二次創作小説(新・総合)
- ABT⑥『ローティーンは何を願う』 ( No.74 )
- 日時: 2020/03/22 22:04
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 7qD3vIK8)
さて、勉強熱心なクルークは本部に入ってから何をするんでしょうか。
少し様子を見てみましょう。
------------------------
~運営本部 住居区 書庫~
バンワド「…こちらが本部の書庫になります。運営本部に許可を得た人達であれば自由にご利用可能なので、是非ご活用ください!それではボクは業務に戻りますので!失礼します!」
クルーク「うん、ありがとう。…お仕事頑張ってね」
バンワド「えへへへ~、頑張りますよ~!」
流石本の虫。クルーク、早速石丸くんが言っていた書庫に興味を惹かれ、バンワドを呼んで連れてきてもらったようです。
バンワドが可愛らしく敬礼をして去っていくのを見送りながら、彼は書庫への一歩を踏み出します。中は、当然の如くびっしりと詰められた古今東西の本。本。本…。中央に簡易的にテーブルや椅子、ソファーも置いてあり、読書も可能なようですね。
かぎ慣れた古い本の香りにプリサイス図書館を思い出しながらも、自分の魔法に役立ちそうな本を探す為彼は早速本棚を漁ることにしました。
クルーク「…それにしても、よくこれだけの本を集めたなぁ。歴史書に小説、料理本なんかもあるぞ…」
そりゃまあね。ここにある蔵書は各支部から譲ってもらったものや、城からこっそり持ってきたものが所狭しと詰められています。ジャンルも関係なく増えていくので、棚に詰められている本もバラバラ。これでは目的の本が見つかるはずがありません。
クルーク「(サクヤさんに頼んで書庫の整理、やろうかなぁ…)」
自分のお眼鏡に叶いそうな本が見つからず、途方に暮れるクルーク。
そんな彼の背後から急に声がしました。
『あれ?クルークじゃん、何か探し物?』
クルーク「うひゃい?!……なんだ神様か、おどかさないでください」
MZD「あー、ワリィワリィ。『JOKER』についての文献確認しに来たら、一生懸命本棚とにらめっこしてるお前さん見つけたからさ。これは『目的の本見つかってねーな』と思って声かけたんだ。びっくりさせたらごめんな?」
クルーク「全く以て言葉の通りなので全然大丈夫です…。置いてる本の種類もバラバラだし、一度整理したほうがいいですよね…」
MZD「あはは…。色んなヤツ等が関係なしに置いていくからなー。今度本部総出でジャンル分けでもすっか」
背後から声をかけてきたのはMZD。どうやら『JOKER』についての情報を得に書庫までやってきた様子。
クルークが途方に暮れていたのを見かね、心配していたみたいですね。彼が放った言葉には「確かに」と頷き、今度整理をしようと約束を立ててくれました。
彼が探している本の種類を聞き出すと、MZDは探していた棚とは反対側の本棚へと歩いていき、指を鳴らしました。すると、1つの厚みのある本が宙に浮かび、彼の手の中に納まります。
…中をぱらぱらと確認したMZDは小さく頷き、クルークの元へ戻り本を手渡しました。
MZD「はい、これ。星の魔法…は直接書いてないけど、ヒントになりそうな方程式くらいは編み出せるんじゃねーかな?」
クルーク「ありがとうございます。えっと…『音無町 星の記録』?―――単なる星図鑑じゃないんですか?」
MZD「実際はそうなんだけど、昔オレが星を操ろうとして編み出した魔法の方程式が書かれてるのそういや寄贈したなって思い出して。良かったら使ってよ」
クルーク「本当だ…。星々を導き出して敵に攻撃する魔法の方程式とか…詳しく書いてある…」
クルーク、彼に促され少しだけページをめくっています。
そこには星座の画像と共に、MZDが書き残したであろう星を導く方程式が確かに書いてあります。
かなり簡易的で雑な文字ですが、クルークには何となくその意味が理解できていました。これはこの場で読み終えてはならないと早々に本を閉じ、サクヤから借りたケースに本を仕舞いました。
……ふと、彼は思います。『音無町』はポップンワールドには無かったはずなのに、どうして彼は知っているのだろうと。
クルーク「…そういえば神様、この本の『音無町』ってどんなところなんですか?……って、ポップンワールドにそんなところないから分かるわけありませんよね」
MZD「確かに『ポップンワールド』にはねーなー。でも、オレ『その街』出身だから。…クルークには話したっけ。オレが『元人間の神様』だってこと」
クルーク「言伝には。…でも、詳しくは知りません」
MZD「…………。誰にも言わないって約束できる?」
クルーク「え?」
そう言うと、彼はクルークの手を引きテーブルのところまで連れて行き『立ち話もなんだし、座ろうぜ』と誘ってきました。訳も分からずクルークがその場に座ると、彼は「どこから話したもんかなー」と首を傾げました。…いや、話すって言ったの貴方でしょう。
…しばらくの沈黙の後、腹を決めたようにMZDは話を切り出してきました。
MZD「クルーク、家族に大切にはされてる?」
クルーク「…何ですか突然。当然、大切にされてますよ。大切にされてない子供なんているんですか?」
MZD「残念ながらいるんだなぁ。…それは置いといて。オレ、人間だった頃―――物心ついたか、ついてないか……5歳くらいの時かな。火事で両親亡くしたんだ」
クルーク「えっ…?!」
MZD「…生まれつき『神の世界』でオレのこと注目してたっぽくて。オレのこと『神にする』ってなった時に、両親と、それに連なってオレの面倒見てくれる人達がどーしても邪魔だったらしくて。でも、オレが赤ん坊の頃に周りを消しちゃうと、後々面倒なことになるだろ?だから、オレが『自分の意志で』何かをやれるようになる年齢まで泳がせて…そして、神々は火事を引き起こして親を奪ったんだ」
クルーク「…………」
MZD「その頃のオレは何も知らなくてさぁ。自分の両親奪ったヤツらに『たすけて』って必死に願ってたよ。そして、オレは母方の伯父さんに引き取られて育った。でも、育ててくれた伯父さんと叔母さんも…3年後、事故で死んだ。その後の反応は手のひら返し。『少年』は『他人に死を招かせる死神の子』として噂が広がって、若年8歳で独り身になり、施設に預けられました」
MZDが語り始めたのは自分がまだ人間だった頃の話。実は天の声も1回サクヤと共に聞いたのですが、まあ壮絶すぎて。聞き終わったころにはもういい、もういいとサクヤと一緒に泣いていました。それくらい酷いんです。生まれた時から『神様になること』を運命づけられていて、その道を歩かせる為に小さい頃から親や信頼できる大人を奪われて…。
ちなみに、サクヤも同じような経験をしたことがあるからか、彼の身の上話を聞き終わった時の表情は―――見るに堪えません。
MZD「施設でも少年にまつわる悪い噂は絶えることがありませんでした。それを示すかのように、少年と仲良くなった数少ない子供達は次々と様々な原因で謎の死を迎え、遂に施設の人間に言われました。『もう他人と関わるな。お前と関わった人間は死ぬ』と。つまり、人格否定と突き放し両方が少年の心をダイレクトアタックしたワケだなー。少年は否定されたショックから『人と接すること』に恐怖を覚え、ひとりぼっちになってしまいました。その後、少年が11歳になるまで施設で極力人と関わらずに生きてきたのです」
クルーク「……つらか、ったんだね」
MZD「『つらい』か。当時はそんなこと考える余裕も無かったなぁ。…続き、な?
…そんなこんなで少年期を過ごしていた11歳の少年は、ある日『願いをかなえてくれるピエロさん』がいるとの噂を施設で聞きます。何でも、ピエロと会った子供の願いが必ず叶い、その子は楽園に連れていかれるそうなのです。……まぁ、当の本人曰く『新しい魔法を使用するのに新鮮な子供の血液が必要だった』のが事の真相だけど。そんなことつゆも知らない哀れな少年は、自分の願いを叶えて貰う為にピエロ探しを始めることにしました」
クルーク「その、『願い』って?」
クルーク、至極当然な質問をMZDにぶつけます。しかし、彼にはあまり良い思いがないのか顔をしかめます。慌てて弁解しようとするクルークでしたが、彼にはその質問が飛んでくることが分かっていたようで。『気にしなくていい』と彼の頭をぽんぽんと触れた後、話を続けました。
MZD「ピエロを探し回っていたとある日、遂に少年は探していた『仮面の道化師』を見つけました。ま、相手にはカモが来たと思われたんだろうなー。嫌に優しく『願いはないか』って聞かれたよ。…それで、少年はこう答えたのです。
『道化師さんと友達になりたい』と。それが少年の願いでした。
大人から否定され、他人と極力関わらず生きてきた少年にも、親に愛された、そして伯父や叔母から貰った愛が忘れられるはずありませんでした。だから…欲しかったんです。心を許せる友達が。…何で『友達が欲しい』じゃなくて、『道化師さんと友達になりたい』なんて言ったのかはよく分からないけど。
…で、その一撃は道化師に凄い効いたみたいで。仮面で表情は良く分からなかったけど、とんでもなく動揺したのは今でも覚えてる。何を思ったか道化師は少年の願いを無視して、自分の魔法で少年を殺そうとしました。でも…『神々』がそれを許しませんでした。道化師の魔力、そして神々によって捻じ曲げられた少年の神の力…それと、色々な思考とか感情が混ざり合い……『少年に、道化師の強い呪縛がかかりました』。『双方の魂が未来永劫、世界に縛り付けられる呪縛』が」
クルーク「それって…俗にいう『輪廻転生』が出来なくなった…ってことですよね?それじゃあ、今いる神様って…」
MZD「まーだ話は終わってないんだなー。
少年殺害に失敗した道化師はそのままどこかに消え去ってしまい、その場には呪縛がかけられた少年だけが残っていました。その2年後―――少年は正式に『神として』迎えられることが決まり、少年はトラック事故に巻き込まれ、13年の大変短い生涯を終えました。…でも、魂が天界に昇ることはなかったんだな」
クルーク「呪縛のせい…ですね」
MZD「御名答。さっすが、優秀な魔導使いだ。その後、少年の魂を天界に連れて行ったのが『全知全能の神』って言われてる『ゼウス』って神様だった。少年は、そこでゼウスに謝罪を受けました。『幼い子にこんな過酷な運命を背負わせて、すまなかった』と。そして、ゼウスは何故自分の周りの人間が続々と死んでいくかの真相を彼に話しました。
……知った時すっげーショックだったよ。信じてたものに裏切られた気分で。こっちは『神になりたい』なんて望んでないのに、神の気まぐれで人一人の人生がぐちゃぐちゃになるんだぜ?そんなの耐えられないよな。普通なら絶対。
…泣き喚く少年を、ゼウスはただ慰めることしかできませんでした。ちなみに人間を神にする行為って、天界ではあんまり好き好んでやられてるわけじゃないんだ。でも、悪気があってやってるわけじゃないからゼウスも止められない。…そう、言われた」
クルーク「…でも、今神様は神になってるわけですよね?それは…どうして?」
MZD「ゼウスはせめてもの償いとして、道化師にかけられた少年の呪縛を解こうとしました。ですが…少年が解くことを拒否したのです。あの時道化師が動揺したのには何か意味がある、少年はそう感じていました。…そこで、ゼウスは少年に『神様になること』を提案したのです。輪廻転生も出来ない、成仏も出来ない。それならば神になるしかない、と。
…『少年』ことオレはその提案に乗った。オレみたいな悲劇をもう二度と生み出さない為に…そんな、世界を創るって決めた。それに、道化師も同じ呪縛をかけられているのなら、どうにかして助けたいって気持ちもあった。道化師の人生を捻じ曲げたのは他でもないオレ自身だからな。だからゼウスに1つだけお願いをしたんだ。『自分の魂と道化師の魂を自分の創る世界に縛り付けてくれ』って。
―――こうして、音の神『MZD』と、ポップンワールドが誕生したのです」
話し続けて疲れたのか、MZDは大きく息を吐き出しました。自分にとってもいい思い出ではないのに、何故クルークに話したのか…。それは、彼にしか分からないことです。
クルークは彼の話を途中から相槌を打ちながら黙って聞いていました。MZDが気付いた頃には、目尻に涙が浮かんでいたのが見えました。
MZD「泣かせるつもりはなかったんだけど…あぁ、ごめん!あー、えっと、ハンカチハンカチ…」
クルーク「大丈夫です…。…その『道化師さん』って、今どこで何をしているんですか?ちゃんと生きているんですよね?」
MZD「…心配してくれるの?優しいじゃん。…元気かどうかは本人にしか分かんないと思うけど、しっかり生きてるよ。『オレのこの呪縛が無くならない限りは』未来永劫、ずっと」
クルーク「あの、単刀直入に言ってもいいですか。そのお話に出てきた『道化師』って、『JOKER』のことじゃないですか?」
MZD「……優秀すぎるのも困りものだねぇ」
クルーク「だって神様がここに最初に来た目的って、『JOKER』のことを調べに、ですよね。…それでそのお話ってことは…絶対関係あるんじゃないかって思ったんです」
MZD「まあね。……クルーク、今から言うことは誰にも言わないでね?」
クルーク「はい」
MZD、いつにもまして真面目な顔でクルークに優しく言葉をこう告げたのです。
MZD『『JOKER』は今生きてる。だから、べリアが言ってた『JOKERの創生』は必ず失敗する』
クルーク「失敗…。あの、『JOKER』って、もしかして」
MZD「―――お願いだから、今は黙ってて。サクヤ以外に今バレたら、色々とヤバいから」
クルーク「……わかり、ました」
MZD「―――よし!いい子だ。変な気分にさせたお詫びに何か甘いモン食べにキッチン行くかー。ヴィルには全然敵わないけど、オレも家事炊事はある程度出来るんでね」
同年代のローティーンな身体の少年に撫でられる気持ちはいかがなんでしょうかクルーク。
サングラスの下の表情は分からず、飄々とした態度を続けるMZD。…でも、焦っていたのは確かに読み取れます。
クルーク「…暖かいものが良いな。暖かくて、甘いもの…」
MZD「手軽に出来るのといえばー…、ホットチョコサンドにするかー。ふふん、神の料理食えること誇りに思いなよ?」
クルーク「―――あの、神様。『JOKER』のこと、どう思ってるの?」
周りに気付かれないようにこっそりと伝えた彼に、MZDは少しの沈黙の後、小さく返しました。
MZD「…本当の兄ちゃんみたいに優しくて、頼りになるヤツ」
もしかして、リサを唆したのはMZDを神様にした神々の連中なんですかねー。分からないことだらけです。
心の中の妙な不安を抱えながら、2人は食堂へと向かって歩いて行ったのでした。