二次創作小説(新・総合)

Re: 嫁でクロスカプ&クロスコンビSS集 ( No.170 )
日時: 2020/06/22 20:39
名前: 琴葉姫 (ID: FyzG1Vo4)

イデエレの中編です。



想いを伝える言葉 中編



マーリン「どうして私がこんなこと…」

グリム「ずべこべ言わずにさっさと行くんだゾ」

マーリン「グリムはいいよねぇ、自分で歩かなくても私の頭に乗っかってれば勝手に目的地に着くんだから。てか君私の頭に乗る権利なくない?」

グリム「オマエはオレ様の子分なのに、そんな生意気な口聞く権利ないんだゾ」

マーリン「はーやだやだ、キャスパリーグといい獣に碌なのいないね…っていだだだ髪を引っ張るな!」

ツイステットワンダーランドきっての名門校である学園のメインストリートを歩くのは、ナイトレイブンカレッジの監督生でありキャスターのサーヴァント・別名「花の魔術師」マーリン。
その彼の頭に乗っかり髪の毛を噛んで引っ張るのは、猫なのか狸なのか見分けのつかないモンスター、グリムだ。
二人はナイトレイブンカレッジの二人(一基と一匹?)しか所属していないオンボロ寮の生徒であり、この世界では一心同体で学園に通っている。
そもそもマーリンはこの世界の者ではないのだが、詳細は前作をご覧頂いた方が早いだろう。
そして二人は放課後、「頼まれ事」の為イグニハイド寮へ向かっていた。
その理由は…

グリム「イグニハイド寮の寮長のイデアってヤツに手紙を届けるってことでいいんだよな?」

マーリン「うん。エレシュキガルが渡して欲しいんだって。全く、面倒くさいなぁ。まぁ面白そうでもあるけどね!あのエレシュキガルが…ねぇ?ふふふふふ…」

グリム「…オマエ、本当に性格悪いんだゾ…」

マーリン「褒め言葉だね!」

マーリンの元々の世界の、自分と同じく「カルデア」に召喚されたサーヴァント・エレシュキガルから、イグニハイド寮長のイデア・シュラウドに手紙を渡して欲しいと頼まれたからだ。…エピデンドラムと魔理沙の脅し付きで。
本当に偶然だった。たまたま食堂を通ると、大勢のサーヴァントと職員が端で静かにしている。ひそひそと話している者もいたが。
何事かと彼ら彼女らが見つめる方に目を向けると…何かを話しているランサーのマスターと、そのパートナーと、エレシュキガルが映った。
気配を消して耳を凝らして盗み聞いた内容に、マーリンは絶句した。
あの冥府の女神エレシュキガルが、自分が世話になっている(?)学園の、イグニハイドという寮の寮長に、どう考えても恋慕している、というものだったのだから。
イグニハイド寮…先輩のケイト・ダイヤモンドの話に寄ると、ガードが堅い生徒が多いって言ってたし、同じく先輩のトレイ・クローバーも「根暗が多いってことか?」というグリムの発言に注意したが否定はしなかった。そして魔法エネルギー工学やデジタル系に強い生徒が多いとも言っていた。
あー、類は友を呼ぶ的なことか?とマーリンは思ったが彼女は友ではなく"そういう関係"を望んでいるとしか思えない。友達になりたいだけって本人は言ってるけど、強がりか自分でも自覚してないだけか…全く面倒くさい奴である。
…てか、これ私絶対巻き込まれる奴じゃん。気付かれる前に早く退散しよっと。
話を盗み聞きしておいてマーリンは食堂からそそくさと逃げた。それから時間もかからないうちに例の「エレシュキガル食堂暴走事件」が起こり、二次災害と言わんばかりに案の定巻き込まれたことに、マーリンは自分の不憫さを嘆いた。私そういうキャラじゃないんだけどなぁ…。

まぁそんなわけで、マーリンはエレシュキガルに頼まれて彼女の書いた手紙をイデアに渡すことになった。「お前中身見るなよ。あと他の奴らに言いふらしたらマスパだからな」と自身のマスターに令呪をちらつかされて命令されるのだから何故自分がこんな目に遭うのか、私のハッピーエンドは何処に…と涙を流した。慰める者は誰一人としていなかった。
とは言え、マーリンもグリムもイグニハイド寮の場所を知らないし、知り合いの寮生もいない。学園長に場所を訊くと何の用事だと訊かれまぁ学園長になら…仕方ないよね?と開き直り普通に話してしまったのだが。
それを聞いた学園長のリアクションは大層オーバーなものだった。しかし、学園長の言葉に再び頭を抱える。
寮長のイデア・シュラウドは常に部屋に引きこもり、寮長でありながら式典等では顔を出さずタブレットで対応している。また、外に出る授業どころか座学でも対面式で受ける事を億劫がっているというではないか。
エレシュキガルから聞いた話でもタブレットの音声ソフトで会話していたと聞いたし、「陰キャ」「コミュ障」と言う言葉も出ていた。ライダーのサーヴァント・マンドリカルドも自分を「陰キャ」と自称しているが、根は良く本人も無自覚ながら「イケメンムーヴ」を発揮したり、マスターの陸奥守とは「マイフレンド」と呼び合う仲だ。
だがイデアはどうだ。話を聞いただけでもマンドリカルドとは比べ物にならないレベルの引きこもり気質っぷりが分かる。エレシュキガルとの対談では猫を被っていたのか…?いや、猫を被るくらいにはまだ…?
頭を悩ませているマーリンを余所に「もしそのエレシュキガルさんとの文通が上手く行けばシュラウド君も心を開いて寮長会議に出てくれるかもしれませんねぇ!」と嬉々として喜んでいる様子の学園長を見て力の限り殴りたくなったのは仕方ないことだ。思い留まった自分に褒美が欲しいくらいだ。私、悪くない!
いやーな記憶を思い出して苛々する気分を必死に抑えて、マーリンは歩みを止めた。

マーリン「…ここが、イグニハイド寮?」

辺りを見回すと、そこは近未来的な世界が広がっていた。
多くのフレームに透明感のある床が、鏡のように内装を反射している。
デジタル系に強い生徒の多い寮と聞いていたとはいえ、電子世界のような内装に流石のマーリンも舌を巻いた。

グリム「オオオ~~!なんかカッコイイんだゾ~!」

マーリン「近未来感で言えば、カルデアより遥かに上だね。レオナルドが見たら目を輝かせそうだ。…っと、目的を果たさなきゃね」

グリム「早く渡して夕飯食べるんだゾ」

周囲の生徒…イグニハイド寮の寮生がざわざわとしながらこちらを見ている。
うーん、イデア先輩どんな人か知らないんだよね。まぁ聞けばいいか。寮長なら知らない子はいないでしょ。
適当に目に入った生徒に声を掛けると、その生徒はビクリと身体を震わせおどおどしている。

イグニハイド寮生「あ、あの…何か…?」

マーリン「ごめんごめん、私はオンボロ寮の監督生マーリン。気軽にマーリンさんと呼んでくれ。堅苦しいのは苦手なんだ」

グリム「そして世界一の大魔法士になる男グリム様なんだゾ!」

イグニハイド寮「は、はぁ…」

マーリン「まぁそれはさておき。私イデア・シュラウド先輩に用事があるんだけど、ちょっと呼んできてくれない?」

イグニハイド寮「りょっ寮長に…!?」

マーリンの言葉に、彼だけでなくその場にいる寮生全員が騒ぎ始める。
「あの寮長に用事?」「何故オンボロ寮の監督生が?」「そもそも寮長が知らない奴と顔を合わせられるわけないだろ」
聞き取れるだけでもこの言い草だ。本当にイデアという人物は面倒くさい奴のようだ。まぁエレシュキガルも面倒臭さで言ったら負けてないけどね!もちろん私も!!!
意味の分からない自己主張を心の中で断言したが、今はそれどころではない。早く手紙を渡さなければ。もうこの生徒に押し付けてしまおうか。
そんなことを考えているときだった。



「どうしたの?何を騒いでるの?」

高い少年の声が響くと、先程まで騒がしかったのが嘘のようにシン、と静寂に包まれた。
現れたのは、背の小さい少年だ。炎のような蒼い髪を逆立て、心臓の位置に髪と同じような蒼い炎がゆらゆらと燃えている。第一印象は、アンドロイドやヒューマノイドの少年、だった。
足が地から離れて浮遊し、ふわふわとこちらに近づいてくる。不思議そうな表情で、マーリンとイグニハイド寮生を交互に見やった。

イグニハイド寮生「あ、いや、この人が…」

マーリン「ああ、ごめんね。迷惑かけるつもりじゃないんだ。君は?」

オルト「僕はオルト・シュラウド。貴方は…オンボロ寮の監督生のマーリンさんと、グリムさんだよね?」

マーリン「そうそう。知っててくれて嬉し…シュラウド?」

オルト「?」

マーリン「君、もしかしてイデア・シュラウド先輩の弟か何か?」

オルト「? うん。イデア・シュラウドは僕の兄さんだけど…」

マーリン「なら話は早い!」

オルト「え、ええっ?」

驚くオルトを余所に、マーリンは裾の中から一つの封筒を差し出した。
オルトはそれをきょとんとした表情で見つめた後、マーリンのを見上げた。

マーリン「これ、イデア先輩に渡して欲しいんだけど」

オルト「え、兄さんに!?学園長か、他の寮長の人から?」

マーリン「や、私の元の世界の知り合いだよ」

オルト「…せめて、送り主の名前を聞かせてもらえないかな?」

警戒するように問うオルトに、マーリンは「あー」と気まずそうに言葉を濁す。
うーん、手紙の内容を見るなってことだったし、名前くらい教えてもいいよね。じゃないとイデア先輩も警戒して読む前に捨てられそう。そうなったら何をされるか分かったものじゃない。
苦笑いして、この手紙を送った人物の名前を教える。

マーリン「エレシュキガルっていう、一応私の仲間だよ。イデア先輩が会ったことのある奴だから、名前を教えれば大丈夫」

オルト「えっ…?」

突如、オルトの動作が変わった。驚いたように目を見開き、固まっている。
あれ、どうした?エレシュキガルのこと知ってるのか?イデア先輩、彼に話したのかな。
特に焦らず悠長に考えていたマーリンだったが、次から出たオルトの発言と態度に今度は自分が目を見開く番だった。

オルト「こっこれ!エレシュキガル様から兄さんへの手紙!?」

マーリン「は!?!?!?」

グリム「うわっ!?な、なんなんだゾ急に大声出して!」

グリムの小言など今のマーリンの耳には入ってこなかった。寮生達も再びざわざわし始める。
いや、様付けしてんの!?エレシュキガルの話でもイデア先輩様付けしてたけど!君も!?大丈夫強制させられてない!?
あのマーリンが、珍しく取り乱していることなどどうでもいいように、オルトは嬉々として語り始める。

オルト「兄さんからエレシュキガル様のこと聞いたんだ!監督生さんの世界では、グレート・セブンの死者の国の王と同じくらい凄い人で、すっごく綺麗でお美しいお方だって!兄さんが今まで見たことないって豪語するくらいの絶世の美少女で、そんな容姿からは想像も出来ないとても強力な力を持ってるって!僕も会いたいってずっと思ってたんだ!」

マーリン「え? は? …え???」

オルト「そんなお方から、兄さん宛てにお手紙を頂けるなんて…!兄さんすっごく喜ぶと思う!ありがとう監督生さん!責任を持って兄さんに渡すね!代わりにエレシュキガル様にお礼を言ってもらえると嬉しいな」

マーリン「え、あ、ああ…うん???」

オルト「あ、それとお手紙の返信、ちょっと時間を貰うかもしれないから、それも留意してくれるかな?それじゃあ、僕はこの手紙渡してくるね!ありがとう!」

そう言い残して、オルトは奥へ走っていった。正確には、飛んで行ったのだが。
マーリンの頭の上で、グリムが不思議そうに腕を組んでいる。

グリム「なんだぁ?手紙を貰っただけであんなにはしゃぐなんて。手紙なんて、読んでても腹は膨れないんだゾ。おいマーリン。早くオンボロ寮に帰ってメシにするんだゾ」

マーリン「……………」

グリム「…? お、おい、マーリン?」

マーリン「…どういうことなの…???」

グリム「? オマエ何言って…ってウギャ!?お、オマエなんて顔してるんだゾ!?そんな大好物を食べたと思ったらゴムの味だったみたいな!?」

マーリン「……………」

グリム「…おーい、マーリーンー?」

マーリン「……………」

グリム「…だめだこりゃ」


マーリンェ…(?)
感想まだ

Re: 嫁でクロスカプ&クロスコンビSS集 ( No.171 )
日時: 2020/06/21 17:45
名前: 琴葉姫 (ID: FyzG1Vo4)

イデア「…………………………」

ところ変わって、イグニハイド寮・イデアの部屋。
明かりもつけず薄暗い部屋の中で、イデアはパソコンの前に座っている。
パソコンのモニターには電子世界が映っている。今現在、イデアはネトゲのクエストをしている。
…のだが、心ここにあらずと言った感じでチャットにも参加せずただ黙々と敵を狩っていた。
フレンドから心配や煽りのメッセージが届くが、今の彼はそれどころじゃなかった。
フレンド達に断りを入れ、早々にログアウトした。ブラウザを閉じると、大きなため息をついて椅子の背もたれに全体重を預ける。


ずっと忘れられないのだ。"あの尊い存在"を。
運命を。



最初それを聞いた時、イデアは厄としか思わなかった。
夢交界。監督生のマーリンとやらが世話になっているとか言う異世界と、ツイステットワンダーランドの境界が繋がると知らされた。
そして夢交界の創造主とか言う子娘(という歳ではないらしいがどうでもいい)が見返りとして、自分を含めた学園の生徒を「嫁」として招待すると言った時はふざけるなと思った。
嫁!?嫁ですか!!!それはそれは良い趣向ですなぁふざけんなよ!!!
しかもその歓迎としてパーティーを開催して出席しろというのだから死にたくなる。
自寮の部屋のみが世界の自分が、異世界の、社交的な場に参加…無理無理無理無理無理!!!知ってて言ってるとかホントバカ!?アンタバカァ!?しかもオルトは現時点では「嫁」ではないから連れてけないって言われた時は本気で呪おうかと思った。オルトめっちゃ良い子なんですけどぉ!?僕嫁にしといてオルト嫁にしないとか絶ッッッ対あの子娘頭おかしい!!!あ、それは最初の時点で知ってた!!!
憂鬱で憂鬱で仕方なくて、でも時は無常に過ぎて。
歓迎パーティーの当日、創造主とやらと対面して「今日は楽しんでってくれな」とほざく目の前の子娘をタブレットの音声ソフトで煽る。どうせこの世界に興味なんてないのだからどう振る舞おうが勝手だ。
僕の煽りを創造主の子娘は華麗にスルーした。クッソ、こいつ変なところでスルースキル高い。しかし、その直後おぞましい悪寒が身体に降りかかった。
創造主の後ろに控えている数名が、こちらに圧を向けている。笑顔だが目が笑っていない者もいれば、あからさまに敵意を向けて睨んでくる者もいる。
しかも、それらの人物は全員、イケメンあるいは美青年か美女あるいは美少女だ。
あいつら侍らせて優越感に浸ってんだろうなぁ…いやぁ創造主ともあればより取り見取りですね!!!チネ!!!!!
そうこうしている間に、パーティーの時間は進む。
一緒に連れてこられたオクタヴィネル寮のアズール、ジェイド、フロイドは嫁とやらと歓談している。ああ、これはアズール氏あくどいこと考えてますわ…ご愁傷様~くわばらくわばら。
彼らを横目に、イデアはこっそりと会場を抜け出した。こんな陽キャパリピリア充の集会にいられるか!俺は部屋に戻るぜ!…というのは冗談だけど。いや叶うことなら部屋に戻りたいけど!
そんなことを考えていたイデアを、こっそり後をつけている人物がいるとは全く予想だにしなかった。

しばらく歩いて、誰もいない庭園に行きつく。
噴水の囲いに腰かける。先程異常なまでに張り詰めていた緊張感が大きなため息と共に抜けていくのが分かる。

イデア「なんで僕があんな陽キャイベントに参加しなきゃいけないんだ…今頃ならソシャゲの周回頑張ってたのに…てか嫁って奴ら全員イケメン美少女で無理…なんでオルト連れてこられなかったの死ぬ…」

ぼそぼそと呟く自分を咎める奴はここにはいない。
だから、油断していた。不意に、物音が聞こえて心臓が跳ね上がった。
だ、誰か、いる…っ!?

イデア「ヒッ…!だ、誰!?」

思わず立ち上がって辺りを見渡す。悲鳴を上げて怯える自分が最高に無様で、死にたくなる───



「ごごごごごごめんなさい!!お、驚かすつもりはなかったのだわ!」


凛とした、それでいて可憐な女性の声だった。
焦りを含んだ声色で、声の主は姿を現した。
月の灯りが、彼女の姿を照らし、"彼女"を視認した僕は一度息が止まってしまった。

絹のように柔らかい金糸の髪。
王者を連想させる黒い冠と石榴色のローブ。
オウトツのある優れたプロポーションを持つ体躯。
ガーネットのようにキラキラと輝かしい宝石の瞳。
そして───如何なるものもひれ伏さなければという衝動に駆られるほどの、威厳の圧。
目の前の彼女は狼狽えているようだが、そんな仕草でさえ愛おしく感じるほどに彼女の美しさを引き立てている。
言葉が出ない。息を忘れる。瞬きなんてしてられない。
今までに見た二次元の美少女よりも、名家の令嬢でさえも、彼女と比べたら芋も同然。
目の前にいる彼女は…とても尊い存在だ。
初めて会った人物にそんなことを思わせるほどに、彼女は美しい。何よりも。

「ね、ねえ」

意識が現実に戻される。
条件反射で身体を大きく跳ね上げその場を去ろうとする。
が…

「まっ待って!!!!!」

イデア「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

美しい彼女が、自分の腕を掴んでそれを阻止した。
触れている。彼女の手が。自分の腕を。
駄目、僕なんかに触れては、貴方が汚れてしまう!
そんなことをごく自然に思ってしまう自分に、何の疑問も抱かなかった。
ばくばくと心臓が大きな音を立てて動く。彼女に聞こえてしまうから大人しくしていて欲しいと願っても、鎮まってくれない。

「あ、あのっ…!」

彼女から再び美しい声が発せられる。
何を言われてしまうんだ、ガン見していたことの説教か?でもそれでもいい。恐れ多くも彼女の声が、自分に降りかかるのなら。



「私、貴方とお話したいの!」



…………………………。
……………………………………………………。

イデア「………………ぇ」

言葉とも言えないか細い鳴き声が、自分の口からこぼれた。
…彼女は、何と言った?
ワタシ、アナタトオハナシシタイノ。
…私、貴方とお話したいの。

……………はいいいいいいいいいいい!?!?!?
私、貴方とお話したいの!?!?!?
私って、勿論この目の前にいる尊すぎる美少女のことで間違いない、よね!?
そんで…この「貴方」って…誰?
…僕???……………僕ゥ!?!?!?
え、いやいやいやいやいやいやいや!!!?なんで!?なんで僕!?
僕みたいな引きこもりのコミュ障陰キャが!!!
この!ポムフィオーレ寮のヴィル氏ですら嫉妬して敵わないような絶世の美少女が!!!
僕と!!!お話したいですって!!!!!!!!!!???
え、これはギャルゲ!?それともなろう系!?ハーレム系ラノベ!?わけがわからないよ!!!
脳内が動物園みたいに騒がしい。もちつけ、もちつくんだ拙者!…やっぱり無理!!!
この間僅か0.5秒。イデアの脳内の様子だ。
しかし、間もなくしてそんなことは彼にとってどうでもよくなる。

「い、いきなりこんなこと言われてびっくりするかもしれないけど…」

彼女は頬を赤く染め、若干涙目で

「お、お願い…」

イデアを見上げた。



上気した頬+涙目×上目遣い=………



クッッッッッッッッッッッッソカワイイ…………………………(浄化)(昇天)(尊死)(心肺停止)
は?????????なにこの超絶美少女は???????????あんなに王っぽい威厳あってこんなに可愛いとか最の高か?尊いか?神か???神様ですね知ってる!!!
思わず自分も顔が赤くなって、もう片方の腕で自分の顔を隠す。
態度には出さない。だって引かれる!こんなこと考えてるってバレたら嫌われる!!!もうさっき悩んでたことが馬鹿らしい!!!
ポケットからいつものタブレットを取り出す。直接口で伝えなければいけないことだとは思いつつ、これに頼ってしまう自分を呪いたくなる。
彼女がぽかんとした表情で浮遊するたぶれっとを見上る。アックッソ可愛いんですけどヤバイ(ヤバイ)。

『す、すみません。僕あまりうまく話せなくて…失礼だと思いますけど、これを通してでも、いいですか?』

多分この光景を見た各寮の寮長はひっくり返るほどびっくりするだろう。僕がこんな丁寧な言葉を使っていることに。
いや、彼らと目の前にいる彼女を同列にすること自体万死に値するのだが(別にディスってるわけではありませんぞ!目の前の彼女が尊すぎるだけなんで!)
色んな漫画やアニメを見たりゲームしたりしてきても自分が言葉にするとは夢にも思わなかった。
目の前の彼女は、その言葉を聞いて変わらずぽかんとしている。あれ、やっぱり何か粗相を…!?
と不安に思っていたが、しばらしくて彼女の表情が明るくなる。それは自分にとって眩しすぎるものだ。

「いいのっ!?」

イデア「っ…」

はぁ~~~~~~~!!!カワイイ!!!いっぱいちゅき!!!!!(語彙力の死)でもあまりに神々しすぎて直視出来ない!!!
思わず顔を逸らしてしまった。それに彼女はショックを受けたように笑顔から一変、落ち込んでしまう。
ああ、僕は何て重罪を!ひたすら謝り倒すが何故か彼女も必死に謝ってくれた。彼女に気を使わせるとか僕は馬鹿か???????
と、ふと彼女の名前は何というのだろう。訊いていいのだろうか。でも僕みたいな奴が彼女の名前を訊いて、あまつさえ名前を呼んでいいのだろうか。
不安と好奇心がせめぎ合い、最終的に『あの…お名前は』と言ってしまった。
すると彼女は用意していたと言わんばかりのドヤ顔を見せた。アッカワイイシュキ(アイサツ)。
そんなふざけた心の内など、彼女が名乗ったことで頭から吹き飛ぶ。

「サーヴァント・ランサー。冥界の女主人、エレシュキガルよ!」

イデア「えっ」

思わずタブレットからではなく、自分の口から言葉が漏れた。
さーばんと らんさー めいかいのおんなしゅじん えれしゅきがる。
な、長いお名前…いやふざけてる場合じゃねーなコレ!?
サーバント?ランサー?職業ジョブ的なことか?
メイカイ…って死者の国の別名の冥界?その女主人…?
で、エレシュキガルっていうのが、彼女の…?
そんなことを考えていると、目の前の彼女…エレシュキガルは優しい笑みをイデアに向ける。
それを見たイデアの目が、再び見開かれる。

エレシュキガル「貴方は死者の国の王をリスペクトしているのでしょう?なら、私とも仲良くしてくれると嬉しいのだわ!」

…この時、イデアは確信したのだ。
この出会いは、『運命』なのだと。



そうして、二人は雑談を始めた。
イデアが『そちらの世界の冥界はどういう所なんですか?』と訊くと、彼女は再びドヤ顔で「私の支配する冥界では、そこにいる限り私の法と律には神であろうと逆らえないのよ!」と言った。その言葉にイデアのエレシュキガルに対する尊敬の眼差しが強くなることが分かる。「絶世の美少女な上ラスボス以上のチートな力持ってるとか最高か???いや最高ですわ知ってた」と彼女に悟られないような小声で呟いた。いつもなら「小5が考えたお粗末チート(笑)乙www」と言うところなのだが、彼女は別だ。まぁ実際そうなのだからいいんだが。
今度はエレシュキガルからナイトレイブンカレッジはどういう学校なのだ?ということをイデアに訊かれる。「魔法を習う学校なんて楽しそう!」と目をキラキラさせてこちらを見るエレシュキガルに、後ろめたい気持ちが大きくなる。
自分はどの授業も苦手で出たくないくらいなのに、真っ白で穢れない心を持つ彼女に何て言えばいいか。
『…そんなテーマパークみたいなところじゃないですよ』と言うと、彼女は慌てて話題を変えてくれた。嗚呼、彼女に気を使わせるとか万死に値する!しかし、これ以上困らせてしまったら自分はそれ以下だ!言葉に甘えて、今度は弟であるオルトの話をした。
自分より明るくて賢くて出来た弟の話をすると、彼女は母性を持った笑顔をこちらに向ける。アッ待ってこれはオギャる(確信)。
しかし、一瞬だけ彼女が寂しそうな表情をしたのを見逃さなかった。え、また僕何かやらかした?
不安に思ったが彼女が寂しそうにしたのはほんの一瞬で、すぐさま尊い笑みをこちらに向けた。

エレシュキガル「私もオルト君と会ってみたいわ!きっとイデア君に似て綺麗な子なんでしょうね!」

そういう彼女を見て、何故か心が痛むのが分かった。
確かに、オルトは出来た弟だ。可愛いし、彼女もきっとオルトを気に入るに違いない。もちろんオルトも、彼女を自分と同じように慕うだろう。
…しかし。
もし彼女がオルトと出会って、自分よりコミュニケーションの出来る弟を気に入って、僕なんてどうでもよくなったら。
オルトもイグニハイド寮の生徒だ。しかも僕以上に死者の国の王に対する信仰は深いはず。
そうなったら、僕は…。
俯いてしまった僕を、彼女は不安に思ってしまったのか涙目で

エレシュキガル「だ、ダメかしら?」

と顔を覗いて来た。
アアアアアア!!!彼女を泣かせるとか!でも泣いた顔もやっぱカワユス…じゃねーよ馬鹿!!!
慌ててタブレットで弁解する。

イデア『駄目だなんて!近いうちに絶対会わせます!オルトにも、エレシュキガル様のことお話しますね!!』

うん。だって流石のオルトもエレシュキガル様のこと内緒にしていたら不貞腐れるし、こんな尊い御方は皆に知られるべき!でもそうなったら僕のこと忘れられそう…そうなったら泣く…。
そんなことを思っていると…彼女の表情が再びぽかんとしている。アレ、また間違えた!?
不安に思っていると…彼女の顔がすぐ破顔する。アッその顔も可愛い好き!!(挨拶)じゃない!!!え、やっぱ僕何かした!?
急に彼女が立ち上がって、僕は身構えた。

エレシュキガル「ささささ様付けだなんて!そんなに気を使わないで!め、冥界の女主人という肩書はあるのだけれど!冥界では私の法と律には誰であろうと逆らえないけれど!!そ、そちらの死者の国の王は別にいるのでしょう?そちらとは無関係の私に、そんな仰々しくしなくても…!」

あ、そっち!?

イデア『い、いえ!イグニハイド寮の寮長の僕にとって、死者の国の王はまさしく神そのもの!その同格である存在のエレシュキガル様は尊い存在!死者の国の王同様僕にとって神そのものです!ですからエレシュキガル様を敬うのは当然のこと!!!ちゃん付けとかたん付けは論外、さん付けですら万死に値します!可能ならば様付け以上の敬称を付けたいくらいです!知りませんけど!』

寮長とかやりたくてやってるわけじゃないし、それは今も変わんないし、死者の国の王なんて特別リスペクトしてるわけじゃないのに、調子よすぎでは?拙者…。リドル氏がこの場にいたら首はね(オフウィズ)られそう…。
いやでも仕方ないじゃん!?彼女…エレシュキガル様に対して敬意を表せられそうな呼び方他に思い付かないし!!!…ていうかさっきの僕ちょっと気持ち悪すぎでは???アッーほらー!エレシュキガル様も「え、ええ………」って引いてるし!絶対語尾に(困惑)って付けられてますわ!!!(死亡)アーッ死にてぇ!!!
比較的ギャグ寄りの考え方をしていたが、すぐ血の気がさあっと引く感覚を味わうことになる。

…彼女の表情が
失望したように沈んでいる。

や、やっぱり様付けは良くなかったか…!?ふざけているように思われた?
いやだ、彼女に嫌われるなんて…!
自然と身体が震えてきて、言い訳のように彼女に謝罪する。自分にそんな権利なんてないはずなのに。

イデア『も、もしかして様付けはお気に触ってしまいましたか…?ご、ごめんなさい、僕人付き合いがクソなコミュ障陰キャで、ごめんなさいごめんなさい』

嗚呼、こんな言い草無様すぎる!彼女を失望させておいて、何と愚かな!
しかし、彼女はこんな自分を許す言葉を賜ってくださった。
それどころか…

エレシュキガル「ち、違うの!大丈夫よ。イデア君が呼びやすい呼び方で呼ぶと良いわ。他の呼び方は、もっと仲良くなってからにしましょう」

イデア『…もっと、仲良く?』

もっとなかよく?
モットナカヨク?
もっと仲良く…仲良く?もっと?
誰と誰が?
…僕と、エレシュキガル様が?

混乱している自分に、更に追い打ちをかけたのは目の前の尊い彼女の言葉だ。

エレシュキガル「ええ!あ、マスターやみんなは私のこと、「エレちゃん」って呼んだりするの。イデア君も、その内そう呼んでもいいわ」

えれちゃん。
エレシュキガル様のことを、エレちゃん?
僕がその内…エレシュキガル様のことを「エレちゃん」呼び…。

…………………………なんですくゎそのご褒美のような拷問はああああああああああ!?!?!?
は!?僕がエレシュキガル様のことを「エレちゃん♡」とか呼んでいいわけ!?そんなわけないんだよなぁ!?(迫真)
駄目ですって!!!そんな呼び方しちゃったら理性持ちませんって!!!んな恋人みたいな呼び方…
…恋人。僕と、エレシュキガル様が??????????
…………………………は???????????????????????(所謂「宇宙猫顔」)

エレシュキガル「…って上から目線みたいねごめんなさって汗の舁き方が尋常じゃないのだわ!?!?!?どうしたの!?冷えて熱が出ちゃった!?い、医務室…!」

その後の記憶がなくて、僕は気がついたらパーティーが終わっててイグニハイド寮玄関の前にいた。


イデアのキャラ崩壊パナイ()
感想まだ

Re: 嫁でクロスカプ&クロスコンビSS集 ( No.172 )
日時: 2020/06/21 17:52
名前: 琴葉姫 (ID: FyzG1Vo4)

オルト「あ、お帰り兄さん。大丈夫だった?」

寮に入ると、弟の姿があって僕を出迎えてくれた。
外に出て社交的な場に出席した僕を心配するように見上げてくる。
しかし、ぼうっとしている僕を見て、更に心配してきた。

オルト「だ、大丈夫?心ここにあらずな感じだけど…何か嫌なことでもあった?誰かに何か言われた?」

心優しい出来た弟を見た後に、僕は再び思い出した。
…あの尊い彼女のことを。

イデア「…なぁオルト」

オルト「な、何?」



イデア「…『運命』って、本当にあるんだな」

オルト「…はい?」

きょとんとしているオルトを部屋に招いて、今日あった出来事を話した。当然、エレシュキガル様のことを主に。
それを聞いた弟は目をキラキラさせている。その姿は今まで結構見てきたと思うけど、ここ一番の輝かしさだ。

オルト「死者の国の王と同格の存在、エレシュキガル様かぁ…!兄さんの言う通り、すっごく綺麗ですごい人なんだろうなぁ…!」

イデア「ああ。…あの御方は、とても尊い御方だ」

オルト「僕も会ってみたいなぁ…「嫁」になれば僕も会えたかもしれないのに…」

イデア「…まぁ、近いうちに会えるさ」

オルト「僕のことも紹介してね!」

イデア「…ああ、もちろん」

しかし、あれから3週間。
「仮」の枷が邪魔して中々夢交界に行けず、こちらに招待することも叶わずにいた。
会いたい、彼女に会いたい…!
そしてそんなことを思っていても自分は自覚していなかった。
自分が彼女に"恋"をしていることに───。
彼女に対する感情は崇拝や畏敬と信じて疑わず、自分等が彼女に恋慕するなど烏滸がましいとすら思っていた。
彼女に会ってから、自分の頭の中には彼女のことしかないのに…。

イデア「ままならないですわぁ…」

椅子に体育座りして小さく呟いた。
すると、自室のドアがノックさていることに気付く。

オルト「兄さーん!僕だよ!オルトだよ!」

イデア「…?どうしたオルト。そんな大声出して!」

オルト「さっきね、監督生さんが来て手紙を届けに来たんだ!兄さん宛に!」

イデア「ハァ?監督生って、あのオンボロ寮の監督生氏?なんで手紙なんか…」

オルト「エレシュキガル様からだって!」

イデア「は!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

がっしゃーん!
驚きのあまり、イデアは椅子から派手に転げ落ちた。
その際生じた痛みなど気にせずドアまで這い蹲り開ける。
四つん這いになってこちらを見上げている兄にオルトは驚いた。「どうしたの?」と心配する弟を無視して声を荒げた。

イデア「てっ手紙って!?エレシュキガル様から!?」

オルト「え?あ、ああうん。監督生さんの世界の仲間なんだって言ってた」

マジか!監督生氏の元々いた世界ってエレシュキガル様と一緒の世界だったんか!
意外な事実に驚きつつ、それに加えエレシュキガル様と仲間とか監督生氏裏山!とも思いつつ、「手紙は!?」と迫る勢いでオルトに詰め寄った。
「これだよ」と言って封筒を渡すオルト。その封筒を壊れ物かのように大事に掴み、穴が開くくらいに見つめる。
ちゃんとお返事書かなきゃね。と付け足してその場を後にしたオルトだが、その後もしばらく、それを愛おし気に見ていた───。



イデア「え、エレシュキガル様からのお手紙…」

部屋に戻って椅子に座り、再びまじまじと封筒を見つめる。
手紙が入れられている封筒は、黒地に金の線のような絵柄が描かれており、月ようなマークの周りに葉が囲っている絵柄の蝋風(後にこれはカルデアのロゴであることが判明)で封がされていた。
めっっっっっさオサレ~~~~と感心しつつ、慎重かつ丁寧に封筒を開ける。
中に入っていた便箋は真っ白な紙に十数本の線がひかれているとてもシンプルなものだ。それが二数枚入っている。
ゴクリ、と唾を飲み込んで、ばくばくとうるさい心臓を無視して手紙を読み始めた。


○●○●○

拝啓、イデア・シュラウド様

いきなり手紙を送って驚きましたよね。ごめんなさい。
どうしてもまた貴方とお話がしたくて、こうして手紙を送らせていただきました。
イデア君はご健勝でいますでしょうか。あんなに汗を舁いていたから、体調を崩していないか心配です。
何かあったら、監督生のマーリンを頼ってください。ああ見えて、彼は便利ですので。
こちらは仕事で忙しくも充実した生活を送っております。今はイベントで、ラスベガスという場所で働かせて頂いております。
詳細は長くなってしまうのと守秘義務があるのであまり言えませんが、中々楽しくて、色んなサーヴァント達と満喫させて頂いております(ここにかなり目立つ消し跡がある)。
もしよろしければ、そちらの夏の様子などもお教えいただけると幸いです。やはり、夏休みや臨海・林間学校等があるのでしょうか。
学園生活は人生で一度きり。思う存分満喫してください。
長くなりましたが、ご不快でなければ今度またこうしてお手紙を書かせていただく所存でございます。
また、今後再びお目にかかれることを楽しみにしております。
略儀ながら次のお返事まで。 敬具

エレシュキガル

○●○●○

イデア「ああ~~~~~~~~~~~~~」

エレシュキガルからの手紙を読んで、イデアは机に突っ伏して悶えた。
めっっっっっちゃ奥ゆかしくて健気~~~~~!!!あと字めっっっっっっちゃ綺麗なんですけど!?流石はエレシュキガル様!!
でも、なんで手紙の中でも監督生氏…処す?処す???…エレシュキガル様が悲しむからやめよう(戒め)
てかこれに返信とか無理ゲーでは?どういうこと書けばいいわけ!?教えて偉い人!
………ン?ちょっと待てよ???

イデア「…拙者、便箋どころかペンすら持ってなくない???」

そう、イデアは全て、タブレットやスマホの音声ソフト、メッセージ機能でやり取りしている。
「手紙や筆記とか原始人かよwww」とすら思っているくらい、デジタル至上主義だ。
そんな彼にとって、文通というのはハードルが低いと同時に、否それ以上にハードルの高いものだった。

イデア「エッッッッッッッッッマッッッッッッッッッテどうしようどうしよう!紙とかペンなんて持ってないんですけど!!!今から買いに…いや人前に出るとかなんて無理ゲー!?いやでも…!」

きっと彼女は自分からの返信を心待ちにしているに違いない。
尊いエレシュキガル様の期待を裏切るなんて処されるべき所業…!

イデア「ああああ…!ええいままよ!!!!!!!」

オルト「…?え、兄さん!?こんな時間にどこ行くの!?」

イデア「サムさんの店!!!!!!!!!!!!」

オルト「今から!?って待って兄さん!!!財布は持った!?」

イグニハイド寮の談話室を駆けていくイデアとそれを財布を持って追いかけるオルトという光景を見たその場にいるイグニハイド寮生全員の表情は、あの時のマーリンと全く同じものだった…。
[newpage]
ナイトレイブンカレッジ・廊下

イデア「やっっっっっと一日が終わった…」

放課後、イデアは一人廊下で呟いた。
あれから翌日。早速サムの店で便箋と、ある程度の筆記用具を購入したイデア。…店主のサムはもちろん、周囲の客もイデアの姿と、購入した品とその数に目が飛び出るほど驚いていたことなんてイデアにはどうでもよかった。

イデア「(早く部屋に戻って、エレシュキガル様への手紙を書かなきゃ…)」

そう言って速足で寮に戻ろうとしているイデアだったが…

「おや、イデアさんではありませんか」

イデア「えっ」

名前を呼ばれ振り向くと、そこには…見知った顔の人物がいた。

イデア「あ、アズール氏…?」

アズール「ええ。こんなところで会うなんて奇遇ですねぇ」

自分と同じボードゲーム部に所属する後輩かつ、オクタヴィネル寮長のアズール・アーシェングロットだ。
相も変わらず余裕たっぷりの笑みを貼りつけ、こちらに近づいてくる。

イデア「…何の用ですかな。今日は部活ないはずですが」

アズール「ああ、そう警戒なさらずに。少しお話をしたいのです。今よろしいでしょうか?」

アズールはイデアが自身の口から言葉を発して会話できる、数少ない人物だ。少なからずとも、イデアも彼には心を開いている。
しかし…こういう時のアズールは何を考えているか想像がつく。
それに今は一刻も早く部屋に戻って、エレシュキガルに手紙を書きたいのだ。相手にしてられない。

イデア「申し訳ありませんなぁ、拙者ちょっと急いでおりますので───」

アズール「ほう?それは「エレシュキガル」という方に手紙を書くために?」

イデア「ッ…!?」

アズールの言葉に、イデアは言葉を失った。
何故アズール氏がエレシュキガル様のことを、それに何故手紙のことを!?
パニックになっているイデアを無視し、しかしアズールは親切に説明する。

アズール「いえいえ、うちの寮生が噂しておりまして。あのイデアさんがサムさんの店の在庫全ての便箋と、かなりの数の筆記用具を購入したと。電子機器や端末でやりとりするイデアさんにしては珍しいなと思って、興味が湧きまして」

アズールの言葉に、イデアの脳内はあの時のように動物園と化した。
ああああああ!!!迂闊だった!!!そりゃあそうなりますよねぇあの時は必死でその考えに至らなかったそりゃそうなりますわ!!!
え、でもそれだけならなんでエレシュキガル様のこと…と思ったが、それもすぐに教えてくれた。

アズール「その真実が気になりまして、クラスメイトのイグニハイド寮の方にお聞きしたんですよ。そしたら「オンボロ寮の監督生が寮長宛てにエレシュキガルという人から手紙を貰った」と。しかもイデアさんの弟さんが様付けしているし死者の国の王と同格だと口にしたのですからとても驚きましたよ。どんな御方なのか、僕も興味が湧きましてねぇ」

ハァ!?!?!?誰ですかねぇそれ言った奴ゥ!?アズール氏のクラスの名簿見て特定して"お話"しなければ!
イデアの葛藤など露も知らずアズールはイデアに一歩歩み寄る。同時にイデアも、一歩下がった。

アズール「それで、イデアさん?そのエレシュキガルという御方は…」

アズールの圧に気圧されるイデア。汗が頬をつたって、顎から…床に落ちた───



フロイド「あ~こんなとこにいたアズ~ル~。何してんの~って…」

ジェイド「おや、貴方は…イデアさん?」

アズール「えっ、ちょ、何故お前達が…!?」

イデア「っ…!!」

アズール「あっ、ちょっちょっと待ってくださいイデアさん…!」

アズールの後ろから、オクタヴィネル寮のフロイド・リーチとジェイド・リーチがアズールを見つけるなりこちらにやって来た。
二人が来るとは予想だにしていたなかったのか、アズールが焦ったようにリーチ兄弟に振り向く。その一瞬の隙を、イデアは見逃さなかった。
体力が少なく運動神経の悪いイデアからは想像も出来ないスピードで、その場から逃げた。慌てて声を掛けるアズールだったが、そんなことで止まるようなイデアではなかった。
イデアに逃げられ、アズールは苛々して頭を掻きフロイドとジェイドに当たった。

アズール「ああもう!お前達のせいで逃げられてしまったではありませんか!」

フロイド「え~…?なんかオレ達怒られてるんだけど…」

ジェイド「ええ。とても傷つきますねぇ、フロイド。それで、イデアさんと何か?」

アズール「いえ…少しイデアさんに関する面白そうな話を聞いたので、本人に確認と…少し"助力"出来たらと思い」

フロイド「あ~。アズール、弱み握ろうとしてたんだ~」

アズール「そのような言い方はやめて頂けますか?私はただ、ボードゲーム部でお世話になっている先輩であるイデアさんの力になれれば、と思っただけですよ。海の魔女のように、慈悲を、とね」

ジェイド「ふふふ…アズールも人が悪い。そうと知っていれば、私も協力したのに」

フロイド「ねー?な~んか面白そう~♪」

アズール「ふふふ…次は協力してくださいよ」

ジェイド「はい」

フロイド「はぁい♪」

この三人が虎視眈々と、イデアと会話する機会を窺っているだなんて、イデアは夢にも思わなかったのだった。



あれからしばらくして
イデアが書いた手紙が、エレシュキガルに届くまで───。



アーサー「ええ…(困惑)」

琴葉姫「うん…仕方ないね♂()(?)」

次回で馴れ初め話は終わります。果たして平和的に終わるのか…?(フラグ)
感想OK