二次創作小説(新・総合)

Re: 嫁でクロスカプ&クロスコンビSS集 ( No.149 )
日時: 2020/05/06 16:28
名前: 琴葉姫 (ID: EnwL6lXi)


○●○●○



マツバボタン「大好き。嬉しい。楽しい。美味しい。幸せ。気持ちいい。可愛い。格好良い。綺麗。素敵。優しい。素晴らしい。感動した。おめでたい。頑張る。素直。憧れる。喜ばしい。美しい。大切に思う。とても良い。ありがとう。愛してる」

マツバボタン「………お父さんが好きな言葉、綺麗な言葉。…他にもたくさん。逆に、お父さんが好きじゃない言葉を使った時は、お父さんが好きな言葉に置き換えて……何十回でも、書き取りしました。お父さんが、満足してくれるまで」

マツバボタン「私が、綺麗じゃない言葉を使った時は……。声に出した時は口が、字を書いた時は手が汚れたって言って……私の手や口を、石鹸で繰り返し洗われて………」

マツバボタン「私はお父さんと暮らせて幸せ。お父さんのことが大好き。………そう言い続けてきたのに、どうして逃げ出したのか……。考えるたび、心と体がちぐはぐになった様な……気持ちになるんです」

…頭が痛くなりそうだ。いや、既に痛い。
鬼龍は頭を押さえたかった手、思考を停止したくなるのを必死に抑えて考えていた。
物心ついてからずっとその環境にいた彼女にとって、それは至極当たり前の生活だったのだろう。
否、父親に感謝すらしているに違いない。そう感じるように育てられたのだから。
先程疑問に思っていた遠回しな言い方もそうだ。まさかこんな背景があったからだとは夢にも思わなかった。
そして、檻に似たその世界から抜け出てもなお、マツバボタンは呪縛に囚われている。
『いい子』としての自分以外の、本心を見失ったままでいる。

マツバボタン「……キリュウさんは、分かりますか?私がどうして、逃げ出してしまったのか………」

そう自分に問いかけるマツバボタンに今度は泣きたくなった。
断定はできないが、己を護ろうとする本能が働いたのかもしれない。
しかしこの意見をそのまま伝えてもマツバボタンには理解出来ないだろう。
自分に植え付けられた理想の娘としての固定概念と、より深い、自分にすら整理できない感情との矛盾こそが、今の彼女を苦しめているのだから。

彼女の苦悩を思う程、そして顔も知らない父親とやらのことを憎むあまり、胸を痛くして顔を歪めた。
………するとマツバボタンの顔がさあっと蒼ざめた。

マツバボタン「キリュウ、さん………?ご、ごめんなさい…私………キリュウさんに、そんな、悲しい顔させて…っ」

異様に何かを恐れるように、マツバボタンは声を震わせる。

鬼龍「ああ、謝ることじゃねえよ!何も怒ってるわけじゃねえんだから」

───そう、マツバの嬢ちゃんに怒ってるわけじゃねえ。
咄嗟のことで声が震えないように気を付けて大袈裟に弁解した。
しかし、マツバボタンの顔色と震えた声は戻ることなく更なる爆弾を投下した。

マツバボタン「お、お父さんも、怒りませんでした……。ただ、悲しいって…私がお父さんを悲しませる、良くない子だから、いい子になれるように躾をしなきゃいけないって………」

その言葉に、強く歯軋りをし更に顔を歪めた。
───ふざけんじゃねぇ!テメェに、そんな言葉吐く権利なんざねぇだろ!こいつを、嬢ちゃんを長年悲しませてるのはテメェだろうが!
内心、彼女の父親に対して口汚くなる程憤るが、マツバボタンはそれを別の意味で解釈してしまった。
身体を可哀想なまでに震わせて、鬼龍に駆け寄って涙声で懇願した。

マツバボタン「っ…!ごめんなさい…ごめんなさいっ…!キリュウさん、私、いい子になりますから……!だから、だからお願いします、見捨てないでっ……!」

鬼龍「ッ!!」

───もう、見てらんねえよッ!

半ば錯乱したように繰り返し懇願するマツバボタン。その痛ましい反応に、鬼龍は居ても立っても居られず───



衝動のままに、マツバボタンを抱きしめた。

マツバボタン「っ……!?き、キリュウ…さん………?」

腕の中のマツバボタンの身体が一瞬強張って、少しずつ、その肩から力が抜けていくのが分かる。
それを好機と言わんばかりに、ぽんぽんと、母親が幼子にするように、優しく背中をさする。

マツバボタン「…あったかい、です…。お父さんとは、全然、同じじゃない…安心、します………。あんまり、言葉が見つけられない…ですけど……お父さんとも、桃源郷で見た男の人とも一緒じゃない……です………。私以上に、私の気持ちに気付いてくれて………」

マツバボタンの言葉には、初めて、安らぎの響きがあった。
そっと腕を解いて彼女の様子を窺うと、既に落ち着きを取り戻しているのが分かる。

鬼龍「もう大丈夫か?」

マツバボタン「………あ、ありがとうございます、キリュウさんっ……。私、あの………」

鬼龍「取り乱したことなら問題ねぇよ。それよりも…大丈夫、か?」

マツバボタン「はい……。私、勘違いをしていただけ…だと、思います……。キリュウさんは、キリュウさん……。優しくて、いっぱいあったかい人……です」

鬼龍「…いや、そうじゃなくて…」

マツバボタン「……………?」

鬼龍「…マツバの嬢ちゃんが、男が苦手なの忘れて、無理矢理抱きしめちまっただろ?…大丈夫だったか?」

鬼龍が少々頬を赤らめて、顔を背けながら問うと…。

マツバボタン「……………はい」

頬を赤く染め、少し黙ってから、こくんと小さく頷いた。目もとろんと蕩けている。
…は?????いやいや待て待てなんでそんな顔してんだマツバの嬢ちゃんその顔はやべえ!!!
鬼龍が内心心臓バクバクでいると、マツバボタンは改めてキリュウに告げた。

マツバボタン「少しだけ…分かった気が、します……。私が、どうして男の人が得意じゃないのか……。私が、本当はお父さんにどうして欲しかったのか……。でも、まだ少しだけで……全部、言葉に出来るようになるには………まだ、時間がかかりそう、です………」

その言葉に落ち着きを取り戻し、優しく微笑みかける。

鬼龍「……それなら、ゆっくりと自分と向き合え。俺も嬢ちゃんのお師匠さんも、マツバの嬢ちゃんに何かを強いることはしねえ。余裕のある時に考えりゃいいんだよ」

マツバボタン「………でも。今は、もっと気になることが、できました」

そう言って、じっとこ鬼龍を見つめるマツバボタン。
はた、と再び顔を赤くして固まってしまう。

マツバボタン「私…普段、お師匠様に褒められた時も、今、キリュウさんに抱きしめてもらえた時も。いっぱい嬉しくて、胸の中が、きゅ………ってなります」

鬼龍「ッ…!」

その言葉に、鬼龍は更に顔を赤くして後ずさった。


マツバボタン「この嬉しい気持ちを、大事にしたい……。私の中でいっぱい、育んでいきたい…です。昔のことばっかりじゃ、なくて………」

…それは、マツバボタンの口から聞いた、未来への希望が込められた言葉だった。出会ったばかりの頃とは違い、彼女はもう、こちらと距離を置こうとはしない。

マツバボタン「キリュウさんは、素晴らしい人です。少し言葉を交わしただけで、心の苦しさに気付いてくれて………こんなにも、安心させてくれるんですから」

………彼女が心に負った傷は深い。本人が傷の存在に気付いていないことも含めて重篤だ。
しかし、彼女は今まさにその傷と向き合い、変わろうとしている。



───そこで目が覚めて、あれから彼女と"夢"で会うことはなかった。


○●○●○

鬼龍「よう、創造主の嬢ちゃん」

琴葉姫「その呼び方むず痒いですねぇ…というか鬼龍さん私より年下なのに…」

鬼龍「気にすんな。それよりも俺に用ってなんだ?」

琴葉姫に呼び出された鬼龍。
あれからアイドルを続ける傍ら、「嫁」として自分やユニットメンバー、学生時代の仲間や後輩含めて贔屓にさせてもらっている。
そんな彼を呼び出した理由は───

琴葉姫「ああいや、新しい嫁が加わってな。ほら、そこにいるんだけど」

鬼龍「───」

琴葉姫「懐かしい子がいるだろ?」

そう言ってにやにやと笑いながらこちらを見る琴葉姫など視界にも止めず、鬼龍は「彼女」に駆け寄った。
それは、「彼女」も同様だ。涙を流して、鬼龍に抱き着いたのだ───。

『心の扉』は、もうひらかれていたのだった。



琴葉姫「マツバボタンちゃん幸せになれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!鬼龍先輩と!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(爆)」

アーサー「(琴葉姫に対して)4ね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

色々とすまない…(震え声)
感想OK