二次創作小説(新・総合)

Re: 嫁でクロスカプ&クロスコンビSS集 ( No.3 )
日時: 2020/04/25 19:50
名前: 琴葉姫 ◆KXLt9XXgaQ (ID: EnwL6lXi)

「叶わぬ初恋(萩原朔太郎→立花響)」

自分は…いつだって孤独だ…。

文豪、萩原朔太郎は常々そう思う。
生前では、学校に行っても退学ばかりで、まともに働けなくて、唯一の取り柄と言えるであろう詩も、思うように書けない。
親友の室生犀星や師匠である北原白秋に依存して、それに甘えるダメな人間なのだ。

そうぼやけた頭で思いながらいつの間にかやって来た裏庭を歩いていると…

「うわっ…!?」

足ががもたげ、転んでしまう。
膝が痛く、力が入らない。恐らく擦り切れてるだろう。

「うう…いたい…ひぐ…」

転んでしまった痛さと、何もないところで転んでしまう情けない自分に泣いてしまう。
自分の心に宿っていた不安がさらに膨大になっていく。
このまま、孤独のままで死んでいくのかな…。



「大丈夫ですか?」



頭上から声が聞こえた。
おぼろげな意識で顔を上げると、短い茶髪の少女が屈んでこちらを心配そうに見つめていた。
彼女は…?

「君、は…」

「大丈夫ですか?立てますか?」

少女が朔太郎に手を差し伸べた。
それに朔太郎は戸惑いながらも…ゆっくりと手を取った。
少女が朔太郎を立たせて、彼の服に付いた土や埃を取り払う。
ふと、膝元を見ると、袴が破けその奥にある膝の皮膚がずりむいて、出血していることが分かった。

「!大変、血が出てる…!」

「え、あ、ほんとだ…いたい…」

「い、医務室!医務室行かなきゃ!ほら、こっちですよ!」

「え、あ、待って、早いよ…いたい…!」

少女に強く腕を引っ張られ、医務室に連れて行かれる朔太郎。





***************
医務室に着いた朔太郎は、少女に手当てをされていた。
珍しく、医務室を任されている嫁は全員不在だった。
朔太郎の膝を優しく水で洗い、消毒を施し、包帯を巻いた。

「…手慣れてるね」

「え?あー…私自身も良く怪我をするんで…あはは…」

そう苦笑いで答える少女。そういえば、顔は見覚えがある気がするけど、名前は何だっけ…。
と、朔太郎は思ったが、訊いても良いのかなと不安になる。

「えーと、すみません。今更なんですけどお兄さんの名前、は…」

「…?」

「え、えっとですね!覚えてないとか忘れたとかじゃなくてですね…!」

「………」

焦ったように苦笑いをする少女を見て、「この流れなら名前を訊けるかな…」と思った朔太郎は、蚊が鳴くような声で答えた。

「…萩原朔太郎」

「朔太郎さんですね」

「…君は?」

「へ?」

「…君の名前は?」

震えた声で少女に名前を訊く。
すると少女は、不思議そうに首をかしげ

「立花響です」

自分の名を名乗った。

「…響ちゃん…」

「あ、もう一人響って名前の子がいますけど、うーんそうですね…シンフォギアの方って覚えといてください」

シンフォギアが何かは分からないけど、彼女は立花響というのか。
自分を助けてくれた少女の名を聞いて、何故か心が満たされた気がする。

「えっと…お友達の方、呼んできましょうか…?」

「!」

そう言って、響は椅子から立ち上がり医務室から出ようとする。
待って、置いていかないで、一人にしないで。
初対面の少女にこんな気持ちを抱いてしまうなんて自分でもおかしいと思うが、彼女に置いて行かれるのは絶対に嫌だと思った。
朔太郎は無意識に、響の腕を掴んでいた。今にも泣いてしまいそうな面持ちで。

「ど、どうしたんですか!?まだどこか痛いところが…!?」

「…君は」

「え?」



「…どうして自分を助けたの?」



「…はい?」

響は間の抜けた声を溢した。
しかし、朔太郎が真剣な表情をして聞いたため、無碍には出来なかった。
数秒ほど経って、朔太郎は語る。

「自分なんか、学校に行っても何回も退学して、医者になれないどころかまともに働けもしない。ご飯もあり得ないくらい溢すし、唯一の取り柄の詩だって…白秋先生や他の文豪達と比べたら…全然で…何をしても上手く出来ない超絶ダメ人間の自分を…どうして助けてくれたの?」

自虐のオンパレードに、響は何とも言えない顔をした。
分かっている。こんなことを言ったって、彼女を困らせるだけだ。現に彼女は、僕の言葉に引いている。
そう思った朔太郎だが…響は口を開いて、こう言った。

「…私は、朔太郎さんの気持ちは、わかるようでわかりません。だって、朔太郎さんが経験してきたことは、私なんかが体験した事とは比べ物にならないと思いますから。でも…」

響が、朔太郎の手に自分の手を添える。

「へいき、へっちゃらです!」

力強くそう言う響。
朔太郎はなんのことがわからず、目をぱちくりとさせた。

「私も最初は、翼さん達と比べると足手纏いでした。何回も何回も、色んな人に迷惑をかけてきました。でも、この言葉と、胸の「歌」が私に勇気を与えてくれました」

「歌…」

「それに、朔太郎さんだってすごいじゃないですか!詩が作れるなんて!私は頭が悪いから、そんなこと出来ません」

そう言いながら笑う響に、朔太郎は唖然となる。
そんな風に自分を励ましてくれるのは、二体一魂の犀星くらいだったから。
それと同時に、こんな太陽みたいな人が、どうして自分なんかと話してくれてるのだろうと、そうも思った。

「ありがとう…響ちゃん」

「いえ!あ、もう大丈夫ですか?」

「うん…」

「では、私はもう…」

「あ、待って!」

「?」

呼び止められた響は不思議そうに朔太郎を見つめる。
朔太郎はおどおどと、目を泳がせていたが、勇気を振り絞って響にお願いをした。

「…これからも…一緒にお話して、いい…?」

言ってしまった言ってしまった言ってしまった!
どうしよう、なんて言われるんだろう。気持ち悪がられてるに違いない。
そんな考えが朔太郎の頭を占めるが

「はい、私で良ければ」

「…えっ?」

彼女にそう言われ、言葉を認識した時には、すでに彼女はどこかに行ってしまっていた。

「…いい、の…?」

また一緒に話して、いいの?
自分が、あの子に。
響ちゃんに、あの太陽みたいに眩しい子に。







****************
「…?朔じゃないか。どうしたんだ?」

朔太郎が訪れたのは、親友の室生犀星の部屋だ。
なにやら顔を赤くしている親友に、犀星は首をかしげた。

「犀…自分、自分…」

「ど、どうしたんだよ?せわしないぞ」

犀星が不審に思い朔太郎に近づくと…



「犀、自分、好きな人が出来たんだ!」



「……………え?」

犀星が間抜けな顔をしながら間抜けな声を漏らした。
数秒の沈黙が流れ、朔太郎の言葉の意味を知ると…

「えっ…ええええぇぇぇぇ!?さ、朔に、好きな人!?」

「う、うん…驚きすぎだよ犀」

「驚きもするだろ!?人嫌いの朔が、誰かを好きになるなんて…!」

「…自分でも、びっくりしてるよ。でも…彼女なら、彼女じゃなきゃ…嫌なんだ」

「…そっか」

朔太郎の言葉を聞き、犀星は優しくぽんぽん、と彼の頭を撫でた。

「そういうことなら、応援するしかないな!何かあったら、俺に頼ってくれよ?」

「うん…!ありがとう、犀…!」

次に響ちゃんと会ったら何の話をしよう。
そうだ、今度自分の書いた詩を彼女に見てもらおう。
なんて言ってくれるかな?

朔太郎は心が躍っていた。彼女…響という存在を知ったおかげで。

…自分の初恋が、決して叶わないものと知らないで…。