうやらあの後クロムにめっぽう怒られた後、本部を逃げ回っていたのをマルスに確保されたのだとか。
現在はハテナと遊ばせる為にサクヤとMZD、ヴィルヘルムを呼び彼らの様子を見ています。



MZD「…なぁ、そーいやあの後ジャックの魔力察知出来た?」

ヴィル「いや、全く察知できていない。ポップンワールドが混ぜられた影響で私にかかった呪縛が全て解けてしまったせいなのも関係あるだろうが…。―――解けてしまったのなら、ジャックは既に…」

サクヤ「まだ諦めない方がいいと思いますよ。…コネクトワールドは、様々な世界が混ざりすぎて何が起きるか私も予測がつかない事態まで来てしまっています。ヴィルさんにかかっている呪縛が解けたからと言って、彼の命が絶ってしまったと決めつけるのはいささか早計ではないかと」

MZD「それは分かってるんだけど…。オレも何か協力してあげられればいいんだけど、ヴィル自体の呪縛が解けたことに関しては分かんないんだよ。…ごめんな」

マルス「…ごめん3人とも。話しているところ悪いんだけど―――お客様みたいだよ?」



話している3人の言葉を遮り、マルスがエントランスの扉を指差しました。
そこにいた人物は―――そう。彼らが今まさに話していた―――『彼』だったのです。





ジャック「あっ……!!!」

MZD「なっ―――!!!」

ヴィル「――――!!!」

サクヤ「………ほら、ね?」





お互い本当に会えるとは思っておらず、言葉を失う上司と部下。そして神。
その隣で目をぱちくりさせているリンディスにマルスは近付き、話しかけました。



マルス「えっと……彼ら知り合いなんだよね、あはは…。それにしても、良く辿りつけたね。さっきエリウッドからきみがはぐれてしまったと連絡が来てね…心配していたんだ」

リン「それは申し訳ないわ。私が勝手に先に進んでしまったことが原因だもの。エリウッド達はもう先に来ているの?」

マルス「うん。観客席でロイが逃げているのを見守っているよ」

リン「あら、ロイまだ残ってたのね!粘るわねー。私も見たいから案内してくれる?次回の参考にもなりそうだしね!」

マルス「分かった。…それじゃ3人とも、ぼくリンを観客席まで送ってからOP会場に行くから……その、ゆっくり話して、ね?」



流石優しさの塊英雄王マルス。その場の空気を汲んでリンを観客席まで送る選択をしました。
2人が去った後、沈黙は続く。死んでいたと思った相手が急に目の前に現れたのですから、当然です。
…その溝を埋めるかのように、サクヤは静かに語りだします。



サクヤ「ジャックさん、ですね。貴方のことは上司のヴィルヘルムさんから聞き及んでいます。私はサクヤ、この『逃走中』を運営している責任者…とでも名乗っておきましょうか」

ジャック「……あんた、神と同じ気配を感じるよ。人間じゃないだろ」

サクヤ「理解が早いですねぇ。お言葉の通り、私は『青龍』の神です。このコネクトワールドを守護している『四神』がうちの1人です。以後お見知りおきを」

ジャック「…そうじゃなくて!なんでお前らがここにいるんだよ!目覚めて何回魔力で連絡取ろうとしてもずっっとノイズばかりで連絡すらできないし、右も左もわからないし、変な白い手には『心が生まれた』とかおかしなこと吹き込まれるし!…まあ、あの白い手から本部のことを聞いてこっちに来れたんだからあいつには感謝しなきゃいけないとは思ってるけど…」

MZD「…ちょっと待って。ジャック、マスターハンドから『心が生まれた』って言われたの?」

ジャック「そうだけど、なんだよ急に『視せて』……話を『良いから視せて』」



MZDに言われ、ジャックは押し黙ります。彼は静かにジャックの胸に手をかざし、『心』を視ます。
―――コネクトワールドには『ココロネ』という存在があるのはご存知ですね?以前申したように『魂』と同一の存在です。MZDは神様なので、これを『視る』ことが出来るわけですね。ちなみにサクヤもヴィルヘルムも可能。

……しばらくした後、彼の心臓辺りが黄色く光りました。これを確認したMZDは『…なるほどね?』と、理解したような困惑したような不思議な声を漏らし、彼の胸から手を離しました。



MZD「ジャックに『心』が生まれてる。ヴィルの魔力が無いのに自分で動けてるのはそのせいだろうな」

ジャック「俺に……『心』が……?」

ヴィル「まさか……ジャックに『自我』が生まれたとでもいうのか?!彼奴は―――」

サクヤ「ジャックさんのココロネに色がついている…しかも、ヴィルさんの色とは違うものが現れた以上そう考えるしかないでしょう。…恐らく、彼もコネクトワールドに混ぜられた際の影響を大きく受けたうちの1人なんでしょうね。それがプラスに働いた結果―――ジャックさんが自我を得た。私はそう考えています」



…皆様には説明しておかねばなりませんね。ジャックは『人工生命体』と呼ばれる存在です。
コネクトワールドで目覚めるまでは、ヴィルヘルムの魔力を一部与えられて動いていた人形のような存在でした。彼の意志はあるものの、今までは『心が無い』状態が続いていたのです。

…彼に魔力を、生命を与えた結果、コネクトワールドに来るまでのヴィルヘルムには強力な呪縛がかかっていました。MZDに相談しても解呪するのが難しいものであったため、代用の策として『拠点としている城を時空の狭間に圧縮して一緒に移動する』という大胆な魔法の開発をしてやっと外の世界に出られる、相当なものでした。

しかし、この世界に混ぜられてから彼がかかっていた呪縛が全て解けてしまいました。サクヤ曰く『混ぜられた影響を受けた』なんだとか。その為、ジャックに与えていた魔力も察知が出来なくなっていた訳です。彼の与えた魔力が混ぜられた影響で変化し、彼の『心』となった…と言えばいいでしょうか。
ジャックに自我が出来たことにポップン界のM&Wは動揺を隠せていませんでした。



ジャック「俺は今、この世界で『生きている』ってことなのか…?」

MZD「こともなにも、ココロネが生まれている以上そうとしか言えないよ。お前は人工生命体としてじゃなくて、『ジャック』としてこの世に誕生した。そう考えないといけなくなっちゃったかもねー」

ヴィル「…何故そのような事項に至ったかはいささか理解の外ではあるが…。今はお前が見つかったことを素直に喜ぼう。…無事でよかった」

ジャック「…お前に言われても虫唾が走るだけだっつーの」

ヴィル「相変わらず上司に対しての口に利き方がなってない様だな、ジャック。これは一度調教が必要そうだ…」

サクヤ「…仲が悪いんですね?」

MZD「現在進行形で一方的にジャックが上司のことを苦手としております」

ジャック「お前も上司と同類だからな?!」



自分は蚊帳の外だとでも言うように他人事のMZDに指を指して指摘をするジャック。
でも、無事で良かったですよ。ミミニャミも彼の姿を見たら安心することでしょう。



サクヤ「…あ、そうです。せっかくですからジャックさん、逃走中を見て行きませんか?丁度ミミさんニャミさんも観客席にいると思いますので、彼女達にも挨拶が出来ると思いますよ」

ジャック「あいつらも来てるのか?!…いや、あいつらには相当心配かけたからなー。顔くらいは出しておかないとな」

MZD「ミミニャミに対してとオレ達に対しての態度が違わない?」

ジャック「俺を振り回さない奴と振り回す奴の態度が違って当然だ!自我を得たってんなら、もう上司の命令は聞かなくていいはずだからな!俺は勝手に行動させてもらう!」



…ジャック、飛ばされる前にMZDとヴィルヘルムに散々迷惑をかけられてきたようで。貴方達、一体何をしたんです?
―――天地がひっくり返っても上司と神の案内を嫌がるので、サクヤが仕方なく案内を引き受けることにしました。2人は先にOP会場で募集の準備の調整に入るようです。
……そして、彼らが別れる去り際にMZDがこう言い残しました。





MZD「ジャック。さっき『上司の命令聞かなくて良い』って言ったよな?あれ早めに撤回しておいた方がいいと思うよオレ」

ジャック「なんでだよ。あいつの支配から逃れたんなら自由にしてたっていいだろ?」

MZD「自我は得たけど『上司と部下』の関係が崩れたわけじゃないからな。ヴィル、多分自分の手の届かないところをお前手足に使うつもりだから覚悟しとけよー?ま、オレもちょっとは使わせてもらうけど!じゃ、ごゆっくりー!」





ジャック『あいっかわらず…………』

サクヤ「ジャックさん、ジャックさん、落ち着いて」














ジャック『…………何なんだあいつらはーーーーーー!!!!!』




―――自我は生まれても苦手意識が消えることは一生なさそうです。
何にせよ、これでポップンのうちのメインキャラが無事に全員揃いました!万歳!