二次創作小説(新・総合)
- ABT⑦『汽笛はルーンの光を乗せて』 ( No.93 )
- 日時: 2020/03/27 22:08
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 9ihy0/Vy)
…また、何か『混ざりそうな』予感がひしひしと感じるこの頃。
未だ混ざっていない世界で…ひっそりと、物語は捻じ曲げられるのです。
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…どこかのまだ混ざっていない異世界。
星々が輝く夜空を、銀河のように汽笛を鳴らしながら走る列車が1台。その運転車両に、少女と青年、そして少年は乗っていました。
『本日もディーゼラ島発車、『ルーントレイン』にご乗車いただき誠にありがとうございます。この列車は、間もなく終点『アマノ島』へと到着いたします。ご乗車のお客様はお忘れ物のないようよろしくお願いします』
そう可愛らしい声で車内放送を響かせるのはこの列車の車掌兼運転士である『クレア・スチーブンソン』。
『鉄道の島』と呼ばれる『ディーゼラ』という島の社長令嬢である少女です。彼女自身、ルーントレインと幼き時より人生を共にし、こうして今も歩んでいるという訳です。
彼女の傍らには、深紅の鎧を身に纏った『紅い』髪の男性。そして、チーターの耳を生やした少年がいます。彼ら2人はクレアの『友達』であり、今回彼女の協力要請を受けて1日だけ駅員として働いていました。
…天の川の向こうに見えるのは、まるで『夢の泉』と呼べるまでに幻想的な観光地、『アマノ島』。ルーントレインの今日の終着駅です。
ポッポー、優し気な汽笛を鳴らしルーントレインは停まります。しばらくした後、列車に乗っていた客であろう人物が次々と降りていきました。
彼ら全員が列車から降りるのを見守った後、クレアは列車を専用の車庫へと動かし、待っていた2人の元へと戻ってきました。
クレア「いやー、急なお願いで申し訳ありませんでした…。ですが、凄く助かりましたよ!今日は本当にありがとうございました。グレンさん、チタさん!」
チタ「いいってことよ!チャンクレ今日何かいつも以上にバリっちゃってた感じだし?これはダチである俺らがブチアガるところじゃね?ってノリで手伝ったから気にしなくてい~の!」
グレン「私が必要だというのならいつでも呼んでくれ。…祖国関連の話が無い時ならば、喜んで手を貸そう」
クレア「そこまでかしこまらなくてもいいですよ!今日はチタさんの言う通り、いつも以上に特別忙しかったですからね…」
チタ「そーいやさチャンクレ。なんでイソガシかったの?カンコー?」
クレア「まあ、それもあるんですが…。今日は『天の川を水星が横切る日』だったんですよ。今日を逃すと次に見れるのは…えーっと、確か20年後とかそんな感じですね。ですから、一目見たいとルーントレインにご乗車になるお客様が多くてですね…」
グレン「逃すと次がそんなに長いならば、確かに見ようと押しかけるのも無理はない話だ…」
そう。この3人がいる世界…『白猫プロジェクト』の世界では、今日『天の川を水星が横切る』という珍しい現象が起きていました。
現実の世界で言うスーパームーンとかそんな感じの現象であり、今回のは特に綺麗に見れるとSNSで一気に話題になり、ルーントレインに押しかける乗客が急に増えていたのです。
やっと仕事が終わったとため息をつきながら車掌席に座るクレア。そんな彼女の頭を優しくグレンは撫でました。
グレン「何はともあれ、一日お疲れ様だクレア」
クレア「えへへへ…。ありがとうございます。なんだかほっとしますねぇ」
チタ「チャングレが火を扱うから『HOT』とする的な?……お願いだから2人とも冷めた目でこっち見るのヤメテ?」
チタの渾身のギャグ、受け流されてしまった様子。わざとらしく落ち込む彼にグレンはため息を1つつきました。
…夜も更けています。そろそろ各々の帰路に帰ろうと車掌席を離れようとしたその時。
『地響き』が起こったのです。
クレア「わ!わ!地震?!地鳴り?!何なんですか!」
チタ「確か『アマノ島』って浮かんでる島だから、地震なんて起きなかったと思うんだけど…でも、揺れてるよね確かに?」
グレン「…揺れが強くなっているな。どこかに捕まっておいた方がいい」
ゴゴゴ、という音と共に徐々に地響きが強くなっています。
そして―――彼らは見てしまいました。『渦』を。飴細工のようにどろどろと溶けていくような『あの』渦を―――。
クレア「ルーントレインが溶けていきますぅ!なんで?!」
チタ「タダゴトじゃなさげ的な?……ってチャンクレ、近付いたら危ないって!」
グレン「地鳴りが強すぎて彼女に近づけない…!」
クレア「あああ……わたしの……わたしのきょうだい……ルーントレインが……」
自分の『兄弟』とも呼べるルーントレインがぐちゃぐちゃになってしまう。そんな思考回路に頭が塗りつぶされたクレアは、男2人の制止も顧みずトコトコと渦に近付いてしまいます。
何故地鳴りが起きているのに普通に歩けるのかは疑問ではありますが、今はそんなことは関係ありません。クレアを助けようと手を伸ばしますが、彼女は随分と先に進んでしまっており空を切るだけ。
クレア「やめて…!私のルーントレインを傷つけないで…!」
チタ「チャングレどーしよー?!このままじゃチャンクレがヤベーってぇ!」
グレン「どうしろと言われても…!―――!!!」
グレン、何かに気付き地響きの中走りだしました。チタは彼の咄嗟の行動に戸惑うだけ。
―――チタが思わずグレンの向かった方向を見た時。
彼は『見たこと』を後悔してしまいました。
彼の見たものは――――――『渦』そして――――――
チタ『――――――!!!!!』
誰の名前を呼んだんだろう。思考が追いつきません。
―――そのまま、彼の意識は黒く塗りつぶされました。
~運営本部 住居区~
マルク「オイオイ、カービィがまた食べ物じゃないもの吸い込んじゃったのサ?!相変わらずだなぁアイツは…」
バンワド「冒険する時はとても頼りになるんだけど、たまにボク達を振り回しますからね…」
一方コネクトワールドの運営本部。住居区では、マルクとバンワドがカービィの暴挙について話し合っていました。
スリーピーホロウについては13班に一任してくれとのサクヤからお達しがあり、一部のメンバーはいつも通りの日常を送っていました。
バンワド「それにしても…鱗粉って怖いですね…。大王さまがあんな目に…。代われるものなら代わってあげたかった、お~いおいおいおい…」(号泣)
マルク「(あのトロさだと庇うのも一苦労だろうなぁ…)」
バンワドが号泣しているのを呆れながら見ていると、ふと―――『空』に渦が。
この渦、どこかで見たことがあるような。マルクはそう確信し、よく目を凝らして見てみました。
マルク「(あれ―――『世界が混ぜられる』渦……?!)」
絵の具でぐちゃぐちゃに混ぜられるような『渦』…。これは、セブンスドラゴンやぷよぷよの世界が『混ぜられた』時と同じものです。
…ということは、また新しい世界の住人がこちらに落ちてくる。マルクは渦が空に溶けていくのを眺めつつ、警戒を解かずに辺りを見回していました。
―――そして、『渦』が完全に消えた時でした。
ドゴン!と近くで大きな音が。泣いていたバンワドも流石の音に驚き正気を取り戻します。
バンワド「な、なんなんですかー?!」
マルク「近くに何か落ちたみたい!確認しに行くぞバンワド!」
バンワド「は、はいぃ~~~~~!!!」
バタバタと足音を響かせながら音の正体を確認しに行く2体。
数刻程なくして目的地には到着、そこで彼らが見たものは……。
マルク「なに、これ……」
バンワド「れ、れ、れっしゃだ~~~~~!!!」
マルク「興奮するなっ!!!……待って、車掌席に誰か倒れてるよ?!」
バンワド「おっとっと、興奮してしまいました。助けに行きましょう!」
―――大きな列車が。『ルーントレイン』が。地面にめり込んでいました。
車掌席に金色の籠手のようなものが見え、中に誰かがいると確信したマルクとバンダナワドルディ。急いで扉を開けて中をのぞいてみると……。
車掌席の近くで意識を失っている獣耳の少年。
そして、少し離れたところの床に倒れている桃色の髪の少女と、一瞬で重傷だと分かる程の傷を負い彼女を庇うように倒れている深紅の青年がいました。
マルク「―――これはまずい」
バンワド「きゅうごにーん!!要救護人ですーーー!!!」
バンワドの大きな声に追いかけて来た罪木さんが彼らを見つけ、田中くんと石丸くんを呼んで3人がかりで医務室へ。その間にマルクはメインサーバへ、バンワドは一緒に医務室へと向かいました。
……白猫プロジェクトの世界が混ぜられてしまいました。彼ら、無事に助かるといいんですが。
~運営本部 医務室~
アクラル「お手柄だぜ2人とも。もう少し発見が遅れてたらあっちの紅髪ヤローの命が危なかったかもな」
罪木「コハクさんが渋谷で帝竜退治をしていますので、少し時間はかかると思いますが…。今の状態で回復すれば、『命』に別状はないと思いますぅ」
マルク「そりゃよかったぁ…。目の前で死なれたりしたら後味が悪すぎるのサ」
バンワド「それを悪役が言うか…。いやそれは置いといて、ですね。罪木さん、『命』に別状はない…って、別のところに異常があるみたいな言い方ですけれど…」
罪木「言葉の通りですぅ。簡易的に脳内の回路も診させていただいたんですけれどぉ…。あちらの軽傷の2人は問題ありませんでした…。でも…」
石丸「重症の彼の脳内に異常あり、ということなのか」
医務室ではマルクからの連絡を受けたサクヤがアクラルを既に派遣しており、救護用の道具を揃えて待っていました。重症の青年を田中くんが素早くベッドへと横たわらせ、罪木さんが手際よく治療を施していきます。
彼女の素早い判断の元、田中くんや石丸くんも軽傷の2人に応急処置を行います。
―――しばらくして、少女の青い瞳が小さな声と共に開かれました。
クレア「……あれ、ここは……?」
アクラル「だいじょーぶかー?お前ら、列車の中で怪我して倒れてたんだぜ?」
クレア「れっしゃ……?あ、そうだ、ルーントレイン……」
罪木「まだ動かないでください…。応急処置を施して軽傷だとはいえ、無視できない怪我ですぅ」
クレア「でも、ルーントレインが…」
サクヤ「それについてならば心配いりませんよ。貴方の車両はソティスさんに預かっていただいています」
クレア、やはりルーントレインで頭がいっぱいの様子。それを落ち着かせるかの如くサクヤがそう言葉を発しながら医務室へとやってきました。
…ミッションの管理はアカギとMZDに任せ、容態を伺いに来たようです。
サクヤ「軽くぶつけられた痕はありますが、適切に修理を行えば元通りになる程度の損傷です。気になさらないで」
クレア「そ、そうですか…。取り乱してしまってすみませんでした」
アクラル「取り乱すのも無理はないよなぁ。突然自分の大切にしていたものがぐちゃぐちゃになる幻覚を見るなんてよ」
バンワド「幻覚…?どういうことですか?」
サクヤ「今まで混ざった世界では、こうした重症の方々がおりませんでしたのであまり気にしてはいませんでしたが…。こうして、『渦』に直接巻き込まれた場合のことを想定していませんでした。
…恐らく、彼女に起こった幻覚もそうですし、獣耳の彼、そして紅髪の彼にも何かしら影響が出てしまっている可能性は高いです」
田中「脳波に異常が出ているというのも…『渦』―――『世界が混ぜられた影響』を色濃く受けた…ということでいいのだな?」
クレア「す、すみません。私バカなんで、事情が呑み込めてないんですが…。説明してくれませんか?」
サクヤ「それは失礼しました。…信じられないかもしれませんが、今から私が申すことは全て本当のことです。それを、理解してお聴きください」
混乱しているクレアを落ち着かせるように、サクヤはゆっくりとコネクトワールドについてを語りました。そして…彼女がいた世界。『白猫プロジェクト』の世界も混ぜられてしまったのだろうという推測も一緒に。
彼女は当然のように訳の分からないという表情をしていましたが…。周りの人間を見て、そう信じざるを得ないと確信しました。
みんな、生きている世界が違ったんだ…。根拠のない確信ですが、彼女の中ではそう結論づいていました。
クレア「なるほど…。それで、私達はもろにその影響を受けてしまったということなんですね」
サクヤ「既に貴方の幻覚は消え去っているようなので問題ないでしょう。―――寧ろ、問題になるのは…」
チタ「―――いっててて…何かスッゲー時間眠ってたような…」
マルク「あっ 起きた」
チタ「……紫のボールがベシャってる?!」
マルク「その例えは初めて聞いたなー…」
医務室に声が響いていたのか、チタが飛び起き辺りを見回しています。
罪木さんが何か異常はないかと軽く問診と検査を行いましたが、彼には特に異常は見当たりませんでした。
サクヤ「なるほど。恐らく『渦』から一番離れた場所にいたから影響を受けずに済んだわけですね」
チタ「エーキョー?ちょっとタンマ、説明して?」
クレア「それなら私が説明します。割と混乱してるので、上手く出来ないかもしれないですけど…」
クレアが先程サクヤから受けたことをそっくりそのまま彼に伝えると、チタはその大きな目を更に大きくして驚きの表情を見せました。
…しかし、それも一瞬。すぐに状況を理解し飲み込んでしまいます。
チタ「オーケー理解した、的な?つまり俺らは『異世界に飛ばされちゃった』ってことだよね?」
アクラル「厳密には違うんだがそれでいいわ、もう。説明するのも面倒くさくなってきた」
サクヤ「端折らないでください兄貴。…お2方とも、心身共に影響が大きくなくてよかった。ですが…問題は、『彼』ですね」
そう言いながら彼女はちらりと奥のベッドで横たわっている深紅の青年を見やります。
罪木さんが『脳に異常がある』と言っていたことから、世界が混ざった影響を一番強く受けているでしょうが…。それがどんなものかまでは本人にしか分かりません。…いや、本人にすら分からないかもしれません。
サクヤ「今すぐ起きそうにないですし、しばらく3人まとめて預かりましょう。…もしかしたら、同じような境遇の仲間がこちらに連絡を寄越してくれるかもしれません」
クレア「すみません。お世話になります…」
アクラル「まぁそう落ち込むことは無いぜー?『逃走中』のゲームでも見てテンション上げやがれ!」
チタ「…『トーソーチュー』……。ってあの、『逃走中』?!」
石丸「知っているのか?」
チタ「知ってるも何も、俺出てみたかった的な?ハンターと鬼ごっこすんでしょ?マジチーター的なスピードで逃げ切れるんじゃねーかってずっと憧れてたんだよねー!」
サクヤ「なるほど。……クレアさんもまとめて、次回の参加者の候補に入れておきますかね」
罪木「…病人の前でなんて考えをしてるんですかぁ」
マルク「サクヤは色んな意味で気まぐれマイペースだからなぁ。気にしたら負けなのサ」
青年の様子が気になりますが、それだけ気にしていても埒があきません。今は様子を見ましょう。
…白猫の世界自体が混ぜられたということは、彼ら以外にも誰かやってきそうな予感はしますね。